≪人口減少時代の新潮流:(No—11)
東京圏から地方へ、高齢者移住≫
民間の有識者会議の日本創成会議は、東京圏(1都3県)の医療や介護の10年先のことを想定するなら、今から手を打たなければならないとして、東京圏から高齢者の地方移住を提案されています。地方移住については、とり方によって「姥捨て山」「自治の放棄」など厳しい批判もあります。それを承知で最悪の状態にならないように、国や自治体は高齢者の尊厳を汲み上げて対処しなければならないと思います。
1.東京圏はパンク状態:地方へ負担押し付け?
日本創成会議は、東京圏に住む75歳以上の高齢者の人口について、わずか10年にして(団塊の世代が75歳以上となる頃)比較的若い高齢者(65~74歳)の1.5倍に増加すると試算しています。医療や介護の施設や要因が不足するのは自明の理であります。努力しても不足する、そこをもう一つ新しい発想で工夫するのが、政策責任者の務めだと思います。地方の移住は最後の最後です。
●75歳以上の高齢者人口の見通し
2025年、10年後の全国増加高齢者数のベスト5都道府県
◆ 1位:東京都:197.7万人・増加人口:50.5万人
◆ 2位:神奈川:148.5万人・増加人口:47.0万人
◆ 3位:大阪府:152.8万人・増加人口:45.8万人
◆ 4位:埼玉県:117.7万人・増加人口:41.2万人
◆ 5位:千葉県:108.2万人・増加人口:36.6万人
東京圏の1都3県が全国ベスト5に入り、その増加合計が175.2万人です。
要するに、10年間に1都3県で75歳以上の高齢者が175.2万人増加します。日本の高齢化のスピードを象徴する数字です。
●東京圏の高齢者移住:日本創成会議の提案
2025年には東京圏で13万人分の介護施設が不足するとの、日本創成者会議の発表がありました。医療や介護で、その施設や人材の面で優れた国内各地を掲げ、そこに東京圏の高齢者の受け入れ先として候補地を挙げております。全国41地域は次の通りです。
北海道:室蘭市、函館市、旭川市、帯広市、北見市
東北:青森市、弘前市、秋田市、山形市、盛岡市
中部:上越市、富山市、高岡市、福井市、金沢市
近畿:福知山市、和歌山市
中国:岡山市、鳥取市、米子市、松江市、宇部市、山口市、下関市
四国:高松市、坂出市、三豊市、徳島市、新居浜市、松山市、高知市
九州・沖縄:北九州市、大牟田市、鳥栖市、別府市、八代市、宮古島市、
熊本市、長崎市、鹿児島市
一つ間違うと、押し付けにとられます。各都市はそれぞれの思惑があり、それに合致しないと大変な誤解を招きます。受け入れ態勢だけでなく受け入れ事情を精査し、その上での高齢者移住を検討すべきだと考えられます。
●杉並区が南伊豆町に「特養」を(全国初)
◆ 東京都杉並区が伊豆半島最南端の静岡県伊豆町に整備を進める、特別養護老人ホームがあります。昨年末に杉並区と静岡県、伊豆町が共同事業を行うことに合意しました。過密と急速な高齢化に悩む都市と、過疎化が進行する地方都市との全国初の介護に関する合同事業の例です。東京から約200キロ離れた「特養」の入所を杉並区民はどのように受け止めるか・・・。
◆ 2018年度に100床(区:50床、町:40床、ショートステイ:10床)の規模で、県が3億6千万円、区が4億7千万円、町は土地を無償提供して、健康福祉センターを併設してホールなどの共用施設とする。ショートステイなども含めて、70から80名の職員雇用が見込めます。「東京の人にきれいな空気を吸って元気になっていただける。地元の人には、介護の職場に就ける」理想的なパターンです。
◆ そもそもこの話は、2010年杉並区が伊豆町弓ヶ浜に所有していた、全寮制特別支援学校「南伊豆健康学園」の廃止を決めたのが発端でした。当初は、区内の高齢者を受け入れる施設と考えていました。区内には施設を作るにも土地が無く、建設するにしても高い費用がかかります。当時の区長が白羽の矢を立てたのは、弓ヶ浜の利用でした。しかし、海岸にあるということで津波の心配があるので、今回の役場に近い町有地に話がまとまったわけです。
◆ 地方移住は区民の理解がカギ
杉並区民がこの施設を利用するには、静岡県の高い医療費を払うことになります。この問題もクリアーする法改正にメドもつけました。残る問題は、区民が200キロはなれた場所をどのように捉えるかです。2013年に弓ヶ浜での入所アンケートをとったら「希望しない」が64%でした。現在、区には1400人の入所待機者が居ます。今回の区の割り当ては50床で、区全体から見ればわずかな比率です。
2. 地方創生と大都市住民の地方移住
日本創成会議が消滅可能性都市を、政府と呼応しながらアピールしてから1年は過ぎました。その後、地方創生担当相も誕生して、地方創生が国民的関心事になり、政府の打ち出す政策と、各自治体の施策が相互作用しながら大きく羽ばたこうとしています。
●「改正地域再生法」が参院で可決
9月末施行予定のこの法律は、本社機能を東京23区から地方へ移せば、移転費用の免税や法人税の軽減、雇用が増えた分の税額控除などの恩恵を与えるものです。また、既存の地方に本社のある税制も、同じような優遇が得られるとのことです。さらに、政府は定員超えの私大に対して、助成金を減額する方針を打ち出しました。都市部の私立大学に集中することを、地方創生の観点から是正するねらいです。
●高齢者の地方移住を後押し
政府の「まち・ひと・しごと創生会議」にて、2016年度予算編成に向けて、地方創生の基本方針の素案を示しました。都市部の高齢者を地方へ移住させる計画です。2016年度からモデル地区を作りたいとの意向で、1県3市が先行して検討に入ったとのことです。その内容は大都市の高齢者を、元気なうちに地方へ移住させるというものです。
日本版CCRCというものです。アメリカで既に採用されて、2千ヵ所75万人が暮らしているとのことです。
●CCRCとは
まず、退職したばかりの健康な高齢者に移住してもらいます。その彼らに共同生活をして頂き、共同住宅や戸建集落でのコミュニティ形成をして頂き、その上での生涯学習や社会貢献をして頂きます。具体的には、留学生や青少年の交流を通じての活動です。
自らも語学や社会学を研鑽し、留学生などに対してホームステイや下宿などのお世話をしてもらいます。
●日本版CCRCの構想
日本創成会議の意向が反映されて、政府の「まち・ひと・しごと創生会議」の意向で、
高齢者が住みやすい大型施設や、コンパクトシティのような個人住宅を集めたりしての、小規模自治体を形成する街づくりなどを行います。そこには、元気な高齢者が中心になり、生活共同体をつくります。先行して行うのは、長崎県、茨城県笠間市、山梨県都留市、新潟県南魚沼市です。モデル事業としての1県3市が名乗りを挙げた次第です。
●新潟県南魚沼市の構想
市内に本部を置く国際大学と提携し、200世帯400人が住むCCRCを検討中だとのことです。国際大学の海外からの留学生と高齢者との交流を行います。さらに、日本語支援やホームステイなども行います。一種のボランティア活動です。高齢者が若いうちに出来る社会貢献です。地元の自治体もそのこと自体が雇用促進になり、街の発展や地方創生に大きく貢献できるとしています。その高齢者移住を東京に求め、東京の高齢者負担を軽減するという発想です。
●山梨県都留市の構想
都留市と都留文科大学などが協力する構想を描いています。既存の団地なども活用して、約700世帯、1000人程度の住む街区を想定しています。「元気の良い高齢者を受け入れ、学生や若者との交流を通して、住み続けたくなる街のきっかけを作りたい」堀内富久市長はそんな構想を話しておられます。都留市全体が高齢者を歓迎する体制をつくるとのことです。(以上)
東京圏から地方へ、高齢者移住≫
民間の有識者会議の日本創成会議は、東京圏(1都3県)の医療や介護の10年先のことを想定するなら、今から手を打たなければならないとして、東京圏から高齢者の地方移住を提案されています。地方移住については、とり方によって「姥捨て山」「自治の放棄」など厳しい批判もあります。それを承知で最悪の状態にならないように、国や自治体は高齢者の尊厳を汲み上げて対処しなければならないと思います。
1.東京圏はパンク状態:地方へ負担押し付け?
日本創成会議は、東京圏に住む75歳以上の高齢者の人口について、わずか10年にして(団塊の世代が75歳以上となる頃)比較的若い高齢者(65~74歳)の1.5倍に増加すると試算しています。医療や介護の施設や要因が不足するのは自明の理であります。努力しても不足する、そこをもう一つ新しい発想で工夫するのが、政策責任者の務めだと思います。地方の移住は最後の最後です。
●75歳以上の高齢者人口の見通し
2025年、10年後の全国増加高齢者数のベスト5都道府県
◆ 1位:東京都:197.7万人・増加人口:50.5万人
◆ 2位:神奈川:148.5万人・増加人口:47.0万人
◆ 3位:大阪府:152.8万人・増加人口:45.8万人
◆ 4位:埼玉県:117.7万人・増加人口:41.2万人
◆ 5位:千葉県:108.2万人・増加人口:36.6万人
東京圏の1都3県が全国ベスト5に入り、その増加合計が175.2万人です。
要するに、10年間に1都3県で75歳以上の高齢者が175.2万人増加します。日本の高齢化のスピードを象徴する数字です。
●東京圏の高齢者移住:日本創成会議の提案
2025年には東京圏で13万人分の介護施設が不足するとの、日本創成者会議の発表がありました。医療や介護で、その施設や人材の面で優れた国内各地を掲げ、そこに東京圏の高齢者の受け入れ先として候補地を挙げております。全国41地域は次の通りです。
北海道:室蘭市、函館市、旭川市、帯広市、北見市
東北:青森市、弘前市、秋田市、山形市、盛岡市
中部:上越市、富山市、高岡市、福井市、金沢市
近畿:福知山市、和歌山市
中国:岡山市、鳥取市、米子市、松江市、宇部市、山口市、下関市
四国:高松市、坂出市、三豊市、徳島市、新居浜市、松山市、高知市
九州・沖縄:北九州市、大牟田市、鳥栖市、別府市、八代市、宮古島市、
熊本市、長崎市、鹿児島市
一つ間違うと、押し付けにとられます。各都市はそれぞれの思惑があり、それに合致しないと大変な誤解を招きます。受け入れ態勢だけでなく受け入れ事情を精査し、その上での高齢者移住を検討すべきだと考えられます。
●杉並区が南伊豆町に「特養」を(全国初)
◆ 東京都杉並区が伊豆半島最南端の静岡県伊豆町に整備を進める、特別養護老人ホームがあります。昨年末に杉並区と静岡県、伊豆町が共同事業を行うことに合意しました。過密と急速な高齢化に悩む都市と、過疎化が進行する地方都市との全国初の介護に関する合同事業の例です。東京から約200キロ離れた「特養」の入所を杉並区民はどのように受け止めるか・・・。
◆ 2018年度に100床(区:50床、町:40床、ショートステイ:10床)の規模で、県が3億6千万円、区が4億7千万円、町は土地を無償提供して、健康福祉センターを併設してホールなどの共用施設とする。ショートステイなども含めて、70から80名の職員雇用が見込めます。「東京の人にきれいな空気を吸って元気になっていただける。地元の人には、介護の職場に就ける」理想的なパターンです。
◆ そもそもこの話は、2010年杉並区が伊豆町弓ヶ浜に所有していた、全寮制特別支援学校「南伊豆健康学園」の廃止を決めたのが発端でした。当初は、区内の高齢者を受け入れる施設と考えていました。区内には施設を作るにも土地が無く、建設するにしても高い費用がかかります。当時の区長が白羽の矢を立てたのは、弓ヶ浜の利用でした。しかし、海岸にあるということで津波の心配があるので、今回の役場に近い町有地に話がまとまったわけです。
◆ 地方移住は区民の理解がカギ
杉並区民がこの施設を利用するには、静岡県の高い医療費を払うことになります。この問題もクリアーする法改正にメドもつけました。残る問題は、区民が200キロはなれた場所をどのように捉えるかです。2013年に弓ヶ浜での入所アンケートをとったら「希望しない」が64%でした。現在、区には1400人の入所待機者が居ます。今回の区の割り当ては50床で、区全体から見ればわずかな比率です。
2. 地方創生と大都市住民の地方移住
日本創成会議が消滅可能性都市を、政府と呼応しながらアピールしてから1年は過ぎました。その後、地方創生担当相も誕生して、地方創生が国民的関心事になり、政府の打ち出す政策と、各自治体の施策が相互作用しながら大きく羽ばたこうとしています。
●「改正地域再生法」が参院で可決
9月末施行予定のこの法律は、本社機能を東京23区から地方へ移せば、移転費用の免税や法人税の軽減、雇用が増えた分の税額控除などの恩恵を与えるものです。また、既存の地方に本社のある税制も、同じような優遇が得られるとのことです。さらに、政府は定員超えの私大に対して、助成金を減額する方針を打ち出しました。都市部の私立大学に集中することを、地方創生の観点から是正するねらいです。
●高齢者の地方移住を後押し
政府の「まち・ひと・しごと創生会議」にて、2016年度予算編成に向けて、地方創生の基本方針の素案を示しました。都市部の高齢者を地方へ移住させる計画です。2016年度からモデル地区を作りたいとの意向で、1県3市が先行して検討に入ったとのことです。その内容は大都市の高齢者を、元気なうちに地方へ移住させるというものです。
日本版CCRCというものです。アメリカで既に採用されて、2千ヵ所75万人が暮らしているとのことです。
●CCRCとは
まず、退職したばかりの健康な高齢者に移住してもらいます。その彼らに共同生活をして頂き、共同住宅や戸建集落でのコミュニティ形成をして頂き、その上での生涯学習や社会貢献をして頂きます。具体的には、留学生や青少年の交流を通じての活動です。
自らも語学や社会学を研鑽し、留学生などに対してホームステイや下宿などのお世話をしてもらいます。
●日本版CCRCの構想
日本創成会議の意向が反映されて、政府の「まち・ひと・しごと創生会議」の意向で、
高齢者が住みやすい大型施設や、コンパクトシティのような個人住宅を集めたりしての、小規模自治体を形成する街づくりなどを行います。そこには、元気な高齢者が中心になり、生活共同体をつくります。先行して行うのは、長崎県、茨城県笠間市、山梨県都留市、新潟県南魚沼市です。モデル事業としての1県3市が名乗りを挙げた次第です。
●新潟県南魚沼市の構想
市内に本部を置く国際大学と提携し、200世帯400人が住むCCRCを検討中だとのことです。国際大学の海外からの留学生と高齢者との交流を行います。さらに、日本語支援やホームステイなども行います。一種のボランティア活動です。高齢者が若いうちに出来る社会貢献です。地元の自治体もそのこと自体が雇用促進になり、街の発展や地方創生に大きく貢献できるとしています。その高齢者移住を東京に求め、東京の高齢者負担を軽減するという発想です。
●山梨県都留市の構想
都留市と都留文科大学などが協力する構想を描いています。既存の団地なども活用して、約700世帯、1000人程度の住む街区を想定しています。「元気の良い高齢者を受け入れ、学生や若者との交流を通して、住み続けたくなる街のきっかけを作りたい」堀内富久市長はそんな構想を話しておられます。都留市全体が高齢者を歓迎する体制をつくるとのことです。(以上)