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本と音楽とねこと

激安ニッポン

谷本真由美,2023,激安ニッポン,マガジンハウス.(3.19.24)

(著作権者、および版元の方々へ・・・たいへん有意義な作品をお届けいただき、深くお礼を申し上げます。本ブログでは、とくに印象深かった箇所を引用していますが、これを読んだ方が、それをとおして、このすばらしい内容の本を買って読んでくれるであろうこと、そのことを確信しています。)

 かつて、日本は、「先進国」の一員であった。

 ところが、いまや、日本は、先進国グループからこぼれ落ちてしまおうとしており、とことん、貧しい国に落ちぶれてしまった。

 もはや、先進国とは言えない国をなんと呼ぶのだろう。
 明らかに、発展途上国でもなければ、第三世界でもない。
 OECDはどういう名称を日本に与えるのであろうか。

 こいうふうに書くと、虚しく「日本スゴい」を連呼するバカが、「日本をディスるな」と言いそうであるが、政治家、官僚、企業経営者、社員、有権者、親、、、この者たちの体たらくで、生活困窮者が増え続け、パパ活が蔓延る地獄のような社会が現出していること、生活困窮と自己の尊厳を売り渡す人々の苦しみのことを、少しは考えた方が良いのではないか?

 「安い日本」は、賃金水準の低さに如実に現れている。

 NHKのニュース番組が海外に出稼ぎに行っている若者50人に取材をしています。そのうちのひとり、オーストラリアで介護のアルバイトをしている20代の女性は、1週間で2万円以上も稼いでいて、月収は最も多いときで80万円を超えていると言います。日本の介護職の平均月収は25万円程度なので、この女性は日本で働くより3倍以上も稼いでいることになります。月収80万円だと、年収は960万円にもなります。
 ここで、日本で一番の大学である東京大学の卒業生の平均年収を見てみます。OpenWorkの2022年の調査によると、東大出身者の30歳時の年収は平均761万円です。つまり、海外で介護職についているアルバイトの女性の年収が、東大卒の人の平均年収を200万円近くも上回っていると考えられるのです。
 日本で安い給料で働くより、海外に飛び出して稼ぎたいと思うのは当然ではないでしょうか。
(pp.76-77.)

 財務省が企業の内部留保課税を拡大(現在は同族会社で資本金1億円以上の法人に限定)するのではないかという観測からか、大手企業は正社員の賃上げに積極的だ。
 いまや、大卒の初任給が25万円以上の企業も珍しくない。

(p.79.)

 それでも、先進国グループの国々と比較すると、安すぎるのだ。
 公定価格で賃金水準が決定される、医療、福祉、介護、保育等の業種は、医師をのぞいて、さらに悲惨、である。

 スイスのビジネススクール「IMD」が毎年発表する「世界競争力ランキング」では、ビジネス効率性などのさまざまな指標を元に算出した各国の競争力をランク付けしています。
 日本は1989年から1992年まで1位だったのですが、なんと2022年には過去最低の34位になってしまっています。
 日本はマレーシア(32位)やタイ(33位)よりも競争力がないとされています。ランキングの元となった指標を見てみると、経済状況は20位、政府の効率性は39位、ビジネス効率性は51位、インフラは22位と特にビジネス効率性が足を引っ張っていることがわかります。日本企業が生産性向上のための投資や改革をほとんど行ってこないために、国際的な競争力を下げていることがよくわかります。
(p.149.)

 企業経営者はグローバル化した世界における日本の競争優位性の探究を怠り、社員はヒラメ厨、ギョロメ厨となって、短時間で仕事の成果を上げる動機づけを失い、大学の情報処理系授業でパワポの使い方を教えるような低レベルの教育を放置する、その結果がこれである。

 特に日本と海外の違いは労働時間の長さです。
 他の国では15分でやる作業を、日本では無駄なプロセスがあったり細かいところまでこだわったりしてしまうので、1時間も2時間もかかることがあるのです。
 これはなぜかと言うと、製造業を除き、日本の多くの産業では費用対効果をきちっと計測をしないからです。計測してしまうと、管理職の無能さがばれてしまうので、なんとなくうやむやにされているのです。
 もっと言うと、組織の規模や予算を維持するために、簡単にできることも難しそうに見せたり、短時間でできることも長くかかるように見せかけたりしたほうが得をするわけです。
(中略)
 日本はアウトプットそのものより「インプットの量=どれだけ頑張ったか」を評価するので、どうしてもそうなってしまうわけです。つまりこれは何と同じかというと、末期のソ連と同じです。
 共産主義が崩壊した理由の1つは、インプットに対して効率よくアウトプットを出すことができる仕組みになっていなかったことです。
 そして、非常に価値の低いサービスや商品を生み出し続け、成果を出しても報酬はそれほど変わらないので、自分が仕事しているように見せかけたり非効率をわざと維持したりということが常態化していました。
 実は日本の多くの組織でこれが起こっているのです。身に覚えのある人もいるのではないでしょうか。高度経済成長期からバブルまでは経済が成長していたので、たとえ価値が低いものでも飛ぶように売れていました。しかし、今はそうではありません。経済は低調なのに、仕事のやり方はバブルの頃とほとんど変えていない。なので、非効率なままでインプットに見合ったアウトプットが出せていないのです。
(pp.165-168.)

 ブルシットな仕事に安住し、グローバルな厳しい競争のなかで生き残っていく動機づけに失敗した国は、旧ソ連のように、崩壊していくほかないのではないだろうか。

 ところが日本企業の場合はこのような戦い方をしていません。
 ビジネスモデルがまったく違うわけです。
 いまだに日本の企業は40年前と採用の仕方が変わっていません。
 大学を卒業したばかりの専門性も経験もない学生をとりあえずたくさん囲い込み、会社の中でゼロから育てて、いろいろな部署を経験させて村社会を形成し、長くその会社で働き続けてもらうというやり方を続けているのです。
 これも戦国時代でたとえると、周辺の農民を非常に少ない報酬で引っ張ってきて異なる藩や領主のところに移動させずに、特殊な技能や知識も身につけさせずダラダラと働かせるというやり方です。
「新卒一括採用」「終身雇用制」はものをつくればつくるほど売れた戦後の時代であれば問題なかったのです。しかも当時は上にいた優秀な人々が戦争で大量に亡くなってしまったので、ちょっと才覚のある若い人々が仕組みをどんどんつくり上げることができる環境でした。
 その他大勢の人はそれに従ってわーと大量に働いていればよかったわけですから、専門性のない働き手がたくさんいてもまったく問題なかったわけです。
 ところが今は違います。
 全世界にビジネス上のライバルが大量にいるのです。
 そして、競争が激しい中で売れるものというのは、非常にユニークで付加価値の高いソフトウェアや高品質の工業製品です。
(pp.173-175.)

 このように、日本の組織は超優秀な武将や浪人を高待遇で雇うという柔軟性な仕組みになっていません。なぜかというと、上にいる大名やその家臣が無能だからです。無能でありながら権力を持っている人たちは自分の現状に満足しているので、現在の体制を維持することに心血を注ぎます。
 そういった組織では失敗をすることが極端に避けられるので、「何もしない」ようになります。
 これが日本企業で無能な高齢の社員が居座っている理由です。
 この状況を打破するためには、多くの武士が藩から足抜けをするほかありません。
(中略)
 つまり、日本企業は全世界が戦国時代の状態であるのにもかかわらず、鎖国されているふりをして、いまだに孤立した中でなんとか商売を回しているのです。しかも年寄りはどんどん増え、子は生まれず、戦える人がどんどん減っていくという危機状況です。
 そして、子どもには戦国の世の厳しさを教えず、毎日毎日能や生花、詩歌の稽古など、役に立たないことを教えている。要するにゆとり教育です。実際に戦場で戦う人々にそんな教育は必要ありません。
 彼らに必要なのは敵を叩きのめす腕力と武力であり、重や弓矢を使いこなす知識です。しかし、今の日本は海外からすでに攻め込まれていることにも気づかず、のほほんと現状維持を続けているわけです。
(pp.177-179.)

 これに、ジェンダーギャップ指数が146カ国中125位、という絶望的な状況が加わる。

 日本では、子育て世代の20歳代後半から30歳代の就業率が他国と比べて低い傾向があります。そういった女性たちは、教育レベルが高く、やる気もありますから、どんどん働いてもらうべきなのですが、職場が女性にも働いてもらえる環境を整えないのでどうしようもありません。
 そこにこそ日本政府が手を入れるべきなのですが、なぜか放置されています。
 これも戦国時代にたとえればもっとよくわかります。
戦場に出て行かなければならないのは年寄りと指示待ちの農民だらけです。しかし敵は大砲を持ち、厳しい訓練を積んだ軍勢でありなんとかして国土を守るために戦わなければなりません。
 体力があってやる気もある女性たちはたくさんいるのです。この人々をなんとかして活用する方法を日本政府も日本の会社も考えなければならないのです。
 しかし上に居座っている人々は、現状維持で失敗を恐れる人々で、外様である女性たちから攻撃されることが怖くてしょうがないのです。
 こんな人々はさっさと見限って女性たちややる気のある武将や浪人たちは自分たちの組織をつくってどんどん出て行ってしまったほうがよいでしょう。
 人不足の解決策として日本政府は日本の入国管理法を改正して外国人労働者も日本にどんどん定住できるようにしています。
 実は先進国において日本は非熟練労働の外国人が労働許可や定住許可を取るうえで最も簡単な国なのです。しかも労働ビザの取得費用も激安でこれほど簡単な国はありません。
 要するに政府は日本の労働集約的な仕事のやり方を根本から改善することなしに、とりあえず激安で働いてくれる足軽農民を外国人でもいいからどんどん入れてなんとかしようという非常に短絡的な考え方なわけです。
 しかし教育を受けていない足軽農民には付加価値の高い漆器やからくり人形をつくることはできません。多勢の足軽よりも必要なのは特殊スキルを持った指導者や職人、相手を確実に仕留める浪人です。
 数ではなく質なのです。
 日本の女性たちには武将や優秀な職人、技術者、研究者、花火屋、忍びの者、大工の末裔もいます。わざわざ文化も言葉もわからない外国人を苦労して連れてくるよりも、日本の国土や文化を理解しており、空気を読むことにたけていて、忍耐力があり、教育レベルも高い彼女らを訓練して隠密や職人、刺客に仕立てればよいのです。
(pp.179-181.)

 短期の株主利益を最大化すること、タックスヘイブンで脱税することにしか関心がなく、多額の給与を得てストックオプションを行使して早期リタイアする海外グローバル企業のCEOをまねする必要などもちろんない。

 しかし、若手でも能力ある者を抜擢して、海外のテック企業に伍していける社内ベンチャーを立ち上げ、そうしたベンチャー小企業の集積体として、企業を再構築する実践を、企業経営者は、果たしているのか?

 メンバーシップ型雇用社会からジョブ型雇用社会への転換は進んでいるのか?

 企業は、いつまで新卒一括採用を続けるのか?
 なぜ、履歴書に空白期間がある者も含め、有能な者を、年齢を問わず採用しようとしない?

 いまだに女性管理職のあたまかずを増やさないとは、あまりにおかしいのではないか?

元・国連専門機関職員の著者が明かす――
日本人だけが知らない、
海外との「驚愕の価格差」
・東大卒より海外の介護士のほうが稼げる? 
・中国人が無制限で不動産買い放題!
・日本の福祉にたかる外国人たち
・アメリカは野球場のハンバーガーが「2000円超」
・光熱費が「2倍」になったイギリス
・欧米では年収1000万円で「低所得」
・「中古品」しか買えない日本の若者
・「100円ショップ」大好きな日本人
本書では、元国連専門機関職員の谷本真由美さんが、「物価も給料も日本はいまだに激安」であること、そしてその安さゆえに「海外から買われている」ことを“忖度抜き”で明かしています。
日本人はなかなか気づけない、世界から見た「ニッポンの真実」がわかる一冊です。

なぜ、この国だけ世界から取り残されているのか―?日本人だけが知らない、海外との「驚愕の価格差」

目次
第1章 「ニッポンの安さ」を日本人は何も知らない
「世界最安値」のニッポン
欧米に逆輸出される「100円ショップ」 ほか
第2章 転落しているのは「日本」だけ!
日本のイメージは「バブル時代」で止まっている
欧州からは「遠い国」 ほか
第3章 日本が売られる5秒前
財布に優しい国「ジャパン」
発展途上国も日本の不動産を買っている ほか
第4章 なぜ、「安い国」になってしまったのか?
物価が他の先進国に比べて安いワケ
なぜ、日本企業は儲からないのか? ほか
第5章 「貧乏国」で幸せをつかむヒント
「英語力」がカギになる
「怪しい情報」がはびこる日本 ほか


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