えんどうたかし の つぶやきページgooバージョン

このブログは、憲法や法律に関連する事柄を不定期かつ思いつくままに綴るものです。なお、素人ゆえ誤りがあるかもしれません。

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日雇い派遣を禁止したのに・・’日々人材紹介事業’・・というのを売り出しております

2020-06-30 19:44:04 | 労働問題 育休 パワハラ
 日雇い派遣が禁止されたと思ったら、世の中いろいろ考える人がいるらしく「日々人材紹介業」というものがあります。
 「日々紹介事業」は、紹介先企業と労働者がその都度(毎日ないし毎回)労働契約を締結し、その企業が『直接給料を支払う』という労基法上の賃金支払い原則が遵守されているかぎり、違法ではないようです。
 下記の様な回答が厚労省から出されました。

 確認の求めに対する回答の内容の公表

1.確認の求めを行った年月日
令和2年5月29日
2.回答を行った年月日
令和2年6月29日
3.新事業活動に係る事業の概要
以下の方法により、人材紹介サービス・労務管理システムの提供と併せて振込代行サービスを提供する。
<事業の流れ>
① サービス利用を希望する、使用者である法人顧客(以下「使用者」という。)と照会者にて、人材紹介サービス利用契約、労務管理システム利用契約及び振込代行サービス利用契約を締結する。
② 使用者が照会者に求人の申し込みを行い、照会者のシステム上において求人募集が行われる。
③ 使用者と求人に応募した労働者が雇用契約を締結し、労働者が使用者に労務提供する。④ 労務提供の完了した雇用に関し、使用者が照会者に対し給与立替払いを依頼する。なお、
使用者は照会者における賃金の支払状況を確認できる。
⑤ 使用者から照会者への依頼に基づいて、照会者は提携先金融機関へ振込指示を行う。なお、照会者が使用者から既に立替払いの依頼を受けた給与について、労働者が所定の給与支払日に先立って支払いを受けることを希望し、照会者に対して早期支払いの申請を行った場合、照会者は提携先金融機関に対して、所定の給与支払日より前の日付での振込指示を行う。
⑥ 振込指示を受けた提携先金融機関は、事前に立替用として作成された照会者の口座から、労働者の口座への給与の振込を実行する。ただし、この際の振込人名義は、使用者の名称が表示される。
⑦ 照会者から使用者に対し、立替分の費用を請求する。なお、労働者からは手数料は一切徴収せず、労働者が即日払いを希望する場合にも給与全額が振り込まれる。
⑧ 使用者は照会者に対し、上記請求額を支払う。
4.確認の求めの内容
(1) 照会者が提供する人材紹介サービス・労務管理システムと合わせて新サービスである振込代行サービスを提供することが、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第1項に規定する「労働者派遣」に該当しないことを確認したい。
(2) 本サービスを提供することが、職業安定法(昭和22年法律第141号)第4条第7項に規定する「労働者供給」に該当せず、同法第44条において禁止される「労働者供給事業」に該当せず、かつ、その脱法行為にも当たらないことを確認したい。
(3) 本サービスを利用して行う労働者への賃金支払方法が、労働基準法第24条第1項本文が定める賃金直接払いの原則に違反しないこと及び同条第2項本文が定める賃金毎月一回以上一定期日払いの原則に違反しないものであることを確認したい。
5.確認の求めに対する回答の内容
(1) 労働者派遣法第2条第1項に規定する労働者派遣とは、「自己の雇用する労働者を、当該雇用関係の下に、かつ、他人の指揮命令を受けて、当該他人のために労働に従事させることをいい、当該他人に対し当該労働者を当該他人に雇用させることを約してするものを含まないものとする」とされている。
照会者は、法人顧客及び個人ユーザーに対しそれぞれ職業紹介を行い、法人顧客と個人ユーザーとの間で雇用契約が成立した場合、法人顧客からの委託を受けて、個人ユーザーに対する給与の立替払いを行うにすぎない。したがって、照会書記載の事実を前提にすれば、当該事実が維持されている限りにおいて、照会者と個人ユーザーの関係は、「自己の雇用する労働者を他人の指揮命令下に労働させる」ものにあたらず、「労働者派遣」に該当しないものと解釈される。
(2) 職業安定法第4条第7項に規定する労働者供給とは、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させることをいい、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号)第2条第1号に規定する労働者派遣に該当するものを含まないものとする」とされており、同法第44条において労働者供給事業を行うことは禁止されている。
(1)のとおり、照会者は個人ユーザーに対する給与の立替払いを行うにすぎず、また、個人ユーザーは、照会者のサービス上に表示されている各企業の求人について自らの意思に基づいて応募するか否かの判断を行うことができるのであれば、照会者と個人ユーザーの間に支配従属関係はない。したがって、照会書記載の事実を前提にすれば、当該事実が維持されている限りにおいて、照会者と個人ユーザーの関係は、「供給契約に基づいて労働者を他人の指揮命令を受けて労働に従事させる」ものにあたらず、「労働者供給事業」に該当しないものと解釈される。
(3) 労働基準法(昭和22年法律第49号)第24条の定めにより、原則として、賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を、毎月一回以上、一定の期日を定めて支払わなければならない。
このうち、「直接労働者に」とある点については、第三者が賃金の支払を受託してその支払に関与した場合であっても、賃金が労働者の手に渡るまで使用者の賃金支払義務が消滅しない場合には、これに抵触しない。
また、「毎月一回以上、一定の期日を定めて」とある点についても、賃金支払期日を定めた上で、労働者の請求があった場合に、賃金の支払期日前であっても既往の労働に対する賃金を支払うことは、これに抵触しない。
なお、使用者が支払受託者である照会者に賃金の支払を委託すれば労働基準法第24条の義務が免責されるという性質のものではなく、所定支払期日に賃金の全額が現実に支払われなかった場合については、使用者が同条の違反に問われることとなるため、使用者は照会者における賃金の支払状況を確認するなど所要の措置を講ずる必要があること。また、照会者から労働者への支払に際しては、当該支払が賃金の支払であること(複数の使用者からの賃金が存する場合には、その内訳を含む。)が明らかとなるような表示ないし通知をすることが望ましいこと。
この点、照会者のサービスは、使用者が照会者による支払状況を把握できるようになっていること、また、照会者を通じて労働者に対して支払われる賃金は、使用者の名称が表示され振り込まれることから、どの使用者からの賃金の支払であることが明確になっており、かかるサービスは、労働基準法第24条に違反するものではない。


・・・だそうです。人材紹介事業は労働者派遣でもなければ労働者供給でもないそうです。私には詭弁に聞こえます。まあ、労働法に空いた穴をうまく見つけて利用しているような格好です。

 因みに、ちょっと違います(こちらは違法な匂いがします)が、昔からこんなこともあるようです。
 hamachan先生のブログで紹介されていますので引用させていただきます。

ホテル配膳人はなぜ日雇なのか

東京新聞に興味深い記事が出ています。

https://www.tokyo-np.co.jp/article/38558(ホテル配膳人の失業相次ぐ 日雇い慣行、コロナ不況直撃 「常勤並み」でも休業手当なし)

ホテルのレストランや宴会、結婚式などで接客を担う「配膳人」。新型コロナウイルスの影響でホテルの利用者が激減していることを受け、休業手当などの補償も受けられないまま仕事を失う人が相次いでいる。ホテル業界では長年、配膳人をその日の需要に応じて日雇いで集める慣行が続いているが、実際には常勤に近い形で働く例も多い。専門家からは「慣行自体を見直すべきだ」という声も聞かれる。・・・

これ、多くの人が内心変だと思いながら、まあ昔からそうなっているからとそのまま来ている慣行なんですね。
ただね、実際は常勤で働いているのに形式上日雇ということになっているのには、かつて職業安定法により労働者供給事業がほぼ全面的に禁止されている中で、実態は労働者供給事業なのに、それを有料職業紹介事業だということにして、表面だけ取り繕ってやってきたことの帰結という面があるんですね。
その典型は、戦前労務供給事業でやっていた看護婦家政婦の派出事業ですが、病院の付添婦が賄えないので大変だということで、むりむり有料職業紹介だということでやれたために、その後マネキンとか配膳人とかも同じビジネスモデルに載っていったわけです。
もしそういう姑息なやり方をしないで、(後に派遣法で実現するように)正面から労働者派遣事業という形でやっていれば、派遣料でまかなえるものを、紹介手数料で賄わなければならないものだから、紹介しっぱなしでは取れるものもとれないので、日々紹介して日々手数料を取っているという形式を整えて、今までやってきたわけです。その帰結。
・・・<引用終わり>

・・・とても勉強になります。時節柄(新型コロナの影響下で)非常に大変なことになっているものと思われます。
 
 例えば『権利の乱用』として救済されないもんでしょうかねぇ、『信玄公旗掛松事件』みたいとか???
コメント
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生活保護費引き下げを容認する判決(6月25日/名古屋地裁判決)

2020-06-27 02:23:08 | 憲法・人権
 またもやおかしな判決が出ました。
 学生時代(40年も前ですが・・)、教職課程でやった憲法の講義で興味を持った「朝日訴訟」を思い出しました(当時の担当講師は永井先生で、ちょうど博士号を取られたばかりでした)担当講師が熱く語っていたので、結構話がおもしろかったのをよく覚えています(中身はうろ覚えでしたけど)。その後、教員にはならず、音楽ばたけでフリーで仕事をしているうちに音響エンジニアになってしましましたが、教育法は結構好きだったので、40代の頃、教育法学会の勉強会にて再会したことがありました。
 で、話を戻しますと、昨日の表記の判決が、ずいぶんよろしくないと思いますので、判例集から下記部分を引用して、これを私の反論・批判にさせていただきたいと思います。

 以下はその「朝日訴訟(朝日茂さん)」の原告代理人の上告審での原審に対する反論です。

 <以下裁判所判例検索より一部分引用開始、ちょっと長いです>・・・
 ~前略(原告代理人の上告審での原審に対する反論部分)

(四) 憲法第25条と生活保護法の解釈
[23] 憲法第25条第1項は「すべての国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」と規定し、さらに同条第2項は「国はすべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」と規定している。この憲法第25条第1項は国に対しすべて国民が健康で文化的な最低限度の生活を営むことができるように積極的な施策を講ずべき責務を課して国民の生存権を保障し、同条第2項は同条第1項の責務を遂行するために国がとるべき施策を列記したものに他ならない。
[24] 上告人は、右憲法第25条は単なるプログラム規定に止まることなく、少なくも、この生存権の実現に努力すべき責務に違反し生存権の実現の障害になる国の積極的行為を無効にする効力を有するものと考えるのであるが、この点は今暫くおくとしても、右規定が政府に対し、生存権保障を国の最も重要な政策とし積極的に推進すべき責務を課していることは論を俟たない。かように、国が生存権保障のための施策を優先的に推進すべき責任を負つているということは、当然右諸政策の実施に不可欠な国家予算の編成及び施行の面においてもまた、生存権保障の実現に努力すべき憲法上の義務を課せられていることを意味する。
[25] ところで、広い意味での生存権保障のための施策としては種々考え得るとしても、通常は憲法第25条第2項に列挙されている社会福祉、社会保障、公衆衛生の向上推進の3つを指すことは明らかである。その中で最も主要なものとされているのが社会保障制度であることは何人も異論のないところであろうし、さらにその中にあつても生活保護法に体現される公的扶助制度が社会保障制度の根幹をなしている事実は、一般的に承認されているところといえよう。このことは、社会保障制度審議会が昭和37年8月22日付の答申及び勧告中において「最低生活を保障する生活保護等の公的扶助は、依然として社会保障の最小限度の、そして最も基本的な要請であるといわなければならぬ。国庫はこのため所要の負担をなすべきであり、この負担は社会保障の分野において最優先すべきである」との指摘を行なつている事実からも明らかである(甲第119号証)。
[26] 果してそうだとすれば、憲法は予算の編成に際して、何をおいても(少なくも、憲法上その支出が義務付られている費用、例えば公共収用に対する正当な補償のための支出、国会議員、裁判官等の報酬等を除いては)、先ず生活保護関係の支出を尊重すべき旨要請しているものといわなければならない。
[27] 即ち、生活保護関係費は国家予算のあり方を指導し支配すべきであつて、その逆ではない。従つて保護基準額を、他の財政支出例えば防衛関係費等との割り振りやバランスに対する顧慮のもとに決定することは明らかに憲法の要請に反することになる。
[28] また同条が最高規範としての憲法条規であることにかんがみ下位規範に対する指導理念或は解釈規範としての意義をもつことは論をまたないが、この点よりしても生活保護法第3条、8条の適用に当り、いやしくも憲法の前記要請に背反するがごとき解釈の許さるべきでないことは理の当然であつて、原判決の前示所論の誤りは明白である。

(五) 生活保護行政の実態とその違法
1 (財政に対する配慮の不必要性)
[29] 生活保護法の解釈として、保護基準を設定するについて予算財政事情に対する顧慮を一切排除すべしとすることは、たとえ国家財政が破綻するといえども、なお保護基準は守らるべしとの非常識な結論を導くものでは決してない。即ち、上告人は、かつて一度として生活保護基準が国民一般の生活水準及びこれを支えている国民所得水準と無関係に決定され得るものと主張したことはない。かりに、保護基準が一般消費水準との対比のもとに定められるとすれば、国民の所得水準が極めて低く、従つてその租税負担能力の低い場合にも、ひとり生活保護のみが高度の水準を維持し、その負担のため国家財政が破綻に頻するという虞は存在しない筈である。要するに、財政予算との関連が否定されてもなお一般生活水準というパイプを通じて生活保護基準と広い意味での財政全般とのつながりは保たれているのであつて、国家財政の健全な運営という見地からしても、保護基準に対し財政政策による制肘を加えるべき実際上の必要は毫も存在しないというべきである。
[30] それにもかかわらず、政府は、従来保護基準の決定につき単に一般国民生活水準を参酌するだけに止まらず、否、むしろ一般生活水準の顕著な上昇にもかかわらず、これに伴う保護基準の引上げに対してさえ、以下にのべるように予算財政事情を理由に制肘を加えてきたのが実情である。
2 (法第3条第8条運用の実態)
[31] さて、原判決は保護基準と国家財政との関係の現実に触れて、つぎのように述べている。

「当時の国家財政中における社会保障に充てられた金額は当時の政府における当該行政担当者及び財政担当者が検討の上他の各種財政上の支出との間に均衡が保たれるように考慮して立案されたものであることが認められ、特に社会保障費につき一定の必要額を認めながら、ことさらにそれを必要以下に削減したものとは、証拠上は認められない。」
[32] ここで、原判決は社会保障費といつているが、具体的には生活保護関係費を念頭においていると思われる。ところで、社会保障費が原判決のいうように、各種財政上の支出との間の均衡を考慮して定められているということは、結局、社会保障費或いは生活保護関係費の積算の基礎となる保護基準もまた、同様に財政上の制約を決して免れていないことを意味する筈である。原判決は、「一定の必要額」をことさら削減した事実は認められないというが、保護基準に対する財政上の制約が「一定の必要額」が厚生大臣によつて明示されているに拘らず、あえて財政上の理由を付してこれを公然と削減するという形態をとつて表れることは政治の常識からいつてありうべくもないのであり、むしろ、問題は本来必要とされる金額を財政に対する配慮から不必要と認定してしまうことにある。そして、現に、マーケツト・バスケツト方式には常に右のような恣意的認定ないし理由づけを可能とする非科学的不合理性ないし欠陥が包蔵されているのである。即ち、原判決もマーケツト・バスケツト方式が費目・数量の選出に主観的要素がはいりやすいという欠陥のあることを認めているし、かつて厚生省社会局保護課課長補佐として、保護基準の算定の直接の担当者であつた原審証人小沼正も、同方式は必要品目、数量について議論のわかれることが多く、ことに飲食物費以外の費目について水かけ論に終ることが少なくない旨証言している。例えば、本件日用品費について、いずれも、マ・バ方式による第13次改訂基準と第14次改訂基準との必要品目、数量、単価等を相互に比較検討してみるならば(上告理由第三点二3参照)、マーケツト・バスケツト方式による基準算定の恣意性は一層顕著であり、おそらく、右両基準相互間にみられる必要品目、数量、単価に対する評価の喰い違いについて全て合理的な説明を付すことは何人といえども不可能であろう。
[33] さて、右のように必要品目の撰択等について当事者の主観によつて左右される領域が極めて大きいということは、たとい生活保護行政の担当者が本来必要と認めて積上げた品目、数量も、財政政策上出来る限り生活保護予算の増大を抑えたいと考えている財政担当者の主観からすれば大巾に不必要とされ削減されるおそれないとしないし、かように当初から立場を異にする者に対し、個々の品目、数量等の必要性を絶対的に論証することは、少なくもマーケツト・バスケツト方式のもとでは至難のことに属するであろう。
[34] 現に前記小沼証人はその間の事情についてつぎのとおり述べている(原審第10回)。

(被控訴代理人)「具体的な予算の事を聞きますが、厚生省で予算を組まれて、予算要求を出しますね。その出し方というのは、前年度を飛躍的に増加しないで、やるわけでしようね。」
(答)「飛躍という場合は、むしろ、物価と生活水準の上昇というものにみあつて、考えていくというのが基本的です。」
(被控訴代理人)「その予算要求が大蔵省で審査されますね。減らされる事はありましたか。」
(答)「議論の段階で最後にどこかで話が落ちつくわけですが、入れるか入れないとかいう議論はいつでもやつていたわけです。」
[35] 右証言はやゝ明確な答弁を避けようとするきらいなしとしないが、それでもなお、結論的には基準決定の実際は予算接衝の段階で財政当局とある品目を基準に入れるか入れないか、即ち各基準費目毎にその必要性の有無について議論がなされ、その結果最終的にはどこかで妥協がつき、換言すれば必ずしも全面的に厚生省の主張どおりとはいえない線で基準額が決まるのが常態であることを示唆しているものといえよう。
[36] さらに、極端な場合になると、マーケツト・バスケツト方式は基準算定の尺度としての実質的な意義を全く失い、予め政治的に決定された金額に対しもつともらしい説明をつけるための単なる道具に堕ちてしまつていることも少なくない。例えば、昭和32年の第14次改訂は第13次基準を6.5%引きあげたのであるが、その経緯について当時の神田厚生大臣は、同年3月16日の第26回参議院社会労働委員会において、大要つぎのように語つている。(甲第139号証の3、同委員会会議録3頁)。

「昭和32年は公務員の給与ベースが6.2%アツプになつたので、生活保護基準もこれに比例して上げるということで、大蔵省との事務折衝が行なわれていた。しかし、たまたま、当時の石橋内閣が社会保障に大きく乗り出そうとの旗じるしを掲げていたので、厚生大臣自身が大蔵大臣に交渉して、非常に長時間議論した結果、公務員より0.3%だけ余分に上げるということで了解がついた。その金額の理論的根拠といわれるが、要するに折衝の過程で(適当に決つたということで)御了解願いたい。金額が決つてから後に社会局長にこれを説明できるような理論的根拠を作つてくれぬかと頼んだ訳である。」
[37] さらに、厚生省の刊行している「生活保護の諸問題」(甲第138号証)中以下の如き記述からすれば、右昭和32年度のような事例が稀有の例であるどころか、むしろ、常態であることが窮われるのである。

「現行生活扶助基準額の算定は、社会的貧乏線をどこに設定するかという事情によつて左右され、この内訳をマーケツト・バスケツトという方式によつて組立てている現状である。言葉をかえていうと、内訳は金額算定の基礎数値、すなわち予算積算の基礎であり、これは予算編成及び予算執行技術上からの形式的要請にすぎないとも考えられる。……従つて結局生活扶助基準についての問題は、その内容よりもむしろ基準額総体として把えられることになる。」(260頁)
「而うして、この保護基準額は最終的には、国家財政の中から生活保護費はいくら支出できるかということ、貧困階層のうち何人を保護の対象とするかということ、最後に社会経済労働諸事情とこれが対策はどうなつているかということに帰結される。すなわち政策が先行し、而る後基準額はどれ位にすれば、財政支出として負担可能の範囲内で賄うことができるかという社会的貧乏線としその基準額が設定されることになり、これを如何に合理的に組立てるかという問題になる。そうして、社会的貧乏線と科学的貧乏線との歩みよりないし接近が、終局的には真の意味での科学的、合理的な基準設定の可能性として存在する結果となるであろう。」(271頁と272頁)
[38] 即ち、保護基準額と生活保護予算との関連を単純化すれば、

保護基準額×対象人員=予算額

との数式で表わすことが不可能ではないが、ここにおいては、先ず予算額が政策的に決定された既定のものとして扱われ、後は保護の対象となる貧困階層の人員との相関関係によつて基準額が決定されること、従つて、マーケツト・バスケツト方式その他諸々の生計費理論は、かくして既に決められた基準額に一見科学的合理的な根拠を付与するための手段にしか過ぎない旨の見解が大胆卒直に表明されている。右文書が厚生省社会局保護課長編にかかる公的刊行物であることからして、生活保護法運用の実体がほゞ右の見解に従つてなされていることは推測に難くないが、そうだとすれば、法第3条の最低生活の水準は、第一審判決のいうように、国の予算を指導支配するどころか、逆に財政々策に全面的に従属しているといつて過言ではない。
[39] 基準設定のための作業の実態は、前示のような一部当局者の言動から窺知るより以外には、部外者にとつて必ずしもその詳細はつまびらかではないが少なくも、新聞等に報道される毎年度予算折衝の経緯に徴しても、厚生省=厚生大臣、即ち生活保護法第8条の規定により保護基準の決定権者が必要と認めた基準額が財政当局即ち大蔵省の手によつて大巾な削減を余儀なくされることの決して稀でないことは明らかである。
[40] 例えば、昭和32年度政府予算案の編成過程をみると、当初厚生省側は生活扶助費総額にして前年度対比42億円の増額、率にして約20%強の基準額引上の必要を主張したのに対し、大蔵省原案はこれを金額にして10億円、引上率5%に削減し、その後折衝を重ねた結果最終的には、まさに既に引用した神田厚相の国会答弁にみられるような経緯で、引上率6.5で落着をみている(朝日新聞昭和32年1月15日、同年27日版参照)。また、最近の例でも、昭和37年12月12日付朝日新聞には、厚生省の基準額22%引上案に対し、大蔵省議は8%を主張している旨の、また、同新聞昭和38年12月28日版には、同じく厚生省案22.35%に対し、大蔵省が10%の引上率しか認めなかつたことを厚生大臣が大いに不満としている等の記事が見受けられるところである。
[41] 本来生活保護基準は、厚生大臣がその責任と判断に基づいて独自に決定すべきが法の趣旨であるにもかかわらず、以上の如く厚生省当局が、その設定に先立ち予め財政当局にその金額を内示してその意見を聴き、さらには、その意向に従つて、自からあるべき基準額として算定した額に修正削減を加えるに至つては、明らかにそのこと自体生活保護法第8条、第3条にひいては憲法第25条違反の評価を免れ難いのはもとより、実質上以下にのべるように生活保護水準の著しい劣悪化を招来しているのである。
3 (一般扶助水準の劣悪性とその違法)
[42] 昭和31年当時の一般生活扶助水準の劣悪性は、既に上告理由書第三点一、(二)において詳細に指摘したが、ここで特にとりあげておきたいのは一般世帯の生活水準との対比である。
[43] 現行生活保護法の制定のきつかけとなつた昭和25年の「社会保障制度に関する勧告」に際して、生活保護水準は、標準世帯の生活水準の少なくも50%以上であることを必要とするというのが社会保障制度審議会の委員全員の一致した意見であつたといわれる(小山進次郎「生活保護法の解釈と運用」28頁)。ところが、現実の生活扶助基準額は、昭和25年当時一般消費水準(C.P.S1ケ月平均FIES消費支出額)の僅かに約36.9%に過ぎず、前記審議会の要請する50%にも遥かに及ばない状態であつた。右審議会勧告の50%という標準が無視された原因がいわゆる財政事情に対する配慮にあることはいうまでもない。一般国民の標準的あるいは平均的な生活保護水準がどの程度であるべきかということは、にわかに決し難い問題であるかも知れない。しかし、一般国民の生活が極めて高度の水準にあつたのならともかく、我が国の当時の国民生活の現状を考慮するならば、保護基準は最小限度平均水準の50%を下廻ることは許されないとする見解は誠に正当だといわなければならないし、またそれが審議会委員の全員一致の意見であることからも明らかなように、おそらくは最も異論のないところと思われる。それにもかかわらず、昭和25年当時の生活扶助水準が一般水準の40%にも達していないことは、現行法制定当初から既に基準額が極めて低水準であつて違法との評価を免れがたい状態にあつたことを示すものに他ならない。
[44] この点、当面の担当者であつた社会局長が国会において、一般世帯、家計のエンゲル係数62%という数字を援用して苦しい弁解を試みている事実は既に紹介した。右見解の当否は極めて疑問であるが、仮にこれに従つたとしてもなお、現行法制定当初から既に基準額の不十分性は明らかに認められており、将来一般水準或いはエンゲル係数の向上に伴い、当然扶助水準もこれに比例して上昇すべきものとされていたことは明白である。さて、それでは、現行法発足後の一般生活水準と基準額との関係は如何なる状況にあるのであろうか、果して、一般水準の上昇に歩調を合わせて基準も向上しているのであろうか。答は否である。即ち、生活扶助基準額とCPS1ケ月平均FIES消費支出額との対比では昭和25年当時前述のように前者は後者の36.9%であつたのに対し、26年5月には39.7%、27年5月には42.8%と一時上昇を示したものの、28年の第13次改訂基準当時は33.5%に下がり、32年の第14次改訂当時34.5%とやや上つたものの34年の第15次改訂の際には30.9%にまで下降している。現行法制定後1、2年のピーク時に比較すると実に10%前後もの水準低下である。(甲第70号証表6)。これを単なる基準額でなく実態生計費の面で比較しても、被保護世帯のそれは、一般勤労世帯の生計費の昭和26年当時52.5%であつたのが、32年には36.3%とこれまた16%強の格差の増大が生じている(甲第124号証)。これをエンゲル係数でみても第13次基準額中における飲食物費の割合は計算上67%、第14次基準では、64.7%と、前記の国会答弁にいう25年当時の75%よりは向上を示しているが、その間、一般世帯の方は昭和25年の62%から昭和30年当時既に44.5%と遥かに著しい進展を見せており、25年と30年との間に前者が8%程度の減少を示したに止まるのに対し、後者は17.5%も減少するなど、ここでも減少の程度において10%からの差が開いている(甲第145号証)。実態生計の面でも、一般世帯のエンゲル係数が昭和22年の66%前後から昭和25年62%、昭和34年頃には40%以下へと順調に低下の一途をたどつたのに対し、被保護世帯の方は、昭和26年までは同じくおおむね順調に下つて60%を切つたが、以後は60%前後のまま停滞しているとの評価がなされている(甲第141号証、同第115号証)。
[45] 以上、一般国民の生活水準と生活保護水準とのシエーレが逐次拡大する傾向にあつたことは、多数の公的資料も指摘もしまた警告も発しているところである。
[46] もつとも、仮に、現実の生活扶助基準額が科学的合理的見地からみて十分健康で文化的な生活を維持するに足る金額に既にして達していたと認められるならば、或は右の水準を超えてまで、さらに一般消費水準上昇がなされなくとも敢て違法というに足らないかも知れない。しかし、生活扶助水準が決して科学的にみて「文化的」とは勿論、「健康的」とさえいえない状況にあつたことは前示のように上告理由第三点に指摘したとおりである。因みに、2、3の例証をあげるなら、第13次改訂基準の生活扶助費額は、科学的な調査研究の結果、これ以下では体力、健康状態或は知能指数等の著しい低下が避け難いとされる生活水準をはるかに下廻つていることが実証されているし(甲第22号証及び藤本武の第一審第11回口頭弁論期日における証言)、昭和32年の名古屋市内における生活保護世帯の栄養調査によれば、保護世帯の現実の摂取熱量平均は、栄養基準量の6割3分にしか当らず、動物性蛋白に至つては僅か必要量の2割8分に過ぎず、栄養面からすれば刑務所の食事より劣つているとの結果がでていることは極めて重要である(甲第153号証)。右の調査は限られた範囲のものとはいえ、保護世帯全体の栄養状態を窮わせるに足るものであるし、全国的にみても、例えば第14次基準の場合、基準額計算上のエンゲル係数は64.5%であつたのに対し、被保護者中の都市勤労世帯家計の実態エンゲル係数は56.2%と実態の方が小さくなつている、これは基準のうえでは他の費目が必要額以下に圧縮されているため、実際には食費を削つて食費以外の他の費目にまわさざるを得ないことによるものであるが、もともと基準の飲食物費とて決して余裕がある訳でなく、低廉な食物を撰択して調理法を工夫してかろうじて所要栄養量の摂取を可能にする程度のものであることを考えると、さらにその金額を1割以上も下廻る現実の食費額では到底所要の栄養を摂取できないことは自明であろう(甲第70号証)。右のようなエンゲル係数に関する基準との喰違いは、単に第14次改訂基準だけの問題でなく、例年しかも全国的な統計の上で存在しているところからして、基準そのものの適否にかかわる本質的な問題というべく、これを単に被保護者の生活上の努力の不足に帰することの許さるべきでないのは当然である。
[47] 以上のように必要栄養量さえ欠く生活保護世帯の生活状態は、たとい如何なる見地からしても、到底文化的で健康な生活水準に達しているものと目し得ないことは明白であるが、そうだとすれば、如何に控え目な立場をとつたとしてもなお、当時一般国民の生活水準の上昇に十分比例する基準額の引上げは、絶えずこれをなすべきが現行法制定当初から予定された被上告人の当然の義務であつたといわなければならない。
[48] しかるに、昭和26、7年以降保護基準は依然として、少なくも健康的な水準にさえ達しないまゝで、しかも、一般国民生活の著しい進展に即応することなく、一般生活水準との格差は増上する一方の状態に放置されてきたのである。これは、被上告人の怠慢か、さもなくば、基準引上に対する財政当局の前述のような制肘以外に原因は考えられない。
[49] しかしながら、国民一般の生活水準も低く、従つて、これに対応する所得水準、ひいては租税負担能力も必ずしも良好とはいえない昭和26、7年当時でもなお、一般生活水準の平均の40%程度の生活水準を維持するに足る扶助が現に可能であつた以上、それよりも、はるかに生活水準、所得水準も上昇し従つて租税負担能力も増大している筈の、例えば昭和31年当時において、少なくも、平均水準との対比割合において、昭和26、7年頃と同程度の水準の扶助を行なうことが、国家財政に対し、改めてその適否が問題になる程の重大な影響を与えるものと考えるべき何等の根拠も想定し得ない。それにもかかわらず、保護基準の適正な引上が確たる合理的な根拠もなく阻止されてきたのは、まさに前項で指摘した保護基準に対する財政政策の不当な支配の悪しき結果に他ならず、その弊害は顕著だといわなければならない。

(六) 結論
[50] さて、既に指摘したように原判決は、本件日用品費の引上げは、一般生活扶助水準の引上げと不可分の関係にあるところ、一般生活扶助水準の引上げが相当程度国庫の負担増を招来することを理由に、本件日用品費額につき違法の判断を躊躇するもののごとくである。
[51] しかし、原判決のいう一般生活扶助基準自体も昭和31年当時、保護世帯の生活実態の面においても、また、一般国民の生活水準との対比においても、法の要請する最低水準に達しておらず、そのまゝでは違法の評価を免れ難い状態にあつたことは、既に論証したとおりであるから、当時において一般扶助水準の引上げを躊躇すべき理由は毫も存しないと言わなければならない。
[52] なる程、生活扶助水準の引上げが国庫の財政支出を伴うことは当然であり、また、国家財政の中で生活扶助予算がどの程度の割合を占めるのが適当かということは司法裁判所の決すべき問題ではないであろう。しかし、現行法は、生活保護請求権の権利性を確立し、またその実質的保障として第3条の規定を設けるに際し、そのための所要の負担は国庫において無条件になすべき旨を当然の前提としていることはいうまでもなく、それにもかかわらず、敢て、本来立ち入るべきでない財政問題を考慮の対象とした原判決は、司法裁判所の態度として正当ではない。また、保護基準の司法審査に際して、少なくも一般国民生活水準との関連にさえ十分留意するならば、健全な国家財政の運営に破綻をきたすが如き結論に導く虞は想到し得ず、そのほかになお財政問題を顧慮の対象となすべき実際上の必要の認められないことは既に論証したとおりである。
[53] 因みに、西独の練達の裁判官が公的扶助請求権の問題に関連して、つぎのように述べているのは傾聴に価する。
「有効な法規範を尊重することより、財政的考慮の方を優越させることは、いかなる場合にも法治国家の観念と一致しないものである。」(Mueller, "Die Frage des Rechtsanspruches des Hilfsbeduerftigen auf oeffentliche Fuersorge" Recht der Arbeit, 1952, S.134 なお、著者は当時西独ヴイースバーデン行政裁判所のデイレクターであつた。)
[54] けだし、一方では法律にたとい最低限度であるにせよ「健康で文化的な生活水準」を保障する旨何等の留保も付さず明記しておきながら、他方では財政の都合次第では、右最低水準の需要を充すに足らない基準額もまた違法とならないとすることは、まさしく羊頭を掲げて狗肉を売るの類というべく、法治国家の政府のとるべき態度ではないとともに、況んや、司法裁判所において、かかる行政庁の誤つた態度をかりそめにも擁護することのあつてならないのはいうまでもないところである。

<後略~(このあと結論へと続く)引用終わり>

 引用した最後のところで、。「有効な法規範を尊重することより、財政的考慮の方を優越させることは、いかなる場合にも法治国家の観念と一致しないものである。」・・と、ドイツ(当時は西ドイツでした)の裁判官の言葉を持ってきたところが興味深いです。


 と、まあこれだけ議論があったわけです。本判決文(昨日の)がまだアップされていないので、本判決(名古屋地裁2020年6月26日)が何を言っていて、何を言っていないのか、アップされたら確かめたいと思います。

 とにかく「国の財政事情」とか「国民感情」とか、凡そ裁判所は法律を読んではいないのではないでしょうかねえ!。
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こんな「コロナ」もあります。

2020-06-15 22:00:56 | 憲法・人権
 CORONAホームページから引用させていただきます。

03
36・38豪雪
1961年(昭和36)と1963年(昭和38)の記録的な豪雪により輸送路が寸断された時には、全国から届く注文に少しでも応えようと、猛吹雪の中、社員全員がストーブを一台ずつ担いで2km の道のりを最寄駅まで運び、そこから客車で輸送させました。鉄道がストップすると、4km先の信濃川にある船着場まで同様にストーブを運び、船で出荷をして注文に間に合わせました。創業の精神である「誠実と努力」で社会に貢献した象徴的な出来事だったといえます。


以下はネットで見つけたニュースです。

株式会社コロナ(本社:新潟県三条市、社長:小林一芳)は、社名が新型コロナウイルスを連想させることにより、当社社員とその家族が心を痛め、不安を感じているとの声を受け、社員とその家族を守り たいとの想いから2020年6月13日(土)に社長からのメッセージ広告を新潟日報にて発信いたします。

 新型コロナウイルスの影響で感染拡大予防が謳われている一方、エッセンシャル・ワーカーやその家族への心無い差別や風評被害が相次ぎ、社会的な問題となっています。

 当社は、「つぎの快適をつくろう。CORONA」をスローガンに、石油暖房機、給湯機、エアコンなどを取り扱う総合住宅設備メーカーです。昨今の新型コロナウィルス感染症拡大による影響が取り上げられる中で「社名が新型コロナウイルスを連想させる」と、社員やその家族、子どもたちまでが心を痛め、落ち込むようなことがあるとの声を受けました。

 そのため当社は、社員やその家族、子どもたちに向けて「このような状況に屈せず明るく元気に暮らしてほしい」「人々のために働く両親に誇りを持ってほしい」といった想いを発信すべく、代表取締役社長の小林一芳から新潟日報にメッセージ広告を掲載します。

•新聞広告掲載内容
掲載日:2020年6月13日(土)
掲載先:新潟日報
 
 以上、掲載HPhttps://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000003.000048014.htmlより。
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山口県田布施町というのは、現在の我が国の自治体でしょうか?

2020-06-14 22:54:42 | 憲法・人権
 パワハラのニュースで取り上げられている自治体「山口県田布施町」ですが、私は、これは憲法やそれ以外の法令を遵守しようとしない、”ならず者自治体”ではないかと思います。こういう自治体に勤務する、まともな職員さんは苦労すると思います(いればいいのですが…)。何せ、違法な行為を内部通報した一人の職員を誰も助けようとはしていないようですから。ということは、通報した一人以外は皆さん憲法や法令を遵守しようとしないわけですね(ほんとうにバカみたいです。家に帰って子供に自分の仕事を説明できるんでしょうか???)。ちなみに公務員の人たちは、その任用(採用されるとき)に際し「職務の宣誓」をしなければなりません。にもかかわらずなんということでしょうか

 では先ず、報道を見てみましょう。(以下は中国新聞デジタルより引用させていただきます。)

 屈しない職員こそ住民の利益 山口県田布施町の「畳部屋異動」、公益通報者ネット代表に聞く6/14(日) 19:30配信
 固定資産税の徴収ミスを内部告発した職員を1人だけの畳部屋に異動させた山口県田布施町。今月にパワハラを防止する法律の施行や改正公益通報者保護法が成立した中、役場には連日、抗議電話が殺到する。かつて運輸業界の闇カルテルを内部告発し通報者保護法制定のきっかけにもなった「公益通報者が守られる社会を!ネットワーク」の串岡弘昭代表(73)に問題点を聞いた。
 ―告発した職員を巡る問題をどう見ていますか。
 私と同じ経緯をたどっている。職員は上司に問題を指摘後、2年間で3回も異動させられている。組織にとっての「問題児」を動かすのは常套(じょうとう)手段。私の場合、告発後の1年で3度の報復人事があり、最終的に四畳半の1人部屋に入れられた。この職員も1人だけの畳部屋に隔離。組織は必ずパワハラを否定するので広く世に問うて判断してもらうしか個人が闘う方法はない。
 町は職員がミスを指摘したのにやり過ごそうとしたが、問題が公になり対応せざるを得なくなった。違法行為は誰かが声を上げないと不健全な状態が続く。だが、声を上げても報復されるのでは多くの人は黙って安全な道を選ぶ。行政が前例踏襲でやってきたことを変えるのは大変な労力が要るが、圧力に屈せず告発することは組織を浄化する。
 ―パワハラと内部告発に関する法律が今月、相次いで施行、成立しました。
 パワハラを防止する法律では今回のような1人の部屋に異動させる「隔離」などの違法行為を指針で例示した。内部告発者の保護法では通報窓口の担当者の漏えいに罰則が加わった。法律が前進する中で田布施町は時代に逆行している。
 ただ、パワハラ防止法では加害者への罰則はなく、通報者保護法も内部告発者に報復した組織への制裁は盛り込まれなかった。法的にはまだまだ不十分だ。
 内部告発者が裁判で闘うにしても費用や弁護士の確保、勝てるのかなどハードルは高い。私は結局、メディアへの通報が最も効果的だと思っている。実際に今回も町はこんな大きな騒動になるとは思ってなかったのではないか。
 ―町は苦情電話に「上司の指示を聞かない」「興味のある仕事しかしない」などと職員に非があるかのように答えています。
 私も告発後は上司や組合からさえも「売名」「身勝手」「変わり者」などと人格攻撃を受けた。本来の問題と関心をそらせるためのすり替えで内部告発者のだれもが味わわされる。私としゃべった人も組織からにらまれるので関わらなくなる。並大抵の人は精神的にまいってしまう。
 ―信頼が損なわれた町はどうすべきでしょうか。
 違法な行為に加担せず、報復に屈しない職員こそ町民の利益になる。適正な配置で働く場を設けることが結果的には組織や職員のためにもなる。今回を機に告発への報復行為を罰する内規も独自に設けるべきだ。
 くしおか・ひろあき 明治学院大卒。1970年に入社したトナミ運輸で74年、業界の闇カルテルを新聞社に告発。直後に異動を繰り返され、75年9月から教育研修所の四畳半の1人部屋へ。2002年に同社を提訴し05年の富山地裁判決は報復人事を認定。06年の控訴審で和解し同年定年退職。10年に「公益通報者が守られる社会を!ネットワーク」を設立。富山県高岡市。・・・引用終わり。

 私がこれは憲法遵守の問題だと言ったのは、「町(行政)」の対応です。
 即ち・・・
 ①町は職員がミスを指摘したのにやり過ごそうとした。
 ➁町は苦情電話に「上司の指示を聞かない」「興味のある仕事しかしない」などと職員に非があるかのように答えています。まだ、現時点では決着はおろかちゃんとした調査もしていないのにです。
 この2点は到底捨て置けません。
 ③「①、➁」を公務員がやらかしてしまっているということは、民主的コントロールを受けていないということです(民主的コントロールを無視した上司の命令に従っているということです)。町長の命令だったとしても、法令を無視した行為について住民からの負託まではされておりません。
 ①、➁、③とも憲法15条2項上相当な問題です。また、町(の職員が)問い合わせに、職員に非があるかのように答えていることがパワハラ(「電話応答する職員がそれぞれ内部の人間の社会的地位を落とすようなことを言うのは組織的いじめだ」山口大学『立山紘毅教授【憲法】』)の証左に他なりません。
 そもそも”パワハラ”かどうかは、本人と社会全体(一般人の常識とか平衡感覚)で判断されるわけですから、組織側に何らかの事情(仮に正当性)があったにせよ、パワハラを行ったとされる組織が判断すべきではありません。この際、町の対応としては、感情的になったり組織のミスの正当化などに走らず、苦情は傾聴し、現時点では社会の批判にひたすら耐えるべきでしょう。行政チャンネル(少なくとも役所の電話や広報)としてはそうすべきです。
 
 では、憲法はどうなっているでしょうか。
 第15条 公務員を選定し、及びこれを罷免することは、国民固有の権利である。
  2 すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。
 で、これまで行政機関の憲法解釈としては全国的に横並び(判例も似たようなもん)で、2項で「全体の奉仕者」とされる「公務員」には、内閣総理大臣や国会議員なども含み、議院内閣制の下では国会議員や大臣は政党の方針に沿うことが出てきますが、それも「国民全体の利益」への配慮がなく特定の関係者の利益を図るものであれば、この条項に抵触することになります。
 そしてここからが肝心です。即ち、この「全体の奉仕者」を根拠に、国家公務員や地方公務員は、政治活動の自由や労働基本権が法律で制限されているからです(←これが行政解釈です。私はちょっと違います。念のため…)。
 尤も、公務員の人権制限というのはある程度は合理性はあります(憲法73条4号との関係を考えなければならないと考えられています)。73条は「内閣の事務」という規定ですが、「官吏(かんり)」とは行政公務員の意で、「掌理」とは掌握とか管理とかの意味です。
 我が国は、「議院内閣制」という政治体制を採用しており、総理大臣および内閣は選挙で選出された国会議員で構成する国会より民主的コントロールを受けています(66条3項)。内閣総理大臣を長とした内閣を頂点とした行政は、ピラミッド型を形成しており、上意下達の命令系統で組織されている組織です。
 自治体も同様で、自治体は議院内閣制ではありませんが、直接選挙によって首長が決まり(一部の委員会「教育委員会」など合議機関は例外としても)、公務員は、末端まで民主的コントロールを受けることになるわけですが、そこには他から影響を受けるよりは自律性を持った組織、即ち、 何らかの形で上意下達の命令系統(←先ずは憲法と法令です)を乱した者は、制約を受けることは憲法上の要請があると考えられます。
 だから、公務員(自治体の公務員であっても)は、例えばルール通りやりたくないというような他の思想を持っていたとしても、法令順守しなければならないわけです。また、隣の机に座っている別の公務員に対してもその固有の人権を(お互いに)尊重しなければなりません。

 これらが守られていない自治体は反憲法自治体(”ならず者自治体”)などと言われても仕方がないのだと思います。但し、念のため追記しておきたいと思いますが、・・・「職員が全体の奉仕者であるということは、職員の服務の根本基準であるにとどまらず、公務員の基本的性格を意味する。いうまでもなく、このことは憲法第一五条第二項で「すべて公務員は、全体の奉仕者であつて、一部の奉仕者ではない。」と規定されていることに基づくものであり、一般職の地方公務員だけでなく、特別職の地方公務員、さらには国家公務員をも含む全公務員についての基本原則である。」(「逐条地方公務員法」橋本勇著/学陽書房)。
 選挙で選ばれた首長がどれほど無知で無能な人間であろうと、最低で最悪の人間であろうと、忠実に仕えなければなりません。そして、その職務命令がどれほど無理で無意味なものであろうと、有効であると推定されるならば、忠実に従わなければなりません。それが全体の奉仕者である職員の使命です。
 それをよーせんっちゅーんやったら、辞めらなしゃーないと思います。
・・・おおさか政策法務研究会管理人さまのブログより引用させていただきました(長年「洋々亭」さんのサイトに携わっておられ、ご自分のブログをお持ち(最近休眠されておられますが、公開はされています。http://seisaku.dip.jp:8080/BLOG/index.html)です。長いお別れと書かれ、更新を締めくくっておられます。

 「その職務命令がどれほど無理で無意味なものであろうと、有効であると推定されるならば」・・・即ち、『可能かつ適法の推定があれば』ということです(人権侵害の命令に従ってはいけません!)。
 
 田布施町の職員は、もっとビシッと(職場の身近な人の人権も考えて行動)しなきゃだめでしょうよ!
 忖度ばかりしていても、独居房に入れられるかもしれません!。というより、少なくとも、家に帰って子供や家族に自分のやっている仕事(守秘義務違反はだめですけど)が言えないような人になってはいけません。
 
 あ、…久々にちょっと頭にきてます。…

 【追記】
 続報によりますと、公民館和室の一角に執務スペースを設けて一人でいさせているそうですが、公民館は通常「公の施設(自治法244条)」であると考えられますから、公共用に供されるもので、公用ではありません。
 たとえ施設長(管理者)から許可が下りていたとしても、公用執務の代替え施設として使用、それも相当な期間でしょうから、明らかに目的外使用でしょう。この目的外使用の適否も関係法に照らして問題があります。当該自治体にはこの法的整理もちゃんとしてほしいものです(公の施設は、住民の平等利用を保障するものです)。
 ご参考例規
 当該自治体公民館設置条例
 同      施行規則 
 町長の部局だけでなく、使用許可をした教育委員会もパワハラに加担していることになります。
 
 努努職権の乱用にならないようにして下さい。以上。
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安倍さん、”朕は国家なり"とな?・・・東京高検検事長の定年延長について、元検察官有志が意見書を法務省に提出

2020-05-15 23:47:52 | 労働問題 育休 パワハラ
検察OBの人たちが、検察庁法改正に反対しているようです。あ、不肖、私も反対です。
5月15日、東京高検検事長の定年延長について元検察官有志の方が意見書を法務省に提出したとのことなので、その全文を掲載させていただきます。各マスメディアから既に公開されていますので、ここでは、【意見書全文】安倍首相はルイ14世の「朕は国家」を彷彿。検察OBら、検察庁法改正に反対朝日新聞記事より引用させていただきます。

 東京高検検事長の定年延長についての元検察官有志による意見書

 1 東京高検検事長黒川弘務氏は、本年2月8日に定年の63歳に達し退官の予定であったが、直前の1月31日、その定年を8月7日まで半年間延長する閣議決定が行われ、同氏は定年を過ぎて今なお現職に止(とど)まっている。

 検察庁法によれば、定年は検事総長が65歳、その他の検察官は63歳とされており(同法22条)、定年延長を可能とする規定はない。従って検察官の定年を延長するためには検察庁法を改正するしかない。しかるに内閣は同法改正の手続きを経ずに閣議決定のみで黒川氏の定年延長を決定した。これは内閣が現検事総長稲田伸夫氏の後任として黒川氏を予定しており、そのために稲田氏を遅くとも総長の通例の在職期間である2年が終了する8月初旬までに勇退させてその後任に黒川氏を充てるための措置だというのがもっぱらの観測である。一説によると、本年4月20日に京都で開催される予定であった国連犯罪防止刑事司法会議で開催国を代表して稲田氏が開会の演説を行うことを花道として稲田氏が勇退し黒川氏が引き継ぐという筋書きであったが、新型コロナウイルスの流行を理由に会議が中止されたためにこの筋書きは消えたとも言われている。

 いずれにせよ、この閣議決定による黒川氏の定年延長は検察庁法に基づかないものであり、黒川氏の留任には法的根拠はない。この点については、日弁連会長以下全国35を超える弁護士会の会長が反対声明を出したが、内閣はこの閣議決定を撤回せず、黒川氏の定年を超えての留任という異常な状態が現在も続いている。

 2 一般の国家公務員については、一定の要件の下に定年延長が認められており(国家公務員法81条の3)、内閣はこれを根拠に黒川氏の定年延長を閣議決定したものであるが、検察庁法は国家公務員に対する通則である国家公務員法に対して特別法の関係にある。従って「特別法は一般法に優先する」との法理に従い、検察庁法に規定がないものについては通則としての国家公務員法が適用されるが、検察庁法に規定があるものについては同法が優先適用される。定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない。これは従来の政府の見解でもあった。例えば昭和56年(1981年)4月28日、衆議院内閣委員会において所管の人事院事務総局斧任用局長は、「検察官には国家公務員法の定年延長規定は適用されない」旨明言しており、これに反する運用はこれまで1回も行われて来なかった。すなわちこの解釈と運用が定着している。

 検察官は起訴不起訴の決定権すなわち公訴権を独占し、併せて捜査権も有する。捜査権の範囲は広く、政財界の不正事犯も当然捜査の対象となる。捜査権をもつ公訴官としてその責任は広く重い。時の政権の圧力によって起訴に値する事件が不起訴とされたり、起訴に値しないような事件が起訴されるような事態が発生するようなことがあれば日本の刑事司法は適正公平という基本理念を失って崩壊することになりかねない。検察官の責務は極めて重大であり、検察官は自ら捜査によって収集した証拠等の資料に基づいて起訴すべき事件か否かを判定する役割を担っている。その意味で検察官は準司法官とも言われ、司法の前衛たる役割を担っていると言える。

 こうした検察官の責任の特殊性、重大性から一般の国家公務員を対象とした国家公務員法とは別に検察庁法という特別法を制定し、例えば検察官は検察官適格審査会によらなければその意に反して罷免(ひめん)されない(検察庁法23条)などの身分保障規定を設けている。検察官も一般の国家公務員であるから国家公務員法が適用されるというような皮相的な解釈は成り立たないのである。

 3 本年2月13日衆議院本会議で、安倍総理大臣は「検察官にも国家公務員法の適用があると従来の解釈を変更することにした」旨述べた。これは、本来国会の権限である法律改正の手続きを経ずに内閣による解釈だけで法律の解釈運用を変更したという宣言であって、フランスの絶対王制を確立し君臨したルイ14世の言葉として伝えられる「朕(ちん)は国家である」との中世の亡霊のような言葉を彷彿(ほうふつ)とさせるような姿勢であり、近代国家の基本理念である三権分立主義の否定にもつながりかねない危険性を含んでいる。

 時代背景は異なるが17世紀の高名な政治思想家ジョン・ロックはその著「統治二論」(加藤節訳、岩波文庫)の中で「法が終わるところ、暴政が始まる」と警告している。心すべき言葉である。

 ところで仮に安倍総理の解釈のように国家公務員法による定年延長規定が検察官にも適用されると解釈しても、同法81条の3に規定する「その職員の職務の特殊性またはその職員の職務の遂行上の特別の事情からみてその退職により公務の運営に著しい支障が生ずると認められる十分の理由があるとき」という定年延長の要件に該当しないことは明らかである。

 加えて人事院規則11―8第7条には「勤務延長は、職員が定年退職をすべきこととなる場合において、次の各号の1に該当するときに行うことができる」として、(1)職務が高度の専門的な知識、熟練した技能または豊富な経験を必要とするものであるため後任を容易に得ることができないとき、(2)勤務環境その他の勤務条件に特殊性があるため、その職員の退職により生ずる欠員を容易に補充することができず、業務の遂行に重大な障害が生ずるとき、(3)業務の性質上、その職員の退職による担当者の交替が当該業務の継続的遂行に重大な障害を生ずるとき、という場合を定年延長の要件に挙げている。

 これは要するに、余人をもって代えがたいということであって、現在であれば新型コロナウイルスの流行を収束させるために必死に調査研究を続けている専門家チームのリーダーで後継者がすぐには見付からないというような場合が想定される。

 現在、検察には黒川氏でなければ対応できないというほどの事案が係属しているのかどうか。引き合いに出される(会社法違反などの罪で起訴された日産自動車前会長の)ゴーン被告逃亡事件についても黒川氏でなければ、言い換えれば後任の検事長では解決できないという特別な理由があるのであろうか。法律によって厳然と決められている役職定年を延長してまで検事長に留任させるべき法律上の要件に合致する理由は認め難い。

 4 4月16日、国家公務員の定年を60歳から65歳に段階的に引き上げる国家公務員法改正案と抱き合わせる形で検察官の定年も63歳から65歳に引き上げる検察庁法改正案が衆議院本会議で審議入りした。野党側が前記閣議決定の撤回を求めたのに対し菅義偉官房長官は必要なしと突っぱねて既に閣議決定した黒川氏の定年延長を維持する方針を示した。こうして同氏の定年延長問題の決着が着かないまま検察庁法改正案の審議が開始されたのである。

 この改正案中重要な問題点は、検事長を含む上級検察官の役職定年延長に関する改正についてである。すなわち同改正案には「内閣は(中略)年齢が63年に達した次長検事または検事長について、当該次長検事または検事長の職務の遂行上の特別の事情を勘案して、当該次長検事または検事長を検事に任命することにより公務の運営に著しい支障が生ずると認められる事由として内閣が定める事由があると認めるときは、当該次長検事または検事長が年齢63年に達した日の翌日から起算して1年を超えない範囲内で期限を定め、引き続き当該次長検事または検事長が年齢63年に達した日において占めていた官及び職を占めたまま勤務をさせることができる(後略)」と記載されている。

 難解な条文であるが、要するに次長検事および検事長は63歳の職務定年に達しても内閣が必要と認める一定の理由があれば1年以内の範囲で定年延長ができるということである。

 注意すべきは、この規定は内閣の裁量で次長検事および検事長の定年延長が可能とする内容であり、前記の閣僚会議によって黒川検事長の定年延長を決定した違法な決議を後追いで容認しようとするものである。これまで政界と検察との両者間には検察官の人事に政治は介入しないという確立した慣例があり、その慣例がきちんと守られてきた。これは「検察を政治の影響から切りはなすための知恵」とされている(元検事総長伊藤栄樹著「だまされる検事」)。検察庁法は、組織の長に事故があるときまたは欠けたときに備えて臨時職務代行の制度(同法13条)を設けており、定年延長によって対応することは毫(ごう)も想定していなかったし、これからも同様であろうと思われる。

 今回の法改正は、検察の人事に政治権力が介入することを正当化し、政権の意に沿わない検察の動きを封じ込め、検察の力を殺(そ)ぐことを意図していると考えられる。

 5 かつてロッキード世代と呼ばれる世代があったように思われる。ロッキード事件の捜査、公判に関与した検察官や検察事務官ばかりでなく、捜査、公判の推移に一喜一憂しつつ見守っていた多くの関係者、広くは国民大多数であった。

 振り返ると、昭和51年(1976年)2月5日、某紙夕刊1面トップに「ロッキード社がワイロ商法 エアバスにからみ48億円 児玉誉士夫氏に21億円 日本政府にも流れる」との記事が掲載され、翌日から新聞もテレビもロッキード関連の報道一色に塗りつぶされて日本列島は興奮の渦に巻き込まれた。

 当時特捜部にいた若手検事の間では、この降って湧いたような事件に対して、特捜部として必ず捜査に着手するという積極派や、着手すると言っても贈賄の被疑者は国外在住のロッキード社の幹部が中心だし、証拠もほとんど海外にある、いくら特捜部でも手が届かないのではないかという懐疑派、苦労して捜査しても(1954年に犬養健法相が指揮権を発動し、与党幹事長だった佐藤栄作氏の逮捕中止を検事総長に指示した)造船疑獄事件のように指揮権発動でおしまいだという悲観派が入り乱れていた。

 事件の第一報が掲載されてから13日後の2月18日検察首脳会議が開かれ、席上、東京高検検事長の神谷尚男氏が「いまこの事件の疑惑解明に着手しなければ検察は今後20年間国民の信頼を失う」と発言したことが報道されるやロッキード世代は歓喜した。後日談だが事件終了後しばらくして若手検事何名かで神谷氏のご自宅にお邪魔したときにこの発言をされた時の神谷氏の心境を聞いた。「(八方塞がりの中で)進むも地獄、退くも地獄なら、進むしかないではないか」という答えであった。

 この神谷検事長の国民信頼発言でロッキード事件の方針が決定し、あとは田中角栄氏ら政財界の大物逮捕に至るご存じの展開となった。時の検事総長は布施健氏、法務大臣は稲葉修氏、法務事務次官は塩野宜慶(やすよし)氏(後に最高裁判事)、内閣総理大臣は三木武夫氏であった。

 特捜部が造船疑獄事件の時のように指揮権発動に怯(おび)えることなくのびのびと事件の解明に全力を傾注できたのは検察上層部の不退転の姿勢、それに国民の熱い支持と、捜査への政治的介入に抑制的な政治家たちの存在であった。

 国会で捜査の進展状況や疑惑を持たれている政治家の名前を明らかにせよと迫る国会議員に対して捜査の秘密を楯(たて)に断固拒否し続けた安原美穂刑事局長の姿が思い出される。

 しかし検察の歴史には、(大阪地検特捜部の)捜査幹部が押収資料を改ざんするという天を仰ぎたくなるような恥ずべき事件もあった。後輩たちがこの事件がトラウマとなって弱体化し、きちんと育っていないのではないかという思いもある。それが今回のように政治権力につけ込まれる隙を与えてしまったのではないかとの懸念もある。検察は強い権力を持つ組織としてあくまで謙虚でなくてはならない。

 しかしながら、検察が萎縮して人事権まで政権側に握られ、起訴・不起訴の決定など公訴権の行使にまで掣肘(せいちゅう)を受けるようになったら検察は国民の信託に応えられない。

 正しいことが正しく行われる国家社会でなくてはならない。

 黒川検事長の定年延長閣議決定、今回の検察庁法改正案提出と続く一連の動きは、検察の組織を弱体化して時の政権の意のままに動く組織に改変させようとする動きであり、ロッキード世代として看過し得ないものである。関係者がこの検察庁法改正の問題を賢察され、内閣が潔くこの改正法案中、検察幹部の定年延長を認める規定は撤回することを期待し、あくまで維持するというのであれば、与党野党の境界を超えて多くの国会議員と法曹人、そして心ある国民すべてがこの検察庁法改正案に断固反対の声を上げてこれを阻止する行動に出ることを期待してやまない。

 【追記】この意見書は、本来は広く心ある元検察官多数に呼びかけて協議を重ねてまとめ上げるべきところ、既に問題の検察庁法一部改正法案が国会に提出され審議が開始されるという差し迫った状況下にあり、意見のとりまとめに当たる私(清水勇男)は既に85歳の高齢に加えて疾病により身体の自由を大きく失っている事情にあることから思うに任せず、やむなくごく少数の親しい先輩知友のみに呼びかけて起案したものであり、更に広く呼びかければ賛同者も多く参集し連名者も多岐に上るものと確実に予想されるので、残念の極みであるが、上記のような事情を了とせられ、意のあるところをなにとぞお酌み取り頂きたい。

 令和2年5月15日
 元仙台高検検事長・平田胤明(たねあき)
 元法務省官房長・堀田力
 元東京高検検事長・村山弘義
 元大阪高検検事長・杉原弘泰
 元最高検検事・土屋守
 同・清水勇男
 同・久保裕
 同・五十嵐紀男
 元検事総長・松尾邦弘
 元最高検公判部長・本江威憙(ほんごうたけよし)
 元最高検検事・町田幸雄
 同・池田茂穂
 同・加藤康栄
 同・吉田博視
 (本意見書とりまとめ担当・文責)清水勇男


・・・<引用終わり>・・・ということだそうです。尤もだと思います。

 特に、私としては・・・
・・・1 <前略>閣議決定による黒川氏の定年延長は検察庁法に基づかないものであり、黒川氏の留任には法的根拠はない。この点については、日弁連会長以下全国35を超える弁護士会の会長が反対声明を出したが、内閣はこの閣議決定を撤回せず、黒川氏の定年を超えての留任という異常な状態が現在も続いている。
 2 一般の国家公務員については、一定の要件の下に定年延長が認められており(国家公務員法81条の3)、内閣はこれを根拠に黒川氏の定年延長を閣議決定したものであるが、検察庁法は国家公務員に対する通則である国家公務員法に対して特別法の関係にある。従って「特別法は一般法に優先する」との法理に従い、検察庁法に規定がないものについては通則としての国家公務員法が適用されるが、検察庁法に規定があるものについては同法が優先適用される。定年に関しては検察庁法に規定があるので、国家公務員法の定年関係規定は検察官には適用されない。<後略>・・・
・・・この部分は、法律の明文規定(とその運用実績から法安定性があるわけであり)ですから、これに反して内閣で決定したことは非常に問題です。
 まるで、ルイ14世の”朕は国家なり”です(<検察官OBの方たちの言葉を借りております>)。あと、「法が終わるところ、暴政が始まる」と警告しているのはジョンロックでした(<高校の倫理社会で勉強したのを思い出しました>)。

 これをあとから追認するやり方は、法治国家(いや~、正確には我が国は『法の支配』の原理ですけど)として如何なものでしょうか。法務大臣に聞いてみたいです。答えられないようですけど(当然です、~ほんとうは間違っていることくらいはわかっているでしょうから~)。とにかく閣議決定は法的瑕疵があるとして撤回すべきです(瑕疵ある行政処分としてです)。

 で、検察官の定年延長の議論(国家公務員法とは異なる(特別法たる「検察庁法」)はそれからです。
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「新型コロナウイルス感染症の労災認定」について厚労省が通達

2020-05-08 21:57:03 | 労働問題 育休 パワハラ
 厚労省が労災認定について担当部署宛に通達を出したようです。感染経路が不明でも、従事する事業に関連性がある場合の補償については柔軟に対応するようです。
 各企業・事業場においては、かかる趣旨を踏まえ、事業場の労働者が感染し、業務起因性が疑われる場合には、躊躇なく労災申請をすべきです。
 以下に、通達を掲載します。

 基補発0428 第 1 号 令和2 年 4 月 28 日

 都道府県労働局労働基準部長殿
                                 厚生労働省労働基準局補償 課長

新型コロナウイルス感染症 の労災補償 における取扱い について
新型コロナウイルス感染症(以下「本感染症」という。) に係る労災補償業務における留意点 について は、令和 2 年 2 月 3 日 付け 基補発 0203 第 1 号で 通知 して いるところであるが、 今般 、 本感染症 の労災補償について 、 下記のとおり 取り扱うこととした ので、 本感染症 に係る 労災保険給付の請求や相談があった場合には、 これを踏まえて適切に 対応されたい 。



1労災補償の考え方 について
本感染症については、 従来からの業務起因性の考え方に基づき、 労働基準法施行規則別表 (以下「別表」という。 第1の2第6号1又は5に該当するものについて、労災保険給付の対象となる ものであるが、 その判断に際しては、 本感染症の現時点における感染状況 と、症状がなくと も感染を拡大させるリスクがあるという本感染症の 特性にか んがみた適切な対応が必要となる。
このため、当分の間、 別表第1の2第6号5の運用について は 、 調査 により感染経路が 特定され なく とも、業務により感染した蓋然性が高 く、業務に起因したものと認められる 場合 には、 これ に該当するものとして、 労災保険給付の対象とすること 。
2具体的な取扱いについて
(1)国内の場合
ア医療従事者等
 患者の診療若しくは看護の業務又は 介護の業務 等に従事する医師、看護師、介護従事者等が 新型コロナウイルス に感染した場合には、業務外で感染したことが 明らかである場合 を除き 、原則として 労災 保険給付の対象となること。
イ医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
 感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災 保険給付の対象となること。
ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの
 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。
 この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
(ア)複数(請求人を含む)の感染者が確認された労働環境下での業務業務
(イ)顧客等との近接や接触の機会が多い労働環境下での業務
(2)国外の場合
ア 海外出張労働者
 海外出張労働者については、出張先国が多数の本感染症の発生国であるとして、明らかに高い感染リスクを有すると客観的に認められる場合には、出張業務に内在する危険が具現化したものか否かを、個々の事案に即して判断個々の事案に即して判断するすることこと。。
イ 海外派遣特別加入者
 海外派遣特別加入者については、国内労働者に準じて判断すること。
3 労災保険給付に係る相談等の取扱いについてついて
(1)本件に係る相談等があった場合には、上記1の考え方に基づき、上記2の具体的な取扱い等を丁寧に説明するとともに、労災保険給付の対象となるか否かの判断は、請求書が提出された後に行うものであることを併せて説明すること。
 なお、請求書の提出があった場合には、迅速・適正な処理を行うこと。
(2)本件に係る労災保険給付の請求又は相談があった場合には、引き続き、速やかに補504504により当課業務係に報告するとともに、当該請求に対して支給・不支給の決定を行う際には、当分の間、事前 に当課職業病認定対策室 職業病認定業務第一 係 に協議すること。

 ・・・以上、「基補発0428 第 1 号」 令和2 年 4 月 28 日の省内通達をそのまま掲載いたしました。

 重複して書きますが・・・
(1)国内の場合
ア医療従事者等
 患者の診療若しくは看護の業務又は 介護の業務 等に従事する医師、看護師、介護従事者等が 新型コロナウイルス に感染した場合には、業務外で感染したことが 明らかである場合 を除き 、原則として 労災 保険給付の対象となること。
イ医療従事者等以外の労働者であって感染経路が特定されたもの
 感染源が業務に内在していたことが明らかに認められる場合には、労災 保険給付の対象となること。
ウ 医療従事者等以外の労働者であって上記イ以外のもの
 調査により感染経路が特定されない場合であっても、感染リスクが相対的に高いと考えられる次のような労働環境下での業務に従事していた労働者が感染したときには、業務により感染した蓋然性が高く、業務に起因したものと認められるか否かを、個々の事案に即して適切に判断すること。
この際、新型コロナウイルスの潜伏期間内の業務従事状況、一般生活状況等を調査した上で、医学専門家の意見も踏まえて判断すること。
(ア)複数 (請求人を含む) の感染者 が確認 さ れた 労働 環境下での 業務
(イ)顧客等との近接や接触 の 機会が多い 労働環境下での 業務
・・・というのが非常に大事です。繰り返しますが、とにかく事業場の労働者が感染し業務起因性が疑われる場合には、躊躇なく労災申請をすべきです。
 あと、以下も大切です。
即ち・・・3の(2)本件に係る労災保険給付の請求又は相談があった場合には、引き続き、速やかに補に補504504により当課業務係に報告するとともに、当該請求に対して支給・不支給の決定を行う際には、当分の間、事前 に当課職業病認定対策室 職業病認定業務第一 係 に協議すること。・・・というものです。
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「大阪電子専門学校」がマスクを着けずに会議に出席したとして嘱託職員を懲戒処分

2020-04-29 21:34:28 | 労働問題 育休 パワハラ
 読売新聞によると、マスクを着けずに会議に出席したとして、大阪電子専門学校が、嘱託職員を出勤停止の懲戒処分したそうです。
 いやー教育機関としてはとても恥ずかしいというか、大人げないです。教育機関は労働行政の一部門である職業安定機関としての機能を国から預かっているわけですから、とんでもないですね。学生にどう説明するのでしょうか?。
 以下記事を引用させていただきます。
 引用・・マスクを着けずに会議に出席したことなどを巡り、大阪電子専門学校(大阪市天王寺区)を運営する学校法人木村学園(同)が、嘱託職員の男性(60)を出勤停止の懲戒処分にしていたことが28日、わかった。同校職員らの労働組合は「行きすぎた処分」として同日、法人側に団体交渉を申し入れ、来月には抗議文を提出する方針。
 組合などによると、男性は今月7日、新年度の授業内容を話し合う会議にマスクを着けずに出席。会議後、法人幹部に未着用の理由を聞かれ、「どこに行っても買えない」と返答したという。後日、男性は面談した幹部から「感染源になったらどうするんだ」などとただされ、顛末(てんまつ)書を提出して説明しようとしたが、「受け取れない」と言われ、4日間(5月12~15日)の出勤停止の懲戒処分を受けた。
 法人側は取材に「学園内のことであり、お答えできない」としている。・・読売オンライン(4/29(水) 13:36配信 )より、引用終わり。

 さて、労働者に対する懲戒などの法的な規定はどうなっているでしょうか。
 ちょっと労働契約法や労基法を概観してみましょう。
 先ず、懲戒処分については、労働契約法第15条において、懲戒権行使の濫用禁止に関する規定があります。
 さらに、労基法においても、就業規則の相対的必要記載事項として、「制裁の定めをする場合」の「その種類及び程度に関する事項」が定められ(第89条第9号)、就業規則による減給の制裁が制限されており(第91条)、労働契約締結の際の労働条件の明示(第15条第1項)で相対的明示事項としても、「制裁に関する事項」が定められています(施行規則第5条第1項第10号)。

 労働基準法15条と同法89条9号に規定があります。
 第15条(労働条件の明示)
 1.使用者は、労働契約の締結に際し、労働者に対して賃金、労働時間その他の労働条件を明示しなければならない。この場合において、賃金及び労働時間に関する事項その他の厚生労働省令(施行規則第5条第3項)で定める事項については、厚生労働省令で定める方法〔=書面の交付等(施行規則第5条第4項)〕により明示しなければならない。
 2.前項の規定によつて明示された労働条件が事実と相違する場合においては、労働者は、即時に労働契約を解除することができる。
 3.前項の場合、就業のために住居を変更した労働者が、契約解除の日から14日以内に帰郷する場合においては、使用者は、必要な旅費を負担しなければならない。

 第89条 常時十人以上の労働者を使用する使用者は、次に掲げる事項について就業規則を作成し、行政官庁に届け出なければならない。次に掲げる事項を変更した場合においても、同様とする。
一 始業及び終業の時刻、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を二組以上に分けて交替に就業させる場合においては就業時転換に関する事項
二 賃金(臨時の賃金等を除く。以下この号において同じ。)の決定、計算及び支払の方法、賃金の締切り及び支払の時期並びに昇給に関する事項
三 退職に関する事項(解雇の事由を含む。)
三の二 退職手当の定めをする場合においては、適用される労働者の範囲、退職手当の決定、計算及び支払の方法並びに退職手当の支払の時期に関する事項
四 臨時の賃金等(退職手当を除く。)及び最低賃金額の定めをする場合においては、これに関する事項
五 労働者に食費、作業用品その他の負担をさせる定めをする場合においては、これに関する事項
六 安全及び衛生に関する定めをする場合においては、これに関する事項
七 職業訓練に関する定めをする場合においては、これに関する事項
八 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する定めをする場合においては、これに関する事項
九 表彰及び制裁の定めをする場合においては、その種類及び程度に関する事項
十 前各号に掲げるもののほか、当該事業場の労働者のすべてに適用される定めをする場合においては、これに関する事項
 
 では、実際の判例はどうでしょうか。

 ありました。「労働政策研究・研修機構」HPより引用させていただきます。
 引用・・

1 ポイント
(1)使用者は企業秩序を定立し維持する権限(企業秩序定立権)を有し、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負うことから、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができる。
(2)使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておかなければならない。
(3)使用者が懲戒できることを定めた就業規則が、法的規範としての性質を有するものとして拘束力を生ずるためには、その内容について、当該就業規則の適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていなければならない。

2 モデル裁判例
フジ興産事件 最二小判平15.10.10 判時1840-144、労判861-5
(1)事件のあらまし
設計業務に従事していた労働者Xは、得意先との間でトラブルを発生させたり、上司の指示に対して反抗的態度をとり、暴言を吐くなどして職場の秩序を乱したとの理由で、新たに実施された就業規則に基づき、懲戒解雇された。
Xは、懲戒解雇される前に、Y社に対して適用を受ける就業規則について質問したが、この際に旧就業規則は職場に備え付けられていなかった。そこでXは、懲戒解雇される事実が発生した時にY社には就業規則が存在しなかったこと等から本件懲戒解雇は違法・無効であるとして、従業員たる地位の確認及び未払い賃金等の支払い等を求めて提訴した。
原審(第2審)は、新就業規則ではなく、旧就業規則がXに適用されるものとの判断を前提に懲戒解雇を有効と判断したため、Xが上告した。
(2)判決の内容
労働者側勝訴(破棄差し戻し)
使用者が労働者を懲戒するには、予め就業規則において懲戒の種別及び事由を定めておくことを要する。そして、就業規則が法的規範としての性質を有するものとして、拘束力を生ずるためには、その内容を適用を受ける事業場の労働者に周知させる手続きが採られていることを要するものというべきである。
Y社が、労働者代表の同意を得て旧就業規則を制定し、これを行政官庁に届け出た事実のみならず、その内容を当該事業場に勤務する労働者に周知させる手続きが採られていることを認定しないまま、旧就業規則に法的規範としての効力を肯定し、本件懲戒解雇を有効と判断することはできない。したがって、原判決を破棄し差し戻す。

3 解説
(1)懲戒権の根拠
使用者がどのような法的根拠に基づいて懲戒処分を課すことができるのか、懲戒権の根拠については古くから議論がなされてきた(菅野和夫『労働法(第11版)』(弘文堂、2016年)649頁以下参照)。この問題に対し判例は、ポイント(1)で述べたように、企業秩序は企業の存立と事業の円滑な運営の維持のために必要不可欠なものであるため、使用者は企業秩序を定立し維持する権限、すなわち企業秩序定立権を有し、労働者は労働契約を締結したことによって企業秩序遵守義務を負い、使用者は労働者の企業秩序違反行為に対して制裁罰として懲戒を課すことができると解している(富士重工業事件 最三小判昭52.12.13 民集31-7-1037、労判287-7、関西電力事件 最一小判昭58.9.8 労判415-29、国鉄札幌運転区事件 最三小判昭54.10.30 民集33-6-647 労判329-12等)。ただし、使用者は「規則の定めるところに従い」懲戒処分をすることができると解されており(前掲国鉄札幌運転区事件)、モデル裁判例は就業規則の規定が存在する場合についてそのことを確認した。
(2)懲戒権の限界
使用者は懲戒の種別及び事由を就業規則で明定し、当該就業規則を周知することで懲戒処分をすることが可能となるが、就業規則の規定については合理的であることが求められる。就業規則に規定される懲戒処分の対象となる事由については、包括的な表現がとられることも多いが、裁判所は、具体的な事実がそれらの事由に該当するか否かを判断するに際して、企業秩序の維持という趣旨に照らして、当該規定を限定的に解釈する傾向にある。

・・・引用終わり。だそうです。勉強になります。

と、いうことで、「大阪電子専門学校」がマスクを着けずに会議に出席したとして嘱託職員におこなった懲戒処分としての出勤停止処分は無効だということになりそうです。
 法人側は取材に「学園内のことであり、お答えできない」としているそうですが、不意打的(デュープロセス違反)かつ、法的根拠を欠く違法なな処分ですから答えられないのは当然です。
 法人側が行うべきことは、マスクを着けていない者に懲戒処分を行うことではなく、会議の前に少なくともマスクを配ることです(安全配慮義務)。
 とにかく、法人側はさっさと謝罪の上、撤回すべきでしょう。大人なんですから・・・。

追記・・そういえば、”あべのマスク”とやらも未だ届いていないでしょうし。これ、批判もありますが、私は国民に対する国の安全配慮義務としては最小限ギリギリKOだと思います(安全配慮としてのメッセージとしては、一人1枚だともう少し意味があったかと・・・)。
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新型コロナウイルス対策「全国一斉休校」その2・・・対抗リスク対策(子供の最善の利益の考慮)

2020-03-02 22:08:45 | 労働問題 育休 パワハラ
 本日、国(厚労省)が新たな対策を発表しました。

 「新型コロナウイルス感染症に係る小学校等の臨時休業等に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度)について」と題するものです。以下は厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09869.htmlから引用します。

 ・・・小学校等の臨時休業に伴う保護者の休暇取得支援(新たな助成金制度の創設)
新型コロナウイルスの感染拡大防止策として、小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規・非正規を問わず、労働基準法上の年次有給休暇とは別途、有給の休暇を取得させた企業に対する助成金を創設。
●事業主
①又は②の子の世話を行うことが必要となった労働者に対し、労働基準法上の年次有給休暇とは別途、有給(賃金全額支給(※))の休暇を取得させた事業主。※ 年次有給休暇の場合と同様
① 新型コロナウイルス感染拡大防止策として、臨時休業した小学校等(※)に通う子
※小学校等:小学校、義務教育学校(小学校課程のみ)、特別支援学校(高校まで)、放課後児童クラブ、幼稚園、保育所、認定こども園等
② 風邪症状など新型コロナウイルスに感染したおそれのある、小学校等に通う子
●支給額:休暇中に支払った賃金相当額× 10/10
※ 支給額は8,330円を日額上限とする。
※ 大企業、中小企業ともに同様。
●適用日:令和2年2月27日~3月31日の間に取得した休暇
※雇用保険被保険者に対しては、労働保険特会から支給、それ以外は一般会計から支給
・・・
というものです。

 各企業には、就労が困難となった労働者に対して休暇を与えるなどして、是非とも利用してもらいたいものです。子連れ出勤は、子どもの感染予防にならない(寧ろ子供への感染リスクは学校より多いことも考えられます)ばかりか、結果として通常時より子供に肉体的・精神的負担を強いることにもなるので、余り推奨されるべきではありません。医療や福祉関係事業の他、新型コロナ対策とその対抗リスクに対処するために不可欠な重要なインフラ確保のための業種で、且つ他の保育的施設が利用できない場合などに限られるべきでしょう(子供の最善の利益の考慮をすべきです。勿論、親が職場を追われるなどして失業し、家庭が経済的に破たんすることも、子供の最善の利益を考慮したことにはなりません!。だから、国家が介入することを決めたわけです!!)。
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新型コロナウイルス対策「全国一斉休校」・・・ 目標リスク と 対抗リスク

2020-02-28 22:42:09 | 労働問題 育休 パワハラ
 昨日安倍首相は、全国すべての小学校・中学校・高校・特別支援学校等に、3月2日から春休みまでの期間、臨時休業とするよう要請すると発表しました。しかし、言わせてもらえば、もう少し語尾を強める部分を変えた方が良かったでしょう。
 そして、その後の「麻生」発言がこれの冷淡さに拍車をかけたと言わざるを得ません。即ち毎日新聞https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200228-00000054-mai-polによると・・
・・<引用>麻生太郎財務相は28日の閣議後の記者会見で、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた小中高校などの臨時休校を巡り、共働き家庭などで生じる学童保育などの費用負担について質問した記者に対して、「つまんないこと」と発言した。記者は「出費について政府が臨時の支出をすることも具体的に考えているか」などと質問。麻生氏は「(休校などの)要請をして費用がかかる場合は、政府が払うのは当然のことなんじゃないですか」と回答した。麻生氏は次の質問を待つ間、記者に「つまんないこと聞くねえ」とつぶやいた。記者は「国民の関心事ですよ」と返したが、麻生氏は「上から(上司から)言われて聞いているの? 可哀そうにねえ」と述べた。
 安倍晋三首相は27日夕、3月2日から春休みまでの休校を全国の小中高校などに要請する方針を表明した。仕事を休めない共働き家庭などでは、急きょ学童保育など子供の預け先を確保することが必要で、費用が重くのしかかる可能性がある。【古屋敷尚子】
<引用終わり>・・
・・と、記者は真っ当な質問をしたわけです。

 上記のやり取りで麻生さんがおかしくて記者が真っ当なのは、「目標リスク」を取り除こうとして「対抗リスク」が発生する場合にこれにも対処すべきで、それをどうするのか?、という質問をしているわけです。国家が間接の不利益まで保障することは稀ですから、それを心配している質問は多いわけです。況してや、お金持ちでなくても、せめて年次有給休暇を取得できる幸運な労働者ではなく、非正規労働者や自己の労働力を個人事業主として売って生計を立てている『ギグワーカー(注:)』たちのことや、医療・福祉・運輸とその下支えをする業種など、重要な社会インフラを担う人の、家庭生活と労働力提供の両立のことを心配しているわけです。麻生さん、これがつまんないことですかね?。
 注:ギグワーカーhttps://news.yahoo.co.jp/byline/morinobushigeki/20200228-00165050/

 名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授の「内田良」さん(金髪のメガネの人です)が下記のような記事https://news.yahoo.co.jp/byline/ryouchida/20200228-00165023/を書いているので参照したいと思います。
・・下記より<引用>

 ・・衝撃的な「要請」だった。
 昨日安倍首相は、全国すべての小学校・中学校・高校・特別支援学校等に、3月2日から春休みまでの期間、臨時休業とするよう要請する考えを表明した。感染症対策として、子どもが集まる学校を休みにすることの効果が見込まれる一方、学校や家庭は突然の知らせに混乱に陥っている。
■いつもと変わらぬ学校に…
 これまで感染症においてはインフルエンザ対策として、局所的(特定の学級や学校)で短期的(長くて一週間)な臨時休業は、たびたび実行されてきた。今回は、全域的(全国すべての小中高校等)で長期的(約3週間)な臨時休業であり、前代未聞の決断と言える。
 さて、私自身は学校安全に関心をもっているが、感染症の専門家ではない。ただ、すでに新型コロナウイルスの感染が拡がっていることを踏まえれば、全国一斉休校もやむなしと評価したくなる。
 私はこの数週間、各地の教員の声を聞く中で、全校での集会等がとりやめになっているとはいうものの、それでも学校はややのんびりしているのではないかという危機感をもっていた。
 学校は年度内に、教科書による指導を確実に終えなければならない[注1]。ところが、臨時休業の可能性が高まっているにもかかわらず、多くの小学校では3月の荘厳な卒業式に向け、例年と変わらず着々と準備が進められているようだった。
 近いうちに休校になるかもしれない。卒業式は規模縮小も避けられない。だが、教科書を優先的に終えようとするわけでもなく、荘厳な卒業式のために時間が費やされていた。
■首相による「要請」の強制力は?
 学校はやるべき業務が多すぎて、目の前のことをこなすのに精一杯だ。迫り来る危機に十分な備えができていない。
 このような状況においては、学校みずからのマネジメントによる感染症対策を待つわけにはいかない。緊急性が高く、かつ安全・安心に関わることについては、行政のリーダーシップに期待したくなる。その意味に限定して言えば、首相がトップダウンで全国一斉休校を要請したことは、よく理解できる。
 だが原則に立ち返るならば、下記のとおり、感染症予防のための臨時休業は、学校保健安全法第20条により、学校の設置者の権限と定められている(通常、実務は同法第31条により、校長に委任されている)。
<学校保健安全法(一部)>
(臨時休業)
第二十条 学校の設置者は、感染症の予防上必要があるときは、臨時に、学校の全部又は一部の休業を行うことができる。
(学校の設置者の事務の委任)
第三十一条 学校の設置者は、他の法律に特別の定めがある場合のほか、この法律に基づき処理すべき事務を校長に委任することができる。
出典:e-Gov 学校保健安全法
 上記の「学校の設置者」とは公立校の場合には地方公共団体を指し、教育委員会が学校の管理運営について最終的な責任を負っている。つまり、感染症予防のための臨時休業は、けっして首相や文部科学省の権限ではなく(さらには地方公共団体の首長の権限でもなく)、教育委員会の権限である。
 首相からの「要請」という点では、その影響力はとても大きい。だが、臨時休業の実施やその期間を判断する主体は、あくまで教育委員会である。
■感染症患者の都道府県格差
 私が教育委員会の判断を強調する理由は、もう一つある。それは現時点では、感染者数の都道府県格差がきわめて大きいからだ。
 厚生労働省の発表によると、27日12時時点において全国で156名の患者(チャーター便とクルーズ船の患者を除く)が確認されている。多い順に北海道が38名、東京都が33名、愛知県が25名と、計16都道府県で感染者が報告されている。その一方で残り31県では、報告された感染者数はゼロである。
 これは検査をとおして「新型コロナウイルス感染症」と診断された数であって、診断の網にかかっていない感染者がどれだけいるかは、もちろん誰にもわからない。そうは言っても現時点ではまだ、都道府県間で感染の拡がり具合にはそれなりの差があると推測される。
 そうだとすれば、いまのところは各自治体の判断が尊重されたほうがよいように思える。感染のリスクを軽視するという意味ではなく、校内で感染防止の対策を徹底しつつも、全国一斉の休校に急ぎ踏み込むのではなく、各教育委員会でそのタイミングを精査してもよいのではないだろうか。
■家庭の体制は万全か?
 リスク研究の分野には、「目標リスク」と「対抗リスク」という言葉がある。前者は、低減されるべきリスクで、後者はその低減によって増大してしまう新たなリスクを指す[注2]。たとえば、頭痛(=目標リスク)を減らすためにアスピリンを服用したとき、胃痛や潰瘍(=対抗リスク)が引き起こされるような事態を考えるとよい。
 全国一斉休校は、感染症(=目標リスク)の対策としてはそれなりの効果があるのだろう。だが、学校関係だけが動いて、事態が落ち着くものではない。
 なぜなら、学校を休めば、子どもは自宅にとどまることになるからだ。はたして、家庭の受け入れ体制は万全なのだろうか。
 インフルエンザの感染症予防のように局所的で短期的な臨時休業であれば、個々の家庭が臨機に尽力してなんとか乗り切りうるのだろう。だが今回は、全域的かつ長期的な休業である。家庭への負荷(=対抗リスク)は、インフルエンザのときと比較にならない。
 とりわけ、保護者が一人の家庭あるいは非正規雇用の家庭にとっては、子どもの面倒をみるために連日仕事を休むこと自体が難しかったり、それによってもたらされる不利益がとても大きかったりする。しかもその役割が母親に課せられることで、女性が多い職場に負の影響が偏って生じうるという懸念も聞かれる(2/27:AERAdot)。
 また保護者側の負荷だけでなく、そもそも家にいることがしんどいと感じている子どもたちにも目を向けなければならない(拙稿「夏休みがつらい 家庭に居場所がない子どもたち」)。とくに今回の休校の場合には、部活動も中止になるはずだ。学校という居場所はなくなり、家庭という場に子どもたちは長期間にわたって身を置かざるをえない。家庭からの逃げ場(かつ感染のリスクが低い場)も考慮したい。
■学校を超えた関わりで臨時休業を支えていけるか
 新型コロナウイルスへの対応は、学校関係だけが動けばよいということではないはずだ。企業(保護者)の働き方改革や、子どもの居場所づくりなど、多面的な対応を同時に進めなければ、対抗リスクが増幅していくことになる。日本社会全体での取り組みが不可欠だ。
 最後に念のため、私はけっして臨時休業を取りやめるべきと主張しているのではないことを確認しておきたい。
 学校はそもそも、感染症や自然災害等の不測の事態に備えて、多めに登校日数を設定している。しかも卒業式(や卒業生を送る会)とその練習は、取りやめたところでひとまず制度的な問題が生じるわけではない(拙稿「卒業式の練習 必要か?」)。
 だから、臨時休業という選択は大いにありうる。対抗リスクを見極め、また企業の協力も得ながら、各自治体が限られた時間のなかで有効な答えを出していくことを期待したい。
•注1:ただし授業内容だけは、消化しなければならない。学校は国が定めた年間の標準授業時数にしたがって、年度内に授業をおこなう必要がある。2019年度についていうと、たとえば小学校5・6年生は年間995時間(2020年度は1015時間)、中学校では各学年1015時間(2020年度も同じ)である。なおここには、学校行事の時数は含まれていない。つまり、卒業式を含む行事に充てるべき時数が決まっているわけではない。
•注2:Graham, John. D. and Jonathan B. Wiener eds., 1995, Risk vs. Risk, Harvard University Press. (=1998、菅原努監訳『リスク対リスク』昭和堂。)
・・
・・<引用終わり>・・

 大変参考になります。
 報道を見る限り、政府や首長さんの発言がことさらに強調され、肝心の教育委員会や校長の存在がどうも薄いようです。もっと頑張って発信していただきたいと思います。

 あと、総理の安倍さんの言い回し(あくまで発音・発声の仕方です・・)で言うと、子供を養育する保護者が就労している職場や企業に対しての語尾をもっと強めてもらいたかったと思います。昨日の要請は、学校・保護者・家庭に対しての語尾が強かったように聞こえました。
 この非常事態、当に「内田良」さんの言うところの”学校を超えた関わりで臨時休業を支えていけるか”に懸かっているわけです。

 麻生さん、もっと丁寧にね!、あと無駄口はたたかない方がいいでしょう。
 要は、休校要請に対応して企業が有給休暇だけではなく、それ以外の策を練らなければならないこと、具体的には子どもを持つ労働者の労働不能・若しくは困難時の出勤免除をするように要請していいと思います。あくまで要請なんですから。つまり政府のメッセージの宛先の問題です。で、具体的な策を例示しないと、中小企業とか男性中心職場は動きません。
 今の政府のメッセージのままでは、多く見積もっても子供の母親の職場に限られ、父親が勤務する職場に対してはほぼ届いていないように思います(まあ~、聞こえないふりをしているのかもしれませんが・・)。
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憲法とPTA保護者会役員決め・・くじ引き??

2020-02-23 10:55:48 | 憲法・人権
 役員就任を拒むにはそれなりの理由があると思います。負担の大きさとPTAや保護者会の存在意義への疑問があるからです。
 また、純然たる私的団体ではない場合が多いわけで、それなりに、学校や保育園なども、その活動内容に一定程度関与(もちろん教員の教育内容を支配してはならないわけで、意見具申や地域を巻き込んだ活動への関与など)する場合があるからです。公共的な役割を一定程度担っているわけです。ゆえに憲法の人権規定が概ね適用されると考えるべきです。 

 PTAなどの役員決めに関し、すでに役員についている人と、そうでない人の温度差、ないし活動の理解の程度が問題となります。とくに活動や役員の必要性について十分理解している人などはフリーライダー(タダ乗り)をさせないことに躍起になりがちです。
 そこで水を差すわけではないですが、下記のような記事を読んで、今一度、冷静になっていただければと思います。下手をすれば強要罪(3年以下の懲役)の構成要件にも該当してしまうこともあるでしょう。

以下は弁護士ドットコムから引用・・・

PTAの役員は「クジ引き」で決定!? もし選ばれたら「拒否」できないのか?
この春、息子が小学校に入学したSさんは、PTAに対してちょっとした不信感を抱いた。入学式が終わった後、各クラスの教室で行なわれた保護者ミーティングで、PTA副会長が「PTAの役員はクジ引きで決定します」と宣言したからだ。
副会長の口ぶりや、クジ引きに至るまでの流れには、有無をいわさぬ強制力があった。Sさんは、その場では異議を申し立てず、黙ってクジを引いた。幸か不幸かクジは外れたが、複雑な感情を消せないまま帰路についたという。
そもそも、PTAは任意加入の団体のはずだ。その活動に参加するかどうかは、保護者の判断に委ねられているのではないか。はたして、この問題、どう考えたらいいのだろうか。小池拓也弁護士に聞いた。
●役員の決定には「民主的な手続き」が必要
「まず、PTA役員の就任を強制することについての法的問題を考えてみましょう。その学校のPTAの規約で、役員への就任義務が定められているなら、理屈の上では、会員が役員に選任された場合は役員になる必要がある、ともいえそうです」
もしそうだとしたら、病気で動けない保護者などはどうすればいいのか・・・。PTAの規定約に役員就任義務があった場合、必ず従わないといけないのだろうか。
「PTAは純然たる私的団体ではありません。広く保護者全体を加入対象とし、学校教育にも関与する公的性格をもっています。ですから、憲法の人権規定がおおむね適用されるでしょうし、民主的制度や適正な手続も要求されるでしょう。
したがって、PTAのルールとして、個別的な事情を一切無視した、相当に負担の大きい役員就任義務が定められていた場合、その規約が有効なのかというと疑問です」
つまり、PTAの規定で役員への就任義務があったとしても、それは無効になりうるということだろうか。
「はい。規約が公序良俗違反(民法90条)などとして、無効と判断される可能性はあるでしょう」
それでは、PTAの会合で「今年の役員はクジ引きで決める」と決議された場合はどうだろうか。
「PTAの決議は、規約同様に民主的制度や適正な手続が要求されるでしょうから、くじに当たった人は絶対に断れないというような決議であれば、これも有効とはいえないでしょう。ましてや、議長が一方的にくじ引きを宣言したのでは、決議すらないのですから、義務づけはできません」
そうなると、どうなるのか。
「規約や決議による義務づけができないとなると、役員の就任は、委任契約によるしかないということになります。したがって、ある人をクジで役員として選出したとしても、その人が承諾しない限り、役員にすることはできません。なり手がいないのであれば、誰かを説得して、承諾を得るしかありません」
つまり、クジで役員に当選した人も、就任を拒否することは可能のようだ。やりたい人が誰もいない場合は、クジの堂々巡りになりそうだが・・・。役員になる可能性があるなら、PTAには最初から加入しないという保護者もいるだろう。PTAに加入しないと、何か影響があるのか。
「もしかすると、PTA主催行事に、その親の子どもが参加することを拒絶するという団体もあるかもしれません。しかし、その行事が学校教育の一環として行われている場合、子どもの参加を拒絶することは、教育を受ける権利の侵害として許されないでしょう」
●PTAの「新しいあり方」の模索を
こうなると、PTAに加入しないで、子どもだけ行事に参加させる「フリーライダー」の保護者も出てきそうだ。PTAの存在意義が危ぶまれてしまう。
「PTA役員の選任が問題となるのは、負担の大きさとPTAの存在意義への疑問があるからでしょう。PTAの新しいあり方を模索する必要がありますね。子どものための活動は学校や地域ボランティアに委ねるなどして、恒例行事などを根本的に見直してはどうでしょうか。
主催行事を減らして役員の負担が減ったところで、『学級崩壊・いじめを防ぎたい』『スマホの利用を考えたい』『学校給食を実現したい』といった保護者の願いを話し合い、実行していくのがよいと思います」
そもそもPTAは、戦後に始まったもの。保護者と教員が手を取り合って、子どもたちが育つ環境を整えるために行ってきた活動だが、時代とともに変化するのは仕方のないことかもしれない。
【情報募集!】弁護士ドットコムニュースでは「PTAでのトラブル」に関する取材を続けています。「PTAで嫌がらせにあった」「役員をやる余裕がないのに、強制的に役員にされた」「子供に関するトラブルが起きた」などの体験がありましたら、以下からLINE友だち登録をして、ぜひご連絡ください。
https://www.bengo4.com/c_18/n_1528/

・・・引用終わり。

「役員をやる余裕がないのに、強制的に役員にされた」、、、ぜひご連絡ください・・・だそうです!

 役員になるよう強制できないのは自明の理でしょう。
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新型コロナ、企業が講ずべき労働者への対応‥

2020-02-23 10:55:48 | 労働問題 育休 パワハラ
 ここにきて、企業も新型コロナウイルスによる感染防止に動き出しています。以下は従業員に休業させる場合の会社としての措置について、所管の省庁からの制度利用について掲示されているモノを紹介したい。なお、全て網羅しているわけではないことを予めお断りしておきます。

先ず「労基法」の規定
労働基準法26条
使用者の責に帰すべき事由による休業の場合においては、使用者は、休業期間中当該労働者に、その平均賃金の百分の六十以上の手当を支払わなければならない。

 休業を余儀なくされた労働者の最低生活の保障を図り、働けなかったことにより貧困に陥ってしまうということがないよう、余程のことがない限り休業手当が保障されます。輸送手段・資金・資材の獲得困難なども「使用者の責に帰すべき事由」に該当するものとされています。
 なお、使用者の責めに帰する場合以外とは、例えば東日本大震災で甚大な被害があったような場合です。

雇用助成金による企業の救済
厚労省HP
https://www.mhlw.go.jp/content/000596026.pdf より引用・・・
新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえ雇用調整助成金の特例を実施します。
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練又は出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部を助成するものです。
中国(人)関係の売上高や客数、件数が全売上高等の一定割合(10%)以上
である事業主が対象です。
<「影響を受ける」事業主の例>
・中国人観光客の宿泊が無くなった旅館・ホテル
・中国からのツアーがキャンセルとなった観光バス会社等
・中国向けツアーの取扱いができなくなった旅行会社
※総売上高等に占める中国(人)関係売上高等の割合は、前年度または直近1年間(前年度が12か月ない場合)の事業実績により確認しますので、初回の手続の際に、中国(人)関係売上高等の割合を確認できる書類をご用意ください。
【特例措置の内容】
【特例の対象となる事業主】
休業等の初日が、令和2年1月24日から令和2年7月23日までの場合に適用します。
① 休業等計画届の事後提出を可能とします。
通常、助成対象となる休業等を行うにあたり、事前に計画届の提出が必要ですが、令和2年1月24日以降に初回の休業等がある計画届については、令和2年3月31日までに提出すれば、休業等の前に提出されたものとします。
② 生産指標の確認対象期間を3か月から1か月に短縮します。
最近1か月の販売量、売上高等の事業活動を示す指標(生産指標)が、前年同期に比べ10%以上減少していれば、生産指標の要件を満たします。
③ 最近3か月の雇用指標が対前年比で増加していても助成対象とします。
通常、雇用保険被保険者及び受け入れている派遣労働者の雇用量を示す雇用指標の最近3か月の平均値が、前年同期比で一定程度増加している場合は助成対象となりませんが、その要件を撤廃します。
④ 事業所設置後1年未満の事業主についても助成対象とします。
令和2年1月24日時点で事業所設置後1年未満の事業主については、生産指標を令和元年12月の指標と比較し、中国(人)関係売上高等の割合を、事業所設置から初回の計画届前月までの実績で確認します。
・・・引用終わり。

労働者が自主的に休んだ場合
労働者が自主的に休んだ場合には休業手当の支払いを求めることはできませんが、下記のような制度が利用できるとされております。
全国協会けんぽ協会https://www.kyoukaikenpo.or.jp/g3/cat310/sb3040/r139/ より引用・・・
支給される条件
傷病手当金は、次の(1)から(4)の条件をすべて満たしたときに支給されます。
(1)業務外の事由による病気やケガの療養のための休業であること
健康保険給付として受ける療養に限らず、自費で診療を受けた場合でも、仕事に就くことができないことについての証明があるときは支給対象となります。また、自宅療養の期間についても支給対象となります。ただし、業務上・通勤災害によるもの(労災保険の給付対象)や病気と見なされないもの(美容整形など)は支給対象外です。
(2)仕事に就くことができないこと
仕事に就くことができない状態の判定は、療養担当者の意見等を基に、被保険者の仕事の内容を考慮して判断されます。
(3)連続する3日間を含み4日以上仕事に就けなかったこと
業務外の事由による病気やケガの療養のため仕事を休んだ日から連続して3日間(待期)の後、4日目以降の仕事に就けなかった日に対して支給されます。待期には、有給休暇、土日・祝日等の公休日も含まれるため、給与の支払いがあったかどうかは関係ありません。また、就労時間中に業務外の事由で発生した病気やケガについて仕事に就くことができない状態となった場合には、その日を待期の初日として起算されます。
「待期3日間」の考え方
待期3日間の考え方は会社を休んだ日が連続して3日間なければ成立しません。
連続して2日間会社を休んだ後、3日目に仕事を行った場合には、「待期3日間」は成立しません。
・・・引用終わり。

 企業(経営者)も、労働者も、現在有る制度を活用するなどして、社会全体で何とかこの困難を乗り越えたいと思います。国家・国民(自然人)だけでなく、法人(法人格たる私人の団体も含め)・企業・団体の社会的責任に期待したいと思います。
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以前,私もこんなことを書いていました・・「マタハラに関して」・・

2019-06-27 21:54:05 | 労働問題 育休 パワハラ
 カネカの炎上で思い出しましたが、以前マタハラに関するニュースを目にして以下のようなことをいておりました。(当時、私だいぶ頭に来ていたようです。💦)
 

 妊娠を理由に女性職員を解雇し是正勧告に従わなかった茨城県牛久市のクリニックの実名を、厚労省が公表


 前回のエントリで、労働局の調停に出てこないとは、日航、大したツワモノだと思うが、これよりも、さらにツワモノが居たようだ。

 以下は産経(産経新聞 9月4日(金)16時17分配信 )より引用・・・

・・・妊娠を理由に女性職員を解雇し、国の是正勧告に従わなかったとして、厚生労働省は4日、茨城県牛久市のクリニックの実名を公表した。男女雇用機会均等法に基づきマタニティーハラスメント(マタハラ)をした事業主の実名を公表するのは初めて。
 厚労省によると、是正勧告に従わなかったのは、牛久市のクリニック「牛久皮膚科医院」(安良岡勇院長)。安良岡院長は2月、正職員の20代の看護助手が妊娠したと報告したところ、約2週間後に突然、「明日から来なくていい。妊婦はいらない」と退職を迫ったという。看護助手は「妊娠したばかりで、まだ働きたい」と訴えたが、院長が認めなかったため、茨城労働局に相談。
 労働局は妊娠や出産を理由に解雇することは男女雇用機会均等法に違反するとして、口頭や文書で3回にわたって是正勧告したが、院長は解雇を撤回しなかった。7月には塩崎恭久厚労相が大臣による初の勧告を行ったが、「妊婦はいらない」「(男女雇用機会)均等法を守るつもりはない」などと応じなかった。
 男女雇用機会均等法は、妊娠を理由に女性労働者を解雇や降格などの不利益な扱いをすることを禁止している。違反した場合は労働局長や厚労大臣による勧告などの行政指導が行われるが、罰則はない。
 同クリニックは「院長の体調不良により休診中」などとして、取材に応じていない。・・・

・・・というもの。

 で、その厚労省の公表とは下記のもの。
 http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000096409.html
報道関係者各位

男女雇用機会均等法第30条に基づく公表について
~初めての公表事案、妊娠を理由とする解雇~
 男女雇用機会均等法(以下「法」という)第30条において、法第29条第1項に基づく厚生労働大臣による勧告に従わない場合、その旨を公表できる制度が設けられていますが、このほど、初の事案が生じましたので、下記のとおり公表します。

事業所名 : 医療法人医心会 牛久皮膚科医院

代表者 : 理事長 安良岡 勇

所在地 : 茨城県牛久市牛久280 エスカード牛久4階

違反条項 : 法第9条第3項

法違反に係る事実: 妊娠を理由に女性労働者を解雇し、解雇を撤回 しない。

指導経緯 : 平成27年3月19日 茨城労働局長による助言
        平成27年3月25日 茨城労働局長による指導
        平成27年5月13日 茨城労働局長による勧告
        平成27年7月9日 厚生労働大臣による勧告

【参考:男女雇用機会均等法第9条第3項について】

法第9条第3項では、妊娠・出産等を理由とする解雇その他不利益取扱いを禁止しています。

○妊娠・出産等を理由とする不利益取扱いの例

1 解雇すること。

2 期間を定めて雇用される者について、契約の更新をしないこと。

3 あらかじめ契約の更新回数の上限が明示されている場合に、当該回数を引き下げること。

4 退職又は正社員をパートタイム労働者等の非正規社員とするような労働契約内容の変更の強要を行うこと。

5 降格させること。

6 就業環境を害すること。

7 不利益な自宅待機を命ずること。

8 減給をし、又は賞与等において不利益な算定を行うこと。

9 昇進・昇格の人事考課において不利益な評価を行うこと。

10 不利益な配置の変更を行うこと。

11 派遣労働者として就業する者について、派遣先が当該派遣労働者に係る労働者派遣の役務の提供を拒むこと。

・・・以上、厚労省HPより引用。


 下記のような議論を同紙(産経デジタル)では掲載しているので引用させていただく・・・

・・・ 【日本の議論】http://www.iza.ne.jp/kiji/life/news/150421/lif15042110000001-n1.html

 妊娠や出産を理由に職場で不利益な取り扱いを受けるマタニティーハラスメント(マタハラ)が社会問題化する中、被害者支援団体に女性から賛否両論が寄せられている。「女性が安心して働ける社会になってほしい」といった激励がある一方、「同性としていい迷惑」という声や、企業の女性採用への影響を懸念する意見も。団体が3月に公表した調査結果では、マタハラを受けた相手として「女性上司」が22%に上っており、「同性の無理解」という一面が浮かび上がった。(滝口亜希)

■「権利ばかり主張」…被害者団体に厳しい意見

 「妊娠したら今まで通りの仕事ができなくなるのが目に見えてるんだから、異動も降格も当たり前」

 「妊娠したら問答無用で特別扱いすべきだ、と思う人を理解できません」

 「私の夫の部下は妊娠して突然欠勤し、大変な目に遭いました」

 「出産に対して理解のある企業に入る努力もせず、女性であることを利用して権利ばかりを主張するのは、同じ女性として恥ずかしい限りです」

 マタハラ被害者らでつくる「マタハラNet」には女性からの厳しい意見が相次いで寄せられている。

 きっかけは昨年10月に最高裁が判決で「妊娠による降格などの不利益な扱いは原則として違法」との初判断を示した訴訟だ。昨年7月の団体発足から約5カ月間で、女性を名乗り、活動を批判する声が少なくとも10件以上寄せられた。

 マタハラ問題が注目されることで、企業が女性の採用を控えることを心配する意見もある。
 性別は明記されていなかったが、娘を持つ親から寄せられたのは「今後の女性の働く場所や就職活動などに影響するのではありませんか」というコメント。娘が就職活動中という男性は最高裁判決について「正直言えば、それほど優秀ではない娘を持つ父親としては、こんなに大騒ぎしてほしくなかったというのが本音です」とつづった。

 また、性別は不明だが「私の会社ではあなた方の活動が原因で女子社員の募集を当面打ち切ることになりました。本気で働きたいという女性にとっても迷惑千万な話だとは思いませんか?」という意見もあった。

■問題の根深さは「女性が一枚岩でない」

 「女性が一枚岩でないところがマタハラ問題の根深さ」と指摘するのは、マタハラNetの小酒部(おさかべ)さやか代表(37)。小酒部さん自身も、マタハラ被害に遭った経験を持つ。

 「契約社員は時短勤務ができない」

 「時短勤務ができないわけだから、どうしても仕事したい場合はアルバイトで来るしかないんじゃないの」

 契約社員として雑誌の編集に関わっていた小酒部さんは、2度目の妊娠中、上司から退職勧奨を受けた。

 「また何かがあって、穴空けられたり、現に今回も迷惑掛けていることは掛けているわけよ。実際に」

 約4時間に及んだ自宅での上司とのやり取りでは、当時、小酒部さんが切迫流産と診断され、約1週間、自宅静養していたことを「迷惑」と受け止めているかのような発言もあった。
 1度目の妊娠は、担当業務が忙しく、周囲に妊娠していることを言い出せないまま、深夜0時近くまでの長時間勤務を続けるうちに流産。2度目の妊娠でも、「おなかの赤ちゃんがどうなるか分からない中、仕事か妊娠かの選択を迫られ、非常に酷だった」(小酒部さん)という。結局、契約を更新してもらうために無理をして通常出社を続けたところ、再び流産した。

■マタハラドミノ倒し

 小酒部さんが立ち上げたマタハラNetでは、寄せられた被害体験を共有するため、ホームページ上などに公開。さらに、マタハラを(1)昭和の価値観押し付け型(2)いじめ型(3)パワハラ型(4)追い出し型-の4類型に分類し、被害実態を発信している。

 中でも小酒部さんが強調するのが、マタハラに端を発した悪循環である「マタハラドミノ倒し」だ。

 妊娠・出産を理由に職場を解雇されると、子供を保育園に入れることができなくなり、子供に手がかからなくなるまで10年近く働けない。収入が絶たれ、経済的にも困窮する…。

 「マタハラを受けることで、生活基盤が揺らぐ。1人の女性社員にマタハラをすると、それを見た他の女性たちは『自分もやられる』と感じるため、晩婚・晩産・少子化につながっていく」とマタハラの“伝染”にも警鐘を鳴らす。

■批判は「葛藤の裏返し」

 一方、マタハラは必ずしも「男性対女性」という構図ばかりではない。

 マタハラNetが被害女性186人を対象に調査を実施し、3月に公表した結果では、被害を受けた相手(複数回答)として「直属の男性上司」が53%で最多だったのに対し、「直属の女性上司」が22%、「女性の同僚」が18%だった。

 労働問題に詳しく、調査に携わった圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」と指摘する。

 その上で、同性からの批判的な意見は「これまで、仕事と子育ての二者択一を迫られてきた女性たちの葛藤の裏返し」とみる。

 こうした厳しい見方とは対照的に、米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した。 受賞後、批判的な意見は減りつつあるというが「高齢化が進み、今後、男性上司も含めて介護休暇を取る人が増えていく中、妊娠したというだけで女性を切っていては企業は立ちゆかなくなる」と小酒部さん。「マタハラ問題を解決することが、女性のみならず労働者全体の選択肢を広げることにつながると訴えたい」と話している。

・・・引用終わり。

 「マタハラドミノ倒し」とは穏やかではないが、・・・「米国務省からはマタハラNetの活動が評価され、3月に小酒部さんが「世界の勇気ある女性」賞を受賞した」・・・というのは、皮肉なものだ。このような厳しい見方(同性や同僚からの批判)は、「葛藤の裏返し」というのは本当だろう。ただ、立法に際し、既に議論されたこと、当然その前には研究や調査、将来の労働力の問題、人口構成の問題など、あらゆる観点から立法の準備をして国会で成立したわけであって、このような事情を知らずに、批判の矛先を妊娠した当人に向けることは、幼稚で考えが浅い行為だと言える。
 個々の労働者自身も、普段から既に様々な労働法制度と社会福祉制度の恩恵を受けているのであって、これを維持するためにも少子化問題や、稼げる者は稼いでその資源を少しでも生産すべきは誰でもわかる自明の課題なのである。要するに、世の中、各人全てが、自分の食べるパンだけを得るために稼ぐのではだめなのであって、絶えず剰余の利益を富として生み出さなければならないわけだ。これが、各人のうちの誰かが病気やその他の都合で一時的に労働に従事できないとき、場合によっては身体の重大な損傷により労働できなくなっても、この剰余があれば生きてゆけるわけである。
 これを、単なる所得移転(ゼロサムゲーム)だとして足を引っ張る議論をするのか?、それとも、この相互の社会補完制度こそが社会全体の「富の増大」であるとして祝福されるべきなのかは、少し考えればわかると思う。そして、これは既に立法の際に織り込み済みなのである。

 そして、これに反するような事業主や経済活動の責任者には批判の矛先が向けられずに、休んだり、時短を利用する本人に向くのは、見当違いも甚だしいし、不幸なことだと思う。
 この点、・・・圷(あくつ)由美子弁護士(40)は「産休や育休をとるときに女性から心ない言葉をかけられるケースは多い。『自分にしわ寄せが来る』という同僚らの怒りの矛先は、本来対応を講ずべき主体である企業でなく、休む本人に向きがち」・・・と指摘している通りである。

 妊娠・出産・子育てを経験することになる労働者と、その労働者が持つスキルを利用しないことは大きな損失だと思う。だから、先ず企業が支える。その企業を消費を通じて社会全体で支えることが必要だと思う。この逆は、まさに「共有地のジレンマ(コモンズの悲劇ともいう)」というべきで、自分の事業だけ種まきをぜず、他人がまいた種と水と肥料で育った田畑で収穫だけをやっていることになる。よって破たんは目に見えている。
 このようなフリーライダーを許すべきではないと思う。種と水と肥料代、それに労賃を支払え!。
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カネカの炎上に関して少々・・・いい記事を発見しました!

2019-06-08 22:45:37 | 労働問題 育休 パワハラ
カネカの炎上に関する記事で判りやすい記事を見つけたので、下記に引用して紹介したいと思います。

 「ライブドアニュース」の経済  永江一石さんによる記事で、2019年06月07日 17:10とありました。

 以下引用させていただきます。

はしょりますと
1 カネカは育休をアピールして専用ページもあった
2 夫が4週間の育休を取得した。家を建てて引っ越した直後。
3 育休から復帰した翌日に関西に転勤を命じられた
4 労働基準監督署や都労働局に相談してもだめで結果として退職

これを奥さんがtweetしたことで炎上。という流れです。育休をアピールしていたページは炎上しはじめた日曜に突然削除されたということだが会社側は否定。キャッシュはあるのだが、どうもステージングサーバのようで正式には公開していないものらしい。

 <中略させていただきます>
妻の出産で夫を転勤対象から外すのが19.4%、妻が働いていると外してくれるのが24.5%、持ち家の購入だと21.2%です。今回はこの3つが重なっていたわけね。
カネカはもともと転勤が多い企業らしいし、「酷い」という反応とは別に「サラリーマンなら当たり前」「嫌なら辞めろ」という声もけっこう上がっている。新聞社や全国に営業所が点在する企業ではかつては転勤はごく普通であった。今回は持ち家を買った直後というが、記事にもあるが家を買うと会社を辞めづらいので転勤の辞令を出しやすいというのはよく言われた。しかし転勤してローンと家賃を二重に払うことになるのでかなり負担が大きく、持ち家の借り手を見つけたりも大変だ。

現在の価値観だと地方転勤は「故郷へのUターン希望者を募る」か、現地採用するという企業が増えていると思う。残業なんかより小さい子供を連れての転勤の方がよほどキツいし、今回は奥さんも働いているから奥さんのキャリアもそこで終えろということになります。法律的なことより人道的にどうかという話です。

今回のケースでは事前の打診もなく、他の企業なら考慮する「持ち家」「育児」「共働き」も一切考慮せず、いきなりの辞令だから、カネカさんの転勤辞令はかなり荒っぽい感じがするんですよ。

そして・・・・違法性の部分だが

結局、夫は上司や人事部、労働組合を交えた幾度かの話し合いの末、5月末に退職することになった。退職前には30日ほどある有給休暇を取得したいとも訴えたが「きちんと引き継ぎをして5月末で退職するように」と言われ、4日間しか取ることができなかったという。

これは違法じゃないの??

法律では「年次有給休暇を取得する日は、労働者が指定することによって決まり使用者は指定された日に年次有給休暇を与えなければなりません。ただし、労働者の指定した日に年次有給休暇を与えると、事業の正常な運営が妨げられる場合は、使用者に休暇日を変更する権利(時季変更権が認められています」 厚労省
となっておりまして、労働者が取得したい有給を会社は拒否できません。4日間しか取らせなかったらこの点は違法ですわね。

そして

「育休前に異動が必要と判断していた」が、「内示前に育休に入ったため育休明け直後に内示することとなった」

電話でも文書でも知らせる手立てはいくらでもあったろうに、育休終わって出社したら「転勤だから」では育休取る社員を見せしめにしたと言われても仕方ない。小さい子供が2人いて奥さんもキャリアをもっているわけだから、単身赴任では無理。転勤させるなら奥さんに退職しろということだから、そもそも「女性が働く」ってことを軽んじている会社と言わざるを得ない。「女性が活躍し、多様性を更に活かせる職場をつくりあげるために」と採用ページで謳ってるのは自社の女性に限るって事になる。

でね。カネカのリリースは「違法じゃないから良いだろ」感が満載なのであるが

調べてみました。

育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律
第二十六条 事業主は、その雇用する労働者の配置の変更で就業の場所の変更を伴うものをしようとする場合において、その就業の場所の変更により就業しつつその子の養育又は家族の介護を行うことが困難となることとなる労働者がいるときは、当該労働者の子の養育又は家族の介護の状況に配慮しなければならない。(再雇用特別措置等)

罰則規定がないから守らなくていいということはないよね? 遵法意識の問題だよね。でもって平成29年3月30日に厚労省から出たという資料も読んでみました。

[a] 個別の調整
33. 転居を必要とする異動の計画を作成するにあたり、上記①[b]で把握した状況を参照し、個々の労働者について必要に応じて転勤の時期や場所に関する調整を行うことを検討する。調整の具体的内容としては、転勤対象の候補者を変更すること、転勤の時期をずらすこと、通勤可能な範囲の異動で代替することなどが考えられる。

[b] 転勤対象の候補者への打診
34. 労働者が転勤の対象として候補となった時点において、労働者の事情に変更がないか等を確認し、この段階で労働者の事情が判明した場合には、個別に対応することが可能か検討することが考えられる

[c] 転勤対象者への告知・説明
35. 上記②[a]・[b]を経て、最終的に決定された転勤については、当該転勤の対象となる労働者にできる限り時間的余裕をもって告知することが重要である。

36. その際、上司や人事部門から、上記②[a]・[b]の調整結果を含め、当該転勤の趣旨や転勤後に期待される役割などとともに、赴任旅費・単身赴任手当等の諸条件について説明を行うことが望ましいと考えられる。

要約すると、社員を転勤させるのであれば、その転勤が会社と社員にとって必須なものかどうか、そして将来につながるかどうかをよく判断して、事前によく話し合うこと、そして時間的な猶予を持って告知するべしとされていますな。

要するに、上の調査などでも転勤の負担が非常に多いと言うことが↑の調査でも明らかになり、厚労省としては
転勤は社員にとって負担だから充分配慮するように
というのをリリースしているわけです。

で、「転勤は会社と本人にとってどうしても必要な場合にしましょう」とありますが、今回のケースでは無理だから退職に至ってしまった。ということは退職してもいいから辞令出したっていうことになり、やはり見せしめと言われても仕方ない・・・・あくまで個人の感想です。

とまあ、いくら
カガクデ
ネガイヲ
カネエルカイシャ
をアピールしても

カゾクノ
ネガイヲ
カナエナイカイシャ

の認知をドカンと上げてしまったわけで、いまの新卒募集ではかなり苦い水を飲むことになると思われます。応募してくるのは他を落ちまくった子とか、そもそもリテラシー低くて今回のニュースも知らないとかそんなんばっかりになりそう。
リリースもあんな上目線ではなくて、もっと「今後は改善します」にしておいたほうがよかったのに後の祭です。
・・・引用終了

 中略のところは、国など公的な資料を紹介したうえで解説されています。とても勉強になります。原文を是非読んでていただけたらと思います。https://blogos.com/article/382817/
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カネカの炎上に関して少々・・・

2019-06-06 14:52:10 | 労働問題 育休 パワハラ
 カネカが「育休明け転勤」問題に公式見解「当社の対応に問題は無いことを確認」・・・だそうです。
 へえ~

 以下は(株)カネカHPより引用・・・
 http://www.kaneka.co.jp/
当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みについて

2019年6月6日

当社元社員ご家族によるSNSへの書き込みに関し、当社の考えを申し上げます。
1. 6月2日に弁護士を含めた調査委員会を立ち上げて調査して参りました。6月3日には社員に向けて、社長からのメッセージを発信致しました。更に、6月5日に、社内監査役及び社外監査役が調査委員会からの報告を受け、事実関係の再調査を行い、当社の対応に問題は無いことを確認致しました。
2. 元社員のご家族は、転勤の内示が育児休業休職(以下、育休とします)取得に対する見せしめである、とされていますが、転勤の内示は、育休に対する見せしめではありません。また、元社員から5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出され、そのとおり退職されております。当社が退職を強制したり、退職日を指定したという事実は一切ございません。
3. 当社においては、会社全体の人員とそれぞれの社員のなすべき仕事の観点から転勤制度を運用しています。 育児や介護などの家庭の事情を抱えているということでは社員の多くがあてはまりますので、育休をとった社員だけを特別扱いすることはできません。したがって、結果的に転勤の内示が育休明けになることもあり、このこと自体が問題であるとは認識しておりません。
4. 社員の転勤は、日常的コミュニケーション等を通じて上司が把握している社員の事情にも配慮しますが、最終的には事業上の要請に基づいて決定されます。 手続きとしては、ルール上、内示から発令まで最低1週間が必要です。発令から着任までの期間は、一般的には1~2週間程度です。転勤休暇や単身赴任の場合の帰宅旅費の支給といった制度に加え、社員の家庭的事情等に応じて、着任の前後は、出張を柔軟に認めて転勤前の自宅に帰って対応することを容易にするなどの配慮をしております。
5. 本件では、育休前に、元社員の勤務状況に照らし異動させることが必要であると判断しておりましたが、本人へ内示する前に育休に入られたために育休明け直後に内示することとなってしまいました。 なお、本件での内示から発令までの期間は4月23日から5月16日までの3週間であり、通常よりも長いものでした。 また、着任日を延ばして欲しいとの希望がありましたが、元社員の勤務状況に照らし希望を受け入れるとけじめなく着任が遅れると判断して希望は受け入れませんでした。 着任後に出張を認めるなど柔軟に対応しようと元社員の上司は考えていましたが、連休明けの5月7日に、退職日を5月31日とする退職願が提出されたため、この後は、転勤についてはやり取りがなされませんでした。このため元社員は転勤に関しての種々の配慮について誤解したままとなってしまったものと思います。

元社員の転勤及び退職に関して、当社の対応は適切であったと考えます。当社は、今後とも、従前と変わらず、会社の要請と社員の事情を考慮して社員のワークライフバランスを実現して参ります。


 「1.」・・・調査の結果会社の対応には問題がないと
 「2.」・・・見せしめでも退職強要でもないと
 「3.」・・・転勤の内示が育休明け直後になっても問題ない
 「4.」・・・着任の前後は、出張を柔軟に認めて転勤前の自宅に帰って対応することを容易にするなどの配慮があると(いやこれ、ちょっとおかしいですよ、後述しますが・・・)
 「5.」・・・育休取得の前に移動が必要だと会社は判断していたが、育休の期間は本人に通知をしていなかった。また移動内示後、本人から着任日を伸ばしてほしいと言われたが、認めなかった。また、転勤のやり取りはしなかった。・・・それで「1.」の通り問題はない、ということだそうです。
 

 以下は、あくまで私個人の見解です。何の参考にもなりませんが。

 まあ「1~3.」のところまでは、就業規則上の問題がないということと、会社の利益上正当であると言っているだけで、会社の危機管理上はかなり問題です。
 つまり、就業者の感情と会社内部の人間関係、そして、社会通念(事実、世間の批判はあるわけで)やこれからの労働環境(今や、官民挙げて働き方改革とやらもあるわけです)、労働力不足が言われている昨今の労働市場事情を踏まえたみんなから選ばれようとする会社としての見解であるとは到底思えません。

 「4.」ですが、会社の出張と自宅に帰ることとの因果関係が全く分かりません。ひょっとしてカラ出張を認めるとか、出張先でついでに観光やら私用を認めるということなんでしょうか?、ずいぶんとバブリーな会社ですね。

 あと、育休に入ったことを、移動の内示の遅れや通知しなかったこと(不作為)の言い訳にしていますが、郵送でもメールのやり取りでもできますし、第一、従業員が休職期間中でも、社保間系やその他の手続きなど雇い主としてやらなければならない人事の仕事はあるわけで、本人と連絡が取れなかったとする見解には相当無理があります。
 さらに、前掲のバブリーな方法で「着任後に出張を認めるなど柔軟に対応しようと元社員の上司は考えていましたが」・・とありますが、考えていただけでは配慮したことにはなりませんし、反対ににパワハラすることを考えていたとしても罪にはなりません。

 さて、これまでの判例を少し見てみましょう(と言っても下記からの引用ですが・・・)
 
 
 権利濫用法理による制約(「独立行政法人労働政策研究・研修機構」より)

 使用者に配転命令権が認められる場合も、①配転命令に業務上の必要性が存しない場合、②配転命令が不当な動機・目的に基づく場合、③労働者に通常甘受すべき程度を著しく超える不利益を及ぼす場合には、配転命令は権利濫用として無効になる(労契法3条5項)。

①配転命令の業務上の必要性については、余人をもっては替え難いという高度の必要性は要求されず、労働者の適正配置や業務運営の円滑化の事情があれば肯定される(モデル裁判例)。業務上の必要性自体が否定されることは稀であるが、最近の事案では、企業の構造改革に伴い既に一定の業務に就いていた従業員に新たに新幹線通勤や単身赴任の負担を負わせる配転(NTT西日本(大阪・名古屋配転)事件 大阪高判 平21.1.15 労判977-5)、使用者の解雇撤回後に職場復帰する労働者に対する大阪から名古屋への配転(C株式会社事件 大阪地判平23.12.16 労判1043-15)で業務上の必要性が否定されている。

②不当な動機・目的は、退職に追い込むための転勤(フジシール事件 大阪地判平12.8.28 労判793-13)、社長の経営方針に批判的言動をとった報復としての転勤(マリンクロットメディカル事件 東京地決平7.3.31 労判680-75、朝日火災海上保険事件 東京地決平4.6.23 労判613-31、アールエフ事件 長野地判平24.12.21 労判1071-26)などで認定されている。

③労働者の不利益については、配転に応じると単身赴任せざるをえないという事情だけでは、「通常甘受すべき程度を著しく超える不利益」とは認められない(モデル裁判例、帝国臓器製薬事件 最二小判平11.9.17 労判768-16等)。配転によって通勤時間が片道約1時間長くなり、保育園に預けている子供の送迎等で支障が生じる場合でも、同様の判断がなされている(ケンウッド事件 最三小判平12.1.28 労判774-7)。これまで労働者に著しい不利益を負わせると判断されたのは、当該労働者が病気の家族を複数人、一人で看ていた場合(日本電気事件 東京地判昭43.8.31 判時539-15、北海道コカ・コーラボトリング事件 札幌地決平9.7.23 労判723-62)、重度の病気の家族を自らまたは配偶者らと看護していた場合(明治図書出版事件 東京地決平14.12.27 労判861-69、日本レストランシステム事件 大阪高判平17.1.25 労判890-27、ネスレ日本(配転本訴)事件 大阪高判平18.4.14 労判915-60)、障害をもつ両親を妻や妹らと介護していた場合(NTT東日本(北海道・配転)事件 札幌高判平21.3.26 労判982-44)など、極めて特殊なケースである。


 と、なるほど労働者にはかなり厳しい内容です。ただ、上記引用のまとめの解説には下記のような記述もあります。
・・・平成13年に育児介護休業法が改正され、子の養育または家族の介護状況に関する使用者の配慮義務が導入された(26条)ほか、平成19年制定の労契法でも使用者が仕事と生活の調和に配慮すべきことが規定されている(3条3項)。近年の裁判例では、配転命令の権利濫用の判断においてこれらの規定を参照し、労働者の私生活上の不利益をより慎重に検討するものがある(上記明治図書出版事件、ネスレ日本(配転本訴)事件)。・・・ということだそうです。

 またも私見にはなりますが、2001年に育児介護休業法の改正もあり、養育や介護への使用者の配慮義務(同法26条)や、2007年の労働契約法では、仕事と生活の調和(3条3項)所謂ワークライフバランスというやつですが、これを同法制定の基本理念として掲げています。
 ま、邦人企業(日本の企業だったら)の価値観としては家族の一体性を少なくとも重視すべきです。

 (株)カネカのHPでの同社の反論では、「育児や介護などの家庭の事情を抱えているということでは社員の多くがあてはまる」としながらこれを「育休をとった社員だけを特別扱いすることはできません」と一蹴しております。また、これらへの事情への配慮についての言及はありませんでした。当に”おっさん”的見解でしょうか。

 結果としてこの企業では(図ったか図らずもかは格別)、これからの男性社員の育児・介護休暇取得を思いとどまる、ないし躊躇させることを惹起してしまったように思います。何せ、育児や介護を担っている者が、そのような事情を配慮されずに配転されるかもしれないのですから。勿論、男性社員だけではなく授乳中の女性社員も同じ扱いだということです。
 これらの配慮を欠いているということは、強行規定には違反していなくても、法の趣旨には反しているように思われます。また、絶対多数ではないかもしれませんが、一定数の人を敵に回すというリスクは負ってしまったように思います。味方は”おっさん”だけです、きっと。
 社長さんや人事の方、担当弁護士さんも、このようなことにもう少し気を使った方が良かったのではないでしょうか。人(労働者)を選ぶ前に、会社も社会から選ばれます(選ばれないこともあります)。

 【追記】
 ちょっと気になるのは、そういえばこの会社では、これまで子供の保育所入所がやっとが決まったばかりなのに別のところに飛ばされてしまう女性社員もいたのでしょうか?。それとも男性が育休を取ったからだったのでしょうか?。
 もし後者だとすると、扱いが平等とは言えないので、育休を取った男性社員への嫌がらせではないとは言えないことになります。
 あと、カネカのHPでの反論では執拗に法律的な手続きに問題ないと(まるで裁判官に答弁する如く・・です)言っているので、少し突っ込ませていただくと、そもそも法的には子どもの保護者(制度管轄者)は第一義的には子を持つ親ですが、しかし職業生活上では時間的空間的に拘束したり、保護すべき子どもから物理的に遠ざけるなど、外形的には業務命令という形でその行為を支配し得るのが雇用主ということもあるわけです(だから政府はワークライフバランスなどと言っているわけです)。この辺、本当に権利乱用がないとカネカは胸を張って言えるのでしょうか。
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期間の定めのある労働契約の無期転換は骨抜き/あと裁量労働制もうさん臭い・・・

2017-12-28 00:35:04 | Weblog
 以下は新聞記事の引用だが、法の趣旨を踏まえた運用というよりも、寧ろ脱法のように思う。

 以下、毎日新聞https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171227-00000112-mai-sociより引用・・・厚労省調査 契約通算期間を5年に満たないうちにリセットも
 厚生労働省は27日、有期契約の従業員が通算5年を超えて働くと無期契約への切り替えを求められる「無期転換ルール」について、大手自動車メーカー10社を対象に制度の運用状況を調査した結果を公表した。無期転換が可能なのは2社のみで、7社は契約の通算期間が5年に満たないうちにリセットするルールを設け、無期契約への切り替えができないようにしていた。他の1社は再契約そのものをしていなかった。
 厚労省は「企業の内部情報が含まれる調査」として企業名を公表していない。
 2013年施行の改正労働契約法では、契約終了後から再契約までの空白期間(クーリング期間)が6カ月以上であれば、以前の契約期間は通算しないというルールがある。7社は空白期間を6カ月としていた。厚労省は「法に照らして現時点で直ちに問題であると判断できる事例は確認できなかった」としている。
・・・引用終わり。

 まあ、自動車製造というのはその時々により製造の増減はあると思うが、2013年施行の改正労働契約法では、契約終了後から再契約までの空白期間(クーリング期間)が6カ月以上であれば、以前の契約期間は通算しないというルールを逆手にとっているようである。
 調査によると、更新の上限は10社全てが5年未満で、うち9社は3年以下だった。2社は空白期間が6カ月未満で、再契約をすれば将来的に無期契約に切り替わる可能性があったそうである。空白期間を6カ月としている7社は労働契約法の改正を踏まえて期間を定めたという。

 関連して、当事者である労働者が無期転換のルールを知らないことも問題だと思う。(以下も毎日新聞https://mainichi.jp/articles/20170517/ddm/016/040/028000c?inb=ysより引用)・・・『非正規労働者 5年超で「無期」に転換 当事者58%「知らない」 安定雇用目的に来春導入』
 非正規労働者が5年を超えて勤務すると正社員と同様に定年まで働けるようになる「無期転換ルール」について、非正規の58・6%が制度の存在を知らないことが、人材サービス会社アイデム(東京)の調査で分かった。このルールは非正規の雇用安定を目的に来年4月に始まるが、当事者に十分浸透していない実態が浮き彫りになった。
 ルールは2013年4月施行の改正労働契約法に盛り込まれた。非正規労働者は同じ会社で契約更新が繰り返されて通算5年を超えた場合、本人の申し込みに基づき、正社員と同じように契約更新の必要がない「無期雇用」として働けるようになる。一般的には企業の中核を担う正社員ではなく職種や勤務地を定めた限定正社員となるケースが先行導入した企業では多い。
 調査は3月、同じ勤務先で6カ月以上働く20~40代のパートやアルバイト、契約社員の男女679人と、従業員30人以上の企業の経営者、人事総務担当者554人にインターネットで実施した。ルールを「知らない」と答えた非正規は58・6%で、「内容はよく分からない」は27・1%。「内容を理解している」はわずか14・3%だった。
 一方、企業側は71・7%が「内容も理解している」と回答。「内容はよく分からない」は21・5%で、残りは「知らない」と理解不足の企業も目立った。
 雇用している非正規への周知・説明を「すでにした」のは48・2%にとどまり、「これからする予定」は38・6%、「予定はない」も13・2%に上った。
 アイデムの担当者は「企業が周知に取り組むことも大事だが、働く人は自ら申し込まないと権利を行使できない。積極的に情報収集すべきだ」と指摘した。
・・・引用終わり。

 企業が雇用する労働者への制度適用を説明しないのも問題だが、労働者も権利を知らないのは問題だと思う。ただ、使用者が行うべき労働者への周知義務については、上記の「無期転換ルール」についての義務は無い。国の政策の意図的な法の穴のように思える。ザル法だ。
 例えば、下記の国(厚労省)のパンフ
 http://tokyo-roudoukyoku.jsite.mhlw.go.jp/library/tokyo-roudoukyoku/entrepreneur/yuki_keiyaku/guideline.pdf


 あともう2つ
 
 時事ドットコムニュースhttps://www.jiji.com/jc/article?k=2017122600609&g=ecoより引用・・・
 東京労働局などは26日、野村不動産(新宿区)に対し、数百人の社員に不当な裁量労働制を適用したとして、是正勧告を出したことを明らかにした。勧告は25日付で、同社の宮嶋誠一社長に特別指導もした。同社は今後、未払いだった残業代についても対応するとしている。
 東京労働局や同社によると、対象となったのは本社と関西、福岡など4事業所で働く数百人の社員。主に営業を担当していたが、企画や調査に従事する労働者が対象の「企画業務型裁量労働制」が適用されていた。このため、違法な長時間労働や残業代の未払いが発生していたという。
(2017/12/26-16:12)・・・引用終わり。

 裁量労働制に関しての違法取り締まりや指導の所管は管轄地域の労働基準監督署(の監督官)が担当だが、東京労働局が同社社長を読んで特別指導したとはかなり異例の対応だろう。
各支社ごとの違反ではない、組織的・全社的に違法な運用をしていたということだ。
 本来企業というのは、違法な事業を行う意思を持っていないもの(やくざなら格別)だが、この野村不動産という会社は、その事業活動が労働法において違法な意志をもって行われていたということではないかと思う。

 最後に、(これも時事ドットコムニュース)より引用・・・NHKは26日、今年4月から記者職を対象に導入した専門業務型の裁量労働制について、渋谷労働基準監督署から指導を受けたことを明らかにした。指導を重く受け止め、見直しを行う方針。取材に応じた石原進経営委員長によると、渋谷労基署から「勤務実態を踏まえ、適切な水準となるよう制度内容を見直すように」との指導が14日付であったという。
 NHKは2013年に死亡した女性記者が過労死と認定されていたと今年10月に公表。再発防止策の一環として、記者職を対象に専門業務型裁量労働制を導入した。(2017/12/27-01:52)
・・・引用終わり。まあ、これは野村不動産とは異なり、意図的なのか法の不知なのかは不明。


 ついでに、大きなお世話だが・・・連合会長の神津さんは枝野さんに文句を言う暇があったら、こういう労働問題に取り組んでもらいたいものだ。足元がもうたっていられないくらい地面が減っているだろう。
 安倍さんにも・・・この裁量労働制の拡大は行うべきではない。過労死がもっと増えるだろう。

 
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