「いらっしゃい。」
「今日は。お邪魔します。」
宮子の妊娠が分かってから、初めて康太が吉田家に来ました。
テーブルの前に、兄洋海がムスーッとした顔で座ってます。
「どうぞ」
「は、はい…。」
洋海の妻の砥代子に促され、康太は椅子に腰掛けました。
(空気が重い……。)
洋海が口を開きました。
「岡山君、ご両親には話したの?」
「いえ、まだ。」
「……生まれた後でないと、君の子供だとはっきり言えない事情は、宮子から聞いてると思うけど。」
「はい、聞いてます。」
「ご両親は大反対されると思うよ。」
「宮子さんの体調の事を説明して、このまま出産するつもりだと言う事を、理解してもらいます。」
「それで納得はしないと思うけど。」
「でも、もう他にどうしようもないし。」
「……うーん。」
洋海も頭を抱えます。
「……しょうがない。俺も一緒に行って3人で、説明するか。」
「一緒に来てもらえるなら、是非お願いします。あ、でも、認知は子供が生まれて、はっきり俺の子だと分かった後で、ぐらいで、詳しい事情は親には言わないで下さい。
その方がいいから。」
「君がそれでいいなら、そうする。」
「はい。」
(実際この後、岡山家ではとても大変な事になるんですが、洋海が
「いざとなったら、自分が子供を引き取って育てる。妻も了解している。」
と説明して、何とか納得してもらいました。)
「君自身は本当にいいの?」
洋海は改めて尋ねます。
「はい。」
「就職にかなり不利になるよ。今の情勢でもかなり就職活動は厳しいのに。」
「うーん。まぁ、仕方ないです。学生の間に資格取ったりとか、頑張ります。」
「頼めそうな所があれば協力してみるけど。もう段々他の人の面倒を見れるような、景気に余裕がなくなって来てる。」
「そうですね。まだ理系はそれでも求人があるみたいなんで、頑張ります。」
なんだか、いきなり重い現実にぶつかって、たださえ重い吉田家の空気が、すっかりどんよりしてしまいました。
「はぁー。疲れた。緊張した。」
宮子の部屋に来て、二人になって、康太はため息をつきました。
「取り敢えず何とかなったけど、今から大変だよね。」
「うん…。」
「あっそうだ。こっちもすごい大変だった。」
「?」
宮子は立ち上がり、写真の袋を取って、康太の前に置きました。
「あのね、インスタントカメラがあったから現像したの。見てみて。」
康太は袋から写真を取り出して、驚愕しました。
「これ、陸が写ってる!」
写真にはどこかのホテルのロビーでピースサインしてる陸がアップで写ってました。
「あれ?でもピントが少しおかしい。焦点が後ろになってる。陸ともう一人の奴が同じよう感じで写ってるんだな。」
「玄関の靴箱の上の奥の方に置いてあったの。多分陸君が来た時に……。」
「………。」
「あっ、ゴメン。」
何とも複雑な気持ちになって、二人とも黙ってしまいました。
しばらくして、宮子が口を開きました。
「円山君が、私の家にわざとカメラを置いたのだとしたら、隠したかったんじゃないのかな?」
「えっ?」
「薬物がどうのって警察に捕まった人、もしかしたらこの人?」
そう言うと、写真に写っていた陸ではない男の子を指さしました。
「どうだろ?顔知らないからな……。でも、陸がわざわざここに置いて行ったなら、何か意味があるのかも。」
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