たっ たっ たつっ
たっ ぱたたっ たっ
ばちっ たちっ たたっ
誰かが窓を叩いていた。薄く膜を張った意識の外側で。
それは、不快な音を一切封じ込め、昼と夜の合間の浅
い眠りは、不規則な音によって守られた。
窓が冷たいのだろう。外も随分と冷えているのだろう。
自室に響く窓硝子の音が、温度の低さで透きとおって
いるのがわかる。夏には無い、音の一生。呼吸の音と、
ヒトが一人生きている音。ベッドの上で布同士が擦れ
は静まり返り、静かな夕暮れ時は、過ぎてゆく。
たたっ ぱちっ
たっ た たたっ
ちんっ ぱたったたっ
たっ
朝には雨だれから落ちる霧の声を聴いた。しっとり、
と、外が、夜の終わりが、朝の始まりが、濡れている
とわかるような、穏やかで、やはり不規則な音色を奏
でていた。
秋の朝は、夜は―
渇いてしまったヒトの内側まで、潤してくれるらしい。
頼まずとも、願わずとも、すき間から忍び込んで、雨
を撒き、霧を漂わせて、泡立つ水無き波を鎮めてくれ
る。まるで、花に、水やりでもしているかのように。
った たちちっ
った ったっ たつっ
ぽた た たっ ったたっ
―ぱしゃっ!
誰かが窓を叩いている。昼も立ち去って、真っ暗にな
った自室の片隅で。重なり続けたその音で、膜がはじ
けるように、わたしは目を覚ました。
かすかに、ちゃぷん、と、器の奥で音がしている。カ
ーテンを開けると、冷えきった窓硝子が、ぬらぬら、
と、夜を背景に、怪しげな煌めきを放っている。