どんな本でも本は本

短編&アンソロジーを中心に、私が読んだ本の感想をズバッと書いちゃう超不定期ブログです

もう一人の私

2008年07月25日 | 集英社(文庫)
題名 もう一人の私
著者 北川歩実
出版社 集英社
価格 1700円(税別)


~分身~
 金を借りるために訪れたおばの家で、従兄弟の功が交通事故に遭って寝たきりになっていると知る。しかし次の日、おばから連絡があり功が死んだという。おばはそのことを隠し、事故の原因を作った功の妻百合を騙すため、俺に功のふりをしてほしいと頼んできた。でもこの話、さらに裏があるようで…

~渡された殺意~
 「お前は本当の石川信一じゃない」と告げられた僕は、病院で取り違えられたという横井浩介と出会う。横井はこの事実を隠すために、僕の本当の父親であるという横井大二郎を殺して欲しいと持ち掛けて来たのだが。

~婚約者~
 僕、塩谷孝昭を名乗る男に騙されたと言い張る、キムラリエという女があらわれた。本当にそんな話があるのだろうか?そして下の階で死んでいる男を見てしまい…

~月の輝く夜~
 パソコン通信で出会った月世界という女性に、会いたいと言われ困ってしまう。なぜから僕は年齢も経歴も偽っていたからだ。塾の講師馬島に頼み、月世界に会うことになる。しかし彼女もまた僕を騙していたのだ。彼女の本当の正体とは!?

~冷たい夜明け~
 目覚めると首から下だけの見覚えある胴体が横たわっていた。あれはわたし?人間の冷凍保存が可能になったと言われ、私たち双子が実験台にさせられたのか?

~閃光~
 コンビニの女店員が気になって仕方ない。この気持ち、昔も体験していた。しかしそれは彼女が死んでくれたから解決したのだ。そしてコンビニの女店員も何者かに殺される。今度こそ気になる理由はなくなるはずなのに…

~ささやかな嘘~
 俺の恋人はアイドルの朝溝真理子。自分がついたささやかな嘘が自分を苦しめることになる。

~鎖~
 セールスが苦手な僕は研修セミナーに参加させられる。しかしそのセミナー中、同僚の杉村が死んだ。それは病死ということになっていたが、杉村を死んだようにみせかけて会社に残らせようとした作戦だったのではないか、と思うようになり…

~替玉~
 軽い気持ちで出会った女の家に行くと彼女が死んでいた。自分が容疑者にならないように、自分の替玉を用意することを思い付く。その替玉は、俺が大学の身代わり受験をしてやった男。驚くことに、その替玉の男が彼女を殺したというのだ…


すべて題名どおりの『もう一人の私』でした。

短篇だからこそ、展開の変わりように驚かされました。どんでん返しがものすごくて、思わず「えぇっ!?」と叫んでしまうほど…

面白かったです♪

2008年07月18日 | 角川書店(角川文庫)
題名 桃
著者 姫野カオルコ
出版社 角川書店
価格 1400円(税別)


『卒業写真』
 “初恋は実らない”とどこかで聞いた。中学の同窓会の案内が届き、初恋相手だった梁瀬由紀子先生のことを思い出す。彼女はいまどうしているだろう…

『高瀬舟、それから』
 彼女との待ち合わせに間に合いそうにないのは、なぜか生徒2人と自分を含む教師3人でご飯を食べることになったから。しかし、そこに彼女も呼ぶことになる。そして皆別れたあとは彼女との…

『汝、病めるときもすこやかなるときも』
 “いとこ同士で結婚すると劣った子が生まれる”と和尚に言われて消極的になっていたとき、励ましてくれたのが、今の夫塔仁原だった。友情から愛情に変わった私たち。それはちょっとしたことがきっかけだった。

『青痣(しみ)』
 あのころ、わたしはとくべつな人間になりたかった。とくべつだという確証を得ようと醜悪にもがいた。

『世帯主がたばこを減らそうと考えた夜』
 結婚はただ子孫を残すためにあり、性欲を満たすためではない。ある日、自分の性癖を思い出し、取り返しのつかないことをしてしまった。

『桃』
 桃はむずかしい。それに、昔のことを思いださせる。もう食べないと決めたのに、彼との日々を思い出してしまう。


この本を手にしたとき、なんでかしらないけど、すごくやらしい感じがしました。本の表紙が桃だし、ピンクってなんかやらしいイメージがありまして…読んでみると、やっぱりそっち系を含んでいました。

『卒業写真』の気持ち、よくわかります。初恋の気持ちって何にも代えられない初々しい感情なんですよね。その人に会いたいけど、今のその人より、昔のその人に恋していたい。恋に恋していたい!

『汝、病めるときもすこやかなるときも』は、今の夫との馴れ初めを一人語り口調で書かれています。どの夫婦にも出会いやすてきな時代があったんだよなぁ…と思わされます。

孤独か、それに等しいもの

2008年07月13日 | 角川書店(角川文庫)
題名 孤独か、それに等しいもの
著者 大崎善生
出版社 角川書店
価格 1400円(税別)


八月の傾斜
 “ピアスの穴をあけると大切なものを失くしてしまうよ”という今は亡き大久保君の言葉が胸に染みる…。大切なもの…。失うとすればあなたとの思い出しかないだろう。

だらだらとこの坂道を下っていこう
 人生の頂上はどこだったのか?いつのまにか人生の坂道を下りはじめている俺たち。どうせなら、君とゆっくりと下っていきたい…

孤独か、それに等しいもの
 ずっと一緒だった双子の妹茜を失ってから、私は自分自身をも失ってしまった気がする。…それは孤独とは違うが、それに等しいものだろう。

シンパシー
 合宿で訪れた鵜渡根島に行く途中、僕は生まれたての子犬を拾った。4日間生き延びた子犬の命に、何らかの意味はあったのだろうか…。

ソウルケージ
 幼い頃に母が男と心中した。今まで忘れていたことが急に蘇り、そして私を苦しめる。しかし苦しんでばかりはいられない。私が母を捨てるときがきたのだから…


共通のテーマは、“大切なものだからこそ、忘れなければなない”ということでしょうか…

楽しいことはともかく、辛いことは忘れたくても忘れられないのが、現実だと思っています。
先に死んだ人のことをいつまでも悲しんではいられないけど、やっぱり思い出は心にしかと刻まれているものですし…

難しいところですね。

その日のまえに

2008年07月11日 | 文藝春秋&文春文庫
題名 その日のまえに
著者 重松清
出版社 文藝春秋
価格 1429円(税別)


ひこうき雲
 妻の祖母の見舞いに行く途中、小学校の同級生だったガンリュウのことを思い出した。彼女は病気になるような人じゃなかった。早く死ぬ人、長生きする人…しかし、どちらの涙も同じだと思った。

朝日のあたる家
 かつての教え子武口と再会したぷくさん。同じマンションには武口と同じクラスだった入江睦美が住んでいると聞かされる。しかもわけありの睦美は武口と付き合っているらしい。間違ってもやり直せる二人にだからこそ、間違っていると、言えるのかもしれない。

潮騒
 余命3ヶ月と宣告された。ふと、小学校の時に住んでいた町に行ってみようと思った。その町は、友人のオカちゃんが死んだ町…。そこで懐かしいやつに再会した。

ヒア・カムズ・ザ・サン
 母ちゃんがカオルくんというストリートミュージシャンに出会った日は、実は治るか治らないかのがんに冒されているとわかった日。ふたりきりの家族なのに、母ちゃんが死んだら…

その日のまえに/その日/その日のあとで
 和美が逝ってしまう日のことを僕たちは『その日』と呼んでいた。いつかは来ると覚悟はしていたその日。だが、どこかでは信じたくないところもあった。しかしその日は来てしまう…。僕らは和美のことを忘れるだろう。だけどいつでも思い出すんだ…


重松さんにはホント泣かされっ放しです…

『その日』は何気に前の話とリンクしています。
“死”について考えさせられた人たちが出てくるので、ますます和美一家の気持ちが誇張されるんでしょう。

わたしの周りには、若くして死んだ人がいないので、第3者として読みましたが、実際に体験した人なら更に涙の量が多いはず…

なんで、なんでよりによって彼女(彼)なんだ…

残された人は、誰もがそう思うことでしょう。

生きている今を、思う存分精一杯生きなきゃ!と、思いはするけど、実際は行動できないわたしがいるのが現実です…

1ポンドの悲しみ

2008年07月08日 | 集英社(文庫)
題名 1ポンドの悲しみ
著者 石田衣良
出版社 集英社
価格 1500円(税別)


ふたりの名前
 同棲中、どんなものにも所有権をはっきりさせていた俊樹と朝世。唯一所有権のない子猫を飼うことになるが、その子猫は病気を持っていて…

誰かのウェディング
 会社の後輩の結婚式で、ウェディングプランナーの由紀に一目惚れした歩。彼女たちは出会いがないらしい…

十一月のつぼみ
 花屋に毎週土曜日に現われる芹沢に、“会いたい”と手紙をもらった英恵。でも私には家族がいる。

声を探しに
 ただの風邪だと思っていたのに、声が出なくなってしまった。そんな時会社の同僚桜井くんが来てくれて…

昔のボーイフレンド
 昔のボーイフレンドから十八ヵ月ぶりに連絡があった。お互いフリーのため、再会~そしてよりを戻すことになる。

スローガール
 結婚なんてしない。恋愛なんてセックスのためにあるようなものだと思っていた。しかし土曜夜のバーで会ったあの笑顔、あのゆっくり話す彼女が頭から離れない…

1ポンドの悲しみ
 あなたに会えない1ヶ月。どうせ会えないのなら、会える時くらいは愛し合いたい…

デートは本屋で
 本と男が好き。でも一番好きなのは本を読む男。最近職場で知り合った高生はまさに理想の男かもしれない…

秋の終わりの二週間
 私と夫の歳の差16歳が、15歳になる特別な二週間。夫はいつも以上に優しくなるのだ。

スターティング・オーバー
 昔の同僚と新年会兼同窓会をしている私。一年間男に頼らない生活をしてきたのには理由があった。それを告白した時、私の周りにもちょっとした変化が見られた…


30代の恋愛がテーマ。

あとがきに石田さんが書いていたように、小説のような劇的な恋愛をしている人なんてそうそういないってことなんですよ。

だからどの話も身近に感じるし、どこかにきゅんとさせる展開を望んでいるので、面白いのかもしれません。