北朝鮮は荒廃した経済をいかに近代化させるかのヒントを得るのに、それほど遠くに視線を向ける必要はない。隣国の中国と韓国はどちらも、数十年で世界的な製造大国への変身を遂げたからだ。
だが、 金正恩朝鮮労働党委員長はもっと遠く離れた別の国からの助言も求めている。北朝鮮同様、米国と激しく戦った歴史を持つベトナムだ。金委員長は昨年の南北首脳会談でベトナム型の改革を模索する意思を示したとされ、トランプ米大統領と今月ハノイで会談に臨む際、ベトナムを間近に目にすることとなる。
1.なぜベトナムに関心があるのか
経済向上だけでなく、長年の孤立からの脱却や、権力の掌握を続けるという重要な点でロードマップが得られるからだ。1975年のベトナム戦争終結から約10年後、ベトナム共産党は社会主義に市場経済を取り入れ人々を貧困から解放するという、いわゆる「ドイモイ」(刷新)政策を導入。外国からの投資を促し、国有企業への補助金を減らし、農民が余剰作物を売ることを許した。ベトナムは現在、10数余りの自由貿易協定を結び、経済は2000年以降平均6.6%成長している。
2. 北朝鮮との類似点はあるか
両国とも、戦争で米国と戦った。ベトナムは戦争捕虜や行方不明者の問題解決を通じて旧敵国との和解が始まったが、この路線を金委員長がたどり始めた。1994年にクリントン政権(当時)は対ベトナム禁輸を解除、関係正常化のプロセスが始まったわけだが、北朝鮮も追随できるかもしれない。ベトナムと北朝鮮は現在では世界で勢力が小さくなりつつある共産圏の一員だ。歴史的に中国の影響を大きく受けてきたが、他の大国との関係を発展させバランスを取る必要がある。両国とも、陸上や海上に領有権の問題を抱えつつも貿易の機会が巨大な地域に位置する。冷戦時、ベトナムは南北に分断された。北朝鮮の現状は1980年代のベトナムに重なる。国内経済は疲弊、ほとんどの国・地域との関係は断絶していた。
3. 違いは何か
北朝鮮は指導者が支配する独裁国だが、ベトナムは一党支配であるものの少数集団が指導する体制だ。金委員長の瀬戸際外交とは対照的に、ベトナムは他国との友好を追求し世界経済に積極的に関わってきた。アジアの大国となった中国に対し、北朝鮮は支援をかなり頼ってきたが、ベトナムはある程度、経済的に独立性を保っている。北朝鮮の輸出の9割が中国向けの一方、ベトナムは中国が最大の貿易相手ではあるが、韓国や日本、米国の存在も大きい。ベトナムの人口は北朝鮮の約4倍で、国土面積は約2倍半。ベトナムの経済発展は、世界貿易の急速な拡大期に効率は高いが低賃金の労働力が支える輸出拡大で実現した。北朝鮮は経済を開放しても、世界がより保護主義に向かう時期に重なってしまうかもしれない。
4. 北朝鮮の経済問題はどの程度深刻か
非常に悪く、しかも悪化している。韓国の中央銀行は、2017年に国内総生産(GDP)が3.5%縮小したとみており、これは20年で最悪の落ち込み。昨年に入ると国際社会からの制裁がますます厳しくなった。1970年代には韓国より強い経済分野も多数あったが、その後は急速に悪化し深刻な飢饉(ききん)に何度も見舞われている。国民の平均所得は1300ドル(約14万4000円)未満と推計され、韓国の20分の1にも届かない。
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大国の両側に位置するベトナムと北朝鮮ブルームバーグ