グレイスインサンダ

~信徒さんとキリスト教との出会い~

人はパンだけで生きるものではない

2012-05-12 00:00:00 | 証し


S.Kさん(S教会員)

 私の育った時代は太平洋戦争まっただ中でした。次第に戦争が激しくなり、東京下町生まれの私は福島(今、原発事故で大変な所で、今から六十六年前のことです)に学童疎開をしました。その後、昭和二十年三月、東京大空襲によりわが家は焼失し、終戦となりました。小学校六年生でした。
 アメリカの進駐が始まり、教育制度も六三三制に変わりました。高校生となった私は戦前の軍国主義の教育から一変して民主主義教育を受けました。これからは女性も自立しなければならないと強く考えるようになりました。
 私が学校を卒業した頃は戦後の混乱期で労働運動が盛んな時代でした。私はある企業に就職し、組合運動に熱心になり、メーデーに参加したり、ピクニックに行ったりと若者のグループで、青臭い議論をしていました。とても充実した青春時代でした。しかし、米ソ冷戦の時代に入り、アメリカによるレッドパージ(組合運動弾圧)が始まりました。仲間たちはちりじりに地方へ転勤させられ、現実社会の厳しさにがく然とし、生きる気力さえ失ってしまいました。このさ中にグループのひとりの女性が自殺してしまいました。私は二重のショックで悶々(もんもん)としていると、職場の人(クリスチャンではないが)が「教会に行ってみたら」と勧めてくれました。神田の大きな教会(後に知ったのですが、富士見町教会で、牧師は島村亀鶴師)でした。メッセージは遠い昔の遠い国の話のようで、さっぱり解りませんでした。一ヶ月位で行かなくなってしまいました。しかし、この時からキリスト教というものに強く惹(ひ)かれ、神田の古本屋で佐古純一郎の「キリスト教問答」や内村鑑三、矢内原忠雄(もと東大総長)の著書などを読み、知識として理解していました。しかし、まだまだ信仰を持つには長い道のりがありました。
 若き日の挫折から、しっかりした生きる目標もなく、世間体を気にして見合い結婚をし、二人の子供も与えられました。夫は仕事上の付き合いと称してよくお酒を飲み、帰りはいつも深夜でした。まじめで堅い家庭に育った私はそんな夫に対して文句ばかり言っていました。夫の両親も「男の付き合い」だからとかばうので、余計腹を立てておりました。義父母は他の宗教に入っていました(私に勧めることはありませんでしたが)。そんな家庭に不満を抱えながらも子育てに追われていました。
 その頃、私の実家の弟が救われ、まもなく母も救われました。弟は毎月「きぼう」と手紙を送り続けてくれました。また、三浦綾子の著書を紹介され、小説、エッセイをよく読みました。特に戦争を体験され著者のエッセイは、私も同じ世代なのでとても共感しました。三浦作品を通してフラフラしていた私はしっかり生きる指針を得ました。いつか教会へ行こう、今は生活が大変だから、少し落ち着いたらなどと考えるようになりました。
 やがて、子供が小学校にあがったので、私は勤めはじめました。夫に対する不満から、まず経済的に自立してこの家を出ようと考えていました。その頃、実家の母が天に召されました。いつも私の悩みを聞いてくれ、味方になって支えてくれた母でした。「自分が変われば周囲の状況も変わってくるから」といつも祈ってくれました。心の中にポッカリ穴があいた様でしばらくぼんやりしていましたが、私は子供を育てなければとつっぱって働いていました。そして、心身共に疲れ切ってしまい、ただただ虚しくなり、眠れぬ夜が続きました。そんなある夜中に突然「神さま、助けて!」と泣き叫んでいる自分がおりました。今まであまり読まなかった聖書を開き、「人はパンだけで生きるものではない」のみことばが急に迫ってきました(マタイ4:4)。私は何とパンばかりを追いかけてきたのだろうかと、また「なぜ、兄弟の目にあるちりを見ながら、自分の目にある梁(はり)を認めないのか。…まず自分の目から梁(はり)を取りのけるがよい。」とのみことばが浮かび、自分勝手な己を反省し、夫や義父母ばかりを責めていたことに気付かされました(マタイ7:3-5)。もう迷わず、教会に行こうと決心しました。今まで漠然としていた聖書のことばが、海綿が水を吸うように心にしみてきて、イエスさまの十字架のあがないを信じ洗礼を受けました。
 二十代でイエスさまを求めながら、長い間、荒野(あらの)をさまよい、四十五歳でやっと平安が与えられました。この陰で母と弟の熱い祈りがあったことをつくづく感謝しております。私がイエスさまによって変えられたことにより、ギクシャクしていた家族関係も修復されました。それから数年後、義父が急逝し、また義母の病気中、私は過去のわだかまりを捨てて看護し、静かに見送ることが出来ました。その後、夫もガンの闘病中救われ、二十年前に天に召されました。また、五年前には息子夫婦も神さまの不思議な導きにより救われました。
 「主イエスを信じなさい。そうしたら、あなたもあなたの家族も救われます」(使徒16:31)。このみことばは真実です。

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