loca plus+

自作お題メインの創作。
自分の文章を模索しながら絶賛迷走中。
愛しくて切なくて恋がしたくなるような文章が書きたい。

294.遠雷が去ったあと

2018-09-19 00:48:46 | 選択式
 急に視界に影が落ちて、一瞬、湿ったような埃っぽいような雨の気配を感じたと同時に音高く世界は一変した。バケツをひっくり返したような、という表現がまさにぴったりな勢いで、たたきつけるような雨は容赦ない。少なからず周囲にいた人々は、慌てた様子で屋根のある建物や軒下に駆け込んでいき、あっという間に通りからは人の姿が消える。俺はその場で足を止めた。
 この時期にしては例年にない暑さが続いていた。暑い、というただそれだけのことがこれほどまでに日常生活に影響を及ぼすのだということを実感させられた時期がようやく過ぎて、ほんの少し朝夕に涼しい風が吹くようになった途端に、今度は短い時間に強い雨が降ることが多くなった。雲一つない晴天から一変、あっという間に雨雲がやってきて、十数分から長くとも一時間程度の短時間で、驚くほどの勢いと量の雨が降る。そうした雨が止んだ後には、まるで蜘蛛の子を散らすように雨雲は去り、再び強い日差しが照り付けるのが常だった。
 目を細めて空を見上げてみる。重く立ち込める雨雲の流れはよく見れば速い。遠からず止むだろうと踏んで、土砂降りの中を再び歩き出し、元々の目的地へ向かうことにした。
 服も髪も、とっくに滴るほどの水を吸っていて重い。すっかり中まで浸水を果たされたブーツは、足を進めるごとに水たまりを踏んで、びしゃりと足元で音を立てた。降り注ぐ雨は冷たいけれど、直前までの暑気を孕んだ空気は依然生ぬるい。雨が止んだらきっとまた暑くなるだろう、と思った。
 歩きながらもう一度空を見上げる。遠くの雲の間で一瞬光が見えて、数秒をおいて低い雷鳴が届く。二度、三度。雷鳴は遠いようだ。
 光のほうがその速度は速く、音が聞こえるまでのタイムラグでおおよその距離がわかる。駆け抜ける光、それを追う音。走り出した瞬間に、もう二度と追い付けないと、知っているのだろうか。
 追い付けないとわかっていても追いかけることは愚かだろうか。
 追い付けなくてもいいから追いかけたいと、そう、思うことは愚かだろうか。
 遠くに一条の稲光。そして遅れて雷鳴がひとつ。
 無性に、雨が止む前に彼に会いたくなった。



[雷鳴の追走]


 * * *

 あ、なんかうまく収まった気がする。お題は活きてないけど。
 視点違いとかも書いてみたい。