【最後の無頼派「しゅうこう」語録、という「ごちそう」の巻】
■名誉棋聖・藤沢秀行(1925~2009年)は、その言動によって若手プロからアマ初心者まで、全ての現代の碁打ちに大きな影響を与えている。「指導者としての功績をもっと知ってほしい」と思う。
■書き残してくれた出版物から「なるほど」と思ったモノを、かいつまんで紹介したい。平易な文言で核心を突いていて、棋力を問わず大いに参考になる。
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◆定石
・定石はだいたいスミに限られている。四つのスミは互いに離れているので、部分的に正しくとも全体では一手一手が変わってくる。定石の本を読むのは非常に参考になるが、詳しく覚える必要はない。
・「定石はずれ」は新手なので、どんどん打つべきだ。名を残すような棋士は、みんな新手を打っている。それが碁の進歩につながっている。
◆ポカ
・私のポカは実に多い。しかし気持ち一つでポカは減らせる。棋聖六連覇時代は少なかった。当時は気合いが充実していたからだ。
◆ヨミ
・プロは子供の頃から手を読む訓練をしている。五百手とか千手とかを読めても不思議はないが、一手も読めないこともある。
・アマでも有段者なら、シチョウか否か、ひと目で分かる。つまり「基本線」と「それに含まれる変化」だけでも、百手ぐらいは誰でも読めるのである。
・しかし、時間をかけて読んだからといって、いい碁が打てるとは限らない。ピンとひらめくもの、つまり感覚が必要だ。
◆名局
・第一条件は、その場面場面でいい手を盤上に表現したもの。常に最善手を追求したい。
・いい手が連続して一つの流れとなり、名画を鑑賞するように、見る者を感動させることも名局の条件である。
・私は「三歳の童子たりとも導師である」と若い棋士によく言う。その気になればアマの碁からも学べる。だから指導碁も軽く見てはいけない。
◆指導碁
・アマが強くなるには、碁の本を買ったり、免状を取ったりするのも一法だが、プロの指導を受けるのが一番いい。
・プロは、アマと打つ時は、本筋しか打たない。
・指導碁の上手いプロは、ちょっと考えると分かるような手筋や死活が現れる局面に誘導する。そしてアマは、その手筋を発見し、勝って喜び、自信をつける。
◆マナー
・弟子たちが集う「秀行軍団」の合宿では「投げっぷりとマナーの悪いヤツは来るな」と言い渡してある。
・生活が掛かっている対局は仕方がないが、勉強の場で悪い碁をいつまでも粘るようでは困る。
・マナーは、普段から厳しく言い渡している。礼儀というと堅苦しく聞こえるが、「相手に不快感を与えないこと」と思っている。盤外で不快感を与えるようでは、コミュニケーションそのものが成立しなくなってしまう。
・石をジャラジャラさせたり、打とうとして手を引込めたり、である。
・扇子をバチバチパタパタも困る。林海峰君との名人戦で、「うるさい!」と、対局中に怒鳴ったこともある。
・勝って大いにはしゃぎ、負けて涙を流さんばかりにくやしがるのも、考えものだ。
・シャミセンも慎みたい。ムダグチやボヤキで「事を有利に運ぼう」とするのは、人間の浅さ、いやらしさを見せつけられるようでイヤなものだ。