この日、初めてスプリングコートを着て外出した。
桜が真っ盛り。
もう冬には戻らないんだな、戻れないんだな、と思う。
ひとりの若者が自転車に乗って、
私の前に現れた。
「梅田は、どっちッスか?」
切れ長の目、3枚刈りぐらいの短髪……。
ちょっとコワイ人相の。
イントネーションも、大阪弁ではない。
でも、「梅田は、どっちッスか?」はないだろう。
だって、この道をそのまま真っ直ぐ行くと、
奈良なんだから。
「全然違う方向だけど。
それに、ここから自転車で行くのはオススメできないほど、
遠いところなんだけど」
「えーーーー!!マジっすか!?」
「何処から来たの?」
「日本橋ってところッス」
「日本橋からここまでだったら、もうとうの昔に、
梅田についていたかも……」
私は、車で行く場合の、
梅田の行き方を教えた。
教えれば教えるほど、自転車はオススメできないと思った。
そうでなくても、日本橋からもうここまで、
自転車で来ているんだから、
いくら二十歳前後の若者でも、しんどいだろう。
「この自転車を返すために、梅田にいくんスよ」
自転車には、お札風なシールが貼られてて、
『猛虎○○会』とか書かれている。
「じゃあ、相手さんにも、梅田なんて言わず、
近づいてもらったら?」
「相手も……アニキも梅田の事は、わかってないんスよ」
「……こういう道の間違え方をするってことは、
大阪の人とちゃうよね?」
「自分、愛知なんスよ。二週間前に日本橋に来て……」
「せめて、日を改めたら?いや、そこまでいかなくても、
夕方にするとか……」
「それが、さらにこの自転車で、アニキと三国の方へ行く用事があって……
2時までに……」
2時!!そりゃ無理だわ……。
というところで、愛知県くんのケータイが鳴った。
どうやら、アニキかららしく、
「はい。……すいやせん。道、逆に行ったようで、とんでもないところに……、
はい……はい……」
もうすでに、私にできることはないのだが、
好奇心から、愛知県くんをじっとながめていたけれど、
それに気づいた愛知県くんは、
ケータイで話をしながら、片手で拝むようなしぐさをして、
私にお礼の会釈を。
そこまでされると、じっと見ることは出来ないので、
私は地下鉄の駅へとまた歩き始めた。
しばらくすると車道の方を、
愛知県くんがケータイでしゃべりながら、
自転車を猛スピードに走らせて、私の横を過ぎ去った。
これもまた、春のヒトコマだな、とふと思ったら、
スプリングコートが風に翻った。
桜が真っ盛り。
もう冬には戻らないんだな、戻れないんだな、と思う。
ひとりの若者が自転車に乗って、
私の前に現れた。
「梅田は、どっちッスか?」
切れ長の目、3枚刈りぐらいの短髪……。
ちょっとコワイ人相の。
イントネーションも、大阪弁ではない。
でも、「梅田は、どっちッスか?」はないだろう。
だって、この道をそのまま真っ直ぐ行くと、
奈良なんだから。
「全然違う方向だけど。
それに、ここから自転車で行くのはオススメできないほど、
遠いところなんだけど」
「えーーーー!!マジっすか!?」
「何処から来たの?」
「日本橋ってところッス」
「日本橋からここまでだったら、もうとうの昔に、
梅田についていたかも……」
私は、車で行く場合の、
梅田の行き方を教えた。
教えれば教えるほど、自転車はオススメできないと思った。
そうでなくても、日本橋からもうここまで、
自転車で来ているんだから、
いくら二十歳前後の若者でも、しんどいだろう。
「この自転車を返すために、梅田にいくんスよ」
自転車には、お札風なシールが貼られてて、
『猛虎○○会』とか書かれている。
「じゃあ、相手さんにも、梅田なんて言わず、
近づいてもらったら?」
「相手も……アニキも梅田の事は、わかってないんスよ」
「……こういう道の間違え方をするってことは、
大阪の人とちゃうよね?」
「自分、愛知なんスよ。二週間前に日本橋に来て……」
「せめて、日を改めたら?いや、そこまでいかなくても、
夕方にするとか……」
「それが、さらにこの自転車で、アニキと三国の方へ行く用事があって……
2時までに……」
2時!!そりゃ無理だわ……。
というところで、愛知県くんのケータイが鳴った。
どうやら、アニキかららしく、
「はい。……すいやせん。道、逆に行ったようで、とんでもないところに……、
はい……はい……」
もうすでに、私にできることはないのだが、
好奇心から、愛知県くんをじっとながめていたけれど、
それに気づいた愛知県くんは、
ケータイで話をしながら、片手で拝むようなしぐさをして、
私にお礼の会釈を。
そこまでされると、じっと見ることは出来ないので、
私は地下鉄の駅へとまた歩き始めた。
しばらくすると車道の方を、
愛知県くんがケータイでしゃべりながら、
自転車を猛スピードに走らせて、私の横を過ぎ去った。
これもまた、春のヒトコマだな、とふと思ったら、
スプリングコートが風に翻った。