平成14年12月に厚生労働省が策定した「年金改革の骨格に関する方向性と論点」は、平成16年の年金改革についての基本的視点の中で、①若い世代を中心とした現役世代の年金制度に対する不安感、不信感を解消すること、②少子化の進行等の社会経済情勢の変動に対し、柔軟に対応でき、かつ恒久的に安定した制度とすること、③現役世代の保険料負担が過大にならないよう配慮することに重点を置きつつ、給付水準と現役世代の保険料負担をバランスのとれるものとすること、④現役世代が将来の自らの給付を実感できる分かりやすい制度とすること、⑤少子化、女性の社会進出、就業形態の多様化等の社会経済の変化に的確に対応できるものとすること、をあげている。しかし、以下に平成16年の年金改革を見てみるが、国民に不利益になっているだけで、上記の狙いが実現できるようには思えない。
(1)負担の増加
厚生年金の保険料は平成16年10月から毎年0.354%づつ引上げられ平成29年には年18.3%まで引上げられる。厚生労働省の労働統計から大卒男性労働者の平均値(年齢39.5歳、月額427,800円、賞与1,453,900円)で計算してみると、平成16年改正前は月額保険料29,876円、賞与保険料98,659円の年間合計457,171円、平成29年の保険料率で計算すると月額40,260円、賞与で132,950の年間合計616,070円と大幅な負担増となる。
しかし、これだけ負担を増加させても財源としては不十分なことから、平成16年度の年金改革では、基礎年金の国庫負担割合を従来の3分の1から2分の1に引上げることが盛り込まれている。このために2004年度で2.7兆円の資金が必要となる。年金改革案では、当面の財源を年金受給者に対する課税強化によってまかなうことを決めている。しかし、確保できたのは16年度分がわずか272億円、翌年度についても約1600億円に過ぎず、必要な財源の1割にも足らない。
この財源としては、景気対策のために行われている所得税の定率減税の見直し(全廃すれば年約2.5兆円)が予定され、その一部は平成17年度から実施されることが決定した。また、消費税の引上げ(消費税1%の引上げで約2.4兆円の税収増が見込まれる)も既定方針となりつつある。
(2)効果の減少
給付水準はどうなるかというと、これも減少することになっている。年金額を計算するための総報酬に対する乗率は、平成15年4月に設定された乗率と変化はありませんが、改正法案は労働力人口の減少などを勘案する「マクロ経済スライド」という仕組みを導入した。マクロ経済スライドの導入により、年金制度の支え手である現役世代の減少や、高齢化の進展により年金給付額の伸びが影響をうけることになる。もらい始めた年金について、20年間にわたって物価上昇分が平均で0.9ポイント差し引いてしか反映されず、物価が1%上がっても年金額は0.1%しか上がりません。計画通りに物価が緩やかに上がり続ければ、物価上昇に比べて年金額が増えず、年金水準は実質的には目減りすることになる。
厚生労働省の試算では、約20年の間に現役平均手取額が47.8%上昇するのに対し、厚生年金モデル世帯の年金額は25.3%の上昇に留まり、受給開始時の年金水準も現在の59.3%から50.2%まで低下すると言っている。また現在、夫婦で月233千円受給中の65歳の厚生年金モデル世帯についても、5年後には今の物価に置き換えた実質額は228千円、10年後に217千円に減少する。