清代、ある裕福で徳望の高い老人がいました。(madk / PIXTA)
清(1636年に満洲に建国され、漢民族を征圧し1644~1912年まで中国本土とモンゴル高原を支配した最後の統一王朝である)の時代、裕福で徳望の高い老人がいました。
大晦日の夜、老人は宴に参加するために、2人の家来にロウソクを持たせて、邸宅の居間へ向かいました。老人は、庭を通りかかったとき、木の上に人がいるのに気が付きました。そこで、口実をつくって、家の者をみんなその場から立ち退かせ、家来には酒とつまみを持って来るよう言いました。
老人は、木の上の人影に向かって「もう誰もいないから、下りてきなさい」と声を掛けます。木の上の者は、老人に声を掛けられ大層驚いて落ちそうになりました。老人は「怖がらなくていい。私はあなたを捕まえたりしないから」と落ち着かせました。
木の上から下りてきたその者は、老人に土下座し必死に謝りました。老人の邸宅に潜んでいたのは、実は隣人だったのです。老人はその者に食事をさせ、何か要るものがあるかと問いました。隣人は涙ながらに、「家に老母がおり、今年は不作であったため、年を越せなくなりました。そこで、裕福な旦那様のお宅から物を盗み取ることを思いついたのです」と自白し、「旦那様は私の罪を問わないと言ってくださいました。これ以上、何の望みがありましょうか?」と激しく泣き出しました。
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