えんどうたかし の つぶやきページgooバージョン

このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

自治体の支出負担行為で『虚偽公文書作成・同行使罪』が問題となる場合とは・・・

2011-05-23 02:50:21 | Weblog
 前回、当ブログで『入札図書や契約書に添付する仕様書は“公文書(虚偽公文書作成罪の客体)”たるか』http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/09e9704ce1d57e6cf521a7b317fad18c
と、『自治体による労働者派遣法違反は是正指導が可能か?・・・(地方自治法234条の射程)』 http://blog.goo.ne.jp/gooendou_1958/e/34458cecc261ec31cf46e3c5fb02fc64 という2つのエントリにて取り上げて検討(なお、素人であるので誤りがあるかもしれないが・・・)した件について、労働局による是正指導が行われたにもかかわらず、自治体が支出負担行為を是正指導前(したがって是正指導の対象となった契約書を基に)の証拠書類で行った場合には、虚偽公文書作成・同行使罪の成立が問題となると思われるので、以前メモとしてまとめたものを、当方の別ブログである“メモ置き場”( http://geocities.yahoo.co.jp/gl/sa_saitama/view/200811 )から以下に転載たいと思う。
 なお、検討事例は『私的諮問機関の委員(非公務員)に,公務員に支払うべき報酬として整理した場合について・・・』と題したもの。なお、あくまで素人の趣味の研究であることを再度お断りしておきたい。


 以下転載して引用・・・

 市長の私的諮問機関の委員に対し“報酬”として整理し[支出負担行為兼支出命令書]を起票した場合について検討したい.

 公務員がその職務に関し作成する文書は[公文書]であることから,公文書造罪,あるいは虚偽公文書作成罪の成否が問題となる.

 さて所管課が[支出負担行為兼支出命令書]を作成,これに基づき私的諮問機関の委員に[報酬]を支払った場合である.
 前回2008/10/6 (月).北九州市の事例について,九州大の斉藤文男氏(行政法)は「附属機関と同等の役割,権限を持つ委員会は,条例に基づかなければ違法.委員への報酬も法的根拠が無いと指摘しているが,これについては判例や総務省の解釈とも一致しており,私的諮問機関の委員は非常勤の公務員には当たらないため,せめても専門家その他からの報告・意見具申に対する役務費・報償費等として整理すべきところ,これを報酬(給料に類する)として整理していれば,このような[支出負担行為兼支出命令書]の起票と支出命令行為は,少なくとも不真正な公文書作成と行使であると言える.

 課長あるいは代決者が公文書の内容が虚偽であることを知って決裁をした場合には虚偽公文書作成罪の成立が問題となる.
 事前決裁を行っていた場合には,間接正犯による犯罪の実現であり,虚偽公文書作成の間接正犯形態の一部を公正証書原本等不実記載罪として独立の犯罪類型として規定していることとも関連し,虚偽公文書作成に含めうるのかどうかが問題となる,
 そこで判例(最判昭和32年10月4日刑集11巻10号2464頁)をみると,起案担当者である公務員については,間接正犯による虚偽公文書作成罪の成立を肯定しており,事前決済(即ち、非公務員に支払う金員を公務員への[報酬]として支払う旨を決裁権者より上位のものが事前に指示,または,下位の者が決裁権者を偽網)を行ったとすれば,当該文書作成についても同様の者は存在している訳であって,その者(指示した者,偽網した者)について虚偽公文書作成罪の成立を認めることは可能であると解せよう. 

 そうすると,本検討の事例におけるような当該不真正な[支出負担行為兼支出命令書]作成の①行為意思・②行為・③結果において,相当因果関係の存在は既に明白である(行為連帯の原則).
 したがって,もし仮に間接的にこれを指示した者があった場合には,この者の①行為意思の故意責任が阻却されない限りは,非公務員に対し公務員と偽って報酬を支払うための整理表を,間接正犯として権限ある公務員に作成・行使させた虚偽公文書作成罪・同行使罪の構成要件に該当するものと考えられる(責任個別化の原則).

 次に上述,犯罪構成要件の[故意責任]についてである.
 故意とは,ある行為が意図的なものを指すとされ,刑法においては[罪を犯す意思](刑法38条1項)を言う.
 また,構成要件的故意とは,客観的構成要件該当事実に対する認識を前提とし,これが主観的構成要件要素である.なお,規範的構成要件要素については,どの程度の認識が要求されるかについて,諸説争いがあるが,構成要件該当事実の意味の認識(一般人の平衡感覚において反対動機の形成が可能な程度の事実認識)があることを要し,且つそれで足りるとする説が有力(判例)とされている.

 これを本事例のような支出負担行為兼支出命令書の起票と行使の各行為に当てはめると,行為者が非公務員に報酬を支払う行為が違法であるとの認識は,いやしくも法令・条例に基づく事務の執行が予定される行政機関にあっては当然可能であって,法の不知を理由に故意責任が阻却されるとする論は到底採用できない.

 また上記に関し,本事例で示した私的諮問機関の委員が,公務員たるか否かについての所管課(起票担当者)における認識可能性については,例えば該当委員が主体・ないし客体となる贈収賄罪や,名義をぼう用した公文書偽造罪の適用について検討すれば簡単に判然とするであろう.
 即ち,これらの罪が適用される者(ないし客体となる者,ぼう用された名義人)は,①法律・条例により公務員として任用された者,あるいは②刑法第7条にいう[みなし公務員]とされる者のみ(法律の明文規定が必要)であるから,公務員たる性質・資格を,長が任意に策定した規則以下の内規(内規を法源とする)により創設し,公務員適用罪の範囲を広げることは[罪刑法定主義]に反し憲法第31条に定められた[適正手続きの保障]に違反する.

 したがって,本検討事例の私的諮問機関の委員が非公務員である(公務員ではない)ことは明白であり,この者に公務員として支払うべき報酬名目の整理表の作成・行使の各行為は,事前に反対動機の形成が容易であることから,故意責任は免れないと考えられ,これらの行為を支配した者が存在すれば,この者が正犯ということとなる.

 なお,本検討事例は,あくまで検討のため・・“「市長の私的諮問機関」の委員に公務員への報酬として支払った”・・という場合を意図的に設定し,その設定に基づいて検討したもの.

 転載引用終わり・・・。


 さて、虚偽記載が犯罪の構成要件に該当するか否かは、処罰規定に該当する所為について、意思・行為・結果が因果関係によりつながっていなければならないが、是正指導によった契約書の変更については、法令及び自治体規則に定められた手続きに従っていなければならないところ、このような規範に従わずして記載した場合、いかに評価すべきか。さらに、自治体には刑事訴訟法(官吏・公吏の告発義務)に従って告発すべきか否かは、「洋々亭過去ログ」http://www.hi-ho.ne.jp/cgi-bin/user/tomita/yyregi-html.cgi?mode=past&pastlog=152&subno=17036 にて紹介されているところのhttp://www.city.nihonmatsu.lg.jp/gikai/kaigiroku/21-2-kaigiroku/kaigiroku-21-2-3-1.pdf
(26頁目以降) ・・・の某自治体議会の議事録でも(顛末については掲載が無いので不明であるが・・・)問題とされていたようである。
 なお、この議事録の紹介事例では、100条委員会で調査されたようであるが、その前に自治法98条に基づく調査という手段もあったように思う。
 また、標準工期が70日と定められているところを23日という極端に短い工期(それも工事や資材発注が集中する年度末という期間)を指示して発注した点にも問題があったと言わざるを得ない。この事例では、虚偽公文書作成行使罪云々という問題も重要であるが、それよりも、このような無理な発注を行った当局の、労働労働安全衛生法上の問題(委員長報告でもこの点は取り上げられていない)を100条委員会は先ず取り上げるべきであったと思うが、如何であろう。

自治体による労働者派遣法違反は是正指導が可能か?・・・(地方自治法234条の射程)

2011-05-17 22:45:23 | Weblog
 地方自治体が競争入札による委託契約などで偽装請負を行っていた場合に、労働局による是正指導、即ち“是正によって法益回復と社会的責任を果たす”ことは可能であろうか。

 以下は、「変更契約は可能か?」という北海道町村会「法務支援室」による質疑応答集(事例集)があるので、先ず引用して紹介する。http://houmu.h-chosonkai.gr.jp/jireisyuu/09/kaitou09-13.htm

変更契約書の適否について、少し長いが、引用開始・・・
《質問》
 当町では、契約を締結する際、所定の様式を定め、契約別にその様式に不要部分があれば2重線で抹消し、捨印を押して契約書とする扱いをしている。
 今回、上述から既に締結済みの契約について変更する必要が生じたため、別紙工事請負変更契約書により変更契約することとしたいが如何か。
《回答》
 本事案については、当初契約内容及び変更の事由等について詳細は存じませんので、契約の一般原則について検討することとします。
1 地方公共団体の契約
 地方自治法(以下「自治法」という。)第234条で「売買、貸借、請負その他の契 約は、一般競争入札、指名競争入札、随意契約又はせり売りの方法により締結するものとする。」と規定しています。
 この契約について、「一般に地方公共団体が締結する契約とは、地方公共団体が私人 と対等の地位において締結する売買、貸借、請負等財産上に関する私法上の契約をいうのである。このように、地方公共団体が締結する契約がいわゆる公権力の主体としての権力行為ではなく、私人と対等の地位において締結する契約である以上、これを規律する実体法も、 また私人と同様に民法その他の私法であり、したがって、その効力その他の契約の実体については、すべて私法の規定の適用を受け、いわゆる契約自由の原則も適用される」(詳解地方公共団体の契約(ぎょうせい)13p)と解しています。
 また、契約自由の原則の内容には「①契約締結の自由、②相手方選択の自由、③内容決定の自由、④方式の自由がある」(基本法コンメンタール<第4版>新条文対照補訂版・債権各論Ⅰ(日本評論社)5p)と解していますが、普通地方公共団体においては、自治法第234条第5項で「普通地方公共団体が契約につき契約書を作成する場合においては、当該普通地方公共団体の長(又はその委任を受けた者)が契約の相手方とともに、契約書に記名押印しなければ、当該契約は、確定しないものとする。」と規定しています。
2 契約書の内容
 まず、地方自治法施行令第173条の2で「この政令及びこれに基づく総務省令に規定するものを除くほか、普通地方公共団体の財務に関し必要な事項は、規則でこれを定める。」と規定し、契約については、貴町財務規則(以下「財務規則」という。)第7章で規定し、契約書の記載事項については、同規則第135条で「契約書には、その必要に応じて次の各号に掲げる事項を記載するものとする。」と規定しています。
3 事案の検討
 まず、一般に地方公共団体が締結する契約とは、上記1から、地方公共団体が私人と対等の地位において締結する私法上の契約であり、民法の適用を受けるものと考えます。
 次に、本事案の工事請負契約についても、民法が適用され、契約の自由の原則に基づき行われるものと考えますが、上記1の後段から、自治体の契約については書面によらなければならないものと考えられ、契約書の内容については、上記2から、財務規則に基づいて行われるものと考えます。
 したがって、変更契約の方式については、契約の自由の原則に基づき、貴町の定めより行うものと考えます。
 なお、北海道では、契約の変更について、文書事務の手引<第4版>(北海道総務部文書課)299~300pで以下(1)及び(2)のように定めていますので、参考に記載します。
 (1) 意義
 当事者、契約金額など契約の一部を変更しようとするときは、原契約書自体に加筆、訂正するのではなく、原則として現契約書の内容を一部改正するための変更契約書を締結しなければなりません。
 (2) 変更契約の方式
 変更契約の方式には、「溶け込み方式」と変更部分について別に変更契約書を作成する方法があります。
 「溶け込み方式」による変更の方法は、条例、規則などの一部改正の方法の例によります。
 別に契約書を作成する方式による変更の方法は、「溶け込み方式」のように字句の一部を改めるのではなく、変更契約書自体にその変更部分の内容を取り入れるものです。
・・・引用終わり。

 上記(「北海道」の場合)によれば変更契約の方式には2つあって・・・
 ①「溶け込み方式」・・・現契約書の字句の一部を改める方式であり、自治体会計規則などによっては訂正(様式規定)の方式に限られる場合もありえる
 ②「別に契約書を作成する方式」・・・自治法第234条第5項の規定によって、契約を締結するものと考えられ、これは新たな契約・・・である。

 さて、引用したした上記事例では触れられていないが、競争入札(一般・指名も)を行っていた場合、話はそう簡単ではない。即ち、競争入札を行った意味が問われるのである。この点、参考書「詳解地方公共団体の契約(ぎょうせい)13p」の一部を引用しただけでは、自治体契約の説明としては疑問が残るのである。《5月18日追記》
 これは、例えばPFI事業者の選定の際の国の説明(内閣府と総務省ほか関係省庁の連絡会議でも議論され、下記のような「通知」となった)にも現れている。

 「PFI 事業に係る民間事業者の選定及び協定締結手続きについて」関係省庁連絡会議幹事会申合せhttp://www8.cao.go.jp/pfi/iinkai/shiryo_a14r41.pdf・・・
より引用・・・
4.落札者決定後の応募条件の変更について
(1)変更の最小化について
・落札者の決定の前段階において対話を行うことで、できるだけ発注者と応募者の認識の不一致を解消し、落札者決定後の契約書案等の内容の変更を最小化するよう努めることが重要。
・ただし、競争性の確保に反しない場合に限り落札者決定後の契約書案、入札説明書等変更は可能。
(2)競争性の確保に反しない例
・同じコストで質が向上する場合や、質が同じでコストが低減できる場合は、競争性の確保に反するものとはいえないこと。・・・引用終わり。

 つまり、ここで重要なのは業者選定の際に競争させた以上、その競争性に反してはならないという原則である。この原則はPFIだけでなく、地方自治法に規定される調達方法の原則である。落札した後の内容変更は、同じコストで質が向上する場合と、質が同じでコストが低減できる場合に限られるのである。尤もこの場合、コスト・質ともに等価交換と言えるような変更契約を行う場合、競争性を害するか否かという判断は難しいが、しかし、民間各社の競争性は、このような市場交換価値だけで判断されるわけではなく、一般に当該競各社がその個性に対応した契約内容の履行可能性とリスクの軽重なども関係するのであるから、例え経済価値が等価値である契約内容の変更も、原理的には競争性の確保に反する場合があると言わなければならないだろう。即ち、自治法234条の競争入札や随意契約の趣旨には、果たして当該業務を業者が引き受けるか否か?、と言う自治体側のリスクも含まれるわけで“選ぶ側もまた選ばれることを予定している”からであり、交換価値だけの問題ではない。《5月19日追記.9月28日誤記修正.10月6日追記》

 そうすると、労働局により適法な請負(委託等)に変更指導する場合には、自治体の調達原理とされる(自治法234条の条理だとされる上述「北海道町村会」の説明)に従う限りは、偽装請負を行っていたときよりも、自治体にとって有利となる契約しか出来ないことになる。自治体(偽装請負の派遣先)が主導して設計した労働者派遣法違反(“官制偽装請負”)は、違反したことによってさらに違法派遣先であった自治体に有利な契約変更がされる結果となるのである。即ち、選ぶ側は選ばれない。《10月6日追記》
 これでは“火事場泥棒”、いや“火付け盗賊”である。
 違反事案に対し行政指導を行えば、『法の支配』(少なくとも私法制定の)の大原則である利益と責任の均衡(比例原則)、並びに、憲法の平等則に反する結果となるのである。労働局需給調整担当官はこれをどのように整理するのであろうか。
 自治法234条の“射程”、即ち、同法の「刃(やいば)」は両刃であって、その一方は自治体を拘束(“契約自由の原則”を修正)し、もう一方は、当該規定により契約相手たる私人の人権を制限(自治法に基づき具体的業務を発注・調達する行政機関の法律行為には独禁法・下請法とも適用されない《公正取引委員会回答》ことがその証左であろう・・なお、代わりに公法関係による調達相手との関係を規定した「政府契約の支払遅延防止等に関する法律」《第十四条 地方公共団体への準用あり》が存在するが、これとて下請法で禁止されるような発注者からの減額要求や追加給付要求の禁止規定は無い・・)しており、たとえ委託(請負)契約と言えども、事実上自治体にだけ許された相手方への契約(協議による変更契約)の制限である以上、行政上の法律関係による公権力類似の作用(私人にとっての権力的または権力に準じた作用)である。
 因みに、よくある自治体の“業務委託用標準約款”などにあるような「・・この契約に定めのない事項、及び疑義が生じた場合には双方が協議して定めるものとする・・」との一条は、上述の官民契約における自治法234条の制限作用である「競争性の確保に反しない」行政行為を限度として修正されることになる。これは即ち、公法関係によって民法などの一般私法関係を一部排除ないし修正する『行政契約の権力的側面(一般権力関係)』であると言えよう。《5月21日修正・追記》

 よって、自治体が適法な委託契約に変更することにより社会的責任を果たすことは難しいと思われる。

 ところで余談となるが、事業者同士で下請け法が適用され、公正取引委員会による勧告にいたった事例を次のURLで確認できるので参照されたい。下請法「勧告」一覧「 http://www.jftc.go.jp/shinketsu/sitaukekankoku20.html 」。また、特に「株式会社ホーチキメンテナンスセンターに対する勧告について(平成19年12月6日)」同HP「 http://www.jftc.go.jp/pressrelease/07.december/07120604.html 」は、公正取引委員会による調査が入った後に受託者に不利な変更契約を一方的に行ったことが、さらに違反事案とされ、これにより更なる勧告を受けたたところが興味深い。寧ろ、自治体には適用されないことに違和感すら感じるくらいである。《5月22日追記》

 では、“直接雇用”や“適法な労働者派遣”とすることにより是正できるであろうか?
 
 一般に、労働者派遣法に違反し、且つ派遣受入期間の制限に抵触した以降も労働者派遣を行っていた場合、労働局による是正指導では、派遣先に対して直接雇用させるなど労働者の雇用安定を前提に指導するが、地方自治体の場合には「地方公務員法」により任用の根拠が問題となる。即ち、「地方公務員法第15条(任用の根本基準)職員の任用は、この法律の定めるところにより、受験成績、勤務成績その他の能力の実証に基いて行わなければならない。」と。
 また、臨時職員・非常勤職員の任用についても任用権者の自由裁量ではなく、実質的必要性・公益性に合致することを要件とする。
 そうすると、自治体と民間事業者との間で偽装請負が行われた場合には、民間事業者間のそれとは異なり、直接雇用を含む雇用の安定を図ることで社会的責任と法益侵害を回復することが法制度上(地方公務員法、その他の公法関係により)不可能、若しくは著しく困難である。また、派遣受入期間の制限に抵触しない場合にも、労働局が行う是正指導において、適法な請負契約と適法な派遣契約に改善させるという選択肢のうち、後者の「適法な派遣契約」に改善させる方法をとることも、給与条例主義、給与直接払いの原則により出来ないであろう。

 そもそも自治体では、労働者派遣による労働者の調達は法制度上予定されていない。即ち、職員の任用根拠については上述の通りであるほか、自治体が行う公共調達(契約事務)については、地方自治法施行令により「第173条の2 この政令及びこれに基づく総務省令に規定するものを除くほか、普通地方公共団体の財務に関し必要な事項は、規則でこれを定める。」となっており、労働者派遣契約と言えども民間事業者との契約である限り自治体の長が定めた「規則」に必ず拠らなければならず、労働者派遣契約について“財務・会計等の規則”でもって定めている自治体は現在のところは無いであろう(少なくとも私はお目にかかったことが無い)。また、労務提供の種類には民法の契約類型上複数(委任・準委任・請負・事務管理・雇用・・等々)あるが、一方、地方自治法上の契約は既に述べた自治法234条によるか、若しくは労働関係であれば一般職に属する職種についてはすべて地方公務員法の定めに拠ることとなる。
 これは、即ち、自治体の少なくとも執行機関が行う全ての調達行為(労働者の調達《特別職を除き》と、その他の契約)は、①地方公務員法による『任用』と、②自治法234条に言う『契約行為』とにきれいに分けて整理できるわけであり、また、法秩序の構成原理上、それぞれの法の守備範囲を超えて運用することは出来ない。

 ちなみに、行政法学上、以下のような概念で捉えられているので、念のためまとめておきたい(町村法務支援室「法制執務概論」http://houmu.h-chosonkai.gr.jp/gakushuu/22%20gaironn.pdf 3ページより引用・・・。
 『法秩序の構成原理』法の形式にはさまざまなものがあるため、それぞれの法が抵触・矛盾することがあり得る。法の体系を維持し、法秩序の論理的体系を維持する必要から、次の4つの原理がある。
 1 所管事項の原理(守備範囲を逸脱すれば無効となる。)
 法令とか、政令とか、条例とかいう法形式の違いに応じて、それぞれの守備範囲を定め、互いにその分野を守らせ、他の分野に立ち入らせないようにすることにより、法令相互間の矛盾・抵触を生じないようにしていることをいう。
 2 形式的効力の原理(上位法は下位法を破る。)
 憲法を頂点として階層的秩序を構成している法体系においては、それぞれの法形式の間には上位・下位の原則が定められており、法形式を異にする法令相互の間でその内容に矛盾・抵触が生じた場合には、上位の法令が下位の法令に優先して適用される。
 3 後法優先の原理(後法は前法を破る。)
 形式的効力を等しくする2つ以上の法令の内容が相互に矛盾・抵触するときは、後から制定された法令が適用される。なお、後法優先の原理は、後法と前法とが、その内容において一般法と特別法の関係に立つ場合には、適用されない。
 4 特別法優先の原理(特別法は一般法に優る。)
 形式的効力を等しくする2つの法令が一般法と特別法の関係にあるときは、その特別法が規律の対象としている事項・人・地域等に関する限り、特別法が適用され、一般法は、その特別法と矛盾・抵触しない限度においてのみ適用される。
 特別法・一般法という場合における一般法とは、ある事項について広く一般的に規定している法令をいい、特別法とは、それと同一の事項について、特定の人・物、地域・場合・時間・期間等を限って適用されるような内容の定めを規定している法令をいう。
 ・・・引用終わり。

 なお、草加市と総務省・厚生労働省とのやり取りが、まさに本件で私が問題とするところを突っ込んで質問しているが、総務省・厚生労働省とも当初は正面から回答していないところが興味深い。即ち、草加市は「法令上、委託可能な事務が制限されるほか、指揮命令系統上の不都合が生じるなどの問題があるから、派遣労働者を派遣のまま任用したい」・・。これに対して総務省は「自治体が委託できる業務については労働者派遣の受入も可能(厚生労働省も同じ回答)」・・とすれ違っている。そこで草加市は「労働派遣法に基づく労働者派遣を受け、その派遣労働者を任期付一般職員、臨時職員、または嘱託員と同等の職務に従事させて良いが、受入期間によっては派遣元との契約関係を解消し、直接雇用することとするという解釈で良いか?」、これに対しまたもや総務省は「派遣職員は地方公共団体の「職員」ではなく任命権者が「任用」することはできないことから、仮に任命権者が当該派遣職員を採用する等任用行為を行う場合には、(受入期間にかかわらず)派遣元との雇用関係は消滅させ、地方公共団体の職員とする必要があることを確認的に述べたもの」、さらに同省は「なお、職員として任用する場合には、地方公務員法に基づき能力の実証を経て任用する必要がある」・・という具合である。http://www.city.soka.saitama.jp/hp/menu000008900/hpg000008809.htm (←参照:草加市HP)
 思うに、草加市の“任用と派遣労働者の受入を併用できないか”、という趣旨の質問は如何にも乱暴であるが、しかし総務省の回答も、法の守備範囲(射程)という違いがあるのであるから、わかり易く『任用』と、契約によって単に『指揮命令関係に入ること』との違いということをよく説明すべきであった。要は、“労働者派遣法”という制度は、公務員法制度の枠のなかには入り込めないのである。なお、総務省・厚生労働省とも、民間人と公務員との労働関係がある場合(総務省は、前述の通り「委託可能な業務」であれば「労働者派遣可能な業務」であるとしている)における「給与条例主義」と「給与直接払いの原則」、さらに「民間企業における派遣労働者の直接雇用の機会付与(これは期待可能性だけでなく、個別の労働者の雇用保護という意味もある)とのバランス」については、何れも十分に検討した回答とは言えないので、今後よく議論して整理されるべきであろう。何せ、公務員に指揮命令されて一定の事務を行う派遣労働者が、任用権者との権力関係(一般権力関係)から切り離されているという証拠は無い。《5月26日追記》

 結局、自治体の事務は上記のような法体系下にあって、“労働者派遣法”は、地方自治法・地方公務員法(少なくともこの2つの公法関係)を超えられないであろう。《5月25日・26日追記》

 よって国の考え方を全面的に採用したとしても、希望や合意によって直接雇用に転換する方法で社会的責任を果たすことは不可能と言うべきである。
 また、適法な派遣に転換することも、上述のような派遣労働者に対する期間経過による直接雇用申込みという期待利益と労働者保護(派遣期間を超えることとなる場合の、派遣先への義務付け)が生じることが無いように運用しなければならず、少なくとも“利益と責任とのバランス”という点で問題がある。
 つまり、適法な労働者派遣に転換したとしても、その後の安全装置のうちの一つが外されているのである。このような労働者派遣制度の運用(派遣期間超過後の保護の欠落)は不当であろう。《6月6日修正・追記》

 結局、地方自治体が労働者派遣法違反を犯した場合には、民間事業者同士の違反に比較して、行政指導による法益回復手段が著しく制限され、且つ、当該制限された部分につき上述の社会的責任を果たすことが出来ない以上、刑事罰(労働者派遣法の罰条の発動)によって社会的責任を果たさせる他ないのではないかと思う。
 況してや、自治体契約担当の公務員であれば、違法行為に至る前に反対動機の形成が可能であったわけであり、あえてこれに挑んだ責任は重いと言えよう。《5月18日追記》