羽が生えていた
ことぐらいで、もう驚きもしない
生物としての進化でもしたんだろ
そう簡単に受け止めて
寒い世界へ飛び出した
ぱたぱた、羽が動く
可愛らしいと言えばそうだが
服を着るという行為をするには邪魔なだけだ
ごわごわとした感覚に苛立ちを覚えながら
そのまま着るのも大変なので
服の後ろを少し破った
何故だか少しすっきりする自分がいて、戸惑って
そんな時も羽はのんきに羽ばたいていた
もしかして飛んだりできるのか
などという馬鹿な期待は残念ながらもがれた
ぱたぱた、と動く羽は私の意思では動けない
という新事実に息を吐いた
何のために付いたんだかわからない
なぜこうなったか分からない
これじゃあ進化というより、退化だ
意味ない物を付けちゃって
なんて、蛇足
これはまぎれもなく羽だけど
羽を生やした女子高生、なんて可笑しな図だ
なのに誰ひとりそれを可笑しいと思わない
朝食をとるとき、羽を見て母は言った
「ずいぶん可愛らしい物をつけちゃって」
登校するときに使う道で、羽を見てサラリーマンが言った
「もっと可愛らしい子が付ければ良いのになあ」
校門を抜けるさいに、羽を見て先生が言った
「なんだお前、そんな物つけて目立ちたいのか?」
休み時間に教室で、羽を見て同級生が言った
「○○さんのそれ、羽?うわぁ~すっごくかわいいねぇ、いいな~」
昼食を食べている途中、羽を見てクラスメイトが言った
「あんなの付けてカワイ子ぶろうって?うわーキモい」
帰宅する中で、羽を見て道を塞ぐ男女が言った
「なんであんな可愛らしさの見えない奴が付けてるのかわからない」
家の中で紅茶を飲んでたら、羽を見て妹が言った
「その羽、私に頂戴よ。お姉ちゃんには似合わないよ」
散々な日々だ
好きでつけてるわけじゃないのに
似合わない、なんてことは自分が一番分かってる
なのに、何故他人にそんな事を指摘されるのか?
可笑しい可笑しいと頭を抱えてもこの世界は普通に回っている
本当はここにはまともな人間など、いないというのに
羽が欲しい?付けるな?いらない?
そう言うなら、取ってみなさいよ
布団にうずくまりながら私はこの羽が取れていることを明日に望んだ
どうして
ここまで汚くなったのか
私は何故可愛くないのか
わからないことだらけの中で
私は夜の空を見つめた
攫われたい、と思っても
可愛くなきゃ、攫われないこの時代
理不尽なのは、どっちだ!
日々が経つにつれ、羽に愛着を持つようになった
私の心にシンクロするように羽が動くようになってから
家族やペット、というより、自分自身だと思った
小言も視線も無視するのが日常となり
少しずつ私にも冷静さが戻ってくる
いまさら「可愛さ」なんて求めても、何にもならない
そう言いきって、生きていく
ビックリすることが起きた
羽を持った人間と出会ったのだ
一瞬「天使?」と思ったりもしたけど
姿が何処にでもいる冴えない少年で
まずこの世に天使などいないという結論で
私は一目散に少年へかけた
少年と私は案外早くなじめた
はじめは壁もあったのに何故かそれも潰れた
何故か、と考えれば、すぐに答えが戻ってくる
「僕たちは似ているのかもしれない」
「どこが?」
「さあ。僕はその答えを見つけたくないね」
眼鏡をかけた少年の羽はしゅんと垂れた
ということは、少年は答えを知っているのだ
だが私はその答えを掴もうとは思わなかった
薄々自分でも感じていたし
元々私はその答えを捕らえてやろうなど思ってもいない
答えなど見つけたところで、消えてしまうのがオチだ
羽がぱたぱたと動いた
まるで私を慰めてくれているようで
無性に、泣きたくなった
少年は、もう泣いていた
羽が生まれた訳はまだ分からない
私と言う人間が進化した、なんてまるっきり信じちゃいない
不思議だけど、まあいいやと振り切るための言葉なだけ
冷静で静かな夜に考えはするが結局わからずじまい
ぱたぱた
ぱたぱた
せわしなく動く羽は今日も元気
小言と悪口を今日も言うアイツらも元気
羽を付けた少年もどうやら元気
私はと、言えば
「どうだろうね?」
fin...
天使にはなれない羽付き少女
P.S.もしかしたら、続きか・・・かないわ。多分。
羽は一体何なのか?さあ、なんなのか?