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至誠惻怛(しせいそくだつ)=真心と慈愛の精神

劇的物語「ファウストの劫罰」

2010-02-03 | 日記
 ――歴史秘話ヒストリア「親父、いいかげんにしてくれよ~信長に振り回された家族たち」 (キャスター=渡邊あゆみ) NHK総合 22:00~22:45)
 
 もし、お父さんが織田信長だったら、あなたの人生はどうなると思いますか。織田信長の一家は、兄弟姉妹や子供が20人以上という大家族。なぜ、だれも天下取りを引き継ぐことができなかったのか。巨大なカリスマ家長・信長を尊敬しながらも、その常識はずれの個性に翻弄される織田家の騒動と悲劇を、家族を心配して信長と対立する弟や、信長の無茶な教育にとまどい、父を超えようと悩む息子たちの姿を通して描く。
 
 
 
 【兄・信長は鬼となった】
 織田信長と弟・信勝(のぶかつ)は対照的な兄弟だった。嫡男・信長は本来格式を重んじる武家にあって奇抜な格好を好み、身分よりも実力で家臣を選ぶ。一方、両親の愛情を一身に受けて育った信勝は、旧来の織田家安泰を望む常識人となる。古参の家臣たちは弟・信勝に家督を譲らせようと画策、兄弟の亀裂は大きくなっていった。ところが弘治2(1556)年、両者が激突すると信長軍は倍以上の兵をもつ信勝軍を撃破、そのうえ信勝らを全員赦免することで一挙に人心を掌握した。孤立した信勝は2年後、ふたたび謀反を計画。これを知った信長は、ついに弟を手にかけることとなった。当時、信長と親しかった宣教師の手紙にも綴られた兄弟の悲劇。
 
  「宣教師の手紙」大村市松田毅一南蛮文庫所蔵
 
 【がんばれ長男-信長流教育のすべて】
 信長の後継者教育は苛烈だった。長男・信忠(のぶただ)は早くから父とともに戦場に赴き、19歳で岐阜・岩村城攻めの総大将をまかされる。信忠は武将たちの命を救うことを条件に開城に成功するが、父・信長は助けるはずの武将たちをことごとく処刑、戦国の世の厳しさを思い知らせた。信長に「器用なだけの愚か者」と厳しい評価を与えられた信忠は奮起、26歳のとき武田攻めで大きな功績を挙げ、ついに信長から天下を譲ると約束された。ところが、この直後、本能寺の変が発生した。このとき、近くにいた信忠は「逃げ延びて織田家を継ぐ」という道を選ばず、数百の手勢で1万の明智光秀軍に立ちむかい戦死した。信忠の選択は正しかったのか。織田家の運命に大きな影響を与えた信長の後継者教育に迫る。
 
  「織田信長・信忠木像」阿弥陀寺所蔵
 
 【父よ、ぼくはあなたになりたかった】
 本能寺の変後、織田家の後継者に躍り出たのが三男・織田信孝(のぶたか)。じつは信孝は本来なら出生順で次男になるはずだったが、直後に生まれた別腹の子供・信雄(のぶかつ)の方が母の家柄が上だったため三男とされてしまった。格式で次男と差をつけられた信孝は戦場で活躍、何とか父に認めてもらおうと奮闘した。本能寺の変直後には弔い合戦の総大将として明智光秀を破り、家督を継ぐかに見えた。しかし、次男・信雄が反対。信長の家臣だった羽柴秀吉までが信雄に味方し、得意の根まわしで信孝を孤立させていった。秀吉と信雄に攻め込まれ捕えられた信孝は、愛知の寺に送られ、切腹させられた。寺には今も信孝が切腹のときに、はらわたを投げつけたという血染めの掛け軸が秘蔵されている。それは、その無念さを如実に物語っている。

 
  「血染めの掛け軸」安養院所蔵

 ――劇的物語「ファウストの劫罰」 (エクトル・ベルリオーズ作曲、米国メトロポリタン歌劇場、2008.11.22) BS-hi 23:00~25:30
 
     <出演>
      マルグリット…スーザン・グラハム
       ファウスト…マルチェロ・ジョルダーニ
   メフィストフェレス…ジョン・レリエ
          指揮…ジェイムズ・レヴァイン
          演出…ロベール・ルパージュ
          美術…カール・フィリオン

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 【構成】
 
 <第1部>
 ファウスト伝説やゲーテの原作にはない、ハンガリーの場面に始まる。ハンガリーの丘の上にたたずむファウストの耳には農民の歌や踊りが聞こえてくるが、ファウストの気分は沈んでいる。遠くにはハンガリーの兵隊の行進(『ラーコーツィ行進曲』)の音が聞こえてくる。
 
 <第2部>
 ファウストは深く沈んだ気分で書斎にこもり、絶望の果てに自殺を決意する。しかし、毒入りのカップを口に運んだとき、教会の鐘が鳴り、賛美歌が聞こえてくると、ファウストは再び生きる気力を取りもどした。そのとき突然、トロンボーンと木管楽器の音色に乗せて悪魔メフィストフェレスが現れる。メフィストフェレスはファウストを外へ連れ出す契約をし、ファウストもこれに合意する。そして、ライプツィヒのアウエルバッハ・ケラーという酒場(実在する)へと連れて行く。そこにいた酒飲みのブランデルは『鼠の歌』をうたい、その仲間たちがそれに連なりフーガの大合唱になる。続いてメフィストフェレスが『蚤の歌』を歌う。しかしファウストは気が滅入り他の場所はないのかとメフィストフェレスに要求する。
 メフィストフェレスが次にファウストを連れていったのは田舎の町で、そこでファウストに呪いをかけ、マルグリート(マルガリータ)という女性の夢を見せる。ファウストはマルグリートに恋に落ちる。深い夢から「マルグリート」と叫びながら目覚めたファウストに、メフィストフェレスは彼女のところへ行こうと提案し、学生や兵隊の行進に混ざってマルグリートの住む町に忍び込む。
 
 <第3部>
 ファウストとメフィストフェレスはマルグリートの家に侵入する。マルグリートはトゥーレ王の歌を歌う。メフィストフェレスは鬼火を召喚し、鬼火はマルグリートの周りの周りで踊り始める(『鬼火のメヌエット』)。
 ファウストはマルグリートの前に姿を現す。すると、マルグリートはファウストのことを夢に見たと告白する。2人は愛の二重唱を歌うが、そこへメフィストフェレスが入り込み、マルグリートの母親が町中の人を連れて近づいてきているからここを速やかに立ち去らなければならない、とファウストに告げる。ファウストはマルグリートに別れを告げて去る。
 
 <第4部>
 マルグリートは家でファウストが帰ってくるのを待ちながら『紡ぎ歌』を歌う。再び学生と兵士の行進に移るが、そこにファウストの姿はない。場面は森と洞窟に移り、そこでファウストは『自然への祈り』を歌う。メフィストフェレスはファウストに「マルグリートが絶望のあまり母親に多量の睡眠薬を飲ませて殺し、今は刑務所に拘留されていて、明日には絞首刑になる」と伝えた。ファウストは混乱したが、メフィストフェレスは「自分はマルグリートを救うことができる」と説明した。ただしそれには、ファウストが自分自身の魂を放棄するという契約書にサインしなければならなかった。そして、ファウストはこの契約に応じる(そのとき、台詞は一瞬途絶え、打楽器が破滅の予感を示す音を演奏する)。
 メフィストフェレスは馬を召喚し、それにまたがる(『地獄への騎行』)。ファウストはマルグリートを助けにいこうと考えていたが、しかしグロテスクな光景を目の当たりにしてファウストの心には恐怖が募っていく。彼らは急に止まり、鐘の音を耳にする。それはマルグリートの死刑が執行されるのが近いことを意味していた。そして、彼らはさらに速度を上げる。
 周りの風景はさらに恐ろしく奇怪なものへと変化してゆく。天からは地の雨が降り、路上には骸骨が転がっている。メフィストフェレスは“infernal cohorts”を叫び、ファウストともに奈落の底へ落ちてゆく(なお、これは第1部と同様、原作とは話の筋が異なる)。
 悪魔達はメフィストフェレスに対し、ファウストは本当に自ら魂を明け渡したのか尋ねる。メフィストフェレスはこれにうなずく。悪魔達は、悪魔の王子の名前を唱え、メフィストフェレスの周りを踊りながら、勝利の合唱を歌う。
 
 <エピローグ>
 解説風の合唱が、地獄の恐ろしさや『恐怖の神秘』を歌う。そこへファウストの契約通り、贖罪されたマルグリートの魂が現れる。マルグリートは天使達の合唱に連れられて天国へと迎え入れられた。

 
 ……ヒロインのマルグリットを演じたスーザン・グラハムは、昨年9月、「サイトウ・キネン・フェスティバル in 松本」で、小澤征爾の指揮により、ラヴェルの「シェエラザード」を独唱している。
 マルグリット、ファウスト、メフィストフェレスの3人が、それぞれ輝いていて引き込まれた。会場も、感動のスタンディング・オベイションだった。録画しなかったのが悔やまれる。



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