花日和 Hana-biyori

ワンダー

「ワンダー」R・J・パラシオ作/中井はるの訳/ぽるぷ出版



大人が読んでも面白い、感動の児童文学。生まれつき顔に障がいがある男の子が、10歳で初めて学校に通う物語。カバー裏には
「オーガスト・プルマンはふつうの男の子。ただし、顔以外は」
とあり、印象的だ。明らかに人と見た目の違うオーガストに下劣ないじめも起こるが、彼本来の頭の良さや家族と友人の支えによって悪くない方向へと向かう。

オーガスト本人の語りで始まるけれど、各章ごとに姉、友人、姉の彼氏など語り手が変わる。視点が変わることによって、単なる障害児の苦しみや強さの表現だけに終わっていないのが新鮮で面白かった。思春期の若者たちの心の軌跡を追う話でもある。

たとえば、オーガストの姉・高校生のヴィクトリア(ヴィア)の章は、冒頭で家族関係とヴィアの心が瞬時に分かって秀逸だと思う。

―オーガストは太陽。わたしと父さんと母さんは太陽のまわりをまわる惑星。(中略)こんな宇宙のしくみには、もう慣れ切ってる。

両親をほぼ奪われている彼女が痛ましかったが、彼女が本気でオーガストを愛しているのも分かる。それでも、奇異な目で注目されたくないという気持ちに罪悪感を抱いたりと、その心情は繊細で複雑だ。

オーガストと仲良くしているために男子からいじめを受ける友人のジャックや、ヴィアの彼氏のジャスティン、かつての親友ミランダは、自分の家族とオーガスト一家を比べて決してオーガストが不幸ではないことも知る。とくに、高校生のジャスティンの最終的な気づきが、理想論かもしれないけれど美しくて私は好きだ。(ついでに言うとヴィアに対する気持ちの描写にもしびれる)

この世はくじ引きだというのか?と世界の理不尽を嘆いたあと、それを自分で否定し、オーガストを愛する人々を1人ひとり思い出す。
―結局全部合わせて差し引きすると公平になる。この世界は、小鳥たちをみんな大事にしている。

皆オーガストの魅力や聡明さを認め、自分を、人を差別するような人間になりたくないと各々の度合いで考えていて、小学校の子供たちも日本に比べて随分精神的に大人だと感じた。もちろんフィクションではあるのだが。ラストは感動的で、是非子どもに読んでもらいたいけれど…すでに学校で少し読んで、「分かんなかった」とのこと。残念だけど、また勧めてみようかな~とも思う。

さいごに「ブラウン先生の格言」メモ

―正しいことをするか、親切なことをするか、どちらかを選ぶときには、親切を選べ。
(ウェイン・W・ダイアー)
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