「子どもと教育を考える新春のつどい」
2010.1.8 於 札幌市教育文化会館
服装問題に取り組む子どもたちと大人の関わり ~自主自律の学校を目指して~
富良野高校教諭 松代峰明
1、富良野高校の校風「自主・自律」の状況
富良野高校は、「自主・自律」を校風として掲げている学校です。1997年には、服装自
由化に向けて生徒会が7年間にわたる粘り強く取り組んだ結果、「制服着用自由化宣言」
を採択し、服装自由化を実現させました。
┌──────────────────────────────────────┐
│制服着用自由化宣言 │
│ 富良野高校生徒会は「自律」するための第一歩として制服自由化を宣言する。│
│ そして私たちは「自由」を手に入れる。しかし、自由だからといって何をしても │
│ いいわけではない。自由だからこそ正しい判断をする責任が必要とされる。 │
│ そして、この自由化を通じて生まれてくるさまざまな問題に取り組むことによ │
│ って「自律」への第一歩をふみだし始めるのだ。私たちは自律した人間を目指し、│
│ 努力することをここに決意する。 │
└──────────────────────────────────────┘
しかし、ここ数年は、生徒たちが自治の力を発揮しているという状況にはありませんで
した。例えば、常任委員会の委員をクラスで選出する時にジャンケンで決める、HR討議
を行っても意見が出されず、すぐに多数決をおこなう、などといった状況が常態化してい
ました。
一方で、生徒会が主体的・創造的な活動を展開する場面もありました。2005年には、H
R委員会定期考査の試験範囲を2週間前に発表してほしいなどの要求を盛り込んだ「定期
考査に関する要望書」を学校側に提出し、要求を実現させるという取り組みもおこなわれ
ました。
服装自由化以降の状況については、「茶髪・派手な化粧・ピアス」や、「指定ジャージ
登校」、他校の制服や「なんちゃって制服」をだらしなく着用するなどといったことが改
善されずに日常化するという状況が続いており、地域の評判も良くありませんでした。
これは、「制服着用自由化宣言」にある、「自由だからといって何をしてもいいわけで
はない。自由だからこそ正しい判断をする責任が必要とされる。そして、この自由化を通
じて生まれてくるさまざまな問題に取り組むことによって自律への第一歩をふみだし始め
るのだ。私たちは自律した人間を目指し、努力することをここに決意する」という文言
を、生徒と教職員が実践していくことが不十分だったことが原因でした。
2、服装・頭髪の改善で「自主・自律」の再構築を
2010年6月に行われた職員会議で、校長からある文書が提出されました。タイトルは、
「『自主・自律』を問い直す」。校長は、「本校の良さも悪さも、『自主・自律』を掲げ
た教育に起因しているのではないか」と分析。そして、この課題解決に向け「学習面も含
めて本校の全ての教育活動で自主自律を育む→富良野高校の教育をトータルで見直す『ビ
ジョン検討委員会』を組織」することを提案しました。
この提案は承認され、その後ビジョン検討委員会のメンバーも決まり、検討がすすめら
れていきました。私は、生徒会担当として委員に選ばれました。
ビジョン委員会での本格的な議論は夏休み明けから始まりました。そこでは、①生徒の
力で現状を改善する、②服装自由化を残しつつ、制服を導入するという方向で合意しつつ
ありました。制服については、以下の理由から導入の方向での検討がすすめられました。
・進路活動や儀式的行事における制服の必要性を訴える生徒が年々増加している。
・卒業式における女子生徒の華美な服装(ほとんどの生徒が袴や振り袖を着る)に対
して、改善を求める保護者が増加している。
・「なんちゃって制服」や指定ジャージを着て登校する生徒が年々増加している。
夏休み明けに校内研修会が開かれました。私は、旧教育基本法でも定めているように、
戦後の教育は、平和で民主的な日本を形成していく「人格の完成」を目指すために、「自
主的精神」の育成を必要不可欠なものと位置づけていることを強調しながら、本校を本当
の意味で自主自律の学校にしていくためにも、服装・頭髪の問題を生徒達の力で改善して
いくという趣旨の提起をしました。
これに対し、さまざまな意見が出されました。中には、「今の服装・頭髪でそんなに問
題があるとは思わない」「教師がルールを作って教師が指導していくべきではないか」と
いった意見も出されました。
その後、小委員会や職員会議での議論を重ねる中で、6月の職員会議のとおり、服装自
由化を残して制服は導入しつつ、服装・頭髪の乱れを生徒の力で改善するという方向での
意思統一が図られていきました。そして、11月の職員会議で次の点を確認するに至りまし
た。
以下の点を生徒に提示する。
① 2011年度入学生から制服を導入する。
② 服装・頭髪の規則を教員が作る。
③ 上記①②について、生徒会が何らかの対案を示した場合はそれについても検討す
る。
服装自由化廃止や教師主導によるルールづくりを主張する職員も一定数いる中で、生徒
自治による改善という決定に至ったのは、毎年行われてきた年度末反省会議での議論など
を通じて、自治の力を育てることの大切さを確認し、不十分ながらもそのための実践を行
ってきたことによるのではないかと思います。
3、PTAがアンケートを実施
本校では、「PST懇談会」を、2003年度から毎年1回開催してきました。これは、生
徒(S)、保護者(P)、教職員(T)が、教育についての情報を共有し、相互に評価し
ながら共同していくことを目的に行う懇談会で、PTA育成委員会が主催して毎年11月に
開催しています。
10月、PST懇談会の内容を協議するために開かれた育成委員会の中で、担当教員は、
教員側が服装・頭髪の改善に向けた検討を行っていることを説明し、PTAに対しても何
らかの協力を要請しました。そして、協議の結果、この問題を主としたPTAによる保護
者対象のアンケートを実施することと、PST懇談会については、1月にこの問題をテー
マにして開催することを確認したのです。
その後、育成委員会はアンケートを実施。その結果、約8割の保護者から回答が寄せら
れるなど、この問題に対する保護者の関心の高さを示すものとなりました。
4、動き出す生徒会
校長からの説明を受け、生徒会の取り組みが始まりました。そして、執行部は議論を重
ねる中で、次の方向性を確認するに至ったのです。
①「服装自由化宣言」を守る。
②自分たちで一定のルールをつくり、作ったルールは自分たちの力で守っていく。
そして、その具体として、冬休み明けからLHRで討議を積み重ねて、2月中旬には生
徒会による何らかの改善策をつくり、その後改善策による試行を行い、教員側に認めても
らうという日程を考えたのです。
冬休みが明けた1月20日。朝のSHRの際に生徒会長が、全校放送で生徒に対し、この
問題を教師の力に頼るのではなく、生徒たちの力で解決していこうという呼びかけを行い
ました。
1月27日のLHRでは、教員側による改善策が生徒に示されました。
1月28日には、通算8回目となるPST懇談会が行われ、参加者はこの問題について活
発な話し合いを行いました。
ここまでの取り組みを通じ、生徒会執行部は、この問題を教員に任せるのではなく自分
たちの力で解決したいと考えている生徒が一定いるものの、多くの生徒は教員側のルール
と指導で改善するのか、それとも自分たちが何らかの取り組みをすすめることで改善して
いくのかを深く考えていないのではないかという現状分析をしました。そして、次回のL
HRでは、この問題を自分たちで改善するのか、それとも教員側のルールと指導で改善す
るのか、ということをテーマに討議を行うことにしました。
2月2日のLHRでは、ほとんどのクラスが生徒自身の手で改善すべきであるという意
見にまとまりました。
改善策策定に向けたHR討議としては最後となる2月12日のLHRを前に、執行部は
生徒会通信を発行し、「先生方の改善策が導入されるということは、先輩達が長い年月を
かけて勝ち取った『制服着用自由化宣言』がなくなるということであるが、自分たちの代
でなくなって本当にいいのかということを考えてほしい」と訴えました。12日のLHR討
議は、これまでになく積極的で建設的なHR討議となりました。
そして、執行部は16日に改善策案を発表。翌17日に評議会(生徒総会に次ぐ議決機関。
HR委員が務める)を開催し、執行部案についての審議を行いました。そして、延べ6時
間の議論の結果、執行部の案に若干の修正を加える形で改善策は確定しました。そして、
改善策はその日のうちに生徒会長が校長に提出したのです。
5、試行の結果を生徒会・PTA・教員がそれぞれ検証
生徒会による改善策は、翌19日の職員会議に提案されました。そして、議論の結果、次
のような確認がされたのです。
・生徒会改善策による試行を認める。
・試行結果の検証については、生徒達だけで行うのではなく、PTAと教員もそれぞれ
行い、改善されたかどうかの最終的な判断は三者の検証結果を総合して行う。
・検証の結果、改善されたという結論に至った場合は、22年度から正式に生徒会改善策
を導入し、改善されないという結論に至った場合は、教員側の改善策を導入する。
職員会議で確認されたこれらのことは、2月22日に開かれた臨時全校集会の中で生徒に
伝えました。説明を受け、生徒会長と、評議会議長がそれぞれ、「生徒案をしっかり守る
ことが最後のチャンス。できなければ、大人に決められたことしかできない高校になって
しまう。生徒全員でがんばっていこう」(評議会議長)などと訴えました。
生徒会による点検は、卒業式が行われた3月1日から4回行われました。その結果、1
回目の点検では24人いた違反者が、2回目には12人、3回目は4人、4回目には1人(こ
の生徒も改善を約束)となり、違反者はほぼいなくなるという状況まで改善されたので
す。
一方、PTA、教員それぞれによる点検は、3月1日から3回ずつ行われました。
3月19日、生徒会、教員、PTAの点検結果をつきあわせる会議が開かれ、生徒会は、
「『服装頭髪問題』に関する改善策の試行結果について」という報告書を提出。(資料
⑦)そして、議論の結果、生徒の服装・頭髪の乱れは生徒会改善策によって改善されたと
いうことを三者で確認、その後PTAは役員会で、教員側は職員会議で、2010年度から生
徒会改善策を正式に導入することを確認したのです。
6、自主自律の学校を目指して
生徒会改善策が正式に導入されて、1年がたちました。この間、HR委員会と校風委員
会による点検は、7回行われましたが、違反者は毎回何名かいるものの、生徒の服装・頭
髪の状況は大幅に改善されました。地域の評判もすっかり変わりました。私も何人もの方
から「富良野高校変わりましたね」という言葉をかけられました。
しかし、この取り組みはこれからが本番です。取り組みを通じて明らかになった課題を
どのように解決していくのかが問われています。とりわけ重要な課題は、この取り組みが
違反者と点検者だけの取り組みになってしまっている状況を、どのように打開していくか
という問題です。たしかに、取り組みを通じて自ら身だしなみを正した生徒が多く出たこ
と自体、自主・自律が一定すすんだと言えます。しかし、違反している生徒がいるという
状況に対して、クラス・学年・生徒会全体で、違反生徒への働きかけも含め、多くの生徒
が主体的に関わっていくという取り組みや議論には、残念ながらまだ至っていません。た
しかに、生徒同士の人間関係が希薄になっているといわれる中で、互いに意見をぶつけ合
うということは、そう簡単なことではないのかもしれません。しかし、人間関係が希薄な
現状であるからこそ、生徒同士つながる実践を粘り強く積み重ねていくことこそ、今の教
育には必要なのではないかと思いますし、そうした生徒同士の関係を作っていくことなし
に、自主自律は成り立たないと思います。
また、今回の取り組みをPTAと共同して展開できたことは、PST懇談会などでつく
りだしてきた保護者との共同による学校づくりを、今後発展させる上でとても大きな力に
なると考えています。生徒を真ん中に据えた教職員・保護者との共同の学校づくりを今後
もすすめていきたいと思います。
2010.1.8 於 札幌市教育文化会館
服装問題に取り組む子どもたちと大人の関わり ~自主自律の学校を目指して~
富良野高校教諭 松代峰明
1、富良野高校の校風「自主・自律」の状況
富良野高校は、「自主・自律」を校風として掲げている学校です。1997年には、服装自
由化に向けて生徒会が7年間にわたる粘り強く取り組んだ結果、「制服着用自由化宣言」
を採択し、服装自由化を実現させました。
┌──────────────────────────────────────┐
│制服着用自由化宣言 │
│ 富良野高校生徒会は「自律」するための第一歩として制服自由化を宣言する。│
│ そして私たちは「自由」を手に入れる。しかし、自由だからといって何をしても │
│ いいわけではない。自由だからこそ正しい判断をする責任が必要とされる。 │
│ そして、この自由化を通じて生まれてくるさまざまな問題に取り組むことによ │
│ って「自律」への第一歩をふみだし始めるのだ。私たちは自律した人間を目指し、│
│ 努力することをここに決意する。 │
└──────────────────────────────────────┘
しかし、ここ数年は、生徒たちが自治の力を発揮しているという状況にはありませんで
した。例えば、常任委員会の委員をクラスで選出する時にジャンケンで決める、HR討議
を行っても意見が出されず、すぐに多数決をおこなう、などといった状況が常態化してい
ました。
一方で、生徒会が主体的・創造的な活動を展開する場面もありました。2005年には、H
R委員会定期考査の試験範囲を2週間前に発表してほしいなどの要求を盛り込んだ「定期
考査に関する要望書」を学校側に提出し、要求を実現させるという取り組みもおこなわれ
ました。
服装自由化以降の状況については、「茶髪・派手な化粧・ピアス」や、「指定ジャージ
登校」、他校の制服や「なんちゃって制服」をだらしなく着用するなどといったことが改
善されずに日常化するという状況が続いており、地域の評判も良くありませんでした。
これは、「制服着用自由化宣言」にある、「自由だからといって何をしてもいいわけで
はない。自由だからこそ正しい判断をする責任が必要とされる。そして、この自由化を通
じて生まれてくるさまざまな問題に取り組むことによって自律への第一歩をふみだし始め
るのだ。私たちは自律した人間を目指し、努力することをここに決意する」という文言
を、生徒と教職員が実践していくことが不十分だったことが原因でした。
2、服装・頭髪の改善で「自主・自律」の再構築を
2010年6月に行われた職員会議で、校長からある文書が提出されました。タイトルは、
「『自主・自律』を問い直す」。校長は、「本校の良さも悪さも、『自主・自律』を掲げ
た教育に起因しているのではないか」と分析。そして、この課題解決に向け「学習面も含
めて本校の全ての教育活動で自主自律を育む→富良野高校の教育をトータルで見直す『ビ
ジョン検討委員会』を組織」することを提案しました。
この提案は承認され、その後ビジョン検討委員会のメンバーも決まり、検討がすすめら
れていきました。私は、生徒会担当として委員に選ばれました。
ビジョン委員会での本格的な議論は夏休み明けから始まりました。そこでは、①生徒の
力で現状を改善する、②服装自由化を残しつつ、制服を導入するという方向で合意しつつ
ありました。制服については、以下の理由から導入の方向での検討がすすめられました。
・進路活動や儀式的行事における制服の必要性を訴える生徒が年々増加している。
・卒業式における女子生徒の華美な服装(ほとんどの生徒が袴や振り袖を着る)に対
して、改善を求める保護者が増加している。
・「なんちゃって制服」や指定ジャージを着て登校する生徒が年々増加している。
夏休み明けに校内研修会が開かれました。私は、旧教育基本法でも定めているように、
戦後の教育は、平和で民主的な日本を形成していく「人格の完成」を目指すために、「自
主的精神」の育成を必要不可欠なものと位置づけていることを強調しながら、本校を本当
の意味で自主自律の学校にしていくためにも、服装・頭髪の問題を生徒達の力で改善して
いくという趣旨の提起をしました。
これに対し、さまざまな意見が出されました。中には、「今の服装・頭髪でそんなに問
題があるとは思わない」「教師がルールを作って教師が指導していくべきではないか」と
いった意見も出されました。
その後、小委員会や職員会議での議論を重ねる中で、6月の職員会議のとおり、服装自
由化を残して制服は導入しつつ、服装・頭髪の乱れを生徒の力で改善するという方向での
意思統一が図られていきました。そして、11月の職員会議で次の点を確認するに至りまし
た。
以下の点を生徒に提示する。
① 2011年度入学生から制服を導入する。
② 服装・頭髪の規則を教員が作る。
③ 上記①②について、生徒会が何らかの対案を示した場合はそれについても検討す
る。
服装自由化廃止や教師主導によるルールづくりを主張する職員も一定数いる中で、生徒
自治による改善という決定に至ったのは、毎年行われてきた年度末反省会議での議論など
を通じて、自治の力を育てることの大切さを確認し、不十分ながらもそのための実践を行
ってきたことによるのではないかと思います。
3、PTAがアンケートを実施
本校では、「PST懇談会」を、2003年度から毎年1回開催してきました。これは、生
徒(S)、保護者(P)、教職員(T)が、教育についての情報を共有し、相互に評価し
ながら共同していくことを目的に行う懇談会で、PTA育成委員会が主催して毎年11月に
開催しています。
10月、PST懇談会の内容を協議するために開かれた育成委員会の中で、担当教員は、
教員側が服装・頭髪の改善に向けた検討を行っていることを説明し、PTAに対しても何
らかの協力を要請しました。そして、協議の結果、この問題を主としたPTAによる保護
者対象のアンケートを実施することと、PST懇談会については、1月にこの問題をテー
マにして開催することを確認したのです。
その後、育成委員会はアンケートを実施。その結果、約8割の保護者から回答が寄せら
れるなど、この問題に対する保護者の関心の高さを示すものとなりました。
4、動き出す生徒会
校長からの説明を受け、生徒会の取り組みが始まりました。そして、執行部は議論を重
ねる中で、次の方向性を確認するに至ったのです。
①「服装自由化宣言」を守る。
②自分たちで一定のルールをつくり、作ったルールは自分たちの力で守っていく。
そして、その具体として、冬休み明けからLHRで討議を積み重ねて、2月中旬には生
徒会による何らかの改善策をつくり、その後改善策による試行を行い、教員側に認めても
らうという日程を考えたのです。
冬休みが明けた1月20日。朝のSHRの際に生徒会長が、全校放送で生徒に対し、この
問題を教師の力に頼るのではなく、生徒たちの力で解決していこうという呼びかけを行い
ました。
1月27日のLHRでは、教員側による改善策が生徒に示されました。
1月28日には、通算8回目となるPST懇談会が行われ、参加者はこの問題について活
発な話し合いを行いました。
ここまでの取り組みを通じ、生徒会執行部は、この問題を教員に任せるのではなく自分
たちの力で解決したいと考えている生徒が一定いるものの、多くの生徒は教員側のルール
と指導で改善するのか、それとも自分たちが何らかの取り組みをすすめることで改善して
いくのかを深く考えていないのではないかという現状分析をしました。そして、次回のL
HRでは、この問題を自分たちで改善するのか、それとも教員側のルールと指導で改善す
るのか、ということをテーマに討議を行うことにしました。
2月2日のLHRでは、ほとんどのクラスが生徒自身の手で改善すべきであるという意
見にまとまりました。
改善策策定に向けたHR討議としては最後となる2月12日のLHRを前に、執行部は
生徒会通信を発行し、「先生方の改善策が導入されるということは、先輩達が長い年月を
かけて勝ち取った『制服着用自由化宣言』がなくなるということであるが、自分たちの代
でなくなって本当にいいのかということを考えてほしい」と訴えました。12日のLHR討
議は、これまでになく積極的で建設的なHR討議となりました。
そして、執行部は16日に改善策案を発表。翌17日に評議会(生徒総会に次ぐ議決機関。
HR委員が務める)を開催し、執行部案についての審議を行いました。そして、延べ6時
間の議論の結果、執行部の案に若干の修正を加える形で改善策は確定しました。そして、
改善策はその日のうちに生徒会長が校長に提出したのです。
5、試行の結果を生徒会・PTA・教員がそれぞれ検証
生徒会による改善策は、翌19日の職員会議に提案されました。そして、議論の結果、次
のような確認がされたのです。
・生徒会改善策による試行を認める。
・試行結果の検証については、生徒達だけで行うのではなく、PTAと教員もそれぞれ
行い、改善されたかどうかの最終的な判断は三者の検証結果を総合して行う。
・検証の結果、改善されたという結論に至った場合は、22年度から正式に生徒会改善策
を導入し、改善されないという結論に至った場合は、教員側の改善策を導入する。
職員会議で確認されたこれらのことは、2月22日に開かれた臨時全校集会の中で生徒に
伝えました。説明を受け、生徒会長と、評議会議長がそれぞれ、「生徒案をしっかり守る
ことが最後のチャンス。できなければ、大人に決められたことしかできない高校になって
しまう。生徒全員でがんばっていこう」(評議会議長)などと訴えました。
生徒会による点検は、卒業式が行われた3月1日から4回行われました。その結果、1
回目の点検では24人いた違反者が、2回目には12人、3回目は4人、4回目には1人(こ
の生徒も改善を約束)となり、違反者はほぼいなくなるという状況まで改善されたので
す。
一方、PTA、教員それぞれによる点検は、3月1日から3回ずつ行われました。
3月19日、生徒会、教員、PTAの点検結果をつきあわせる会議が開かれ、生徒会は、
「『服装頭髪問題』に関する改善策の試行結果について」という報告書を提出。(資料
⑦)そして、議論の結果、生徒の服装・頭髪の乱れは生徒会改善策によって改善されたと
いうことを三者で確認、その後PTAは役員会で、教員側は職員会議で、2010年度から生
徒会改善策を正式に導入することを確認したのです。
6、自主自律の学校を目指して
生徒会改善策が正式に導入されて、1年がたちました。この間、HR委員会と校風委員
会による点検は、7回行われましたが、違反者は毎回何名かいるものの、生徒の服装・頭
髪の状況は大幅に改善されました。地域の評判もすっかり変わりました。私も何人もの方
から「富良野高校変わりましたね」という言葉をかけられました。
しかし、この取り組みはこれからが本番です。取り組みを通じて明らかになった課題を
どのように解決していくのかが問われています。とりわけ重要な課題は、この取り組みが
違反者と点検者だけの取り組みになってしまっている状況を、どのように打開していくか
という問題です。たしかに、取り組みを通じて自ら身だしなみを正した生徒が多く出たこ
と自体、自主・自律が一定すすんだと言えます。しかし、違反している生徒がいるという
状況に対して、クラス・学年・生徒会全体で、違反生徒への働きかけも含め、多くの生徒
が主体的に関わっていくという取り組みや議論には、残念ながらまだ至っていません。た
しかに、生徒同士の人間関係が希薄になっているといわれる中で、互いに意見をぶつけ合
うということは、そう簡単なことではないのかもしれません。しかし、人間関係が希薄な
現状であるからこそ、生徒同士つながる実践を粘り強く積み重ねていくことこそ、今の教
育には必要なのではないかと思いますし、そうした生徒同士の関係を作っていくことなし
に、自主自律は成り立たないと思います。
また、今回の取り組みをPTAと共同して展開できたことは、PST懇談会などでつく
りだしてきた保護者との共同による学校づくりを、今後発展させる上でとても大きな力に
なると考えています。生徒を真ん中に据えた教職員・保護者との共同の学校づくりを今後
もすすめていきたいと思います。