言葉喫茶【Only Once】

旅の途中で休憩中。

声無き会話

2020-07-31 20:19:35 | 言葉






身近な街の光よりも
気が遠くなるほど彼方から届く
星のささやきにふれたい
その他 何も要らない

このからだも星のかけら
いつ光るのか
いつ燃え尽きるか
誰も だれも 知らない 

流れ星にも似た一秒先の未来
後悔するのかしないのか
笑うのか悲しむのか
時の行く先は 予測もつかない

今はただ

ようやく雲がほどけた夜空を
あおぎ見て耳を澄ませる
この身ひとつにおさまらないほどの
言葉を交わしあうため

誰にも だれにも 聴かれないように













おとずれ

2020-07-30 19:06:10 | 言葉


うす闇が敷かれた
部屋の窓ぎわに訪れた
燃えるような
赤むらさきのひかりが
しずかな温もりを硝子窓に与える


そうして より一層深まる時間に わたしはとけた


ひかりが立ち去ろうとしている
だれかの足音が聴こえる
まばたきをするたびに
だんだんと小さくなる部屋に敷かれたものを
だれかがたっぷり呑みこむ音を聴いた


時計も 部屋の中も もう 見えない


足音の主は
すぐとなりにいるようで
呼吸をするたびに
風はつめたく
あたりは ただ 静かになってゆく








◇祖母を想う◇

2020-07-30 11:28:09 | 言葉


先日、入院中だった祖母が長い人生の幕を閉じた。

十日の早朝に急性心筋梗塞で搬送され、
それから十六日もの間、
祖母は祖母として、眩しく生きた。

わたしが小学五年生の時、祖父は末期の肺がんを予告され、
それから半年ほどだったろうか、闘病の末、天国へ旅立った。
祖父の故郷から戻る時に初雪が降った事を今も覚えている。

当時の祖母は誰よりも悲しみ、泣き崩れ、
誰よりも危うかったのだが、
あれから気づけば二十余年。
時に弱くもあったが、それらは祖母を強い人に変えたように思う。

大怪我をした事もあったし、入院や手術も多かった。
認知症になり、記憶の引き出しの開け閉めを間違える事もあったが、
振り返れば振り返るほどに、やはり「強くなった」人だった。
はじめから強かった訳ではなかった。
悲しみや苦しみ、そして「時薬」が、支えとなり、
立ち上がり生きる力になったように感じている。

祖母の最期には数分間に合わず病院に着いたが、
母もわたしも、まだ弱々しく眠っているのだと勘違いするほど、
穏やかな顔で息を引き取ったようだった。
だからだろうか、これを書いている今も、
(とうに納骨まですべてが済んでいるのに)
実感があるようで無い。
深夜に亡くなり、その日に湯灌、納棺を行い、
翌朝葬儀と火葬、納骨までを済ませるという、
嵐のような二日間を過ごした事も理由のひとつだろう。

弟のように凛として見送る事もできず、
一番悲しいはずの父よりも泣いてしまった、
何とも情けない孫だったが、
コロナ感染症の影響下にある中で、
入院してからの十六日間の中で二度も会えた事は、
何よりも幸せな事だった。
見た目は元気そうなのに、重篤だと言う。
搬送時、既に心筋の下半分が壊死していたと聞いたから、
呼吸もやはり苦しそうだったのを覚えているし、忘れない。

弟と二人で最初に見舞った時も、その後一人で最後に会った日も、
祖母は必ず言うのだ。
「おめんど、気をつけて帰れなァ〜
「からだっこサ気をつけてなァ」
本当に、いつもいつも、人の事ばかり心配する祖母。

そしてわたしと弟が見舞った時だけ、
繰り返しそれぞれに話していた願いがあった。
「わぁ家さ行ぐ」
「明日退院するねん」
「早く帰りてなぁ、おめが居て、弟が居て、面白えべなァ」
そう言っていた願いを、
生きている内に叶えてやる事はできなかった。

本人はわたし達には「もう無理だろう」という事は、
いっさい言わなかったし、むしろ帰れると思っていたはずなのだ。
わたし達家族もそうだった、
なにしろ、峠は越えたと言われてから、二日後の事だったから。


今も悲しみは消えない。消さない。
言葉にもできず、涙を流せない分の思いは、
納骨後、発熱という形であらわれた。

生前の祖母を「時薬」がひそかに支えてきたように、
今度はわたしが「時薬」に支えられながら、この先を歩く番だ。

時には膝から崩れ落ちる事もあるだろうし、
突然感情が決壊する時も来るだろうが、
すべて受けとめ、受け容れて、
祖母への透明な手紙を、日々、残してゆこうと思う。


二度の面会を「たった」ではなく
「二度も」と思えるような、
そんな大切な時間もあると教えてくれた、
心やさしい祖母への感謝を、ここに束ねる。









道の途中

2020-07-29 22:32:20 | 言葉





今はまだ道の途中

この道の終わりが訪れる時を
知る者はいない
わたしには見えない
わからない

始まりと終わりは
一対の螺旋
この世に生まれ落ち
いつかは大地に還ることも
一対の螺旋

断つことのできないこの道を歩く 歩く 歩く

花が咲いて枯れること
コップが割れること
お湯が冷めること
朝が夜になること
夜が朝になること
春が夏に
夏が秋に
秋が冬に
冬が春になること

それがいつになるのか
一秒後なのか
一分先か
一時間
一日
一ヶ月
一年
どれほど先のことかなんて
誰も知らない
目には見えない
わからない

だって今はまだ道の途中

わたしはそれだけを知っている
この目に見えていて
唯一わかることだ

終わりよりも 今をゆく









2020-07-29 11:16:07 | 言葉





ぼんやり

ふうわり

している


現実とはこんなにも
ふわつく場所であっただろうか

わたしの足もとから伸びた根を
どこかに置いてきてしまった
かもしれない


沈んでいるのか

浮かんでいるのか

それとも流されているのか


わからぬまま
今日という時の流れの中
現実の中に
わたしは生きている


ゆわゆわ

ふにゃふにゃ

どこか曖昧に

けれども 確かに

生きている







(受けとめるには、時薬が必要だ。人一人分の大きな穴は、埋めようがないし、無理に乗り越えようとも思わない。離れてしまったからだとこころと時の流れ、現実とを、これから時間をかけて、つなぎとめてゆかねばならない。受け取ったバトンを、この胸に。)