言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

はなみち

2020-09-09 22:19:05 | 言葉





百日紅のトンネルを
ゆっくりとくぐり抜けた

歩行者信号の青を
覆うように 紅(あか)の群れ

渡ろうか どうしようか
そうして信号を数度見送った

紅(あか)は「止まれ」
小さな子だって知っている
何より見惚れてしまったから
信号よりも 花に従った

青信号に寄り添う 百日紅の花束
青空の下にある つかの間の花道

過ぎた道をまたふり返り
紅満開のトンネルへ
もう一度

足もとの紅い星たちを
そろりそろりと
よけながら











風のにおい

2020-09-09 08:45:00 | 言葉




夜が深まり
朝が目を覚ます度に
大気はかすかに確かに
研ぎ澄まされていて

糸のように流れる
風に気がつく
変わり始めている
今日のにおいを知る

わたしが歩けば
ひとすじの風が生まれて
ひと欠片の秋を気づかせる
誰かに吹く風に変わるだろう

今通りすぎてゆく風もまた
誰かの歩いた後に生まれた
秋を呼ぶひと吹きの風なのだ
夏の終わりのにおいがする―・・・

太陽からこぼれ落ちる
少し冷たいひかりは
頬やひたいに刺さって
ほのかな温もりだけが流れおちる

そうして肌の上には
ふたつの風のにおいだけが
かすかに確かに
残されている