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ガラスの御伽噺

ガラスの仮面、シティ-ハンタ-(RK)、AHの小説、BF
時代考証はゼロ
原作等とは一切関係ございません

木枯らしの街で〜3〜 想い、それぞれに 【完】

2020-02-23 07:00:00 | ガラスの仮面
平日のど真ん中に販売された、“週刊分秋”。
白黒の粗い写真の掲載されたページに水城はくぎ付けだ。

 斎藤ハルカと、目元だけ黒塗りされた我がボス真澄の、体が密着したツーショット。

 ボスの真澄に朝のコーヒーを入れるため、ブルーマウンテンの豆を電動グラインダーで引きながら、こめかみがピクピクとひきつって痙攣するのを手入れの行き届いた中指で軽く抑えた。聞きなれた電動グラインダーのモーター音すら、イラつきを覚える。

 そもそも、この手の記事が出ることなんか、真澄は把握しているはずで。そして、毎度毎度思うのは、この手の記事が出された裏に、陰で動く人物の気配を感じずにいられないことだ。なにしろ、自分は全く感知していないのだから。誰かが真澄の指示で記事をリークし操っている。

 役員専用給湯室からコーヒーを運ぶ水城に、すれ違う社員の視線が痛い。
 
   ----あの鷹宮家と決別したとたん、女優と浮名か?----
   ----堅物と表面で言われているが、実は女問題で鷹宮家と破断したんじゃないか?----

 社員たちの目が訴える言葉が、ありありと伝わる。社内ですらこうなのだから、世間一般なんて、相当下世話な空想の世界に沸いているのだろう。

  『失礼いたします』

 心の中のざわめきことなど、なにも無いように、真澄の執務室のドアを軽くノックすると、
水城は入れたてのブルーマウンテンの香りをともに入っていった。

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 よく晴れた秋の朝の光は、夏よりも透明な空気をまとって部屋の中に差し込んでくる。今朝は結構冷え込んでいるというのに、マヤはマンションのベランダ窓を全開にし、
コーヒーメーカーからコポコポと音がするのを聞きながら、コーヒーが抽出されるのを待っている。

 このコーヒーメーカーは、麗や月影の劇団員たちが遊びに来た時、彼かをもてなそうと購入したのだが、結局このマンションに誰も来ることはなく、遊びに白百合荘や地下劇場に遊びにいくのはマヤばかりだ。しかたなく、このコーヒーメーカーはマヤがカフェオレを飲むときのコーヒーを作るときと、彼女のマネージャーここにが来たときに出すコーヒーを出すときしか使われない。

 レンジで温めた甘いミルクにコーヒーを注ぎ、iPadのホームボタンを押す。先ほど見た、週刊分秋の表紙が、出てきた。

 “ふ~” 

 熱々のカフェオレを息で覚ましながらページをスワイプすると、その記事は出てきた。マネージャーが、取り乱しているのを必死に抑えるように、早朝電話で知らせてきた記事で。
 
 『こんなの、週刊誌の記者がたまたま取った写真に記事くっつけたガセねただから!きにしないでね!!』

 マヤは寝ているところにこの連絡を受けたので、半分寝ぼけてたが、記事をみてナルホドと思う。
マネージャーは、マヤを真澄が個人的な交際している事を知る数少ない人間で。しかも、マヤのマネージャーになってまだ2年にも満たず。ましてHDトップの速水真澄のことなだほとんどしらない。マヤと真澄の関係を知っているとは言え、確執を含めた長年の経緯はよく知らない。マネージャーがこの記事を読んで、慌てふためくのは無理もない。

 マヤは自分でも驚くほど動揺していない。マネージャーにとっては清純無垢な娘に見えるかもしれないが、かつては恩師月影千草のスキャンダル記事を丁稚あげたりしてきた、真澄だって知っている。そして今は本当の真澄を知って自負もあり、記事の中の真澄は別人のようにしか見えないのだ。

 マヤはカフェオレを飲み終わると、シャワーをあびて着替えた。今日は、紅天女の初顔顔合わせ。一応、美容院で身支度を整えてから行くということになっているので、あと一時間もすればマネージャーが迎えにくるだろう。

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 今朝。

 健気に真澄を信じるマヤに、週刊分秋の衝撃的な写真付きスクープは、マヤにどれほどの動揺をもたらすのか、と一番動揺しているのはマヤのマネージャーだ。

 よりによって、紅天女の新春公演の顔合わせは、まさに本日。今日はマスコミは入らないものの 腹の中に何を抱えているかわからない業界の人間が大勢集まる日だ。主演女優の様子が可笑しいとあれば、どんな話が飛び交うかわかったものではない。

 実は、水城経由で内々に、この紅天女の新春公演が終わり、落ち着いた頃に、マヤと真澄の交際を世間に公表する予定であると聞かされている。なのに。それなのに。

 『なに?! この分秋砲は!! マヤちゃんが、どれだけ我慢してるとおもってんだ―!!!』
誰にも吐露できない思いを、心の中で叫ぶ。

 ・・・・この記事がマヤの目に入る前に、自分がクッションにならなくては・・・・

 そんな思いで、早朝もマヤの携帯に連絡をいれた。肝心のマヤが寝ぼけて聞いていたのが心配なのだが。それでも時間はいつも通りにすぎていく。今日は顔合わせに行く前に美容院で主演女優にふさわしい身支度にしていく予定だ。頭の中は混乱するが、今は自分も支度をしないといけない。クローゼットからスーツをだして着替えながら、長い壱日を算段していった。

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 まだ朝の七時半といのに、大都HDのビルの周囲は様々な記者や野次馬でごった返している。大通りを挟んだ向かえのビルのエントランスから、一服するサラリーマンを装い、聖唐人は様子を見ていた。

 うろつく記者を邪魔そうにしながら、大都HDのビル直結の地下鉄駅から大勢の人間が地上に出てくる。全く興味なさそうに足早に会社に向かおうとする人間もいれば、チラチラと様子を伺いながら歩く人間、ツイートしているのか写真を撮ってスマホに打ち込んでいる人間も。様子は様々だ。

 二本目のタバコを少し吸ったところで、聖は携帯灰皿に揉み消すと、タクシーを拾う。今日のマヤの顔合わせ会場である、大都劇場の様子を伺いに行くためだ。
彼のボス速水真澄も現場主義だが、聖の現場主義はそれを上回る徹底ぶり。どんなに多忙でも手を抜かない。だから、彼ほど、長く濃密に真澄とマヤと見てきた者もない。

 行き先を告げられた暖房の効いたタクシーが走り出すと、ざわめく大都HDのビルが後ろに遠くなっていく。聖の脳裏に、真澄と電話した夜の記憶が浮かぶ。

 『『聖、オレの世間的な印象をいじってくれ』』

 あの写真を使った仕事を依頼してきた真澄の声は、とても穏やかなものだった。
GW明けには、マヤとの交際を公表すると決めていた真澄から、女性スキャンダルをリークさせるような内容というのに、落ち着きを払っている。

 今の状況で、マヤとの交際を明らかにすれば、鷹宮家や世論はマヤを深層の令嬢鷹宮紫織から奪った魔性の女優というレッテルがつくことが否めない。これは真澄が婚約を解消したのち、数年たとうが人々の記憶という鎖から避けられないだろう。しかし、だからといって今の状況を継続することはマヤに我慢を強いている時間がいたずらに重なるだけだ。

 最近の真澄といえば、業界では徹底的な堅物として通り、日本有数の名家の美しい令嬢と婚約にこぎつけるもなぜか破断になったよくわからない男というイメージが主流で。
 この状況でマヤとの交際を公表すれば、諸々の事情が一気にマヤに紐づけられる可能性がある。それは絶対に避けたかった。

 『『あの写真を使え。オレにしなだれる女優を利用する。』』

真澄の声に迷いはない。尻ごみをするように、煮え切らない聖に、具体的な記事の内容はメールで送るとい勝手に話をすすめていく。

 『真澄様、もうじき紅天女の顔合わせもございます。なぜ、わざわざ大都HDのトップであるあなたのイメージに泥をぬるようなことを?』
 
聖は真澄とは長い付き合いとしても、部下としての自身の立場をわきまえている。真澄の仕事の指示に疑問を呈したことなど一度もない。だから、この一言は重い。流石に真澄も即答はせず、一呼吸置いた。

 『タイミングは、・・・そうだな斎藤ハルカの新ドラマのてこ入れ・・・だな。確かにオレは大都芸能だけの人間ではなくなったが、たまにはちょっかいだしてもいいだろう?』

 聖は口の端が引きつる。次の言葉が出てこない。電話越しの真澄は、そんな聖の様子は知らぬ存ぜぬか、声はなんとなく少し楽しげで。聖はため息が出そうになるが、かつて「大都芸能の仕事の鬼・冷血漢」といわれたボスに、何か余裕がある事に気づく。こんな空気はマヤと心が通じたせいだろう。しかし、ならなぜマヤを傷つけるような行動に出ようとするのか・・・。聖は、もう一度だけ踏み込む。

 『では、マヤ様にとっても最良のタイミングを計られたとういうことなのでしょうか?』

 『いや。マヤにとってはタイミングなど計ってはいない。』 
 
聖は耳を疑った。女優の売り出しに一役かうのはともかく、マヤのタイミングはどうでもいいといわんばかりではないか。黙り込む聖の様子に、真澄をに苦笑いする。対面ではない、電話越しだから素直な気持ちになれるのか。その苦笑いは真澄の心を代弁するように自然に出たものだ。

 『タイミングなんか、はかれないんだよ。・・・聖・・・。オレが限界だ。』

聖は、もう何も言えない。言わなくてもわかる気がするのだ。真澄が心のうちを。

 ----“限界”など。こんな弱音を吐く男だったのかと。----

 淡々と話す真澄の言葉を聞く。要は、堅物という自分のイメージを壊し、マヤとの交際を公にしたときに、批判の矛先を自分に向けたいというそれだけ。タイミングも、待ったところで来るかどうか分からないものを待てない、マヤにはすまないが・・・、と。

 『こんな男だ。マヤと一緒にいたいだけで行動している。ひどいもんだろう。』

沈黙している聖に構う様子もなく続ける真澄に、いつの間にか聖の表情が和らぐ。この、一途な愛情を、誰が咎められるだろうか。不器用なこの人を、部下として生涯支え従う。それこそが、自分の使命、と。

 聖のアジトのベッドサイドの時計は、もうじき午前1時をさそうとしている。漆黒の窓の外は、強い風が吹き、時折風に飛ばされた金色のイチョウの葉が窓に張り付く。

 ボスとの電話中だったが、聖は電話が入る前に飲みかけていたスコッチのグラスを手に取る。ボスを真似て、冷凍庫に冷やしていたスコッチを注いだグラスは水滴に濡れている。聖は構わず手に取った。

 ----乾杯、真澄様。幸せになろうと無茶をするあなたに。----

 


                          【完】


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