桜がちらほら咲き始めた頃 京都へ向かった

“とにかく一度帰って来させろ”
とうるさく言う父親に、困り果てていると
涙声の母からの電話を受けて
しぶしぶ帰ることにした。
父は、まだ隠居する年ではなかったが
兄が所帯を持ったのをきっかけに
店の切り盛りを任せていて
自分は忙しい時間だけ手伝いに入る程度にしているらしい
姉は去年の年末に
ある事情でバタバタと嫁に行ったので
家には父と母だけが二人で暮らしていた
そんなところへ帰っては
二度とこちらへ戻れないのではないか?
と不安だったが
帰ってみると意外に父は落ち着いており
母が言うほど固執している様子は見受けられなかった
そもそも私は、
なぜそこまで父が
私を手元に置いておきたいと言うのかがわからなかった
帰ってくると優しく迎えられ妙な気持ちだった
“何か裏がある” と私は感じていた。
開口一番 「私 東京で仕事決めてあるしな、
こっちへは戻って来ぇへんで
何を言うても無理やしな
もう子供やないねんから
自分のことは自分で決めさせてや!」
と一気に話した
父は、猫なで声で
「まぁまぁそんな必死になって言わんでもわかったし、
さぁさお茶でも飲んでゆっくりしぃな」
私は母をキッと睨み
“どういうことやねん?”という顔をした
母は素知らぬ顔で
「絵里ちゃんの好きな豆もち買うてあるよ食べるやろぉ~?」
と台所へ逃げた
私のお尻は落ち着かずもぞもぞしていたが
好物を出されては仕方ない
“あぁあ、食べもんには弱いわ、わたし・・・”
と笑うしかなかった

話をよく聞いてみると
どうやら原因は兄の嫁にあった
普通嫁と姑の確執を耳にするのだが
兄のところへ来たお嫁さんは
母とは上手くやろうとしている様子で
しかし、父のことは煙たがり
何かにつけて邪魔者扱いするらしかった
姉が嫁いでしまい
そばに助けを求められる娘がいなくて
ただただ寂しがっているということだった
「おとうちゃん!
いずれ私もお嫁に行くんやさかい
前は 早う嫁に行けって言うてたやん」
「それは昔の話や、
今はな・・・・・まぁそう焦らずにゆっくりしたらええ」
「頑固おやじのままで、
お嫁さんにもうるさく言うたんやろ?
他人さまに私らに言うような言い方が
通じるわけないやろ?
そりゃ、お父ちゃんが悪いわ! 私は知らん!!」
冗談じゃない! と、私は呆れていた
それでも、仕事が始まる4月までの
3日間だけはさみしそうな父のそばにいてやろうと思っていた。