日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

梅田へ行きたい愛知県くん

2009年04月06日 | その他の日々
この日、初めてスプリングコートを着て外出した。
桜が真っ盛り。
もう冬には戻らないんだな、戻れないんだな、と思う。

ひとりの若者が自転車に乗って、
私の前に現れた。

「梅田は、どっちッスか?」

切れ長の目、3枚刈りぐらいの短髪……。
ちょっとコワイ人相の。
イントネーションも、大阪弁ではない。

でも、「梅田は、どっちッスか?」はないだろう。
だって、この道をそのまま真っ直ぐ行くと、
奈良なんだから。

「全然違う方向だけど。
それに、ここから自転車で行くのはオススメできないほど、
遠いところなんだけど」

「えーーーー!!マジっすか!?」

「何処から来たの?」

「日本橋ってところッス」

「日本橋からここまでだったら、もうとうの昔に、
梅田についていたかも……」

私は、車で行く場合の、
梅田の行き方を教えた。
教えれば教えるほど、自転車はオススメできないと思った。

そうでなくても、日本橋からもうここまで、
自転車で来ているんだから、
いくら二十歳前後の若者でも、しんどいだろう。

「この自転車を返すために、梅田にいくんスよ」

自転車には、お札風なシールが貼られてて、
『猛虎○○会』とか書かれている。

「じゃあ、相手さんにも、梅田なんて言わず、
近づいてもらったら?」

「相手も……アニキも梅田の事は、わかってないんスよ」

「……こういう道の間違え方をするってことは、
大阪の人とちゃうよね?」

「自分、愛知なんスよ。二週間前に日本橋に来て……」

「せめて、日を改めたら?いや、そこまでいかなくても、
夕方にするとか……」

「それが、さらにこの自転車で、アニキと三国の方へ行く用事があって……
2時までに……」

2時!!そりゃ無理だわ……。

というところで、愛知県くんのケータイが鳴った。
どうやら、アニキかららしく、

「はい。……すいやせん。道、逆に行ったようで、とんでもないところに……、
はい……はい……」

もうすでに、私にできることはないのだが、
好奇心から、愛知県くんをじっとながめていたけれど、
それに気づいた愛知県くんは、
ケータイで話をしながら、片手で拝むようなしぐさをして、
私にお礼の会釈を。

そこまでされると、じっと見ることは出来ないので、
私は地下鉄の駅へとまた歩き始めた。

しばらくすると車道の方を、
愛知県くんがケータイでしゃべりながら、
自転車を猛スピードに走らせて、私の横を過ぎ去った。

これもまた、春のヒトコマだな、とふと思ったら、
スプリングコートが風に翻った。

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