前回、当ブログで『入札図書や契約書に添付する仕様書は“公文書(虚偽公文書作成罪の客体)”たるか』http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/09e9704ce1d57e6cf521a7b317fad18c
と、『自治体による労働者派遣法違反は是正指導が可能か?・・・(地方自治法234条の射程)』 http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/34458cecc261ec31cf46e3c5fb02fc64 という2つのエントリにて取り上げて検討(なお、素人であるので誤りがあるかもしれないが・・・)した件について、労働局による是正指導が行われたにもかかわらず、自治体が支出負担行為を是正指導前(したがって是正指導の対象となった契約書を基に)の証拠書類で行った場合には、虚偽公文書作成・同行使罪の成立が問題となると思われるので、以前メモとしてまとめたものを、当方の別ブログである“メモ置き場”( http://geocities.yahoo.co.jp/gl/sa_saitama/view/200811 )から以下に転載たいと思う。
なお、検討事例は『私的諮問機関の委員(非公務員)に,公務員に支払うべき報酬として整理した場合について・・・』と題したもの。なお、あくまで素人の趣味の研究であることを再度お断りしておきたい。
以下転載して引用・・・
市長の私的諮問機関の委員に対し“報酬”として整理し[支出負担行為兼支出命令書]を起票した場合について検討したい.
公務員がその職務に関し作成する文書は[公文書]であることから,公文書造罪,あるいは虚偽公文書作成罪の成否が問題となる.
さて所管課が[支出負担行為兼支出命令書]を作成,これに基づき私的諮問機関の委員に[報酬]を支払った場合である.
前回2008/10/6 (月).北九州市の事例について,九州大の斉藤文男氏(行政法)は「附属機関と同等の役割,権限を持つ委員会は,条例に基づかなければ違法.委員への報酬も法的根拠が無いと指摘しているが,これについては判例や総務省の解釈とも一致しており,私的諮問機関の委員は非常勤の公務員には当たらないため,せめても専門家その他からの報告・意見具申に対する役務費・報償費等として整理すべきところ,これを報酬(給料に類する)として整理していれば,このような[支出負担行為兼支出命令書]の起票と支出命令行為は,少なくとも不真正な公文書作成と行使であると言える.
課長あるいは代決者が公文書の内容が虚偽であることを知って決裁をした場合には虚偽公文書作成罪の成立が問題となる.
事前決裁を行っていた場合には,間接正犯による犯罪の実現であり,虚偽公文書作成の間接正犯形態の一部を公正証書原本等不実記載罪として独立の犯罪類型として規定していることとも関連し,虚偽公文書作成に含めうるのかどうかが問題となる,
そこで判例(最判昭和32年10月4日刑集11巻10号2464頁)をみると,起案担当者である公務員については,間接正犯による虚偽公文書作成罪の成立を肯定しており,事前決済(即ち、非公務員に支払う金員を公務員への[報酬]として支払う旨を決裁権者より上位のものが事前に指示,または,下位の者が決裁権者を偽網)を行ったとすれば,当該文書作成についても同様の者は存在している訳であって,その者(指示した者,偽網した者)について虚偽公文書作成罪の成立を認めることは可能であると解せよう.
そうすると,本検討の事例におけるような当該不真正な[支出負担行為兼支出命令書]作成の①行為意思・②行為・③結果において,相当因果関係の存在は既に明白である(行為連帯の原則).
したがって,もし仮に間接的にこれを指示した者があった場合には,この者の①行為意思の故意責任が阻却されない限りは,非公務員に対し公務員と偽って報酬を支払うための整理表を,間接正犯として権限ある公務員に作成・行使させた虚偽公文書作成罪・同行使罪の構成要件に該当するものと考えられる(責任個別化の原則).
次に上述,犯罪構成要件の[故意責任]についてである.
故意とは,ある行為が意図的なものを指すとされ,刑法においては[罪を犯す意思](刑法38条1項)を言う.
また,構成要件的故意とは,客観的構成要件該当事実に対する認識を前提とし,これが主観的構成要件要素である.なお,規範的構成要件要素については,どの程度の認識が要求されるかについて,諸説争いがあるが,構成要件該当事実の意味の認識(一般人の平衡感覚において反対動機の形成が可能な程度の事実認識)があることを要し,且つそれで足りるとする説が有力(判例)とされている.
これを本事例のような支出負担行為兼支出命令書の起票と行使の各行為に当てはめると,行為者が非公務員に報酬を支払う行為が違法であるとの認識は,いやしくも法令・条例に基づく事務の執行が予定される行政機関にあっては当然可能であって,法の不知を理由に故意責任が阻却されるとする論は到底採用できない.
また上記に関し,本事例で示した私的諮問機関の委員が,公務員たるか否かについての所管課(起票担当者)における認識可能性については,例えば該当委員が主体・ないし客体となる贈収賄罪や,名義をぼう用した公文書偽造罪の適用について検討すれば簡単に判然とするであろう.
即ち,これらの罪が適用される者(ないし客体となる者,ぼう用された名義人)は,①法律・条例により公務員として任用された者,あるいは②刑法第7条にいう[みなし公務員]とされる者のみ(法律の明文規定が必要)であるから,公務員たる性質・資格を,長が任意に策定した規則以下の内規(内規を法源とする)により創設し,公務員適用罪の範囲を広げることは[罪刑法定主義]に反し憲法第31条に定められた[適正手続きの保障]に違反する.
したがって,本検討事例の私的諮問機関の委員が非公務員である(公務員ではない)ことは明白であり,この者に公務員として支払うべき報酬名目の整理表の作成・行使の各行為は,事前に反対動機の形成が容易であることから,故意責任は免れないと考えられ,これらの行為を支配した者が存在すれば,この者が正犯ということとなる.
なお,本検討事例は,あくまで検討のため・・“「市長の私的諮問機関」の委員に公務員への報酬として支払った”・・という場合を意図的に設定し,その設定に基づいて検討したもの.
転載引用終わり・・・。
さて、虚偽記載が犯罪の構成要件に該当するか否かは、処罰規定に該当する所為について、意思・行為・結果が因果関係によりつながっていなければならないが、是正指導によった契約書の変更については、法令及び自治体規則に定められた手続きに従っていなければならないところ、このような規範に従わずして記載した場合、いかに評価すべきか。さらに、自治体には刑事訴訟法(官吏・公吏の告発義務)に従って告発すべきか否かは、「洋々亭過去ログ」http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yyregi-html.cgi?mode=past&pastlog=152&subno=17036 にて紹介されているところのhttp://www.city.nihonmatsu.lg.jp/gikai/kaigiroku/21-2-kaigiroku/kaigiroku-21-2-3-1.pdf
(26頁目以降) ・・・の某自治体議会の議事録でも(顛末については掲載が無いので不明であるが・・・)問題とされていたようである。
なお、この議事録の紹介事例では、100条委員会で調査されたようであるが、その前に自治法98条に基づく調査という手段もあったように思う。
また、標準工期が70日と定められているところを23日という極端に短い工期(それも工事や資材発注が集中する年度末という期間)を指示して発注した点にも問題があったと言わざるを得ない。この事例では、虚偽公文書作成行使罪云々という問題も重要であるが、それよりも、このような無理な発注を行った当局の、労働労働安全衛生法上の問題(委員長報告でもこの点は取り上げられていない)を100条委員会は先ず取り上げるべきであったと思うが、如何であろう。
と、『自治体による労働者派遣法違反は是正指導が可能か?・・・(地方自治法234条の射程)』 http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/34458cecc261ec31cf46e3c5fb02fc64 という2つのエントリにて取り上げて検討(なお、素人であるので誤りがあるかもしれないが・・・)した件について、労働局による是正指導が行われたにもかかわらず、自治体が支出負担行為を是正指導前(したがって是正指導の対象となった契約書を基に)の証拠書類で行った場合には、虚偽公文書作成・同行使罪の成立が問題となると思われるので、以前メモとしてまとめたものを、当方の別ブログである“メモ置き場”( http://geocities.yahoo.co.jp/gl/sa_saitama/view/200811 )から以下に転載たいと思う。
なお、検討事例は『私的諮問機関の委員(非公務員)に,公務員に支払うべき報酬として整理した場合について・・・』と題したもの。なお、あくまで素人の趣味の研究であることを再度お断りしておきたい。
以下転載して引用・・・
市長の私的諮問機関の委員に対し“報酬”として整理し[支出負担行為兼支出命令書]を起票した場合について検討したい.
公務員がその職務に関し作成する文書は[公文書]であることから,公文書造罪,あるいは虚偽公文書作成罪の成否が問題となる.
さて所管課が[支出負担行為兼支出命令書]を作成,これに基づき私的諮問機関の委員に[報酬]を支払った場合である.
前回2008/10/6 (月).北九州市の事例について,九州大の斉藤文男氏(行政法)は「附属機関と同等の役割,権限を持つ委員会は,条例に基づかなければ違法.委員への報酬も法的根拠が無いと指摘しているが,これについては判例や総務省の解釈とも一致しており,私的諮問機関の委員は非常勤の公務員には当たらないため,せめても専門家その他からの報告・意見具申に対する役務費・報償費等として整理すべきところ,これを報酬(給料に類する)として整理していれば,このような[支出負担行為兼支出命令書]の起票と支出命令行為は,少なくとも不真正な公文書作成と行使であると言える.
課長あるいは代決者が公文書の内容が虚偽であることを知って決裁をした場合には虚偽公文書作成罪の成立が問題となる.
事前決裁を行っていた場合には,間接正犯による犯罪の実現であり,虚偽公文書作成の間接正犯形態の一部を公正証書原本等不実記載罪として独立の犯罪類型として規定していることとも関連し,虚偽公文書作成に含めうるのかどうかが問題となる,
そこで判例(最判昭和32年10月4日刑集11巻10号2464頁)をみると,起案担当者である公務員については,間接正犯による虚偽公文書作成罪の成立を肯定しており,事前決済(即ち、非公務員に支払う金員を公務員への[報酬]として支払う旨を決裁権者より上位のものが事前に指示,または,下位の者が決裁権者を偽網)を行ったとすれば,当該文書作成についても同様の者は存在している訳であって,その者(指示した者,偽網した者)について虚偽公文書作成罪の成立を認めることは可能であると解せよう.
そうすると,本検討の事例におけるような当該不真正な[支出負担行為兼支出命令書]作成の①行為意思・②行為・③結果において,相当因果関係の存在は既に明白である(行為連帯の原則).
したがって,もし仮に間接的にこれを指示した者があった場合には,この者の①行為意思の故意責任が阻却されない限りは,非公務員に対し公務員と偽って報酬を支払うための整理表を,間接正犯として権限ある公務員に作成・行使させた虚偽公文書作成罪・同行使罪の構成要件に該当するものと考えられる(責任個別化の原則).
次に上述,犯罪構成要件の[故意責任]についてである.
故意とは,ある行為が意図的なものを指すとされ,刑法においては[罪を犯す意思](刑法38条1項)を言う.
また,構成要件的故意とは,客観的構成要件該当事実に対する認識を前提とし,これが主観的構成要件要素である.なお,規範的構成要件要素については,どの程度の認識が要求されるかについて,諸説争いがあるが,構成要件該当事実の意味の認識(一般人の平衡感覚において反対動機の形成が可能な程度の事実認識)があることを要し,且つそれで足りるとする説が有力(判例)とされている.
これを本事例のような支出負担行為兼支出命令書の起票と行使の各行為に当てはめると,行為者が非公務員に報酬を支払う行為が違法であるとの認識は,いやしくも法令・条例に基づく事務の執行が予定される行政機関にあっては当然可能であって,法の不知を理由に故意責任が阻却されるとする論は到底採用できない.
また上記に関し,本事例で示した私的諮問機関の委員が,公務員たるか否かについての所管課(起票担当者)における認識可能性については,例えば該当委員が主体・ないし客体となる贈収賄罪や,名義をぼう用した公文書偽造罪の適用について検討すれば簡単に判然とするであろう.
即ち,これらの罪が適用される者(ないし客体となる者,ぼう用された名義人)は,①法律・条例により公務員として任用された者,あるいは②刑法第7条にいう[みなし公務員]とされる者のみ(法律の明文規定が必要)であるから,公務員たる性質・資格を,長が任意に策定した規則以下の内規(内規を法源とする)により創設し,公務員適用罪の範囲を広げることは[罪刑法定主義]に反し憲法第31条に定められた[適正手続きの保障]に違反する.
したがって,本検討事例の私的諮問機関の委員が非公務員である(公務員ではない)ことは明白であり,この者に公務員として支払うべき報酬名目の整理表の作成・行使の各行為は,事前に反対動機の形成が容易であることから,故意責任は免れないと考えられ,これらの行為を支配した者が存在すれば,この者が正犯ということとなる.
なお,本検討事例は,あくまで検討のため・・“「市長の私的諮問機関」の委員に公務員への報酬として支払った”・・という場合を意図的に設定し,その設定に基づいて検討したもの.
転載引用終わり・・・。
さて、虚偽記載が犯罪の構成要件に該当するか否かは、処罰規定に該当する所為について、意思・行為・結果が因果関係によりつながっていなければならないが、是正指導によった契約書の変更については、法令及び自治体規則に定められた手続きに従っていなければならないところ、このような規範に従わずして記載した場合、いかに評価すべきか。さらに、自治体には刑事訴訟法(官吏・公吏の告発義務)に従って告発すべきか否かは、「洋々亭過去ログ」http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yyregi-html.cgi?mode=past&pastlog=152&subno=17036 にて紹介されているところのhttp://www.city.nihonmatsu.lg.jp/gikai/kaigiroku/21-2-kaigiroku/kaigiroku-21-2-3-1.pdf
(26頁目以降) ・・・の某自治体議会の議事録でも(顛末については掲載が無いので不明であるが・・・)問題とされていたようである。
なお、この議事録の紹介事例では、100条委員会で調査されたようであるが、その前に自治法98条に基づく調査という手段もあったように思う。
また、標準工期が70日と定められているところを23日という極端に短い工期(それも工事や資材発注が集中する年度末という期間)を指示して発注した点にも問題があったと言わざるを得ない。この事例では、虚偽公文書作成行使罪云々という問題も重要であるが、それよりも、このような無理な発注を行った当局の、労働労働安全衛生法上の問題(委員長報告でもこの点は取り上げられていない)を100条委員会は先ず取り上げるべきであったと思うが、如何であろう。