今、半分空の上にいるから

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殺人は眠り続ける 小説編その10

2014-10-28 02:46:46 | 殺人は眠り続ける(完結)

 2010年8月。

 「いらっしゃい!どうぞ、上がって。」

 「お邪魔します。」

 康太の妹の三根子に案内されて、晴海は中に上がりました。

 ここは康太の実家、つまり美帆の父方の祖父母の家です。

 康太が帰省してから、美帆も泊まりに来ています。

 「晴海、こっちに来て。」

 美帆が廊下から顔を出して、晴海を呼んでます。

 「やあ、来たね。」

 康太が狭い真っ暗な部屋から出てきました。

 「ここは?」

 「物入れ。暗室代わりに使ってる。クーラーも何もないから、暑い。」

 そう言うと、康太は顔から滴っている汗を、タオルで拭きました。

 「おじさん、自分でフィルムの現像出来るんだね。」

 「大学の友達に、写真部でカメラに詳しいのがいて、色々教えてくれたから。」

 「お父さんは写真部じゃなかったの?」

 「大学生の時にお前が出来たから、お父さんはサークル活動なんて出来なくて、勉強しながら、バイトしてました。」

 「あ、そうだった。」

 美帆が嬉しそうに笑ってます。

 (なんと言うか、こいつ、ベタベタなお父さん子なんだよな。)

 晴海が少し呆れてみてます。

 「引き伸ばし出来たから、見る?」

 「はい。」

 奥から、三根子が声をかけました。

 「冷たい飲み物入れたから、こっちで話したら?」

 晴海たちは居間のソファーに腰を下ろしました。

 「私はちょっと出掛ける用事があるんで、これで失礼するね。もう少ししたら、お父さんとお母さん、帰ってくるから。晴海君、ゆっくりしていってね。」

 そういうと三根子は出掛けて行きました。

 「…おばさん、デート?」
美帆が康太にこっそり聞きました。

 「知らん。女友達と会うんじゃなかったか?
 ……あいつも、もう29なんだけどな。」

 康太と三根子の間の弟、西雄は結婚して、既に家を出てます。

 「…じゃあ写真見ようか?」

 康太が説明します。
 「この写真な、初めてみた時にも思ったんだけど、ピントが後ろにずれてるんだ。」

 「そうだね。手前の人物が少しぼやけてんだよね。」
 美帆が写真を手に取りながら、答えました。

 「で、人物の後ろの方を中心に引き伸ばしてみた。元々がインスタントカメラだし、お父さんの技術と資材じゃ、もうこれ以上は無理。出来るだけ伸ばしてみたけど。」

 大きいサイズになった写真を、康太と美帆が見て言います。

 「写真の真ん中にいるの、ロビーのソファーに座ってる女の子だよね。」

 「この女の子を写したかったのかな?」

 康太が思いだそうとしながら、言います。
「……この子、確かアイドルか何かじゃなかったっけ?」

 「本当?」

 「写真がもう少し鮮明だったらなぁ。」
 康太は頭を掻きながら、考えます。

 「昔のアイドル?」
美帆が康太に聞きます。

 「すごく人気があったんだけど、二十歳ぐらいで引退した……。えーと………。
 あ、そうそう、月森ひじり。」

 「月森ひじり?」
晴海と美帆は声を合わせました。

 「知ってる?」

 「全然知らない。」
 美帆が答えました。晴海も頷いてます。

 ちょっとガッカリしながら、康太が言いました。
「はぁ、もう今の若い子達、知らないんだね。」

 晴海が言いました。
「でもさー、アイドルだったら、一緒に写真撮ってもらえばいいのに。これじゃ、隠し撮りみたいじゃん。」

 「断られたんじゃない?なんかすごい高級そうなホテルのロビーだし。プライベートだったのかな?」
美帆が答えました。

 「でも、横にいる女の人、マネージャーぽくない?」
晴海が言いました。

 「本当だ。じゃあ仕事かな?」

 「売れてるアイドルだと、プライベートの時でもスタッフがいたりして。」

「写真だけじゃ全然分からん。」

美帆も晴海の言葉に同意しました。
 「写真見て想像しただけだもんね。」

 「……思い出した!この子がなんで印象に残ってたか。」
 ずっと考え込んでた康太が、思い出した様に言いました。。

 「引退したのが、美帆と晴海君が生まれる少し前。同じ年だったから。」



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