あまりにも卑劣で、むごい事件が起きた。愛知県内の路上で、たまたま通りかかった女性を男3人が車に引きずり込み、 現金7万円とキャッシュカードを奪って殺害したのだ。
犯行は身勝手きわまりない。金を目当てに「力の弱い女性を狙った。だれでもよかった」と男たちは供述した。「顔を見られた」 といって人の命を簡単に奪い、遺体を山林に捨てた残忍さ。いくら非難してもしきれない犯罪である。
逮捕者には、朝日新聞の購読を勧誘する男も含まれていた。胸がふさがれる思いだ。
事件には第4の男もいた。3人と行動を共にしていたが、凶行の前に警察に名乗り出ていた。その段階で、 この犯罪をつかめなかったのか。愛知県警には全容の解明を求めたい。
犯行の悪質さとともに、今回の事件が浮き彫りにしたのは、インターネット社会の危うさだ。
容疑者たちが知り合ったのは、携帯電話などから接続する「闇の職業安定所」というサイトだ。互いの素性や本名すらよく知らないまま、 顔を合わせると女性を襲う計画を立てた。
接点のない者同士を、ネットは簡単に結びつける。互いに身元を知られにくいことが、犯行へのハードルを下げた面もあるのではないか。
今回使われたサイトは、犯罪を企てる人間が仲間を募るのにたびたび悪用されてきた。同じようなサイトはいくつもある。 「もうかる仕事あります」と呼びかけ、強盗や詐欺に誘い込む。「何でもやります」と書き込んだ男に、実際に殺人を依頼した事件も起きている。
そんな無法地帯のようなサイトに対し、警察も手をこまぬいているわけではない。民間団体とも連携し、 ネットを通じた犯罪に目を向けるサイバーパトロールを進めている。麻薬の売買といった違法行為を見つければ摘発する。
しかし、「リスクのある仕事」といった書き込みだけでは、摘発は難しい。有害情報と判断し、プロバイダーに削除を求めても、 同じような書き込みがすぐに別の場に現れる。なかなか目が行き届かないのがネット社会の特徴だ。
現実の世の中では、交番の警察官が地域を巡回し、犯罪の疑いがあれば職務質問もする。そんな防犯の手立てを、 ネット上でもこれまで以上に考える必要がある。違法な書き込みがないか。事件のきっかけになっていないか。 そうしたチェックの方法を工夫して強めていくことが、犯罪への抑止力になるはずだ。
地域の防犯には、住民の目も欠かせない。ネット上にも、法に触れる内容や有害な情報を見つけた時に通報できる民間の窓口がある。 こうした窓口の存在をもっと広く知らせる必要もある。
インターネットは便利な一方で、危うさをはらむ道具だ。犯罪の温床にしないために、知恵をしぼっていきたい。