今月の始め、ハルが体調を崩した。 下痢と嘔吐が2日続いた。 居間のカーペットの上で吐いたので妻が驚いて始末したのだが、そのとき浴室にも下痢をしているのに気付いて騒ぎが大きくなった。 ハルは小犬の時から時々黄色い泡状のものを少し吐くことがあったが、その場所はほとんどが廊下や浴室などだった。 雨の降る日には浴室にトイレシーツを敷いてそこでオシッコやウンコをさせているので、浴室の中や周りで粗相することはときどきあり、私たちお二人さんもそれにはほとんど注意することはなかった。
しかし今回は嘔吐と下痢気味のウンコ漏らしが同時だったので、これは普通ではないと思い翌日あわてて獣医に連れていった。 単なる食あたりか感染症によるものかはすぐには判らないということで、とりあえず注射をして薬をのんで様子を見ることになった。 そして、妻の言う 「いつもの注射3本」 が効いたのか帰宅後は比較的早く元気を取り戻した。 ところがその晩8時ごろまた吐いてしまった。 まだ治ってはいなかった。
お二人さんの飼い犬のハルはこれまでの40余年間に飼ってきた犬たちとはいろいろな点で違った。 違いの第一は、ハルはお二人さんにとって初めての 「お金を払って買った犬」 だということである。 タダの犬と買った犬はやはり大きな違いがあった。 これまでの犬たちは「生まれてきた犬」だったが、買った犬は「作られた犬」という感じがした。 なにしろ、飼い易いことはこの上ない。 なんでも良く覚え「しつけ」に困ったことはほとんどなかった。 そして利口である。 人が飼うために都合のよい遺伝子を選択的に持たされており、都合の悪い遺伝子は持っていない。 4年間飼ってきて判ったのはそんなようなことだった。
ハルはトイプードルである。 我が家にきて最初に獣医へ連れていった時、「どうして今度はプードルにしたのですか」と医師に聞かれた。 その医師は私たちお二人さんがそれまで飼っていた犬について良く知っていた。 だから、どうしてこんどはプードルにしたのかと聞かれてもその意味が判らなかった。 しかし、話をしていて 「この犬は手入れを怠ると五右衛門みたいになっちゃいますよ」と言われてなるほどと合点がいった。 医師は私たちが飼い犬に余りお金をかけないことを良く知っていたので、トイプードルには苦労するだろうと思ったのだと気付いた。
私たちお二人さんは、ハルがトイプードルで獣医さんから指摘を受けていたにもかかわらず、ハルをそれまで飼ってきた犬たちのように、どちらかというとワイルドに育ててきたし現在もそのように飼っている。 去年の始めからもう1年半ほどトリーマーへは連れていっていない。 シャンプーもカットも妻と私で共同してやっている。 小犬の時から3年ほどは二月ごとくらいにトリーマーへ行っていたが、一昨年の暮れに「毛玉が多かった」という理由で全身短くカットされてしまった。 それを機に、その後トリーマー行きは止めて自分たちでトリミングをすることにした。
トリミングといっても、月に1回ほどシャンプーをし、毛が伸び過ぎてみすぼらしくなってきたらバリカンとハサミで適当に切っているだけである。 ハルの散歩はもっぱら私の担当になっているのだが、近所の川の堤防道路へ行った時などはリードを付けたまま放してやる。 そうすると、好きなようにあちこち走ったり草むらに顔をつっこんで匂いを嗅いだりする。 もっとも、そうする前に川へ行くまでの間にウンコやオシッコは済ませてしまうことは言うまでもない。 最初の頃は戸惑ったり、危なかったりしたこともあったが、今では私から3、40mほどの間を後になったり先になったりしながら嬉しそうに走っている。 冬を真ん中として、その前後の田んぼの稲が刈り取られている間は、田んぼを好き勝手に走ったりしている。
そんな風にワイルドに育ててきたし飼っていたのだが、先日病気になってやはりハルは血統書付きの西洋犬の小型犬だと気付かされた。 利口で飼い易いようだがひ弱である。 食べるということをとってもハルは口より大きいものは食べられない。 口で噛みついて引き裂いたり食いちぎったりということが出来ない。 口を開けさせて見てみるとなにしろ口の幅が小さくて細い。 蛇の口のようである。 体中の毛がフワフワしているので見た目はまあまあの口をしているようだが実体は違うのである。
元気でお転婆で良く食べるのでついついこれまで飼ってきた犬たちと同じようなつもりで対してしまう。 これまでに飼った犬のうち最後のアッキーはマルチーズで西洋種の小型犬だった。 しかし、氏が違っていた。 アッキーは四国の讃岐で犬好きの妻の親戚の家で産まれた普通の飼い犬だった。 血統書などとは縁の無い犬だった。 もともと丈夫で雑な飼い方にも馴れていた。 だからハルのような犬に対処するにはそれまでの犬の飼い方とは少し違う新しい知識や方法が必要なのだと知らされた。
ようするにお二人さんが以前飼っていたのは腕白もののガキ大将のようなもので、今のハルはいいところのオボッチャマといったような違いがあるのだと思う。 もっともハルはメス犬だが、、、。 お坊ちゃんでも腕白にはなれる。 深窓のお嬢様でもバリバリのキャリアウーマンになれないこともなかろう。 世間の通念でも獣医師の見方でも「どうかな?」と思われるようなことをしているのかもしれないが、自分たちなりに納得がいくような飼い犬になることを期待しながらこの先もハルとのつきあいを続けていくつもりである。
お二人さんは飼い犬には”愛玩犬”であることは望んでおらず、”伴侶犬”であることを望んでいる。 ハルがいかにひ弱であっても、飼い犬に対するこの気持と姿勢だけはこれからも変わらないと思っている。