言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

黒と白のドラマ

2020-09-15 22:40:01 | 言葉







ゆるぅり
ぐうるぐる

ゆらん じわり


小さな円の中をまわる
黒と白

ふたつの壁はほどけ
やがて
ひとつの渦の
終わりへとたどり着く


  器の中で待っているよ
  君がここへ来るまで
  
   うけとめて
   それだけで良い


・・・・・・―とぷん・・・


マグカップの中で
渦をまく黒と白

小さな陰陽が
ひとつの色に変わる頃
誰にも見えないドラマが
底にある












泡立ち

2020-09-14 23:41:04 | 言葉







夜が
泡立っている


不規則な雨が
窓を殴りつけては

夜を
泡立たせている

そうして
わたしは眠れない


ブランケットの膜の奥
巣ごもりをするが

わたしもまた
すでに泡立っており

ブランケットに
しがみついてみるが

泡をぬぐうことは
ついに 叶わず


窓の外では

夜が
バチバチと弾けて
大地へと流れ落ちている


言葉にならない
泡が
まなうらにこびりついたまま

今夜
わたしは眠れない









あるいのち 〜ウメモドキ〜

2020-09-14 21:46:36 | 言葉






幹や枝を
うねらせながら
力づよく地に根を張る
ウメモドキ


冬の終わり
骨組みだけの傘に
青いいのちがふつふつと芽吹き
小さく息をするのを見た
それは夜明けよりも美しい
いのちの目覚めだった

春の途中
寒々しい姿をした傘は
青々と茂りはじめて
ひらひらと
風に吹かれる新緑のにおいを
胸いっぱいにためた

夏の始まり
ウメモドキは
緑色の傘のよう
どこからともなく訪れては
枝に留まり羽根を休める
鳥たちのための小さな森であった

秋へ向かう
庭の中の小さな森に
赤い実がなった
つめたく鋭い陽射しを浴びて
一粒ひと粒が燃えている
今も色鮮やかな ひとふりの傘


やがては
木枯らしや雪の重みに
からだをしならせるであろう
ウメモドキ

それは

雪の白に
木の実の赤
黒々とした枝を魅せる
螺旋の姿をした いのちだ

















窓を叩く者

2020-09-13 20:46:12 | 言葉





たっ たっ たつっ
たっ ぱたたっ たっ
ばちっ たちっ たたっ

誰かが窓を叩いていた。薄く膜を張った意識の外側で。
それは、不快な音を一切封じ込め、昼と夜の合間の浅
眠りは、不規則な音によって守られた。

窓が冷たいのだろう。外も随分と冷えているのだろう。
自室に響く窓硝子の音が、温度の低さで透きとおって
いるのがわかる。夏には無い、音の一生。呼吸の音と、
ヒトが一人生きている音。ベッドの上で布同士が擦れ
は静まり返り、静かな夕暮れ時は、過ぎてゆく。


たたっ ぱちっ
たっ た たたっ
ちんっ ぱたったたっ

たっ

朝には雨だれから落ちる霧の声を聴いた。しっとり、
と、外が、夜の終わりが、朝の始まりが、濡れている
とわかるような、穏やかで、やはり不規則な音色を奏
でていた。


秋の朝は、夜は―

渇いてしまったヒトの内側まで、潤してくれるらしい。
頼まずとも、願わずとも、すき間から忍び込んで、雨
を撒き、霧を漂わせて、泡立つ水無き波を鎮めてくれ
る。まるで、花に、水やりでもしているかのように。


った たちちっ
った ったっ たつっ
ぽた た たっ ったたっ

 ―ぱしゃっ!

誰かが窓を叩いている。昼も立ち去って、真っ暗に
った自室の片隅で。重なり続けたその音で、膜がはじ
ように、わたしはを覚ました

かすかに、ちゃぷん、と、器の奥で音がしている。カ
ーテンを開けると、冷えきった窓硝子が、ぬらぬら、
と、夜を背景に、怪しげな煌めきを放っている

















霧が積もる

2020-09-12 01:21:59 | 言葉








霧が積もる
しずかな夜の森に
透明な朝陽のすき間に

音も無く降り積もる

紫陽花の青い手のひらに
うるおいを求める大地の上に
平らかな窓硝子を覆うようにして
 
霧が積もる

雪の夜にも似た
しずまりかえった世界に
わたし達は抱きかかえられている

軋んでいた
小さな自室が
わたしの内側が
うるおいを取り戻していく

目をとじれば 窓越しに霧の声が聴こえる