とはずがたり

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『さくらん』

2007-03-05 10:49:53 | とはずがたり

Sakuran 蜷川実花監督作品『さくらん』を観賞した。主演は土屋アンナ、原作は安野モヨコの同名コミックである。

土屋がヒロインのきよ葉(後の日暮)を好演している。脇を固める俳優陣もすばらしい。

中でも、廓の店番・清次を演じた安藤政信と、商家の大旦那にして吉原を知り尽くした通人、通称「ご隠居」を演じた歌舞伎俳優の市川左團次の演技が特筆に価する。

物語は、江戸時代、北の地方出身の8歳の少女が、高級廓の「玉菊屋」に身売りされ女衒(=「ぜげん」。身売りの仲介業者)に連れられて吉原の大門をくぐるところから始まる。

一旦身売りをされたら、少なくとも10年間の「年季」を終えるまでは店を出ることが出来ない。

いずれにしても、遊女に身を堕とした以上、名実共に吉原から完全に抜け出す方法は一つしかない。

それは、遊女の頂点「花魁」(=「おいらん」。おいらの姉さん」が訛ってできた名称とされる)となり、馴染みの客が大金を払って「身請け」をして、遊女を引き取ることだ。

幼いきよ葉は、吉原にある、花の咲かないとされる桜の老木に桜が咲いたとき、吉原を抜け出す、と固く心に誓う。

びいどろに入った金魚が劇中に多く登場するが、これは、上記のような、固く閉ざされた、きらびやかな吉原の世界を象徴しているといえる。

蜷川は実に才気溢れる監督だ。女性であること、フォトグラファー出身であること、ヒロインをポップでキュートに描くこと、という点で、ソフィア・コッポラと似ている。

加えて、時代物の映画のBGMにロックを用いていること、偉大な父親を持っていること、そして、1972年生まれであること、という点でも、2人は共通する。

また、作品冒頭で、きよ葉が、風呂場で展開するあまりに「おんな、おんな」な雰囲気に辟易するシーンでは、多数の遊女の乳を接写し、それを早回しにする編集技法を用いている。

この表現技法は、コッポラも近作『マリー・アントワネット』において、豪華な衣装やケーキや靴を買いまくるシーンで使っていた。

今後も蜷川から目を離せない。