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花日和 Hana-biyori

小説『燕は戻ってこない』

桐野夏生『燕は戻ってこない』(集英社)

珍しく3〜4日で読み終わりました。代理母の話でテーマは重いのですが、明快な文章で話に引き込まれ、どんどん読めました。けど、色々と思うことが多くて感想を書きそびれているうちに、ブログも長いことお留守にしてしまいました…。

***あらすじ

北海道から東京にでてきて派遣で働く29歳のリキは、一人暮らしでいつも金がなく疲弊していた。

あるとき同僚から卵子提供の仕事に誘われ、報酬の高さにつられ申し込んでみると、今度は業者から代理母をお願いしたいと持ちかけられる。

一方、43歳で元バレエダンサーの基(もとい)は、再婚相手である妻、悠子との間に子が出来ず苦悩していた。度重なる不妊治療のすえ一度は諦めることにしたものの、自分の遺伝子を残したい思いがつよく「代理母」の利用に踏み切ることに。

そんな夫に妻の悠子は複雑な気持ちを抱くが…。

***

代理母をお金目的の日本人女性がやるという設定が、日本が貧乏になり格差が広がったことを浮き彫りにしているように思います。

子どもができない夫婦のほうは、夫が死後の財産の行先を案じたりなど、命が生じる以前のそれぞれの思惑が生々しい。子供を「持ちたい」と望むことが、どこかエゴであることにも思い至ります。

昔は跡継ぎがなければ養子を迎えるとか妾とか、それこそ大奥とか、子を生せない妻を追い出して再婚するなど女の人権無視な様々があったわけですが。

いまは生殖医療が発展したことで、違う形の深すぎる葛藤や痛みが生まれたのだなと改めて思います。もちろんその葛藤は男性も直面するけれど、物理的・肉体的に苦しく痛い思いをするのは女性です。

そして生殖にかかわることは、技術的に可能であっても機械的に済むものではない、ということも。その簡単ではない人間的なざらざらした部分を、各種洗い出して陳列されたような感じもしました。こういうことがあるから割り切れるもんじゃないですよ、と。


代理母となるリキは、どこかなし崩し的に「自分の子宮を売る」ということをするわけですが、案の定、ある契約違反をして後日たいへんな苦悩を抱えることになります。

それはリキが軽率だと罵られそうなできごとではありますが、後になってみれば妙な【してやった感】もありました。

それは、いくらお金をもらっても、リキの身体が彼女自身のものであるという証拠で、主張でもあるように感じられたからかもしれません。

結末は意見が分かれそうな展開で、ちょっと安直な気がしないでもないですが、小気味よいラストで私はよかったです。




 
 
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