えんどうたかし の つぶやきページgooバージョン

このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

自治体の劣化その3・・逗子市〝歌舞音曲ノ者入村スベカラズ〟

2013-11-30 23:27:49 | Weblog
 逗子市・・・「海岸での音楽禁止の条例化」とな?

 以下は≪東京新聞:2013年11月12日≫より
海水浴場対策 逗子市、全国で例のない規制
http://www.tokyo-np.co.jp/article/kanagawa/20131112/CK2013111202000121.html

 海水浴場の健全化に取り組んでいる逗子市は十一日、県や県警との安全対策協議会で、海岸での音楽全面禁止をはじめ、飲酒や入れ墨、バーベキューなどについて、条例や規則で厳しく規制する方針を説明した。来夏から実施の予定だが、海水浴場でこうした先例はなく、全国で最も厳しい規制となる。同様の事情を抱える鎌倉市など、近隣自治体に影響を与えそうだ。 (斎藤裕仁)

 市によると、条例で砂浜など海水浴場全域でラジカセや拡声器などで音楽を流すことを禁止。海の家ではクラブイベントや生演奏、音響機器を使った放送も規則で禁止し、全面禁止とする。
 藤沢市の片瀬海岸西浜海水浴場は今夏、海の家での音楽を禁止して効果があったが、これは海の家の運営組合による自粛。逗子市は、一段と厳しい条例による規制に踏み込む。
 飲酒とバーベキューも、海の家以外の砂浜では条例で禁止。入れ墨の露出も条例で禁止し、違反者には警備員が指導や勧告を行い、従わないと市が中止、退出命令を出す。条例に罰則規定は設けないが、市は勧告や中止命令で実効性はあるとみている。
 海の家の営業時間も今夏は午後八時半だったが、来夏は二時間繰り上げ、同六時半にする。海の家での適度な飲酒、バーベキューの安全管理などは、市と県、県警でまとめる運営方針で具体的に規定する。
 今回の対策は、七月に暴力団員らの殺傷事件が起きるなど、逗子海水浴場の治安悪化や風紀の乱れを受けた措置。市は十六日に市民説明会を開くほか、市民から意見を聴くパブリックコメントを実施して条例案をまとめ、来年二月の市議会に提案する。
 平井竜一市長は「治安の悪化は危機的な状況。日本一厳しい条例で、利用客の減少は避けられないが、逆に安全で落ち着いた、快適な海水浴場を求める多くの人に来てほしい。ピンチをチャンスに変え、全国に誇れる条例にしたい」と健全化に意欲を示した。

 さてこれはどういう状況か。
 音楽に対する逆恨みなのか、目的と手段との整理を誤っているというか、逗子市は随分と幼稚な条例案を出してきたものだと思う。
 要するに、騒音がうるさいとか、時間帯を問題にしているのではなく、規制をしたい側は、公共財である海岸・海水浴場を、特定の層だけに利益を与えるような施設運用にしたいという目論みなのだと思う。勿論、憲法論からいっても、表現の自由や行動の自由も野放しであってはならず、絶えず人権の衝突の調整はしなければならない。その意味で利益調整のためのルールは必要であって、一方だけが自由を謳歌しているのに、もう一方が我慢を強いられている状態は修正されなければならない。 その意味では、確かに公物の管理権限は為政者にあるのだが、しかしそれは私有物の所有権ではなく、国民全体から委任された公物(その中でも一般の利用に供すべき公共用物)の管理権限である。なお少々深読みすると、元々神奈川県が有していた占有利用の許認可権限だが、これが古くから利権化していたということはないのであろうか。
 また、県はこれまで「市町村は海岸利用については権限を有しない」としていたところを急転「逗子市から提案された『安全で快適な逗子海水浴場を取り戻すための6項目の考え方』(下記参照:)の6項目、飲酒、BBQ、入れ墨・タトゥー、音楽、営業時間、水上バイクについて、県は逗子市の自治事務となるので市の判断でやることであり尊重する」との回答だした。運用について、逗子市にほぼ丸投げしたわけであるが、行政委任・受任の関係であろうか?、それも許可に係る主要部分である。だとすれば、県は法源を明らかにされたい。
 
 参照:「安全で快適な逗子海水浴場を取り戻すための6項目の考え方」
http://yaplog.jp/shunichi-k/image/1389/293
 あと「海岸法」は下記(5条関係/知事と市町村長との関係は同条6項)
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S31/S31HO101.html

 しかし、それとこれとは違うと考えられる。即ち、為政者の理に適った一部の層を積極的に誘致しておきながら、他のある層の利用者を制限するか、若しくはその行動を教化矯正して、行動を変更させようとすることだと言える。そうだとすると住民福祉に供しているとは言えないし、これによって行き着くところは、当該施設を、一部の利用者と利害関係人(の中の選挙権を有する者や、集客・商売道具として)の趣味志向に合わせた、為政者のための集票装置に変容させることも可能となろう。
 とにかくこういう趣味の問題で公物管理権・警察権の使い方は如何なものか。

 嘗ての〝歌舞音曲の者入村すべからず〟の現代版ということだ。
 そもそもレジャーは規制にはなじまない「私事」であるし、(行動の自由の範疇・・・もちろん前述の通り、権利衝突には調整は必要であるから、発せられる音=騒音の規制はすべきではあるが)、これではまるで収監者扱いである。
 この次は → 自治体内に入るときの持ち物や服装の規制 → 市中で分布する際の刊行物の事前検閲、ということになるのかもしれない。逗子市では。

 あ、あと、海に向かって「バカヤロー」と叫ぶのはどうなの?、生声ならOK?

 この逗子市の行動から、我々は、最も民主的な方法によって、民主制の源である自由を奪うこともできるということを再認識しなければならないと思う。

 なお、逗子市のパブコメ用の資料に改正案のたたき台が乗っているので参照されたい。
http://www.city.zushi.kanagawa.jp/global-image/units/60674/1-20131121143703.pdf
該当HP
http://www.city.zushi.kanagawa.jp/syokan/keizai/umi/p05159.html

 それから、本来、都道府県が有する海岸利用の権原(処分権や管理権限)と、市が規制出来るとする権限の法的関係も明らかにされるべきだ。騒音防止や迷惑防止一般の条例とは全く異なる、狙い撃ち(それも相当な不意打ち)なのであるから。


 ≪追記≫・・ところで、下記のような自民党石破氏の発言も、単なる趣味の問題として片づけられそうにないと思われる(本人は自分の趣味として語ったのだろうが、好き嫌いなら格別”テロとと同質”発言は非常識を超えて不当である。以下氏のブログ
http://ishiba-shigeru.cocolog-nifty.com/blog/2013/11/post-18a0.html から引用・・
・・「今も議員会館の外では「特定機密保護法絶対阻止!」を叫ぶ大音量が鳴り響いています。いかなる勢力なのか知る由もありませんが、左右どのような主張であっても、ただひたすら己の主張を絶叫し、多くの人々の静穏を妨げるような行為は決して世論の共感を呼ぶことはないでしょう。主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきなのであって、単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます。」・・・というもの。
 さて、デモンストレーション(あるいはその方法の一部が)が違法だというのならともかく、叫ぶことが”テロと同質”という、この感覚こそがそもそも間違え。主義主張はそれを主張した人間が生きているうちに世間から支持を得られるとは限らないことを歴史から学ぶべきである。人間は主義主張があれば、たとえ現在の支持が得られなくとも叫びたいのなら叫ぶべきだ。
 逗子市の海岸も一定の規制(例えば「多数の公衆が集まる屋外公共的施設における騒音規制条例」とか「目的外行為の禁止条例」とか)は必要だが、しかし最小限の行動の自由は支持が得られなくともやらせるべきだと思う。

 ≪追記の追記≫上記に関して、・・・自民党の石破茂幹事長は2日午前、11月29日付の自身のブログで特定秘密保護法案に反対する市民団体らの絶叫調のデモを「テロと本質的に変わらない」と批判した部分について、「本来あるべき民主主義の手法とは異なる」という文言に訂正し、謝罪した。(毎日新聞)・・・と言うことだそうだ。

勤労感謝の日「過労死防止―死ぬまで働かないで」朝日新聞社説 他・・・

2013-11-24 13:20:22 | Weblog
 11月23日勤労感謝の日の「朝日」の社説がいいので、以下に引用して紹介したい。

 <引用開始>・・

危険な現場で働く人にはヘルメットや命綱の装着が義務づけられている。
長時間労働の歯止めも同じではないか。

 月80時間の残業が「過労死」の危険ラインとされる。昨年度の労災認定の状況をみると、脳や心臓の病気で亡くなった123人のうち9割、うつ病など精神疾患による自殺や自殺未遂の93人のうち6割が、このライン以上、働いていた。こうした悲劇を防ごうと、「基本法」を制定する動きが国会で大詰めを迎えている。
 今年6月に発足した超党派の議員連盟には120人余りが参加する。遺族らが集めた約52万の署名を追い風に、ぜひ今国会で成立させて欲しい。
 この法案は「過労死はあってはならない」という理念のもと、国や自治体、使用者の責任の明確化を求める。強制力はないが、より正確な実態把握などをテコに、労働基準法の労働時間規制に「魂を入れ直す」出発点となろう。

 言うまでもなく、労働基準法では1日8時間、週40時間の労働が原則だ。ところが、30歳代の男性は2割近くが週に20時間以上、残業する。危険ラインである。
 こうなるのは、労使で協定を結べば、ほぼ無制限の長時間労働が可能になるからだ。割り増しの残業代の支払いが義務づけられることが、歯止めになっているに過ぎない。

 一方、安倍政権では、規制改革や競争力強化のため、この歯止めを緩め、時間に関係なく賃金を払う裁量労働制などを広げる検討が進む。であればなおさら、残業代の問題とは別に、命と健康を守るため、労働時間に物理的な上限を設けるべきだろう。
 欧州連合(EU)では、勤務の終了から翌日の勤務開始まで最低連続11時間の休息を義務づけている。参考になる。

 日本での大きな課題は、働く側にも「片付けるべき仕事があるのだから、労働時間に規制をかけて欲しくない」という意識が強いことである。仕事の目標が実労働時間とは無関係に決まることが多く、その達成度で評価されるからだ。責任感が強く、能力のある人ほど仕事が集中しやすい。
 労働時間を含めた仕事の量を労使が調整する。そんな現場の工夫が必要だ。

 労働者をひたすら長時間働かせるブラック企業は、社会を沈没させる。それを許さない仕組みを考えたい。

 きょうは、勤労感謝の日。

<引用終わり>・・と締めくくっている。いい記事だと思う。


 ところで、勤労感謝の日について調べてみると・・<ウィキペディアより引用>
 勤労感謝の日(きんろうかんしゃのひ)は、日本の国民の祝日の一つ。
 勤労感謝の日は、国民の祝日に関する法律(祝日法、昭和23年7月20日法律第178号)第2条によれば、「勤労をたつとび、生産を祝い、国民たがいに感謝しあう」ことを趣旨としている。1948年(昭和23年)に公布・施行された同法により制定された。
 農業国家である日本は、古くから神々に五穀の収穫を祝う風習があった。また、その年の収穫物は国家としてもそれからの一年を養う大切な蓄えとなることから、収穫物に感謝する大事な行事として飛鳥時代の皇極天皇の時代に始まった新嘗祭(にいなめさい、しんじょうさい)の日が第二次世界大戦後のGHQの占領政策によって天皇行事・国事行為から切り離される形で改められたものが「勤労感謝の日」である。
 新嘗祭は1872年(明治4年)までは旧暦11月の2回目の卯の日に行われていた。1873年に太陽暦(グレゴリオ暦)が導入されたが、そのままでは新嘗祭が翌年1月になって都合が悪いということで、新暦11月の2回目の卯の日に行うこととした。それが1873年では11月23日だった。しかし、翌1874年からは11月23日に固定して行われるようになった。11月23日という日付自体に深い意味はなく、たまたま日本が太陽暦を導入した年(1873年)の11月の2回目の卯の日が11月23日だっただけのことである。
 休日としての歴史は1873年公布の年中祭日祝日ノ休暇日ヲ定ム(明治6年太政官布告第344号)から続いている。
 一時は5月1日のいわゆるメーデーに勤労感謝の日を移動させる案が浮上したが、現在は頓挫している。・・<引用終わり>
・・だそうだ。

 なお、朝日社説の指摘するところの働き過ぎの問題については、以前から問題視されており、例えば「過労死問題と過労死家族会設立の経緯」と題した中嶌清美氏(立命館大学大学院先端総合学術研究科/当時)の論文もあるので、是非参照されたいと思う。
 この論文の研究・報告の目的は、「過労死」という概念が誕生し運動が進み、過労死110番活動がおこなわれ、被災者・家族が集まって活動を始めることで、過労死家族会が結成された経緯を明らかにすること。・・
 さらに、・・被災者の救済活動の中で、過労死被災者の横のつながりを作ろうと、1988 年11 月、「第1回勤労感謝の日を前に過労死を考えるつどい」において、過労死家族会の結成が提起され、1989 年から各地で過労死家族会が結成され、さらに1991 年には、その全国組織である「全国過労死を考える家族の会」が結成された・・となっている。下記がURLである。

http://www.ritsumei.ac.jp/acd/gr/gsce/ce/2012/nk03.pdf


 もう一つ、何年か前NHKのドキュメント「カンテツな女」というのを放送していたが、どうも不愉快な印象だけが残ったのを思い出した。ある放送日では午後2時に出勤してから一日の労働時間が19時間というものであった。番組の趣旨としては女性の頑張っている職業生活を描こうとした趣旨だということは理解できるが、とても通常人が真似できるものではなく、そこまでしなくてもよいだろうという思いと、はたして健康が害されないものかと心配しながら番組を見ていたのを記憶している。
 少し、この点を検索したところ、下記のような要請文を発見したので、これも紹介したい。
 ブログ「弁護士松丸正の過労死・過労自殺事件ノート」http://matumaru-blog.cocolog-nifty.com/に、NHKに宛てた要請文である。弁護士の松丸正氏は前述の過労死家族会にもかかわっており、過労死などの労働問題を専門とする弁護士だが、NHKに対して下記の文書を送っている。
 NHKも公共放送機関として健康を損ねるような働き方を称賛するような放送は行うべきではないし、ましてや、このような無理な働き方を女性の職業生活のモデルケースとするような世論形成を行うべきではない。というより、労基法に明らかに違反しているケースであるのに、これについて無批判な番組作り(というか法的・倫理的な価値観が倒錯したような)になっていたことについては反省すべきだと思う。そのような反省なくして、受信料を払いたくないと思ったものだ。その意味でも、このような要請文のNHKへの送付はまことに正しいわけである。

http://matumaru-blog.cocolog-nifty.com/blog/2012/04/post-5923.html

 勤労感謝の日を起点に、少しでも考えたいと思う。少なくとも、「勤労をたつとび、生産を祝い、国民がたがいに感謝しあう」国民の祝日。1948年(昭和23)制定が趣旨であるから、その制度意志に沿って勤労したいものだし、人は、互いにそのように扱われるべきだ。

秋田書店:解雇の元女性社員が提訴・・・毎日新聞記事より

2013-11-07 19:35:18 | Weblog
 以下は毎日新聞 2013年09月11日付け

 秋田書店が漫画雑誌の読者プレゼントで景品数を水増し掲載していた問題で、「プレゼントを窃取した」などとして懲戒解雇されたプレゼント担当の元社員の女性(28)が同社などを相手取り、社員としての地位確認と賃金支払い、パワーハラスメントの慰謝料330万円を求め東京地裁に提訴した。女性は会社に不正を抗議していた。秋田書店は「解雇は正当」と争う姿勢を示している。
 訴状や女性が加入する首都圏青年ユニオンなどによると、女性は2007年4月、同社に正社員で入社し、7月から「ミステリーボニータ」のプレゼントを担当。水増し掲載を知って抗議したところ、上司に「他人には口外しないように」などと言われ、その後も「編集者でいられなくしてやる」などの暴言でパワハラを受けた。このため女性は適応障害を発症し11年9月から休職、12年3月に懲戒解雇された。
 また、女性はパワハラや長時間労働が原因で精神疾患を発症したとして11日、中央労働基準監督署へ労働災害を申請した。
 消費者庁は、女性が休職して以降も12年5月号まで不正があったと認定している。女性は記者会見で「秋田書店は私に罪をかぶせ、ありもしない理由で解雇した」と訴えた。秋田書店は「訴状の送達を受けていないのでコメントできません。水増しの是正を主張したため解雇した事実はありません。解雇理由は正当なものです」との「お知らせ」を発表した。【東海林智】

 また、これに先立つ毎日新聞 2013年08月21日

 マンガ雑誌の読者プレゼントで当選者数を実際より多く表示していたとして、消費者庁は20日、出版社の秋田書店(東京都千代田区)に、景品表示法違反(有利誤認)に基づく措置命令を出した。読者プレゼントの水増しへの措置命令は初めて。【太 不当表示があったのは、少女マンガ月刊誌の「ミステリーボニータ」(3万2000部)と、「プリンセス」(2万部)、「プリンセスGOLD」(3万5000部)。2010年6月号から12年5月号にかけて、携帯型DVDプレーヤーやテレビゲーム機、商品券(1万円分)などの景品について、それぞれ1〜50人の当選者が出ると記載しながら実際はそれより少ない数しか発送せず、当選者が全くいなかった景品もあった。また、当選者を発表した号では、不当表示が発覚しないよう架空の名前を雑誌に掲載していた。
 同社の関係者によると、内部告発を受けた社内調査で同社が事実関係を把握し、不当表示を中止した模様だ。水増しの理由について同社は「近年、メーカーから景品の無償提供を受けられなくなり、経費削減のためやった」と消費者庁に説明している。
 同社は同日、秋田貞美社長名で「読者や関係者に深くおわびし、再発防止に取り組む」などとする謝罪文を公表したが、関与した社員への処分や経営陣の責任については「コメントできない」としている。
 
 <引用終わり>

 以前報道された「プレゼント偽装」を告発した女性が、いろいろと理由をつけられ解雇されたということだ。ただ、解雇という限りは、解雇要件に該当しているのか。即ち、元女子社員が景品を窃取した証拠があるのか、懲戒解雇という不利益な処分をする場合、当然、弁明の機会を与えられるべきで、女子社員に弁明の機会を与えたのかどうか。通説・判例も、解雇にも罪刑法定主義が援用されるから、詐偽・窃盗、或いは背任行為にしても、確たる証拠がない限り、これらを解雇理由にはできないだろう。一方会社側は、景品水増しで景品表示法違反を行ったのは事実(少なくとも所管の行政庁が認めて是正した)で、世間の評判もこれにより不利にはたらくから、会社側が正しいことを言ってもオオカミ少年だ。勿論、風評や名誉棄損により会社が不利益を被るのは正しくはないが。
 いずれも会社にとっては不利な状況だと思う<11/8修正>。

 一方、同書店側は、「【社告】毎日新聞の報道に対する弊社の見解について」として・・・<引用>
 『この度は読者プレゼントに関する弊社の一部編集部の不祥事について多大なご迷惑とご心配をおかけしたことをあらためてお詫び申し上げます。
 上記の件に関し、8月21日付の毎日新聞夕刊に元社員を名乗る人物による証言記事が掲載されました。この記事の内容と弊社の認識とは大きな隔たりがあります。
 一例を挙げれば、元社員は、あたかも社内の不正を指摘し、改善を訴えたために解雇されたなどと主張しておりますが、解雇の理由は、元社員が賞品をほしいままに不法に窃取したことによるものです。 また、元社員は業務上ではなく、私傷病による休職です。
 毎日新聞の記事によれば、元社員は懲戒解雇を不服として解雇撤回を求めて弊社を提訴する意向とあります。弊社としては法廷の場で事実関係を明らかにし、解雇の正当性を証明する所存です。』<引用終わり>・・・というもの。
 これについては、前述の通り、元社員は、パワハラや長時間労働が原因で精神疾患を発症したとして労基署に労災申請している訳である。

 そうすると・・・①業務上の疾病か、それとも私病か、②商品を不法に窃取したか、そうではく適法な告発者を不当解雇したか・・・という点の争いということだ。あともう一つ、③会社の元従業員に対する不法行為(民法723条上の「名誉棄損」)ということでも争われるように思う。

 なお、秋田書店HPに掲載された社告では、当初「毎日新聞からの取材を弊社が一切受けていない」としていたものを、次の通り・・「8月21日の本欄へ掲載した文中の一部に事実誤認がありました。毎日新聞からの取材を弊社が一切受けていないとの記述は誤りであり、毎日新聞社からの指摘にしたがい、ここに削除・訂正し、毎日新聞社に対してお詫び申し上げます。」・・と訂正しているわけで、同書店の言い分にはかなり不正確な部分があり、これでは、同書店の言い分や、内部調査やその後の是正対応には疑問を持たざるを得ない。
 仮に、元社員の女性の主張が真実だとすれば、我が国の産業労働環境は、不正のコストより、正義のコストの方が高いという、情けない業況である。また別の言い方では、社会全体のコストを、一労働者が背負ってしまった、ということも言えよう。これでは、不正を正すインセンティブは到底はたらかない。

 とにかく、このコストは、一労働者ではなく社会全体で引き受ける必要がある。公正な裁判を期待したい。