
「結婚してください」
「できないでしょ、私たちは」
「一緒に抜けよう。普通の家族を築いてみないか、なあ」
「ありがとう。すごく嬉しい。けど、」
「けど、、」
「結婚はできない」
夢見ちまったんだ
ハミルENの暮らしに同調していた筈なのに、ある女に惚れちまってごく自然な家庭を欲しがった
彼女が俺の妻であるという確固たる所有が俺の心に平安を齎すのだと考えた
いや、そうだ、否、違うただ俺の者にしたかった
ハミルENの大きな家族ってのに共鳴してこの暮らしを選択した筈なのに、それこそが憎くなっちまった、
結婚否定
本気で惚れて腫れて膨らんぢまった風船みてえな心においては、絶対の掟が役所への足枷になっちまった
ハミルENのみんなは笑っているが、実のところ婚姻と動物の狭間で身悶えている奴もいるんだ
俺達は既に知っちまってるんだ
婚姻のある世界と
愛愛しげな風景と

俺は山に入った
当然、死ぬことを念頭に置いた登山だった
プロポーズを断られて俺の恥ずかしさは満潮を迎えて惨めの洪水を起こしていたし、漢のプライドは砕けちまって只の生物的動作として立ち上がることすら心身を消耗した
ハミルENの掟さえも破っちまった
惚れた女の拒絶と家への不義が重なって消沈していく心身の割に、落命に対してのみ勇気が興起していく
何とか気力を振り絞って山に入った
運良く1m×2mの看板を見つけた
そりゃ思ったさ
こんな馬花な作業はあるのか
しかし、最期くらい大馬花な事をしてみようと思ったんだ
俺は看板に遺書を書いていた
最期の最期くらいドデカク散ってやろう、って
なのによ、気配がして振り返りゃあ、妙な熊が、俺のコーヒーに勝手に口つけてやがって、
その上

熊の死んだフリ、だなんてお前に救われちまった
「なあ、ハミル。お前は俺の死気に気付いていたのか」
なあ、花美留
俺のブリーフに染みついた太陽
・・・・

「ごめん下さーい!」
「誰だ」

