寺子屋ぶろぐ

日記から身近な法律問題の解説まで。

自筆証書遺言の身だしなみ⑪(生きているから)

2010年05月28日 | 自筆証書遺言

遺言書で、無償で財産をあげることを「遺贈(イゾウ)」と言います。

たとえば。

Aが、「俺の車をBさんにやる」という遺言書を遺して亡くなりました。
すると、Bは、Aの車を、Aからの遺贈により取得できます。

こんなBは、受遺者(ジュイシャ)と表現されます。
贈をける権利がある」です。

さて。

Aが、「俺の車をBさんにやる」という遺言書を作成しました。
しかし、その少し後に、Bが亡くなってしまいました。
Aは、Bが亡くなった後も、特に遺言書を作成し直しませんでした。

ここで。
Aが亡くなったら。
遺言書の効力はどうなるでしょうか。


答えは、民法第994条1項です。

「遺贈は、遺言者の死亡以前に受遺者が死亡したときは、その効力を生じない。」

つまり。

遺贈(=遺言)は、無かった事になります。
BがAより先に死亡した時点で、AからBへの遺贈は、自動的に、ご破算です。

Bは、遺言の効力が発生した時に生きているからこそ、遺贈を受けられるのです。

では、B→Aの順番で死亡した場合、遺言書に記載されているAの車はどうなるのでしょうか。

それは。

民法第995条本文
「遺贈が、その効力を生じないとき、又は放棄によってその効力を失ったときは、受遺者が受けるべきであったものは、相続人に帰属する。」

なので、Aの相続人のものになる=相続の対象になる、という事です。

しかし。

たとえば、Aが、「自分より先にBが死亡した場合には、Bの相続人に車をあげたい」と考えていた場合は、どうすればいいのでしょうか。

そんな時は、民法第995条ただし書。
「ただし、遺言者がその遺言に別段の意思を表示したときは、その意思に従う。」

という訳で、995条は、要約すると…。

遺贈がご破算になったら、遺贈しようとしていた財産は相続人のモノになるけれど、遺言者が、「それじゃイヤだ。○○にしてくれ」って遺言書に記載していたのなら、相続人のモノにしないで、○○してやりましょうや。

なので、Aが遺言書に…

「俺の車はBさんにやる。もしBさんが俺より先に死んだら、Bさんの奥さんにやる」

と記載すれば、Bが先に死んでも、車は、Aの相続人をスルーしてBの奥さんのモノになります。


…「自筆証書遺言の身だしなみ⑫(遺贈の種類)」につづく。