恵原俊彦著
東京図書出版会
★★★
大正8年に、カラフトへ渡った一家の記録。
カラフト生まれの著者が、抑留生活の後、
盛岡へ引き揚げるまでが、
56の短編にしてまとめられております。
ダッタン人と言うのは、タタール人(トルコ系遊牧民)
の事だとはじめて知りました。
少年時代のエピソードは、著者の
子供らしい驚きに満ちています。
カラフトには、映画館もあり、日本人も
多く住んでいたもようです。
カラフトシシャモは、北海道の物より大きく
体長は12~3㎝ですが、「雑魚」と呼ばれ
当時は、食用ではなく、飼料でしたが
網の一投で、石油カン半分も獲れたそうです。
また、豊眞線は、上越線と並ぶ、渓谷美を
堪能できるループ線ですが、ロシア領に
なってからは、客車では通れなかった様です。
引き揚げ船に乗船する前に、
風景が入っている写真は没収されました。
ルーブル貨幣とカペイカ硬貨も没収です。
抑留生活中に、同居していたニコライ・バーヴシカ
母子との心温まる交流。
タグボートの火夫をしている時、三角波の底へ
入った体験。
Kさんが、タコ部屋から逃亡する「逃亡を決意」では
自分が捕まる様で、ドキドキします。
「引き揚許可証」を、無事にもらうまでの
エピソード等も見逃せません。
抑留生活や、悲惨な戦争体験も語られていますが、
何処となく「あの頃はみんな、そうだったんだよ」的な
柔らかな表現で描かれています。
客観的にとらえる事ができ、
穏かな気持ちで読めました。
どちらかと言えば、内容は、人情話の方が多く
語られています。