アメージング アマデウス

天才少年ウルフィは成長するにつれ、加速度的に能力を開発させて行きました。死後もなお驚異の進化は続いています。

丘の上のマリア Ⅳ マリア③

2016-12-23 10:57:32 | 物語
 この夜、マリアが神泉駅の踏切を渡ったのは十一時を少し回った頃だった。
 フラフラと力なく、マリアは松涛の我が家を目指した。
 一人の男と出会すマリア。ネスタと言う名のネパール人だ。
 マリアは無視して通り過ぎようとするが、ネスタは後を追ってきた。
「マリアさん、今夜はまだ早い、どうですか?」
「今日は疲れているの。もうホテルに行くのは嫌」
「あそこのアパートの空き部屋の鍵を持っているよ」
 ネスタが指し示す先にぼろアパートあった。
 ネスタはマリアの腕を掴んでアパートを目指した。逃げようかと少し考えた
マリアだったが、松涛の我が家まではまだかなり距離があり、とても男の足か
ら逃げられない思い観念した。何よりも彼女の決意を鈍らせたのはここがまだ
円山町だったからだ。
 ネスタはまんまとマリアをアパートの一室に連れ込んだ。
 外観よりも更にオンボロアパートだった。何年も住民が居なかったに違いな
い。電気も付かず、変な臭いが漂っていた。
 ふて腐れたように佇むマリア、ネスタはコートを剥ぎ取り、押し倒した。
「何すんだよ! げす野郎」
 叫ぶマリアに覆い被さるネスタ、下着を剥ぎ取り、股の間に下半身を割り込
ませて来た。
 観念して眼を瞑るマリア、今夜はどうしてこんなに嫌何だろう? ほんの少
しの間がまんしていれば直ぐ澄む事なのに。
 マリアはネスタの物を感じると、自分から腰を使って、わざと喘いで見せて
男を挑発すると、案の定、男は果てて彼女の上に倒れ込んだ。
 ハアハアと荒い息をして、マリアの乳房にむしゃぶりつくネスタをはね除け
て上半身を起こした。
「さあ、終わったんだろう?」
「マリアさん、まだだよ、まだ」
「あたしを誰だと思ってるの」と、ネスタの顔の前に左手を突き出した。
「ほら、払う物があるだろう?」
 ネスタは渋々ズボンのポケットから皺だらけの万札を取り出してマリアに渡
した。
「一万? あたしは四万円の女」
「ご免なさい、今日はこれが全財産です、おまけして」
「フン、金も無いのに女を抱くんじゃ無いよ」
 マリアは暗がりで財布を捜し当てて、その一万円をねじ込んだ。
 かなりの万札が並んでいた財布を見たネスタは眼を瞬かせて、ゴクリと唾を
飲み込んだ。
「マリアさん、お願いがあります。お金貸して下さい。今日中に用意しない
と、わたし大変な事になります」
「知るか!」と、マリアは財布を胸に抱え込んで守った。
 その財布を剥ぎ取るネスタ、取り返そうとするマリア、少し揉み合っている
と、ネスタの手が彼女の右頬に当たった。
 倒れ込みネスタを睨むマリア。
 ネスタは財布から万札を抜き取り、走るようにしてアパートから逃げた。
 マリアは残された財布の中身を確かめた。
「馬鹿野郎、どうせなら全部とってけよ」
 大の字になって天井を見上げるマリア。「あーあ、ざまあ無い、罰が当たっ
たのかねえ」
 涙が流れて頬を濡らしたが、拭いもせずにマリアは暫くその儘でいた。暗が
りに慣れて,すこしずつ回りが見えてきた。六畳間だろうか、かなり狭く、汚
い部屋だった。
 いつの間にか、一人の男が足下で立っていた。
 無言の儘にらみ合う二人。
 男の肩が震えていた。
 突然閃光が走り、雷鳴が轟いた。二人がそう感じただけで、実際は車のライ
トが窓から飛び込んで来ただけだった。
「遅かったじゃ無いの、恭平、今夜もつけてたんだろ?」
 恭平と呼ばれたその男は憎々しげにマリアを見下ろしていた。
 また車のライトが飛び込んで来た、その時、アパートの壁も天掻き消え、ま
るで宇宙に漂うが如くに感じた。
 二人は、万華の無数の鏡で取り囲まれ、二人の人生が走馬燈のように浮かん
では消えた。

 見上げる恭平。
 聖女のような紗智子が二階のベランダで微笑んでいた。

 泣きじゃくる紗智子。
 優しく頭をなでる幸太。

 母・俊子が怨歌を口ずさんでいた。

「地獄に落ちろ! この雌豚」
 友恵を罵る紗智子。

「あの家には近づいては駄目。罪と怨念の渦巻いた、あの加藤家には」
 俊子が臨終の床から呟いている。

「ふん、お前なんか殺して剥製にしてやるからね」
 友恵が叫んでいた。

 工場の玄関で佇む聖女のような紗智子がいた。
 恭平に救いの手を差し伸べていた。

「いい年をして、死に損ないの孔雀のようですわ」
「お黙り! 化け猫!」

「好きにして良いのよ」
 恭平の耳元で囁く紗智子。

「父の遺志を継ぐためです」
 ダークスーツの紗智子が胸を張った。

「元気を出しなさい恭平。恥ずかしがっては駄目。君は立派なお・と・こなん
だから。ホラッ、こんなに立派じゃないの」

「ウワーッ」と叫んだ恭平がマリアに覆い被さり、白い手袋の両手を首に掛け
た。
「ちゃんと、もっとしっかり力を込めて」
 マリアが高い声で恭平を唆した。
 言われた儘に力を込める恭平。
 苦しげに噎びながらも、今度は紗智子の低い声で命じるマリア。
「わたくしは、君を創った。・・・創造主が命じるのです。この汚れた肉体を
滅ぼしなさい」
 恭平は紗智子に憧れ、無情の愛を捧げていたが、マリアを激しく憎悪してい
た。
「悪魔をわたくしの肉体から追うのです。殺すのです」
 ぐったりととして息を引き取るマリア。
 汚れた悪魔は恭平の両手の中でこと切れた。
 恭平に罪の意識は皆無だった。紗智子は安らかに眠り、永遠となったのだ。
 恭平は考えた。その為には悪魔のマリアの存在を消し去らなくてはいけな
い。と、・・・
   2016年12月23日   Gorou


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