違法な1次派遣をすべて職安法44条違反ではない派遣法違反とすることは不当だと思う
1. 職業安定法と労働者派遣法について
請負・委任契約のなかで、偽装請負が行われていた場合、国(労働局需給調整担当)の法解釈によれば、派遣法2条1項(「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」)を法源に、職安法を適用せず、派遣法違反とし、主に派遣元に対し是正指導を行っている。
私は、職安法と派遣法との関係は、一般法と個別法の関係にあると理解しているが(ただし、相対的に一般法と考えられる職安法を、派遣法という特別法が修正しているのではなく、形式的には職安法の“労働者供給”規定の概念から労働者派遣を除外する(表面的には“択一関係”に見える)という体裁をとっている<労働行政などは“違法・適法の区別無く“労働者派遣”と解している>ため、法の当てはめに誤解が生じているのだと思うが、これも後述「3.」で検討する)から、どうも国(労働行政)は、労働者派遣という“構造”に当たらないものを抜き出して職業安定法違反としているようである(構造が異なる2重派遣のみを職安法44条違反として刑事告発するなど)。
しかし、よく考えてみれば、労働者派遣、労働者供給とは法的にどういうものであろうか。
「派遣法第2条第1号・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」
これに対し「職安法第4条第6項・労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
これは文理解釈すれば、「労働者派遣」も「労働者供給」も他人の指揮命令を受けて労働に従事させることでは同じである。使用については派遣先、供給先ということである。また、雇用については派遣元、雇用を含む事実上の支配関係がある先は、供給元となろう。
さらに、労働者派遣では、「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」といっているから、出向は含まないと解せよう。ちなみに「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」であって「自己」と「他人」との契約関係については何ら規定されていないから、自己の雇用する労働者であれば、この指揮命令する「他人」と、労働に従事させるための「当該他人」が一致しているかぎり、多重構造の遥か彼方先の再々代理人のそのまた再委託先であっても、法主体たる“自己”の行為は、取りあえず(違法であれ)『労働者派遣』だと解してかまわないこととなる。中間に位置する別の“他人”だけが労働者供給を行いうるのであって、この労働者供給という行為を惹起したはずの“自己”は、労働者派遣が違法である事のみを問われればよいのである。
このように観ていくと、構造の違いではなく、法的性格の違いであることが良くわかる。また、派遣法違反では「派遣元」の責任がより問われる(派遣元にのみ刑事罰があり)のに対し、上記のような構造の、中間に位置する第三者による労働者供給とされた場合には、適用される処罰法の罪の重さにおいて逆転する(いわゆる“かすがい現象”となる)のである。なお、前稿と本稿の表題において『矛盾』という単語を使ったのはこの意味である。
2. 派遣元とその従業員との雇用契約について
契約とは、相対立する意思表示の合致によって成立する法律行為である。
されば、1次の雇用関係について判断する際にも、労働者との契約関係において「意思の合致(所属認識,認容の態度等)」を先ず根拠にすべきと考えられる。
また、民法の権利の乱用法理も適用されるから、法令に違反した契約内容であれば派遣元とその労働者の雇用契約自体が揺らぐこととなる。例えば、雇用主ではない他人の指揮命令を受けて労働することを条件に雇用契約を結ぶ場合や、雇用主とその労務提供先である他人の双方の支配を受けることを約さなければ雇用が実現されない場合、ないし同様の内容の転勤辞令(職務の強要)を承諾しないと雇用が継続されない場合などである。このような場合、労働者の供給(他人への供給)が主な目的であり、元の雇用主との労働条件等雇用契約、あるいは職務命令自体が揺らぐこととなる。
そうすると、ここで職安法44条違反の可能性が出てこよう。
また、既に雇用している労働者を違法に派遣した場合と、新たな顧客(事業場所等)へ偽装請負を行うことを目的として労働者を形式的に雇用することでは、後者は、『原因において違法な行為』と言えるから、故意責任において区別されるだろう。また、後者において労務提供先(顧客)が行為支配していれば、そちらが正犯だろう。
雇用の存否が法適用(派遣法か?職安法か?)に影響するのであれば、始めから他人に貸し出しすることを約して労働者と契約すること(違法な内容の契約)を“雇用”としてよいか(一旦「雇用が成立する」としたほうが労働者保護に資するため、政策上その方が良いとする議論があっても良いだろうし、行政行為のように「瑕疵ある行為であっても直ちに無効では無い」とする考えもあろうが、しかしこの場合、瑕疵の性質・重大性によるべきである)という問題があるから、結局ここでも職安法44条違反の可能性があるのである。
なお私は、始めから他人に貸し出しすることを約して労働者と契約することを雇用と認めてはならないと考える。労働者の個人法益の保護だけでなく、公益上も、“違法な人貸し”を労働市場からも経済市場からも排除すべきだからである。
3. 処罰法の適用と雇用契約の存否の関係について
そこで、雇用の存否が処罰法の当てはめに際して重要な要件だと考えられるので,以下に検討したい(なお、派遣法第2条第1号は“雇用関係”という語を用いているが、そもそも民法第623条では、その成文で「雇用」の語をつかい、この法主体が「約す」と規定していることからして「雇用」は契約の一種と言うべきであるから、派遣法の言う“雇用関係”とは、「派遣元と労働者が、雇用という契約の関係にあること」と解する)。
民法第623条で、「雇用は当事者の一方が相手方に対し労務に服することを約し、相手方がその労務に対し報酬を支払うことを約す」とされる。
これは、契約の法主体たる両者が直接行うことを予定しており、当該双務行為に対する第三者への委任や代理をすでに排除している規定と考えられよう。民法中の成文規定にも一般規定と個別規定(相対的な一般法と個別法)が存在すると解される。雇用の要件がまさにこの個別規定であろう。
一方、派遣法での雇用契約(労働契約)に関する規定は、33条「派遣労働者に係る雇用制限の禁止」と、34条「就業条件等の明示」のみであり、尚且つ2つの成文規定とも労働者派遣を行う際の派遣先と派遣元に対する(即ち,派遣契約の法主体)に対する規制である。
以上のことから派遣法は、個別の労働者と雇用主との民法上の規定を修正することとなってはおらず、これを修正する唯一の個別の労働市場法は「職安法」であり、これに違反した職業紹介ないし労働者供給による雇用契約は瑕疵があり無効(前述したように「瑕疵ある行為であっても直ちに無効では無い」とする考えもあり、したがって無効か? 一旦有効か?という検討は最も重要だろう)との主張がなされる余地は十分にあろう。
少なくとも“労働者派遣法”が、個別の労働者と雇用主との契約に関する限り、根拠法とはなっていないということである(職安法は「派遣に当たる場合は派遣法を適用せよ」と、派遣法は「派遣に該当するには雇用が要件である」とし、雇用は如何なるかについての根拠は示されていないのである)。また、労働基準法も労働契約に関し、「第13条・この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。」とするだけで、雇用契約の成立要件については法源足りえない。なお「労働契約法」(平成19年法律第128号については、平成19年12月5日に公布され、同日付け発基第1205001号「労働契約法について」により、厚生労働事務次官から労働局長あて通達されたところであるが、同法は、労働契約法の施行期日を定める政令「平成20年政令第10号」により、本年3月1日から施行)も、労働契約の要件は「第6条・労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」としているから民法の雇用規定を踏襲しているものであり、結局、雇用契約は民法に法源を求めることとなる。
そうすると、法源たる民法上の「雇用」の存否が処罰法適用に影響し、「派遣法」か?それとも「職安法44条」か?という問題においては、労働者派遣とされる(1次供給)においても、「雇用」が否定される場合には職安法44条違反である。
なお労働者自身も、法益を侵害された“客体”にとどまるのか?、それとも、自らの個人法益を侵害する行為者たる“主体(ないし故意ある道具として加担した者)”足るのか?ということについても十分な検討が必要であると考える。
もっとも、ドイツの例“暴れ馬事件”の如く、労働者の生活維持が必至の場合、或いは使用者が強制した場合には、適法な行為を為す期待可能性(期待可能性が無い)という点で、有責性が排除ないし制限されるであろう。
人に刑罰を課す場合(あるいは不起訴であっても“嫌疑あり”とする場合)には、重い責任非難を基礎付けることが必要であるから、慎重に帰すべきだろう。
4. 労働者・勤労者保護と憲法規定に関し
憲法第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。2 賃金、就業時間休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。3 児童は、これを酷使してはならない」と規定している。
職業安定法違反(ないし労働者派遣法違反)が横行することは、労働者・勤労者がその職業生活において、適法な雇用・適法な契約の下に仕事を行い、生活を維持することを妨げるものである。
請負事業を行う者にとっても、雇用される労働者にとっても、違法な職務を承知で就労しなければ賃金・報酬を得られないという蓋然性を甘受させられることは、個人法益の侵害にとどまらず、国家・社会法益を害し、法の支配における明日の希望、未来をも奪うものである。
国民が労働(勤労)しなければ、各人の将来も、福祉も、国家・社会の未来も無い。法の支配の下、適法に事業を行う者・適法に就労する者が相応且つ必要な報酬を得られるということが必要である。
1. 職業安定法と労働者派遣法について
請負・委任契約のなかで、偽装請負が行われていた場合、国(労働局需給調整担当)の法解釈によれば、派遣法2条1項(「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」)を法源に、職安法を適用せず、派遣法違反とし、主に派遣元に対し是正指導を行っている。
私は、職安法と派遣法との関係は、一般法と個別法の関係にあると理解しているが(ただし、相対的に一般法と考えられる職安法を、派遣法という特別法が修正しているのではなく、形式的には職安法の“労働者供給”規定の概念から労働者派遣を除外する(表面的には“択一関係”に見える)という体裁をとっている<労働行政などは“違法・適法の区別無く“労働者派遣”と解している>ため、法の当てはめに誤解が生じているのだと思うが、これも後述「3.」で検討する)から、どうも国(労働行政)は、労働者派遣という“構造”に当たらないものを抜き出して職業安定法違反としているようである(構造が異なる2重派遣のみを職安法44条違反として刑事告発するなど)。
しかし、よく考えてみれば、労働者派遣、労働者供給とは法的にどういうものであろうか。
「派遣法第2条第1号・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」
これに対し「職安法第4条第6項・労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
これは文理解釈すれば、「労働者派遣」も「労働者供給」も他人の指揮命令を受けて労働に従事させることでは同じである。使用については派遣先、供給先ということである。また、雇用については派遣元、雇用を含む事実上の支配関係がある先は、供給元となろう。
さらに、労働者派遣では、「当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」といっているから、出向は含まないと解せよう。ちなみに「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させること」であって「自己」と「他人」との契約関係については何ら規定されていないから、自己の雇用する労働者であれば、この指揮命令する「他人」と、労働に従事させるための「当該他人」が一致しているかぎり、多重構造の遥か彼方先の再々代理人のそのまた再委託先であっても、法主体たる“自己”の行為は、取りあえず(違法であれ)『労働者派遣』だと解してかまわないこととなる。中間に位置する別の“他人”だけが労働者供給を行いうるのであって、この労働者供給という行為を惹起したはずの“自己”は、労働者派遣が違法である事のみを問われればよいのである。
このように観ていくと、構造の違いではなく、法的性格の違いであることが良くわかる。また、派遣法違反では「派遣元」の責任がより問われる(派遣元にのみ刑事罰があり)のに対し、上記のような構造の、中間に位置する第三者による労働者供給とされた場合には、適用される処罰法の罪の重さにおいて逆転する(いわゆる“かすがい現象”となる)のである。なお、前稿と本稿の表題において『矛盾』という単語を使ったのはこの意味である。
2. 派遣元とその従業員との雇用契約について
契約とは、相対立する意思表示の合致によって成立する法律行為である。
されば、1次の雇用関係について判断する際にも、労働者との契約関係において「意思の合致(所属認識,認容の態度等)」を先ず根拠にすべきと考えられる。
また、民法の権利の乱用法理も適用されるから、法令に違反した契約内容であれば派遣元とその労働者の雇用契約自体が揺らぐこととなる。例えば、雇用主ではない他人の指揮命令を受けて労働することを条件に雇用契約を結ぶ場合や、雇用主とその労務提供先である他人の双方の支配を受けることを約さなければ雇用が実現されない場合、ないし同様の内容の転勤辞令(職務の強要)を承諾しないと雇用が継続されない場合などである。このような場合、労働者の供給(他人への供給)が主な目的であり、元の雇用主との労働条件等雇用契約、あるいは職務命令自体が揺らぐこととなる。
そうすると、ここで職安法44条違反の可能性が出てこよう。
また、既に雇用している労働者を違法に派遣した場合と、新たな顧客(事業場所等)へ偽装請負を行うことを目的として労働者を形式的に雇用することでは、後者は、『原因において違法な行為』と言えるから、故意責任において区別されるだろう。また、後者において労務提供先(顧客)が行為支配していれば、そちらが正犯だろう。
雇用の存否が法適用(派遣法か?職安法か?)に影響するのであれば、始めから他人に貸し出しすることを約して労働者と契約すること(違法な内容の契約)を“雇用”としてよいか(一旦「雇用が成立する」としたほうが労働者保護に資するため、政策上その方が良いとする議論があっても良いだろうし、行政行為のように「瑕疵ある行為であっても直ちに無効では無い」とする考えもあろうが、しかしこの場合、瑕疵の性質・重大性によるべきである)という問題があるから、結局ここでも職安法44条違反の可能性があるのである。
なお私は、始めから他人に貸し出しすることを約して労働者と契約することを雇用と認めてはならないと考える。労働者の個人法益の保護だけでなく、公益上も、“違法な人貸し”を労働市場からも経済市場からも排除すべきだからである。
3. 処罰法の適用と雇用契約の存否の関係について
そこで、雇用の存否が処罰法の当てはめに際して重要な要件だと考えられるので,以下に検討したい(なお、派遣法第2条第1号は“雇用関係”という語を用いているが、そもそも民法第623条では、その成文で「雇用」の語をつかい、この法主体が「約す」と規定していることからして「雇用」は契約の一種と言うべきであるから、派遣法の言う“雇用関係”とは、「派遣元と労働者が、雇用という契約の関係にあること」と解する)。
民法第623条で、「雇用は当事者の一方が相手方に対し労務に服することを約し、相手方がその労務に対し報酬を支払うことを約す」とされる。
これは、契約の法主体たる両者が直接行うことを予定しており、当該双務行為に対する第三者への委任や代理をすでに排除している規定と考えられよう。民法中の成文規定にも一般規定と個別規定(相対的な一般法と個別法)が存在すると解される。雇用の要件がまさにこの個別規定であろう。
一方、派遣法での雇用契約(労働契約)に関する規定は、33条「派遣労働者に係る雇用制限の禁止」と、34条「就業条件等の明示」のみであり、尚且つ2つの成文規定とも労働者派遣を行う際の派遣先と派遣元に対する(即ち,派遣契約の法主体)に対する規制である。
以上のことから派遣法は、個別の労働者と雇用主との民法上の規定を修正することとなってはおらず、これを修正する唯一の個別の労働市場法は「職安法」であり、これに違反した職業紹介ないし労働者供給による雇用契約は瑕疵があり無効(前述したように「瑕疵ある行為であっても直ちに無効では無い」とする考えもあり、したがって無効か? 一旦有効か?という検討は最も重要だろう)との主張がなされる余地は十分にあろう。
少なくとも“労働者派遣法”が、個別の労働者と雇用主との契約に関する限り、根拠法とはなっていないということである(職安法は「派遣に当たる場合は派遣法を適用せよ」と、派遣法は「派遣に該当するには雇用が要件である」とし、雇用は如何なるかについての根拠は示されていないのである)。また、労働基準法も労働契約に関し、「第13条・この法律で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は、その部分については無効とする。この場合において、無効となつた部分は、この法律で定める基準による。」とするだけで、雇用契約の成立要件については法源足りえない。なお「労働契約法」(平成19年法律第128号については、平成19年12月5日に公布され、同日付け発基第1205001号「労働契約法について」により、厚生労働事務次官から労働局長あて通達されたところであるが、同法は、労働契約法の施行期日を定める政令「平成20年政令第10号」により、本年3月1日から施行)も、労働契約の要件は「第6条・労働契約は、労働者が使用者に使用されて労働し、使用者がこれに対して賃金を支払うことについて、労働者及び使用者が合意することによって成立する」としているから民法の雇用規定を踏襲しているものであり、結局、雇用契約は民法に法源を求めることとなる。
そうすると、法源たる民法上の「雇用」の存否が処罰法適用に影響し、「派遣法」か?それとも「職安法44条」か?という問題においては、労働者派遣とされる(1次供給)においても、「雇用」が否定される場合には職安法44条違反である。
なお労働者自身も、法益を侵害された“客体”にとどまるのか?、それとも、自らの個人法益を侵害する行為者たる“主体(ないし故意ある道具として加担した者)”足るのか?ということについても十分な検討が必要であると考える。
もっとも、ドイツの例“暴れ馬事件”の如く、労働者の生活維持が必至の場合、或いは使用者が強制した場合には、適法な行為を為す期待可能性(期待可能性が無い)という点で、有責性が排除ないし制限されるであろう。
人に刑罰を課す場合(あるいは不起訴であっても“嫌疑あり”とする場合)には、重い責任非難を基礎付けることが必要であるから、慎重に帰すべきだろう。
4. 労働者・勤労者保護と憲法規定に関し
憲法第27条は「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。2 賃金、就業時間休息その他の勤労条件に関する基準は、法律でこれを定める。3 児童は、これを酷使してはならない」と規定している。
職業安定法違反(ないし労働者派遣法違反)が横行することは、労働者・勤労者がその職業生活において、適法な雇用・適法な契約の下に仕事を行い、生活を維持することを妨げるものである。
請負事業を行う者にとっても、雇用される労働者にとっても、違法な職務を承知で就労しなければ賃金・報酬を得られないという蓋然性を甘受させられることは、個人法益の侵害にとどまらず、国家・社会法益を害し、法の支配における明日の希望、未来をも奪うものである。
国民が労働(勤労)しなければ、各人の将来も、福祉も、国家・社会の未来も無い。法の支配の下、適法に事業を行う者・適法に就労する者が相応且つ必要な報酬を得られるということが必要である。
「派遣法第2条第1号・自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。」
これに対し「職安法第4条第6項・労働者供給とは、供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、派遣法第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする。
それでは、派遣元と雇用関係が認められる労働者を2重派遣した場合は如何であろうか。即ち、労働者派遣の免許を持たない「A」が、労働者「X」を2重派遣する意思を持ち雇用契約を結び、これを「B」に派遣し、この「B」がさらに「C」に2重派遣した場合である。
労働局は、これを“職安法44条違反”とするのである。理由は、Bと労働者Xが雇用関係に無く(つまり他人)、Cに供給した「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事」させたとするのである。
そうであろうか?・・・私は違うと思う。
もし上記理論に従えば、BとCとの供給契約が“職安法”に違反する行為であって、Xと雇用関係のあるAは共犯か、もしくはAが故意に企てたとすれば、このAが職安法違反でB・Cが共犯となろう。
ところが、ここで派遣法の条文が問題となる。即ち、派遣法2条1号で、雇用関係があれば職安法ではなく派遣法が適用されると言っていおり、条文中段で「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい」というからには、“他人”と“当該他人”が一致さえしていれば、多重派遣も労働者派遣なのである。
かくして、上記理論に基づく限り、Xの雇用主たるAを職安法44条違反とすることは不可能ということとなる。
これでは「比例原則」に反するからと言って、では、他人であるBの犯罪を実現した共犯として裁くか、または、Bを“故意ある道具”として使った正犯としてはどうか、というと、これは派遣法が“雇用関係の下に・・・他人のために”働かせるのは労働者派遣である、としているから、Aを、労働者供給の行為者として裁くことは、罪刑法定主義に反する。
なお念のため、職安法は「派遣に当たる場合は派遣法を適用せよ」と、派遣法は「派遣に該当するには雇用が要件である」としているから、労働者と雇用関係がある限りにおいては、職安法違反を問うことは不可能となる。
派遣法も問題だが、これまでの法律運用にも問題があったと私は考えている。
もっと労働者の保護に資するように、派遣法の改正はされなければならないが、運用に問題があったのなら、労働者派遣法という法律の成文規定のみに責任を押し付けた改正議論は危険だろう。
このまま、『法律の適用(処罰法の適用)の問題』というものを洗い出さずにやってしまうと、又もや、改正された法律の運用でも失当を犯すこととなる。
先ず、1罪と複数罪の区分という問題がある。これいついては、構成要件充足の数を基準とする「構成要件標準」説(通説)を採用するとして、入り口論では2罪成立の可能性を残すと言う判断だろう。そうすると続いて“法条競合”という問題がある。
1.特別関係
数個の構成要件が一般法と特別法の関係に当たるもの(例としては、横領罪と業務上横領罪が挙げられる。)。特別法に当たる構成要件に該当する場合には一般法に当たる構成要件には該当しない。
2.補充関係
数個の構成要件が補充・被補充関係に当たるもの(例としては、未遂罪と既遂罪が挙げられる。)。被補充的な構成要件に該当する場合、補充的な構成要件には該当しない。
3.択一関係
1つの行為に適用可能な構成要件が複数存在するが、それらが両立しないもの(例えば横領罪と背任罪)。そのうちの1つの構成要件のみに該当する。
私は、雇用関係が認められる場合、多重派遣でも派遣法違反であると考えているから「1.」の特別関係と理解している。が、労働局は職安法違反とするのであるから、最初の1次派遣が派遣法違反、次の2次派遣が職安法違反であろうか?・・・
労働局による告発を受けた検察官は、果たしてどのように処理するのであろうか、聞いてみたいところだ。
(1)「構成要件該当結果の惹起」に共犯の処罰根拠を求めるならば、「可罰的な共犯は、正犯行為の不法を構成する利益の『すべて』が共犯者に対しても保護されている場合にのみ存在する(4)」と解するのが、一貫した解釈であろう。一部の法益に関してのみ被害者である関与者も、完全な被害者と同様に、他の法規範に違反しないかぎり、共犯として処罰されることはない。
(2)複数の法益を「択一的」に保護する犯罪については、被害者的な地位にある関与者も共犯として可罰的と解される余地がある。
さらに、
『第三節/特定の者を構成要件から除外している犯罪-犯人蔵匿罪・証拠隠滅罪』の節で、以下のように整理している。
(1)判例は、「防禦権の濫用」などを根拠に、これまで一貫して犯人に教唆犯の成立をみとめてきた。
犯人蔵匿・隠避罪について「単に犯人が逃げ隠れするのと、他人を身代わり犯人に仕立てるのとでは、刑事司法作用を害する程度にかなりの差がある。それ故、自ら行えば不可罰の行為を教唆することが可罰的となり得るのである(7)」とし、証拠隠滅罪について「『被疑者・被告人として政策的に保護すべき範囲』を超えた行為に出た場合には、処罰されることになるのである(8)」とされているのが注目される。<中略>
しかし、これらの見解に対しては、犯人は正犯として期待可能性がない以上、共犯としてもやはり期待可能性はない。したがって、犯人は教唆犯としても不可罰と解すべきである、とする見解も有力である。<中略>
大谷教授も、「自己が他人を教唆して犯人蔵匿・証拠隠滅罪を犯させるのは、みずからを蔵匿させるについて他人を利用するにほかならず、また、自己の刑事事件につき他人を教唆して証拠隠滅を犯させるのは、自己の証拠隠滅行為について他人を利用するに他ならないから、犯人・逃走者みずからが犯人蔵匿・証拠隠滅を行った場合と同一の根拠で、この場合の共犯を不可罰とするのが妥当である。通説は、犯人・逃走者みずからが犯人蔵匿・証拠隠滅を行う場合と他人にこれを行わせる場合とでは情状が異なるとするが、期待可能性が乏しいという点では同じであると解すべきである」と主張されている。<中略>
「惹起説」(「共犯者からみた構成要件該当結果の惹起」に共犯の処罰根拠を求める見解)からは、どのように解決されるのであろうか。
(2)「惹起説」からの帰結
「惹起説」とは、共犯固有の不法、つまり「共犯者からみた構成要件該当結果の惹起」を共犯処罰の必要条件とする見解である。共犯の処罰根拠を「共犯自身の攻撃からも保護されている法益の侵害」に求める見解が「惹起説」である、といってもよい。このような見解に立つならば、犯人による自己蔵匿・証拠隠滅の教唆は不可罰となる。これが「惹起説」からの帰結である。
もっとも、このような説明の仕方に対しては、「刑事訴追および刑の執行という法益はやはり犯人に対しても保護されているのではないか」との疑問が、ヴォルターとゾヴァダから提起されている。たしかに、法益を「司法作用一般」ととらえるのが正しい理解であるとすれば、彼らのいうとおりかもしれない。しかし、ここで問題となる法益は、彼らが理解するような「司法作用一般」ではなく、あくまで「犯人蔵匿・証拠隠滅罪によって保護されている司法作用」である。そして、犯人蔵匿・証拠隠滅罪の構成要件から犯人が除外されている以上、この法益は犯人の攻撃からは保護されていないと解すべきではなかろうか。
<長いので以下省略>
http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/law/lex/99-2/Toyota.htm
上記指摘は非常に重要だと思う。職安法と派遣法について、両法律に規定される条文の関係が、特別関係か?、それとも択一関係か?を検討する際に考慮されるべきだろう。
つまり、職安法で労働者派遣が除外されていることを持って単純に“択一関係”だとしてよいとするのはに疑問があり、仮に択一関係であっても、共犯者についての取り扱いは必ずしも単純ではないと言うことである。
即ち、同則によれば、形式的に「請負」であって、且つ同則「第四条1項各号」のすべてに該当する場合(なお「労働者派遣を業として行う場合を除く)であっても、それが故意に偽装されている場合には法第四十四条違反を免れないとしているのである。
参照条文
◎職業安定法施行規則
第四条 労働者を提供しこれを他人の指揮命令を受けて労働に従事させる者(労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の就業条件の整備等に関する法律 (昭和六十年法律第八十八号。以下「労働者派遣法」という。)第二条第三号 に規定する労働者派遣事業を行う者を除く。)は、たとえその契約の形式が請負契約であつても、次の各号のすべてに該当する場合を除き、法第四条第六項 の規定による労働者供給の事業を行う者とする。
一 作業の完成について事業主としての財政上及び法律上のすべての責任を負うものであること。
二 作業に従事する労働者を、指揮監督するものであること。
三 作業に従事する労働者に対し、使用者として法律に規定されたすべての義務を負うものであること。
四 自ら提供する機械、設備、器材(業務上必要なる簡易な工具を除く。)若しくはその作業に必要な材料、資材を使用し又は企画若しくは専門的な技術若しくは専門的な経験を必要とする作業を行うものであつて、単に肉体的な労働力を提供するものでないこと。
2 前項の各号のすべてに該当する場合(労働者派遣法第二条第三号 に規定する労働者派遣事業を行う場合を除く。)であつても、それが法第四十四条 の規定に違反することを免れるため故意に偽装されたものであつて、その事業の真の目的が労働力の供給にあるときは、法第四条第六項 の規定による労働者供給の事業を行う者であることを免れることができない。
◎労働者派遣法
(用語の意義)
第二条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一 労働者派遣 自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする。
二 派遣労働者 事業主が雇用する労働者であつて、労働者派遣の対象となるものをいう。
三 労働者派遣事業 労働者派遣を業として行うことをいう。