≪人口減少時代の新潮流NO―22
:加熱する私鉄各社の新しい沿線サービス≫
1.最近の私鉄各社の経営の変化
全国で千葉市(96万人)ほどの労働人口が毎年減少すれば、通勤だけでもかなりの収益減少があって当たり前で、私鉄各社はあの手この手で乗客収入の減少対策を講じています。バス、タクシー、ホテル、百貨店、不動産、旅行業等々の多角化、同業他社との合併・統合、赤字路線の間引き運転や廃止、関連事業の海外進出等々が今までの対策でした。そんな手法より、新しい時代の波にマッチした新しい経営を、バブル崩壊後から徐々に執り始めました。
◆沿線価値向上に向けた経営の方向性
過去の国鉄に対し、民間経営鉄道を通称「私鉄」と呼びます。一般的には、関東、関西、名古屋、福岡を走っている大手15社を指すことが多いです。この15社は、バブル崩壊後の新しい時代を迎えて懸命な経営努力をしています。新しい時代とは地域間競争の激化、居住人口や企業数の減少、非正規社員に代表される格差社会、本格的な高齢化や少子化社会、人口減少時代などを指します。その時代に対応するために沿線の価値向上に取り組んでいます。
① 若年層世代の誘致:子育てに対する施設の誘致
② 沿線生活の質的向上:利便さだけでなく文化や環境の良い生活
③ 高齢者向けのサービス拡充:医療や介護施設の充実したもの
④ 沿線の人口増加:地域間競争や同業他社に負けないための人口増加
⑤ 鉄道利用者人口の増加:車社会にない利便性で鉄道ファンの獲得
⑥ 沿線不動産の価値向上:インフラ整備はもとより公共施設や文化施設の充実
⑦ その他:鉄道会社の新しい社会性やブランド力等々
◆新しい風:国内観光事業が私鉄の経営をリードする
増え続ける外国人観光客に象徴されるように、国内観光が活発化して私鉄各社の経営内容が大きく改善の方向に動いています。もちろん外国人だけでなく、昨年の賃上げ効果で日本人自身の国内観光客の増加も経営に大きく寄与しています。日本の政治選挙では、風が吹くと勝利が容易いといわれています。運動員や資金が少なくても勝利が転がりこみます。その風とは、人口減少時代の現在に好景気をもたらす国内観光事業を指します。
この風が一昨年から吹き始めて、私鉄各社をはじめとして、鉄道事業に好業績をもたらしています。 特に、ホテル事業は好業績を上げて、ここ数年来の新規ホテル開業で多角化の成果が現れ始めています。また、京阪電車や小田急など国内観光地に通ずる私鉄などは、旅客部門の売上が上昇しています。更に、外人客の爆買いなどで東京や大阪の都心百貨店で売上に大きく寄与しています。
◆昨年前半の私鉄各社は好業績
昨年6月までの私鉄14社の経営は7社が最高益を出して、12社までが増益との数字を残しています。そのまま推移すれば今期の業績は好決算が期待されます。特に、近鉄グループホールディングは50%近い利益アップの連結決算が予想されます。人口減少時代における私鉄各社の好業績は、風以外の何ものでもありません。昨年の外国人訪日者は、2000万人に迫ろうとして風を起こしています。果たしていつまで続くかという不安もあります。
世界の政治・経済は、戦後70年を超えて最大の不安定要素を醸し出しています。米国の指導力の低下、EUの金融不安、中国の不安要素、中国・ロシアの世界秩序の破壊、中東情勢の不安‥等の不安定材料が目白押しです。そのような状況で果たしていつまでこの風が吹いてくれるのでしょうか?大きな疑問です。
2.私鉄各社の沿線サービス
人口減少時代の中で、企業業績に最も影響する業種の一つであるのが鉄道事業です。労働人口の減少で通勤客をはじめとして沿線住民が減ります。その対策としてあの手この手の沿線サービスが始っています。下記にいくつかの事例を記しますが、それは住民本位の、住民に根差した企業経営であり、沿線の存在価値や資産価値を高めるに余りある企業行動といえます。
◆小田急電鉄の事例
●複々線で出現した高架下空間を有効活用
商業施設や多目的スペースを広く住民に提供しています。「経堂駅周辺地区再開発」が行われ、商業施設「経堂コルテイ」などの「経堂テラスガーデン」が誕生。
●向ヶ丘遊園の跡地開発
「川崎市 藤子・F・不二雄ミュージアム」がオープンして人気を得ている。
- 「成城学園駅前」の駅上の土地を生かして商業施設「成城コルティ」と貸し菜園「アグリス成城」を経営。
- 小田急ムック保育園
東京都、神奈川県、相模原市などの認定を受けた保育園。0歳児から、朝の7時から、駅近、一時預かり、月極保育など沿線に10箇所あり。
●沿線情報サイト
月間「ODAKYU VOICE」「沿線観光案内」「箱根ナビ」「小田急でショッピング」
●「東北沢」駅~「世田谷代田」駅間を複々線工事で通勤時間短縮、列車増発で混雑緩和。
- 車内の除湿、消臭、森林浴の演出などのサービス。
- 駅ごとの「お忘れ物検索システム」
- 沿線の主なイベント
◆その他各社の事例
●駅中サービス
首都圏や大阪圏での駅構内で提供するサービスが多彩になってきました。
① 京急は構内に住宅相談窓口を新設して住宅相談やリフォームの相談に
② 東京メトロは永田町で英会話教室を新設、ローソンと提携してコンビニエンスストア
③ JR東日本では従来の「キヨスク」より大きい「ニューデイズキヨスク」を展開
④ JR新大阪駅改札内で大きな空間を「ところ狭し」と専門店がひしめき合っている
⑤ 京王電鉄は「高尾山口」駅に温浴施設開店で人気を博している
⑥ 東急電鉄が空き家を管理し始めて、月5000円からのサービス開始
⑦ 東急「大岡山駅」の構内でローソンのコンビニエンスを
●出勤向け有料特急が続々
乗客が減るが、特急指定料金などで売上減をカバーする動きが目立ってきました。
① 東武鉄道:夕方の特急だけでなく、今春から朝のラッシュ時にも実施予定
② 京浜急行:昨年12月から神奈川県南部から座席指定を平日朝から開始
③ 京阪電気鉄道:座席指定の有料車両「京阪特急プレミアム」来年からの導入を決定
●東急電鉄が東工大と連携して住民健康づくり
大岡山駅周辺で地域住民の健康づくり「健康ステーション大岡山」と名付けてスタート、
駅構内の階段の利用を推奨、東工大のイベントで東急系列病院の看護師による健康相談を実施、駅近辺のスーパーに健康食品コーナーを設置し健康の大切さをPR、その他健康に関する住民の意識向上を増進する企画が目白押し (2016年1月15日)
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