ダル中毒の科学ごっこ

絞り滓の知性を忘備と供養のために記します

フルーツ・ツリー🥑🍌🍇🍎🥝

2021-06-18 22:45:00 | 日記

 皆さんはふだん絵文字を使われますか?

 近年 【Unicode絵文字】がますます充実し,さまざまな場面・環境で絵文字を使えるようになってきました.日本発祥の絵文字文化がいまや世界中でEmojiとして親しみ使われているというのは,なんだか面白いです.

※皆さんのお手元のブラウザでも今,👍(いいね)や🍎(リンゴ)といった絵文字を表示できていますでしょうか❓

 

 さて,僕は果物の絵文字を使う機会が時々あるのですが,「へえ,こんな絵文字もあるのか!」と驚くことが多い一方で,「この果物もあればなあ...」と不足を感じてしまうこともあります.

 そこで先日,Unicodeで用意されている果物の絵文字一覧を調べてみたのです.

 想像はしていましたが,【Emoji化】されている果物の種類に大きく偏りがありました.(そしてこれは少し意外だったのですが)未だ日本で日常的に食べられている種に限られているようでした.

 

 また戯れに “実” の部分を食用とする植物のEmojiを見つけられる限り集め,目レベルで系統樹を描いてみたところ,次のような『フルーツ・ツリー』が得られました(☞):


※僕のアイコンに用いている画像です.

 

 すべての種が【被子植物】と呼ばれるグループに属しています.思っていたよりもEmojiの種類が豊富だったので,大雑把ながらも被子植物全体の系統樹の形状をちゃんと見てとれます

 果物として人類に利用されている種は,そもそも被子植物の系統の中で非常に偏って分布しています.そのため,食用の植物だけをサンプルとして被子植物全体の系統を見てとることは本質的に困難なことではあります.しかし,「Emoji化されている種がいない」という理由によって描けていない「進化の枝」が多いのもなお事実です.

 例えば次のような果物のEmojiがあると,もう少し賑やかな樹になって楽しそうです:ポポー(モクレン目)やドラゴンフルーツ(ナデシコ目),アケビ(キンポウゲ目),ザクロ・フェイジョア(フトモモ目),マンゴスチン・パッションフルーツ(キントラノオ目),ドリアン(アオイ目)

 

 どうやらユニコード協会(The Unicode Consortium)のウェブサイト https://home.unicode.org/ で,一般のユーザーからも新しい絵文字の提案を募っているようです...!! 果物の絵文字が系統的にもっと多様になると良いな~😁

 

注.生物たちの進化の系譜(すなわち系統)を描いた図を【系統樹】といいます.過去どのように生物たちが進化してきたのか,という過程を人類は直接観察することができないため,どんな系統樹が「真の系譜」なのか正確には判りません.そのため,科学者によって推定される系統樹は結局のところ,いずれも仮説に過ぎません.

 被子植物の系統に関する仮説は色々ありますが,上記の図を描くにあたってはDNA配列に基づいて推定されたAPG IVという仮説を用いました:
The Angiosperm Phylogeny Group. (2016). An update of the Angiosperm Phylogeny Group classification for the orders and families of flowering plants: APG IV. Botanical Journal of the Linnean Society, 181, 1–20. https://doi.org/10.1111/boj.12385

 また系統樹を描くにあたっては,iTOL v6.1.2 (https://itol.embl.de/) というツールを用いました:
Letunic, I., & Bork, P. (2021). Interactive Tree Of Life (iTOL) v5: an online tool for phylogenetic tree display and annotation. Nucleic Acids Research, gkab301. https://doi.org/10.1093/nar/gkab301


運転免許の試験に力学が...!?

2021-06-16 06:00:00 | 日記

 親戚が自動車の教習所に通っていると聞いて,自分が学科試験を受けたときのことを思い出しました.

 

 次のような問題に遭遇したのを覚えています.

【問題】


※文が正しいか否かを答える問題です.言い回しなどは違ったかもしれません.

 

 運転技能とあまり関係なさそうな問題だったので,「衝撃」を受けました(笑)

 

 【衝撃力】という言葉は自動車免許の教本にも載っていたのですが,おそらく力学でいう【力積】(☞撃力)のことではないかと思います.

 

 たしか大急ぎで,次のように力学の知識を思い出して試算しました:

 式 (3) から,(a) 「60 km/h で壁に衝突して静止した」場合と (b) 「ビルの5階から落下した」場合について,力積が等しくなるというのは,要するに衝突直前の速度 v_0 が等しいということだと判ります.

 ケース (a) およびケース (b) のそれぞれで v_0 について考えてみます:


※僕は割り算の計算が苦手なので,v_a0 の単位をあえてm/minにしておきたいと思います.

ビルの5階の高さを h = 14 m,重力加速度を g = 9.8 m/s^2 とします.



 求めた v_a0 と v_b0 に基づいて,問題文の真偽を判定します:

うーん,忖度して「問題文は正しい」が答えでしょうか(苦笑)


「π = 3 だとどうなる?」

2021-06-15 06:00:00 | 数理パズル

 円周率は π = 3.141592...から始まって無限に数字が続く無理数です.しかし僕が小学生のときには, π = 3.14 と近似して図形の面積などを求めていました.

 本当は違うものを π = 3.14 だとして計算しているので,ときには不都合なことが起きそうなものです.

 

 以前 塾でアルバイトしていたとき,生徒さん方に度々次のような論理パズルを出題していました(☞注1).

 

【問題】 いま「π = 3 である」と仮定します.一辺の長さが 1 の正六角形と半径 1 の円の周の長さをそれぞれ L1,L2 とするとき,下記の二人の主張で正しいのはどちらでしょうか?

 

 きちんと「問い」と「答え」になっているか少し心配ですが,この問題に関する一つの事実を次の動画でご紹介しました:

 

 2002年ごろ,「『ゆとり教育』の一環として,小学校での算数教育において円周率の値を 3 として教えることになる」という話が世間を騒がせたとのことです.もっとも,Wikipediaの『円周率は3』の記事によると,これは正確には誤報だったそうですが,実際に「π = 3 である」と仮定すると上記のような【矛盾】が生じることになります(☞注2).

 ただし,現行の算数教育で採用されている「π = 3.14 である」という仮定のもとでも矛盾は生じてしまいます.たとえば,円に内接する正60角形に注目すれば,内接多角形の周の長さ L1' が円周 L2' よりも大きくなるので,L1' < L2' に矛盾することが判ります.

 

 しかし,正60角形の周長を求めるのはなかなか骨が折れますね...(笑) もし他の矛盾の導き方をご存知の方がいらっしゃいましたら,ぜひ教えていただけると嬉しいです!

 

注1.次のような文脈で,しばしばこの問題を出題していました:
(1) 【背理法】という証明の形式をはじめて学ぶとき
(2) 矛盾のある体系では任意の命題が導けるという【爆発律】を紹介するとき(※この問題を少し変形して出題)
(3) 円周率を3や3.14と近似することの問題点を提起するとき(2003年の東大入試の過去問を演習するとき)

注2.狭義の背理法とは,次のことを言います:
「「Aでない」 → ⊥」 ⇔ 「Aである」
動画内の定義と少し異なりますが,【二重否定の除去】:
「「Aでない」でない」 ⇔ 「Aである」
を仮定することで同値になります.

 


【1分レシピ】 解の公式

2021-06-14 12:00:00 | 定理・公式

 「解の公式」と呼ばれるものには色々ありますが,その中でも多くの方にとって最初に(そしてひょっとすると最後に?)出逢うのが【2次方程式の解の公式】なのではないかと思います.

 

 一般に x の2次方程式は,定数 a (≠ 0), b, c を用いて次のように表すことができます:

 

このような方程式を解きたいとき,解の公式はとても頼りになります(☞注1):

 

色々な方法で証明することができますが,今回は【平方完成】によって導いてみました:

 

最初に 4a を掛け算しているのは,後の式変形で a^2 の根号(ルート)を外すというステップが現れるのをあらかじめ防ぐためです.つまり厄介な議論を回避するのが主な目的です(☞注2).

 

 1分間で間に合ったようです.

 3次や4次の方程式の解の公式を果たして1分間で証明することは可能なのでしょうか...? 僕では公式を書くだけでも1分で足りないような気がします(笑)

 

 

注1.「方程式を解く」というのは要するに,「このような関係を満たす未知数 x は何でしょう?」というなぞなぞに答えることです.

注2.このトリックは,昔どこかで聞いて知ったものだったような気もしますが,よく思い出せません.高校生になって実定数の2次方程式について解の公式を導こうとしたとき,場合分けが要ることに気づきました.中学生のときの自分が納得していた導出には穴があったのだと知って愕然としました.また複素定数だと一体どうしたらよいのだろうと震えたことを覚えています(笑)
 もし文献をご存知の方がいらっしゃいましたら,教えていただけると嬉しいです.


チェスパズルの数学

2021-06-14 06:00:00 | 数理パズル

 本日の数理パズルは,チェスの「ナイト(騎士)」が主役です.

 

【ルール 1】 ナイトというのは,将棋でいう「桂馬」のような動き方を四方に対して行うことができる駒です.

【ルール 2】 同じマスに複数の駒が存在することはできないものとします.

 

【問題】 上記のルール 1 および 2 を満たしながら,盤上の配置を次に示す (a) の状態から,(b) の状態に移動させることは可能でしょうか?

 

 判りましたでしょうか...?

 

 

 実はどんなに頑張っても,状態 (a) から状態 (b) に配置を変換することは決してできないのです.でも,どうしてでしょうか?

 

 次のようにして不可能であることを,数学的に証明できます:


※今のところ,この動画のシリーズを視聴してくださる方のおよそ半数が英語話者なので,スライドのみ英語にて作成してみています.字幕(日本語・英語)を利用できます.

 

 上手くお伝えできていると良いのですが...

 動画内の証明で用いたような「頂点と辺から構成される構造」のことを数学では【グラフ】と呼びます(☞).今回紹介した「チェス交換問題」(Chess swap problem)は,グラフの考え方を用いることで綺麗に解くことができる例の1つです.

 

 グラフを用いた問題には直感的で面白いものがたくさんあるので,後の記事でもご紹介していければと思います.こうご期待!

 

注.数学では,(僕の知っている限り)「グラフ」という言葉を2つの全く異なる意味で用います.1つは,中学校の数学でも教わる関数のグラフです.関数 y = f(x) をプロットして得られる図形のことを指します.もう1つは,離散数学の分野でいうグラフです.頂点と辺からなる構造のことを指します(※この動画内で扱ったのはこちらです).

 定義の仕方の流儀は色々ありますが,たとえば次のようにして両者を形式的に定義できます:
- 前者の「関数のグラフ」の定義
   関数 f: X → Y に対して,Γ(f) := {(x, f(x)) | x ∈ X} のことを 【f のグラフ】という.
- 後者の「離散数学のグラフ」の定義 ※特に動画内で紹介した「無向グラフ」の定義
   V を頂点の集合,また E :={{v, w} | v, w ∈ V} を辺の集合とする.このとき,組 (V, G) を【無向グラフ】という.

 

【出典】 今回紹介した問題は,次の教科書の第8章(Graph Algorithms)からの引用です.

Jones, N. C., & Pevzner, P. A. (2004). An Introduction to Bioinformatics Algorithms. MIT Press.

※図と類題は自作のものです.