定額給付金ものがたり

むか～しむかし、一ヶ月ほど前。
おじいさん（夫）とおばあさん（私）のところに、
定額給付金の、
手続きの書類が送られてきました。

おじいさんは、
「遅いなぁ。○○市では大分前から送られてきてたで」
と文句をいい、
おばあさんは、
「まぁまぁ。そんなこと言わないで、もらえるものはもらっておきましょう」
と世の中の流れのままに答え、
翌日には早速書類を返信しました。

それから、しばらくの間

おじいさんは、
「なんか、おいしいものでも食べにいけるのかな？」
と、期待をし、
おばあさんは、
「引越しの区切りもあるんだし、何かかわいいインテリアでも買おう」
と、現実的に考えて、
まだかまだかと、その日を待ち望みました。

そしてこのことは、日常の中の奥の方へ、押し流されていきました。

やがて、５月の末になって。

　　　　　★

相次ぐ仕事の中止などで、
掃除や洗濯、本の整理などに明け暮れていた
おばあさんは、
ふと思いついて、
ネットバンキングを見に行きました。

するとどうでしょう。
すっかり忘れていた、定額給付金が入金されていたのです。

おばあさんは、喜び、
仕事から帰ってきたおじいさんに言うと、
「回転寿司、行きたいな」と、
小さくつぶやいたので、
「どか食いしないのならこの週末にでも」
と、返事をしたら、
おじいさんも、とっても嬉しそうに笑いました。

その日は、
ささやかな幸せをかみしめて、
おじいさんとおばあさんは、それぞれの寝床につきました。

おじいさんはあっという間に眠りにつき、
寝つきの悪いおばあさんは、
ケータイのいらないメールを削除しながら、
やがてウトウトとし始めました。

おばあさんが、浅い眠りにつきかけたとき、

「んごごごごご！！」

と、おじいさんの渾身の力をこめたいびきが響きました。

「もう！やっと寝かけたのに！！！」

おばあさんは、また目が冴えてしまいました。

仕方なくおばあさんは、明かりをつけて、
枕元に置いていた、『収納テク』に関する本を、
パラパラとめくりました。

するとそこには、
壁にかけられたはがきホルダーの写真がありました。

目の冴えたおばあさんは、
その写真を見て、
一瞬にして、今度は頭の方が冴えてきました。

「あれ！？自動車税、払ってないんじゃない？」

おばあさんは布団から飛び起きて、
リビングに掛けてあるはがきホルダーの中を覗いてみました。

そこにはなんと、自動車税の納付書があるではありませんか！

「どうしよう。締め切りいつだっけ？？？」

住宅ローンに関することばかり気にしていたおばあさんは、
すっかり忘れていたのです。

納付期限は、６月１日（月）まででした。
おばあさんは、ほっとしました。

でも、悲しくもなりました。

「自動車税って、入金された定額給付金よりもお高いのね……」

おばあさんの脳裏から、
かわいいインテリアの雑貨はどんどん遠ざかって、
やがて消えてしまいました。

翌日の朝、
おじいさんはいつものように、
山へ芝刈り……じゃなくて、
お仕事へ行きました。

おばあさんは、
国からもらった定額給付金に、
さらに自腹をきって、
自動車税として国へ返すことを、
言わずに見送りました。

回転寿司は、中止です。

週末は、
おじいさんが好きな、
豚のしょうが焼きでも作ろうかな、なんて、
寿司ではなく、やはり頭を回転させながら、
思ったりしたのでした。

めでたくない。めでたくない。