“今年の梅雨は、雨がよぅ降るねぇ ”叔母が退屈そうにつぶやいていた
“横浜に行ってくる~”と言って出かける支度を始めた私に叔母は何か言いたそうだった
私は心の中で“加奈子叔母ちゃんマスターに会いたいんかな?”と思ったが
口には出さずにそっと出かけた
今日は、久しぶりに啓太と会う為にあのカフェへ行く予定だ
実はマスターと叔母は遠い昔、短い期間ではあったが付き合いがあったのだ・・・・・・

啓太は学生生活を楽しんでいるのと同時に、就職活動の一環として社会人の先輩たちとの交流も
頻繁に持ち 毎日忙しくしているようだった
私自信も2年目に入り、仕事も段取りよく進めることが出来るようになっていた
啓太は父親の会社に入るつもりがなく、わざわざ他の会社への就職を希望していたらしく
来月から短期のホームステイも予定しているらしかった
二人の時間はほとんどなかったし、もはや付き合っているとは言えない程の関係だった
もしかしたら・・・はっきりさせずに自然消滅という形でもよかったのかもしれない
でも、総一郎とのことを考えるとそうもいかない だって、二人は従兄弟同士なんだから・・・
店に入ると、啓太は楽しそうにマスターや亮介くんと話し込んでいた
私は軽く会釈していつもの席へついた
「なんだよぉ~こっちへ来ればいいのに」 そう言って啓太は私の前の席へ腰をおろしながら
「久しぶりだね、エリー なんだか少し綺麗に・・・ううん、大人っぽくなった気がする
とにかく前よりちょっと雰囲気が変わったね」
「前から私は君に比べると大人ですぅ しかももう学生じゃないねんよ」
私は笑いながらそう言ったが、ちょっと棘のある言い方だったかもしれないな・・・と思った
啓太は気にするふうでもなく 「あ、そりゃ~そうだ もともと大人・・・いつまでも年上だもんな」
と笑いながらそうつぶやいた
やはり、会っていない時間がそうさせるのか 話の間が持たない すぐに沈黙してしまう
カウンターに座っている亮介くんの視線が少しだけ気になっていた
以前総一郎と来た事を知っている訳だし・・・でもきっと啓太には何も言わずにいてくれてる
“居心地が悪いな・・・”と思いながらも、私は唐突に切り出した
「ねぇ啓太? 私ら別れへん?」
「え・・・・・?」 突然の別れ話に啓太は困惑している
「嫌いになったとかって言うんじゃないねんけど、私ら今の状態では付き合ってるって言えヘンやろ?
生活のリズムもちゃうし、啓太忙しそうやし、どう思う?」
「・・・・・・・・」
「私はな、週に一度くらいは会ったり、ご飯食べに行ったり、映画見たり、ショッピングも・・・」
「ちょっと外でよう!」
啓太は私の腕を引っ張るようにして外へ出た
雨はやんでいて薄日が差してた 「ちょっと歩こう」
そう言って、以前総一郎と一緒に来た公園へとどんどん歩いて行った
「痛いっって、ちょっと手ぇ放して!」
「嫌だ!」 「ほな、もうちょっとゆっくり歩いて!」 その言葉には応じてくれた
公園に着くと「どうして?どうして急にそんな話なの? いつから・・・? いつからそんなこと・・?」
「いつから・・・って、そんなんわからへんけど 昨日今日の話じゃないよ
もう去年くらいからかな、私が就職してからかも・・・」
「理由は? 会う時間が少ないからだけ? 誰か・・・もしかして誰かほかに好きな人とかいるの?」
「・・・・・・・」 “好きな人” それにはYESともNOとも答えられなかった
私が黙っていると身動きできないくらいの力でギュッと抱きしめられた
頭の上で、「嫌だよ、僕は・・・・時間が少ないだけの理由で別れるなんて納得できないよ
エリー、僕は君が大好きなんだよ 特別なんだ会えない時間があってもわかってもらえると思っていた」
抱きしめられたのは久しぶりだった、いつのまにか子供っぽかった啓太が
大人の男に変わっているように思った
それでも私は一度言いだした手前そのまま流されまいと思い
落ち着いた口調で「とにかく手 放してくれる?よその人が見てるし恥ずかしいわ」
啓太は興奮した様子だったが、そっと腕の力を緩めて 「ごめん・・・・」 とつぶやいた
「ごめん・・・って啓太が言わなくてええよ・・」 と言って大きなため息をついた
私は正直言って、この状態で啓太を突き放す勇気はなかった やはり私はずるいのか・・・
心の中で葛藤していた。
結局その日は、その場しのぎの優しい言葉で啓太に曖昧な態度を取ってしまい
宙ぶらりんな気持ちのまま 「又しばらく会えへんやろ? アメリカ行くんやろ? いつ帰って来るん?」
「8月半ば頃の予定」
「ふぅん・・・気をつけて行っておいでね」 と、短い会話をかわし その日はそのまま帰って来た。