阿佐ヶ谷の古本屋「元我堂」ナンダ店長日記

下町とモダンが混在する町、阿佐ヶ谷。そこに妙に佇む一軒の古本屋「元我堂」を水曜店主ナンダが見たままに。そのままに。

元我堂だより

2004-10-14 13:32:53 | 元我堂店番日記
阿佐ヶ谷北口。

華やかな南口商店街とはまた違った人種が集う飲み屋「スターロード」と
あんまり利益とか追求しませんただ良い物を提供したいのですようちは。というテンションの
心地良いお店が並ぶ「旧中杉通り商店街」。

そんな、阿佐ヶ谷北口。

てくてく歩くこと10分。
そこにひっそりと、しかしなんとも言えぬオーラを放って佇む一軒の古本屋「元我堂」。
曜日ごとで店長が違うという、なかなか異色の古本屋「元我堂」。

わたし、ナンダが水曜日の店長となって2ヶ月が過ぎようとしている。
しかし月日を増す事にどんどん元我堂を好きになっていることがわかる。
こんな空間、ナンダがお客さんだったら嬉しくて通ってしまうだろうなーと、
ちゃぶ台に座りながら、ハタキをかけながら、つい、ふにふにと微笑んでしまう。

とにかく、なんでこんな良いところみんな寄っていかないの!?とたまに怒りすら覚えるほど
それはそれは素敵な場所なのだ。

”すごく良い”ではないかもしれないけど、”なんだかちょっと良い感じ”。そう、これ。


◆本日(というか昨日)の元我堂◆
 17:10 開店。ほんとは17時開店。
ナンダは店番の日は着物を着ることにしているのだけど、たまに着付けがうまくできなくて
店番に遅れてしまうときがある。
…いや、ときがあるとか言ってる場合ではなくて、こういうの大事だからしっかりしなくては、
と改めて思う。宣誓。反省。

ここ数日の雨がやっとあがって、こりゃー今日は忙しいかなと思っていたが
別にそんなこともなくて、阿佐ヶ谷の街はいつもと変わらず。
変わらないってことはいいことよ、うん。と自分を励ましながら
今のうちに品出しをしてしまおう。
今回は絵本と児童書。
リンドグレーンのカッレくんシリーズや瀬田貞二さんの昔話絵本など。
「スーホの白い馬」を眺めながらやっぱりこの忠誠心はすごいなと心打たれ、
でも、矢が刺さりながらスーホのところへ帰ってきた白馬もすごいが
瀕死のスーホを背負って歩き続けた友達もすごいな、と思う。
(それと馬頭琴の作り方も気になる)

まあ例によって8時ぐらいはまったり。客足はちらちら。
オープンしたばかりの向かいのパン屋さんからの、いい匂い光線でやられっぱなし。

火曜店長の石ころさん、来店。
石ころという名前がぴったりなムードな人。美術に詳しいのだけど、
ナンダは美術に詳しくないので話題は差し入れにくれた塩大福に移る。
あー、女子でよかった。わたし。

ちょうどアラーキーの「センチメンタルな旅・冬の旅」を改めて眺めて
なんとなく悶えていたところ、石ころさんが、こっちもいいよと薦めてくれたのが
アラーキーのデビュー作「さっちん」。
さっちんだー。あったんだ!
うーん。すごい。すごい迫力。すごい顔。…さっちんよ、なぜにそこまで。

”釣り堀があったから、阿佐ヶ谷に住むことに決めた。”というのを聞いて
東京は色んな人がいるなぁと感慨に浸る。

「地獄」という、子どもには見せたくないような大人でもできれば見たくないような絵本を
”掘り出したの♪”と笑顔で薦める石ころさん。

http://www.google.co.jp/search?q=cache:KV1LFfDYJukJ:bookweb.kinokuniya.co.jp/htm/4892192333.html+%E5%9C%B0%E7%8D%84%E3%80%80%E5%AE%AE%E6%AC%A1%E7%94%B7&hl=ja

で、今読んでみた。
こ、こわすぎる。なんかとにかくいいことしなきゃ。
地獄や、地獄や、こんなカタカタキーボード打ってる場合じゃない、とあわてる。
でも中途半端もいけないことなので、続けることにする。

ふと、お店の前をヨン様そっくりな会社員らしき人が横切る。
びっくりしてなぜかドキドキする。
でもなんでドキドキするんだろ、別に好きでもないのに。
自分の意外な一面に気付く。

石ころさんも帰ってしばらくすると、お客さま(青年)から”詩集ありますか”の声。
どんなですか?と聞いてみたら、アコギの歌唄いで歌詞がどうにも浮かばなくって、
なにか参考にできそうなものを、とのこと。
なぜかそこから彼(←セイくんというらしい)の上京話や青年期における将来への漠然とした不安や、現実社会での葛藤・迷いなどを聞くことに。

元我堂にはたまにこうした悩める人が訪れる。
でも、ナンダはどーんと応えてあげられるほど人生の修羅場をくぐってないので、
いまいち目覚めの一発のようなことを言ってあげられないのが悔しいのだけど、
でもこういうときって聞いてほしいんだろな、とひたすら聞いている。
すると来たときより明るくなってお店を後にする。 オススメした本を買ってくれたり。
そういうのが、もーう嬉しい。

歌の歌詞ってひとつの物語みたいなもんだから、それこそ短編集とか写真集からインスピレーションを受けるのもありなんじゃないかとか話したけど、
セイくんは文章読むのが苦手だからと、谷川俊太郎と寺山修司の文庫版詩集を買ってくれた。
(あれ、こないだまで萩原朔太郎の詩集があったんだけどな、売れたかな)
”良い詞つくります!”と元気良く自転車にまたがっていった。 秋の夜を駆け抜ける、シボレー。

ナンダはインストロメンタルが好きだけど、そうだよな、歌の歌詞って重要だよな、と考えてみる。
恋が終わりそうなときとか、終わった後に聴くミスチルなんて
日本中が”くぅー。そうそう!”なんて思うんじゃないかな。
桜井さんはいったい何度恋をして、何度失恋をしているのだろうと考えてしまう。

ケストナーの「エーミールと探偵たち」を読み終える。
キーパーソンの名前をケストナーにするなんて、なかなかニクい演出をしなさる。
児童書界のタランティーノ、といったところか。

その後、明らかに配達途中の若い兄ちゃんが、”ここ、何屋なんスカ?”とカートを押しながら
のぞきに来る。 またもやバンドマンだって。
でもビートルズが好きらしく、店内BGMをビートルズにしてみる。
「A Day In The Life」がお気に入りらしい。ポールの生き方が好きだというので
”そうだよねぇ。あんなに若い奥さんもらってねぇ”と言うと
”いや、それはあんまり。”だって。 あ、そこじゃないのね。

閉店間際になってやっとどどど、と客足が増える。
これも阿佐ヶ谷らしい。
だからがんばって12時ぐらいまで開けていた。

帰りに向かいの中華料理屋さんで餃子定食と野菜スープ。
ここのおじちゃんとおばちゃんが素敵なのだ。
餃子はオーダーしてからたねを包んで焼いてくれる。
ナンダはカウンターで、おばちゃんが餃子を包む指のぴっぴっぴっという動きをじっと見ていた。
おじちゃんの突き出たお腹…じゃなかった、野菜を刻む嬉しそうな顔ををちらちら見ていた。
そうして出てきたおいしい餃子と大盛りご飯と劇的にしょっぱい野菜スープ。

きっと塩の量、間違っちゃったんだろうと思うことにして、完食。 ひー。


◆今日の教訓◆

おすもうさんが着物なのは、ぽっこりお腹がさまになるから。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
わーい (やす@店主)
2004-10-14 14:39:29
水曜版のブログだ!

また、楽しみが増えました!
あ、 (中野のカメ)
2004-10-14 23:43:55
西武沿線に越してしまった…。阿佐ヶ谷にするんだった…。

早く言ってくれよー!!!ってな感じ。

いいな…。
いいね。 (ケイスケ@月曜日店主)
2004-10-15 11:04:54
ナンダさんの感性ってすごくいいと思う。

文章から気持ちがリアルに伝わるのです。

僕もそういう文章書けるようにがんばります。

水曜日、たまに遊びにいくね~。

「朝陽さん」の餃子定職は最高に美味(笑)。



あ、萩原朔太郎は文庫棚の左上にあったよ。

ふむ。 (ナンダ)
2004-10-16 12:15:16
初回からすごく長くなってしまった。

うーん。次回からもちっと簡潔にしよう。



>やすさん

ども。がんばります。



>かめちゃん

そうよー。いいとこよー。

大福からエイヒレまでなんでもござれな街よ。

ん…?エイヒレ?



>ケイスケ

ありがとう。リアル過ぎるのもアレですね。あれ。

あれ、萩原あったんだー。 あれま。