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花日和 Hana-biyori

『おいしいごはんが食べられますように』聴き終わり

高瀬 隼子 著/講談社
(2022年3月出版)
オーディオブックにて。朗読は椎名ライカ

ある会社の支店で働く人たちの人間模様をえぐみたっぷりに描く。芥川賞受賞作品。

あらすじ〉
二谷は20代後半の独身男性。あるとき職場の後輩押尾さん(20代女性)と飲んでいて、同じ職場の先輩である「芦川さんが苦手」と打ち明けられる。

身体が弱く可愛い芦川さんは、職場で「守ってあげるべき存在」とみなされており、頭が痛くなればすぐ帰るし、研修当日に体調不良でドタキャンする。そのため、仕事ができる押尾や二谷がそのフォローをするのが常だった。

それに苛立つ押尾さんは、二谷に「芦川さんにいじわるしませんか?」と持ち掛けるが……。

***

いやー現代日本の職場あるあるが繰り広げられ、たいへん分かりやすくて面白かった。たぶんどこの職場にも、「あの人のお陰で私の仕事が増える…」と思われている人はいるだろう。それを、表立っては非難できない今の時代のモヤモヤ感がにじみ出ていた。


タイトルから、おいしいご飯を愛するひと目線の話かと思ったら、全然そんなことはなく。

食事は3食カップ麺でいいという、食に対して醒めている二谷の視点で始まる。

彼は、調理の手間や“手作り料理には感謝感心すべき”などの食事にまつわる周辺のあれこれが嫌いだ。栄養は錠剤でとれればいいのにという二谷の願望に、毎日の食事作りに倦んでいる私としては、これはこれで共感する部分があった。

そんな彼だが、選ぶ女性は料理好きで手作り菓子を職場で配ったりする彼女、という矛盾を抱える。

自分の意志より「正解を選ぶ」「空気を読む」などが出来てしまう二谷は、文学部に入りたかったけれど就職に不利という理由で経済学部を選んだ過去に、なんとなくわだかまりを抱えてもいる。

生き方として器用なんだか不器用なんだかわかりゃしない。

そんな二谷の食にまつわる嫌悪感を聞かされていると、「おいしいごはんが食べられますように」は、必ずしも人類共通の願望ではなく、食にまつわる周辺のあれこれは意外と煩わしいことも多いと気付かされる。

主要人物の3人は何処か嫌な感じがある一方で、それぞれに共感できる部分があるという複雑な味わいがあった。

疲れた現代人の心境をあぶり出しているなあと。

ひとの暗い部分を覗き見るような話だが、クライマックスからラストにかけてドキドキしながら一気に聴いた。

結末はまあそうなりますよねという気味悪さ。たぶん、だから芥川賞なのだ。スカッとしてたら本屋大賞だったろうと思った。
 




 

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