「九州まで高校生の女の子一人で!?」
「うん。」
「いや、危ないだろ。お義母さんと一緒に行けば?」
「お義母さん、里帰り出産したばかりだから、すぐにはお父さんの所に帰らないし。もうすぐ夏休みだから、大会終わってから。」
「でも、おじさんもお盆休みにはこっち来るんじゃないか?実家こっちだから。」
「あ、そうか。文代さん…、お義母さんも実家近いもんね。」
「お義母さんって、おじさんとおばさんの高校の同級生だっけ?」
「円山陸さんも。でも、文代さんは、陸さんとの件は全然知らないの。
何か事件が絡んでたみたいだから、お父さんもお母さんも他の人には話さなかったって。」
「そうなんだ。」
「じゃあ、お盆休みにお父さんが来たら、話を聞いてみる。」
「おじさん、単身赴任みたい。」
「だって、九州に転勤になったから、結婚を決めたんだから。結婚後、すぐにお義母さん、妊娠して、早めに里帰りしたし、私は中3からずっとこっちだし。」
「……おじさん、もしかしたら、このまま単身赴任?」
「うっ…。あっ、ほら、でも、家族用の社宅借りてるから、単身赴任だとダメらしいし…。弟がちっちゃい内は、お義母さんも、こっちにいる事が多いかも。まあ、私もお義母さんこっちにいた方が近いしね。」
「……。」
おじさんに少し同情してしまう晴海でした。
「文代さんて、亡くなったお母さんと同じクラスだったの?」
「うん。お母さんとお父さんが結婚してからも、時々遊びに来てた。まだ私が小学生の時にね…………。
「私、鈴木君にフラれた。」
「ええっ?」
家に泣きながら、突然来た文代にそう言われ、宮子は驚きました。
「大学から27歳まで付き合ったのに別れてくれって、ひどくない?」
泣きながら、文代は言います。
「確かに。27まで付き合ったなら結婚しないと。」
「私の青春を返せ!」
結局、文代はその日は泊まって行きました。
それから、半年以上過ぎた、ある休日。
「…そういえば、最近文代ちゃん来ないね。」
新聞を読んでた康太が、宮子に言いました。
「大学生の彼氏が出来たんだって。」
「大学生!?いくつだよ?」
「22。4年生。」
「いやいや、そこは大学生に行かないで、もうお見合いとかしといた方が…。無難に……。」
「んー。でも、彼が文代の事、すごい好きなんだって。」
「!?……そうなんだ。」
やれやれと、康太は新聞に目を戻しました。
結局、文代はその彼と4年以上付き合い、宮子が入院したり、亡くなった時も、色々世話を焼いてくれました。
でも、2008年ついに……。
「私、佐藤君にフラれた。」
宮子の仏前にお参りに来てくれた文代が、康太と美帆に涙ぐみながら話しました。
「ええっ!?なんで?二人はもうこのまま結婚するかと思った。」
康太の言葉に、美帆も頷きました。
「若い彼女が出来たから別れてくれって。」
涙を拭きながら、文代が言いました。
「ひどい!」
美帆が怒ります。そして、ふと気が付いた様に言いました。
「…そうだ。文代さん、お父さんと付き合えば?」
「はぁ!?」
二人合わせて驚きました。
「ちょっと待って、美帆ちゃん!」
「お前、文代ちゃんは彼と別れたばかりで。お母さんもまだ亡くなってから、そんなに何年も経ってないし。」
「でも、お父さんが誰かと見合いするの、やだから。」
「うっ。」
康太の言葉がつまりました。
(こいつ、話を聞いてたのか…。)
宮子が亡くなって3年。ポツポツと親戚から再婚話も出るようになりました。
「まあまあ、お茶でも飲んで話そ。」
美帆は二人をテーブルに付かせて、お茶の用意をしました―――。
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