エッセイ

雑記

4人目の同乗者

2018-01-05 13:50:43 | 日記
かつての舎弟に連れられ、久しぶりに福井に行った。
元々出身は北海道だが、福井はオレの故郷だ。
行ったのは、ある目的からだ。
福井に在籍当時、一度だけ行ったことがあるとある廃墟に、再び足を踏み入れるためだ。
当時、よくそうした場に駆り出されていた。
いわゆる「霊感」が強いためだ。
酔っていると、目の前にいる奴が生きている人間か死んでいる人間か見分けがつかないほど見える。
いわば、毒に塗れた場所に、毒の濃度を確かめるため最初に投入されるカナリアのようなモンだ。
その廃墟は、唯一オレが途中で逃げた場所だった。
当時、あまりにも怖すぎて逃げた。
銃を持ってはいたものの、とうに死んでいる人間に、そんなものは役に立たない。
いわば「リベンジ」だ。
福井にいくまでの車中で、すでに酔っていた。
ベロベロの状態だ。
もちろん、運転は舎弟。
久々に来てみると、「進入禁止」のテープが貼ってあった。
当然、そんなもん、お構いなしだ。
なにせ、酔っている。
相手がクマでも、イケそうだ。
元舎弟と、その連れの女とともに、足を踏み入れた。
入るなり舎弟が、「寒いっすね。きつけにシャブでもないんすか?」ときたので殴ってやった。
先にそいつを歩かせ、往年の「川口探検隊」の如く、いかにも「オレが最初に踏み入った」と言わんばかりに足を進めた。
舎弟が突き当りを曲がったところで、いきなり悲鳴を揚げた。
死体でも出たのかと思いいくと壁を指差し、「血文字…。”呪ってやる”って…」
指差す方向を見ると、確かに柱に赤の文字が書いてあった。
だが、「呪ってやる」ではない。
「祝って殺る」となっている。
部首を間違っている。
それで大笑いし、緊張がほぐれた。
舎弟も女もビビっていた中、建物をくまなく周り、車に戻った。
「当時、あれだけビビっていたのはなんだったのか…」
車中に戻るなり、そう自問した。
「さて、戻ろうか」
そういい何気なくバックミラーに視線を向けると、後部座席、オレの横に知らない女がいた。
いるはずのない4人目の同乗者。
振り返ると同時に消えた。
…久しぶりに、ホンキで怖かった。

コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 大牟田動物園 | トップ | …泣けた »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿