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自作お題メインの創作。
自分の文章を模索しながら絶賛迷走中。
愛しくて切なくて恋がしたくなるような文章が書きたい。

137.雷鳴遠く

2018-09-26 00:26:05 | 選択式
 窓から入り込むかすかな風に雨のにおいを感じ、読みかけの本から顔を上げて窓の外を見た。そろり、と風がカーテンを揺らし、濃い影が落ちたと思った途端にざあざあと音を立てて雨が降ってきたので、本を置いて窓を閉める。ガラス越しの世界はみるみる濡れそぼり、大粒の雨が窓ガラスをたたく音が耳を打った。
 そろそろ涼しくなり始めたことを喜んだのもつかの間、短い時間にざっと降るにわか雨の頻度が増えた。朝はからりと晴れていても、不意に湿った風が吹いたと思えば、あっという間に本降りの雨になる。たたきつけるような雨はけれど、せいぜい一時間もすれば止み、立ち込めた雲さえもきれいに散って今度はとんでもない湿度で街を包む。雨は好きではない。まとわりつくような湿り気を帯びた空気は尚更だ。
 読みかけの本にしおりを挟み、閉じる。雨の伝い落ちる窓ガラスに指先を這わせて、触れたそこが存外冷たいことに気づく。夏は去ろうとしていた。
 雨は嫌いではない、と嘯いていた男のことを思い出す。雨など久しく降らなかった日のことだった。からからに乾いた地面に立って、真っ青に晴れ渡った空にぎらぎらと照り付ける太陽を見上げていた男の姿。眩しそうに細められた目が、一瞬、ひどくぎらりとした光を宿した気がしたのは、太陽の光のせいだったのか、それとも。
 ひとつ、息を吐く。窓ガラスが一瞬曇り、それが消える前に一瞬、窓の外で雷光がまたたいた。
(いち、に、さん…)
 無意識に頭の中でカウントをとる。少しして遠くに雷鳴。また少しして、知らず詰めていた息をまた細く吐いた。遠い、と思った。
 刹那に存在を焼き付ける強い光。強い光でもって、その強い存在感をただただ刻みつけて、それでいて何の未練もないとばかりに消えていく稲光。まるであの日の彼の瞳のようだ。あの光が太陽のせいであってもそうでなくても、叶うのなら、
(あの瞳で、)
 射抜かれてみたい。そうすれば、未練なく離れて行ってしまいそうなあの男を引きとめて、繋ぎとめて、追い縋ることができるかもしれない。
 もう一つ雷光。そして遅れて雷鳴。余韻の合間に雨音が響く。
 上着をつかんで部屋を飛び出す。遠からず雨はやむだろうけれど、今この雨が降っているときでなければならない気がした。
 今ならば、この感情を彼に伝えられるかもしれないと思った。
 


[残像の雷光]



 * * *

 これの視点違い、のつもり。
 後日談も考えたけどまとまらない気しかしない、けど書きたい。

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