



数年前から夏の2ヶ月ほどをボストン郊外で過ごすようになって以来、すっかりレッドソックスフアンになってしまった。今年も7月上旬からこちらに来ているが、毎日テレビでレッドソックスの試合を楽しんでいる。当地にはナインテイーナイン(99)というファミレスがあるが、レッドソックスが勝った次の日は子供の食事代がフリーになるサービスがあるので時々孫を連れて行く。開幕6連敗のスタートだったので、一時はどうなるかと心配していたが、一ヶ月が過ぎた頃から徐々に勝ち星を重ね、7月24日現在ではヤンキースに3ゲームの差をつけて首位をキープしている。こんな絶好調のチームをフェンウェイーパークで応援したかった。マリナーズのイチローは、10年連続でオールスターに出場し、10年連続で200本超安打を記録してきたが、今年はオールスターに選ばれず、200本安打達成にも黄色信号が点っている。これまでイチローの試合はテレビ以外では見たことがなかったので、この機会にイチローのプレイを目の前でじかに見たかった。

フェンウェイーパークは全米で最も小さい球場なので外野席でも試合の様子はよく分かるが、今回はイチローの打撃をできるだけ近くで見るため一塁側の内野席を取った。恒例のナショナルアンサムの歌が終わると、イチローが打席に入って試合開始となったが、観客の反応は殆どなかった。相手がマリナーズでは、ほぼ100%レッドソックスのファンで埋め尽くされたフェンウェイーパークで応援の歓声を聞くことは期待できない。しかし、相手チームの強打者にはブーイングで迎えるのが普通なのに、そのブーイングもなかった。もし、イチローがオールスターに出場し打率も3割台であれば、おそらく激しいブーイングが起こったのではなかったかと思うと、少しさびしかった。
レッドソックスのピッチャーはナックルボールのウィークフィールドだったが、最初の打席はピッチャーゴロに倒れた。そのあとマリナーズは立ち上がりに不安のあったウィークフィールドを攻めて一回表に2点を先取したので、イチローの影は薄かった。第二打席は内野のファールフライに倒れたが、さすがに第三打席はライト前にヒットを放った。しかし、盗塁を仕掛けて1,2塁間に挟まれてアウトになったときは、イチローの元気のなさを感じた。第四打席はこの日2本目のヒットを打ち、ようやく面目を保ったが、まだ2割6分台の打率ではこの先余程頑張らないと200本安打達成は厳しいと思った。
10年連続のオールスター出場と200本超安打の実績は、大リーグの球史に残る大記録だが、記録は永久に続けられるものではない。過去の如何なる名プレイヤーでも必ず記録は途切れ静かに引退していった。万年青年のようなイチローも今年はその仲間入りをするのだろうか。そんな不安が頭をよぎったが、これから通常の好調さを取り戻せば数字的には達成可能なので、最後まで諦めずに頑張って欲しいと願った。
一回の裏にはレッドソックスがマリナーズのルーキー投手ピネダを打って5点を取ると、ウィークフィールドは落ち着きを取り戻した。6回表の最終打者を三振にとり通算2000個の奪三振を記録すると、観客からスタンデングオベーションを受けた。6回の裏にはレッドソックスが更に集中攻撃を浴びせて5点を追加し、試合はほぼ決まった。そのせいもあって、ウィークフィールドは7回にも続投したが、さすがに疲れが出たのかナックルの切れがなくなりノーアウト満塁からホーランを打たれて4点を失った。ここでフランコーナ監督がピッチャーの交代を告げると、観客は総立ちで42才のベテラン投手に惜しみない拍手を送った。リリーフ投手のアセベスは1点を取られたが3回を無難に押さえ切り、12対8でレッドソックスが逃げ切った。これでレッドソックスはマリナーズに3連勝し、一方のマリナーズは15連敗となった。
フェンウェイーパークに限らず、アメリカの球場では日本のような騒々しい応援団がいないので、野球をゆっくりと観戦できる。調子のいいバッターが打席に入ると大きな声援が飛び、ヒットを打てば大きな歓声が沸き、点が入れば皆立ち上がって拍手をする。これがこちらの応援の仕方だが、試合の終盤に入ってレッドソックスの攻撃中、何処からともなくウェーブが起こった。1-2回で済むのかと思ったら、5-6回も続いたのはいただけなかった。ウェーブは打者の集中心を妨げ、かえってマイナス効果になる。案の定、強打者のオルテーズは三振に倒れてしまった。
前日までヒートが北東部にもやってきて、日中は35度を越す暑さが続いていたが、この日は比較的涼しくなり野球観戦には絶好の日和だった。その上、強いレッドソックスの試合を目の当たりにすることができ、大いに満足した。このままの勢いを続け地区優勝を目指して欲しい。一方、イチローについては一抹の不安を感じたが、今後の活躍を期待しながらフェンウェイーパークを後にした。