
先日読み終わった、宮城谷氏の新田次郎賞作品、天空の舟(上下)。
これはおよそ3500年前に、料理人から身を起こし、後に商の湯王に仕えて
時の王朝、”夏”を倒し新王朝成立に貢献した、名宰相伊尹(イイン)の物語。
”商”は”殷”とも呼ばれる中国で最初に文字を発明した王朝であり、
”夏”はおよそ4000年前に中国で最初に成立した世襲王朝と言われている。
夏については文字のない時代でもあり、まだその存在が実証されていない
伝説の王朝だが、商は前王朝を倒して成立したと記述されている点から
本当にあったのではないかと言われているとか。
伊尹は伊の国の生まれ。しかし彼が生まれた年に大洪水があり、桑の木に
抱かれて有施氏の領内に流れ着く。このことから彼が桑の木から生まれたと
伝わり、有施氏の主君の計らいで料理人として育てられる。
商が隣国葛を討ったとき、共謀しているとして夏の帝、桀は有施氏に兵を向ける。
絶体絶命の有施氏に伊尹は有施氏の末娘を伴って桀の元へ向かう。
この末娘は絶世の美女であり、実は彼女は伊尹のことを思っていたが、
有施の民を救うために自ら犠牲となったのである。
この娘が中国史上初(?)の女兵、”傾国の美女”、末喜(バッキ)である。
即ち、この後桀は彼女に溺れて政治を顧みなくなり夏は滅亡にむかうのである。
末喜は他の美女同様に大抵”妖女的”に描かれることが多いが、宮城谷作品では
夏姫物語や重耳でもそうだったように決して悪女としては描かれていない。
でも、絹を裂く音を好んだりしたことが桀に対して彼の暴虐をやめるように
忠告だったとは、ちょっと評価が前向きすぎな気がしないでもない(^_^.)
しかし、夏が商に倒された後も桀に付き添って南方に逃げていったのは事実。
確かに彼女が桀を深く愛し、必死に彼を支えようとした証拠なのかもしれない。