日々・ひび・ひひっ!

五行歌(一呼吸で読める長さを一行とした五行の歌)に関する話題を中心とした、稲田準子(いなだっち)の日々のこと。

年賀状の返信

2008年12月03日 | その他の日々
先週の月曜日だった。

大学時代の同級生のお父様から、
電話があった。

「彼」が亡くなったという。

     ★

「彼」が
三年前に、救急車で運ばれたというのは、
本人から聞いていた。

きっかけは、
ネットのグリーティングカードで
送りなおした、年賀状。

紙で送った年賀状が
あて先不明で戻ってきたので。

「彼」は年賀状を書かない人だった。
送られてきても、返事を書かない人だった。

なのに、
そのネットの年賀状には、
メールで返信を送ってきた。

内容は、
救急車で運ばれたこと、
実家に戻って、
大学時代から住んでいた奈良の家を引き払ったことが、
「彼」独特の文体で書かれてあって。

だけど私は聞き返せなかった。
どうして、救急車で運ばれることになったのかを。

どうも、メールの中に、
「彼」の
「聞かないで」という暗黙の願いが、
込められているような気がして。

     ★

今回のお父様からの連絡をきっかけに、
あちらこちらの、
大学時代の同級生に電話をかけた。

お父様のぼんやりとした説明に、
親しかった友人の説明が重なって、
明らかになっていく、「彼」の三年間。

「彼」が救急車で運ばれたのは、脳梗塞だった。

それで、右半身の感覚が麻痺した状態になって。

一時は大変だったらしいが、
それでも「彼」は頑張って、
日常生活に影響はないくらいにまで、回復をして。

今年の7月には、
難波まで、遊びに来たりもして。

そして、今秋、
彼は地元の工場で、社会復帰した。

しかし、働き出してすぐの、夜勤中に倒れ、そのまま。

     ★

あまりにもめずらしかったので、
「彼」からの年賀状の返信は、
いまでもこの「PC」の中に納まっている。

紙の年賀状なら、
少しは黄ばんで、時の流れを思わせてくれたかもしれない。

しかし、
肉筆でもない、そのメールは、
ついさっき、送られてきたかのような顔のまま。

右半身を麻痺させたからだで、
送ってきたとは分からない、
誰が書いてきても同じフォント。

果たして、
メールだから、簡単だったから、
「彼」は年賀状の返信を送ってきたのだろうか。

何かの想いが、後押しをしたから、
書く気になったんだろうか。

この、絵文字付きの、明るく短い、
いつもの文体。

この返信の向こう側にいた「彼」はもういない。

不意に返信をくれるなんてことは、もう二度とない。

二度とないのだ。

「彼」のご冥福をお祈りいたします。

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