『富嶽三十六景』で唯一、富士山の山容が描かれていないものです。富士山を信仰する富士講と呼ばれる人たちが、険しい山道を登っている様子を描いているようです。金剛杖を使って登るもの、疲れて腰を下ろすもの、岩室で体を休めるものなど、富士山頂付近の人々が描かれます。彼らの顔は一様に疲れきって、登山の過酷さが伝わります。北斎がこの作品を描いた江戸時代には登山自体が信仰行為として位置付けられていたようです。富士信仰では「身分や貧富の差にかかわらず、全ての人は富士を拝み、登ることで救われる」とされていたのです。古代から日本人は山や自然の霊峰を神聖視し、山岳信仰が発達しています。平安時代以降、「富士講」と呼ばれる宗教的なグループや団体が形成されて、富士山への巡礼や修行が行われてきたようです。2013年にUNESCOの世界遺産に登録され、富士山は日本のシンボルとして認知され、宗教的な意味よりも観光地としての存在感が増してきたようです。
30秒の心象風景28469・諸人登山~北斎の富嶽三十六景~
https://youtu.be/P3Z4NH7J3G8