<花立山から富士山を望む>
泥んこ道・ツルツル凍結に難儀する丹沢:塔ノ岳(今年12回目)
(単独山行)
2013年2月29日(木) 晴・暖かい1日
■月の光を愛でながら出発
先週初めの4日間ほど,風邪気味だったため,大事を取って,暫くの間,塔ノ岳詣ではお休みにしていた.従って,今日は2月16日以来,約2週間の間を空けての塔ノ岳詣でである.これだけ,間が空いてしまうと体力の減退もかなり荒ましいと思われるので,今日は体調に十分に注意して登ろうと思っている.
久々に,5時10分という早い時間に家を出発する.西の空には,ほぼ真ん丸の月が煌々と輝いている.私はこれから乗車するモノレールの発車時間を気にしながら,道の途中で立ち止まって,月の写真を何枚か撮ってみる.木の枝が掛かる幻想的な月の眺めに何とも言えない神秘的な魅力を感じる.月はクレーターだ何だと七面倒くさいことを言わずにかぐや姫やウサギが住んでいる世界だと信じる方が,余程幸せかもしれないと思いながら,モノレールに乗車する.
予定通り,東海道本線大船5時44分発小田原行電車に乗車する.今日も小田原駅で残酷な 階段二段跳び乗換をクリアーしなければならないと思うと身が引き締まる.
…で,ここまでは良かったものの,電車が大磯駅から発車した瞬間,急ブレーキが掛かって電車が急停車する.
「緊急停車します Emergency Stop」
というアナウンスが,自動的に車内に流れる.
どうやら,誰から悪戯をして,ホームにある緊急停止ボタンを押したようである.
列車は安全確認のために,暫くの間停車したまま.結局,7分遅れの発車となる.そうなると,階段二段跳び所ではない.これで渋沢発大倉行一番バスに乗車する“目”はなくなった.
<怪しく輝く月>
■春のシカ
1番バスに乗れない悔しさは大変なものである.
私は,いっそのこと,塔ノ岳をやめて,箱根の神山・駒ヶ岳,あるいは南郷山・幕山辺りに行き先を鞍替えしようかと思ったが,そこをグッと我慢して,大倉行2番バスに乗車する.2番バスには,座席がパラパラと埋まるほどの登山者が乗車しているが,顔見知りの登山者は皆無.顔見知りが誰も居ないとなると,何とも寂しい気分になる.
バスが大倉に到着する.身支度を調えて,7時32分に大倉から歩き出す.何時もより30分ほど遅い出発である.
…で,肝心の体調である.
歩き出して直ぐに,体が何とも重く感じる.
“こりゃ~ぁ・・・! 今日の体調は最低だな・・”
私は自分の体調が良くないのを,とても情けなく感じるが,考えてみれば仕方がないことである.平素,自分では余り考えたことがないが,つい,つい,
“オレももう年だな・・・そろそろ年貢の納め時かな・・・”
なんて,つまらないことを妄想し出す.
昨日の雨のためか,足許はヌルヌルと濡れている.手許の寒暖計では気温が10℃ほどになっている.随分と暖かである.ちょっとでも歩行速度を速めると汗が出そうになる.
幸いなことに,私の前後には登山客が居ない.私は周囲から惑わされることなしに,ゆっくりペースで登り続ける.
7時12分,見晴山荘を通過する.
私はボンヤリと考え事をしながら,見晴階段に差し掛かる.そのとき,突然,直ぐ目の前で動くものを発見してビックリする.可愛い子シカである.ぶつかりそうになった私を避けて,トボトボと道路脇へ移動する.こんなに人里近くでシカを見ることは滅多にないので,シカも驚いたかも知れないが,私はもっと驚く.早速,シカの写真をデジカメに収める.
<見晴山荘で見掛けたシカ>
■見晴階段
恒例によって,見晴階段を見上げる位置で写真を撮る.坂の中段に登山者が一人見えているだけで,閑散とした雰囲気である.
階段は濡れていて滑りやすい.私は自分自身に,
“むりをするなよ・・・ユックリ登るんだよ”
と何遍も何遍も言い聞かせる.そうしないと,ついつい目の前を登っている男性を追い抜きたくなるからである.
<見晴階段>
■堀山の富士山
8時29分,一本松を通過する.
駒止階段を登る速度は,超スロー.そうしないと身体に堪える.そして漸く8時45分に駒止茶屋を通過する.大倉を歩き出してから,1時間13分経過している.ヌルヌル滑りそうな道を歩いていることを考慮すれば.今日の体調から察して,まあ,こんな所だろうと納得しながら先へ進む.
この辺りから残雪がチラホラと見え出す.
気温が高いために,足許の泥濘が,もう,溶け出していて,一面の泥んこ道である.折角敷設した木道にも登山者が残した泥がうずたかく積もったままになっている.
やがて富士山が良く見える場所に到着する.
上空一面を薄い雲が覆っている.雲を背景に行きで真っ白になった富士山が茫洋と見えている.私はこの富士山の情景を何とか写真に撮りたかった.所が私が持参している馬鹿カメラは,この種の風景を撮るのが実に苦手である.大抵は折角の富士山が雲の中に溶け込んでしまいちゃんと写ったためしがない.
私は意地になってバカデジカメを色々と弄って沢山の写真を撮ってみる.そのなかで,ようやく富士山の姿が認知できたのが下の写真である.おぼろげながら富士山は何とか見えるものの近景の山の色が,コントラストが強すぎるのか,何となく不自然である.
“でも・・・まあ,こんなところか! 仕方がないな・・・”
と諦める.
また,泥んこ道が連続する.正に田んぼだ.
一歩,一歩,足許がフニャフニャ,ヌルヌル.バランスを取るのが容易ではない.ノロノロ歩きしかできないのに,随分と体力を消耗する.
<堀山からの富士山>
■珍しい組み合わせ
9時24分,戸沢分岐の手前で,下山してくる超韋駄天のN村村さんとすれ違う.
N村さんと一言二言挨拶をする.
続いて超韋駄天のS藤さんとすれ違う.また一言二言挨拶を交わす.
そうこうしていると,今度は,Kシゲさんが下ってくる.例により,
「やあ,やあ,・・・」
と賑やかに挨拶を交わす.私もKシゲさんにお会いすると,何となく“気”を貰ったような気分になり.とても嬉しくなる.
Kシゲさんが,
「花立山でアイゼンを付けて下さい・・・今日は馬の背付近の下り坂と頂上付近がアイスバーンですよ・・・登りなのに2回も尻もち付きましたよ・・・」
と有り難い情報を頂戴する.
立ち話をしていると女流韋駄天のI藤さんが私に追い付く.
そこで,KシゲさんとI藤さんの貴重なツーショット写真を撮らせて頂く.
ついでに,I藤さんに4月に開催される神奈美展の開催案内を手渡す.
「会場に来られるご常連の皆さんも居られるようですので,ご一緒にいかがですか・・・」
とお誘いする.
「去年は私の絵を肴に(口実に)して,横浜で飲み会をしましたよ・・」
「私も是非ご一緒したいです・・・(飲み会は)何時ですか?」
「さあ・・今年開くとはまだ聞いていませんが,開くとすれば,多分,韋駄天のTさんか,三角髭のTさんあたりが’言い出しっぺ’になるかもしれませんね・・・」
「そうですか,では,韋駄天のTさんに伺ってみます・・・」
I藤さんはもの凄い勢いで,私からドンドン遠ざかっていく.
I藤さんは長靴を履いて居られる.そういえば,数年前まで,私も雪解けの頃何回も長靴で登ったことを思い出す.
<KシゲさんとI藤さんのツーショット>
■萱場平
9時28分,萱場平を通過する.
ここで定点写真を撮ったつもりだったが,何も写っていない.どういう訳かシャッターが降りなかったようである.
木道を過ぎてからが変である.逃げ場のない超泥んこ道が200メートルほど続く.
グニャ,グニャ,ヌルヌル,ベタベタ・・・ズボっ,ズボっ,・・・とにかく始末が悪い.靴に重たい泥がへばり付いてしまい,まるで重登山靴を履いているように重くなる.
“ええ~ぃ! なるようになれ!”
私は敢えて泥んこを避けようとはしない.どうせそんなことをしても付着する泥は同じようなもの.私は泥など構わずにスタスタと泥道を通過しようと腹をくくる.
<萱場平を過ぎると超泥んこ道になる>
■花立山荘
また一人旅が始まる.
後7分坂も辛抱品が登って,9時50分に漸く花立山荘に到着する.
大倉からの所要時間は2時間18分.時間の掛かりすぎ.
“うへっ! そんなに時間が掛かるなんて! 'バッカ’ジャないの・・”
いくら悪路だったとはいえ,さすがに自分自身が情けなくなるラップである.一方では,
“何もそう悄げなさんな・・・こうして無事に登れるだけ幸せだと思いなさい・・・登りたくても登れない人も沢山居るんだから・・・”
と,もう一人の私が私を慰める.
先ほどより,富士山の廻りに沢山の雲がへばり付き始めたようである.
<花立山荘>
■凛とした冬景色
途中で周囲の写真を撮りながら,10時01分に花立山山頂に到着する.今日の気温がいくら高いといっても,花立山から先はまだまだ厳冬期である.沢山の残雪がある鍋割山稜は厳しい表情を見せている.鍋割山稜の向こうには相変わらず真っ白な富士山が見えている.
花立山山頂で,6本爪軽アイゼンを装着する.
<花立山から鍋割山稜と富士山を望む>
■凍てつくアイスバーンの道
花立山から先は,残雪の冬山に急変する.
馬の背付近は,融雪が凍結を繰り返して完全なアイスバーン状態である.ガリガリとアイゼンの音を聞きながら,アイスバーンの道を先へ進む.
途中,下山してくる韋駄天のTさんとすれ違う.
「今日はアイスバーンがひどいですよ・・・お気を付けて・・・」
私はTさんとすれ違った後で,
“ああ・・そうだ! I藤女史と雑談した横浜の飲み会のことを話せば良かったのに・・”
と思い出す.こういうのを後の祭りという.
10時12分,金冷シを通過する.階段道は完全に雪の下に埋もれている.アイゼンさえ装着していれば,返って雪道の方が歩き易いので,ピッチが上がる.
<金冷シから上は完全な雪道だ>
■アイゼンよ,お前も虫歯かよ
雪国育ちの私は雪との相性は良い.ルンルン気分で登っていると,いきなり左側のアイゼンから,“ボクッ”っという衝撃が伝わってくる.
「な・・・何だッ!」
私は少々驚いて,アイゼンを確かめる.
すると,左側アイゼンの歯1本か欠けている.
“ありゃっ! お前さんも虫歯だったんかね・・・”
このアイゼン,もう20年近くも使っているので,大分金属疲労が積もっていたんだろう.虫歯になっても仕方がないかと諦める.
“6本爪アイゼンが5本爪アイゼンになっちゃった・・・・”
急場は何とか5本爪アイゼンを使うしかない.私はつかえなくなった爪に掛かっている紐を,何とか他の所に縛り付けて応急処置をする.家に帰ってから欠けた虫歯を何とかハンダ付けしてみようかと思っても見るが,安全に関わりのある道具を半田付けなどで誤魔化すのは良くないなと思い直す.まあ,新しい軽アイゼンを入手するしかないな.
<6本爪軽アイゼンが5本爪になっちゃった!>
■塔ノ岳山頂
塔ノ岳山頂近くで,下山してくるM田夫妻とすれ違う.M田夫妻にも神奈美展の案内状をお渡しする.
続いて,山頂直下で,下山してくるK井さんとM田さんにすれ違う.
「・・・○×駅で,誰かが緊急停止ボタンを悪戯したんで,電車が遅れたんですよ・・・それで2番バスできました」
誰でも,緊急停止ボタンを押したらどうなるか,一寸は気になりますよね.でも,普通の人は押さないですよね・・・と他愛のない雑談を交わす.
10時32分,漸く塔ノ岳山頂に到着する.大倉からの所要時間は,3時間ピッタリ.実に情けない時間だが,まあ,今日は泥んこ道だったり,アイゼンの歯が折れたりで仕方が無かろうと.すぐに妥協してしまう.悪い癖である.
“まだ,まだ,修行が足りないな・・・”
と自己評価する.本当は所要時間など超越して,大自然と接していられる幸せに,素直に感謝しなければいけないんだが,どうもそうもいかないところが,私の弱さである.
山頂の気温はプラス2℃.暖かである.
<塔ノ岳山頂>
■塔ノ岳山頂からの風景
例によって,塔ノ岳山頂から周囲の風景をデジカメに収める.
塔ノ岳山頂は強い風が吹くので,残雪は少ないが,相変わらずの冬景色である.ただ,今日は風も弱くそれほど寒くはない.
今日は無理をしてやっと5本爪アイゼンを装着しているので,折角のアイゼンを外してまで,尊仏山荘に立ち寄る気分になれない.それに,1本遅いバスで来ているので時間も押している.私は,尊仏山荘には立ち寄らずに,そのまま下山することにする.
山荘の窓越しにホッシーさんらしい後ろ姿が見えている.今週の小屋番は何方だろう,ネコが元気かなどと,いろいろ連想しながら,10時40分,下山を開始する.
<塔ノ岳山頂から大山方面を望む>
■マイペースで下山
下りは全くの一人旅.一人旅は,気兼ねがなくて気楽である.
あちこち脱線しながら,下り続ける.
10時53分,金冷シを通過する.ここで,同じバスに乗り合わせていた初老の紳士とすれ違う.実は,この紳士,見晴山荘手前で私を追い越していった方である.いつどこで私が先になってしまったか定かではないが.紳士は,
「・・・ゆっくりマイペースで登っています・・・」
と私に挨拶する.
私は心の中で,
“その台詞,いつも私が言っている台詞と同じだ・・・!”
と苦笑する.私の場合本音を言えば,
“これ以上速く歩けません・・・”
というのと同じ意味なのだが・・・・
■堀山の家
11時50分,ほ利山の家を通過する.
ひょっとしたら,何時もここで食事をしているM田夫妻にお会いできるかなと思っていたが,M夫妻はもうとっくに下山してしまったようだ.
念のため,山荘前の掲示板を覗く.先週土曜日にここで休憩を取ったときに,掲示板に貼って頂いた神奈美展の開催案内がちゃんとそのままになっているのを確かめ,とても嬉しくなる.
<堀山の家の掲示板>
■Becker'sのコーヒー
大倉発13時22分のバスの時間を睨みながら,ユックリと下山し続ける.
一本松を過ぎると,泥んこ道もなくなり,とても歩き易くなる.順調に下り続けて,13時07分にバス停大倉に到着する.
まずは,水道で,泥んこ靴を綺麗にする.かなり何回もタワシで擦らないと,なかなか泥んこが撮れないので往生する.
“オレの根性にへばり付いている邪悪な心も,このねばねばした泥のようなものだ.こいつも一緒に洗い落としてしまおう・・・”
と嗤笑な雑念を持ちながら,セッセと洗い落とす.
予定通りに13時22分発渋沢行のバスに乗車する.渋沢での電車の接続も良い.
電車の中は暖かい日が射し込んで実に心地よい.座席に座ると直ぐに眠くなるのに閉口する…が,良い気分である.
小田原で,待ち合わせ時間4分で,特別快速高崎行に乗車する.14時30分頃,無事,大船に到着する.ぽかぽかの上天気である.
空気は春.
このまま家に帰ったのでは勿体ない.
そこで,まずは駅構内のBecker'sに立ち寄って,コーヒーを賞味する.
実のところ,五十三次洛遊会の知人から頂戴したコーヒー優待券の有効期限が今日までだったので,使ってしまおうというさもしい根性があったことを,私は否定しない.写真のように,ここのコーヒーは大きなカップに沢山入っている.
15時過ぎに無事帰宅.風邪からの病み上がりの私には,今回の塔ノ岳詣では,少々,疲労が残ってしまう.
“まあ,明日は,家でノンビリ過ごそう”
<becker'sのコーヒー>
<ラップタイム>
7:32 大倉歩き出し
7:55 観音茶屋
8:12 見晴山荘
8:45 駒止茶屋
9:05 堀山の家
9:50 花立山荘
10:01 花立山(10:05までアイゼン装着)
10:13 金冷シ
10:32 塔ノ岳山頂着(+2.0℃)
10:40 〃 発
10:59 花立山(11:05までアイゼン脱着)
11:36 花立山荘
11:50 堀山の家
12:12 駒止茶屋
12:36 見晴山荘
12:49 観音茶屋
13:07 大倉 着
[山行記録]
■水平距離 7.0km(片道)
■累積登攀下降高度 1269m
■登攀所要時間(雑談時間を含む)
大倉 発 7:32
塔ノ岳 着 10:32
(所要時間) 3時間00分(3.00h)
水平歩行速度 7.0km/3.00=2.33km/h
登攀速度 1269m/3.00h=43493.8m/h
■下降所要時間(休憩時間を含む)
塔ノ岳 発 10:40
大倉 着 13:07
(所要時間) 2時間27分(2.33h)
水平歩行速度 7.0km/2.33h=3.00km/h
下降速度 1269m/2.33h=544.6m/h
(おわり)
「丹沢の山旅」の前回の記事
http://blog.goo.ne.jp/flower-hill_2005/e/7376cdc7c1c2937dd40c4247cd580fdc
「丹沢の山旅」の次回の記事
(なし)
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