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シンボルの散歩道<10>

2009-11-19 17:33:05 | シンボルの散歩道
■襟メディア

 地下鉄の電車内で吊り革に掴まり、ふと目
の前に座っている人の襟章が目に入った。誰
でも知っている一部上場の著名な企業のシン
ボルマークである。何気なく周囲のスーツ姿
の男性たちを観察したが、襟章を付けている
人は他に一人も見かけなかった。改札を出る
間観察を続けたが同様だった。記録を取って
いたわけでは無いので一概に言い切ることは
できないが、20年ほど前には襟章サラリーマ
ンはもっと大勢見かけたような気がする。大
手町界隈に行けばきっと「襟章率」は高いん
だろうなぁ、とか、新しい企業は襟章は作ら
なくなったんじゃないのか、とか、入社して
もらったのはいいがつけるのが面倒だとか、
何だか付けるのが恥ずかしいなぁとか、見か
けない理由を勝手な推理で楽しんでしまった。

 スーツの左襟の「ボタンホール」は、あた
かも襟章を飾るためににあつらえてあるよう
に思えるが、実は名称通りボタンをかける穴
なのだ。テーラーメイドのスーツなら襟を立
てれば、襟穴に対応する右襟部分にボタンが
ついているそうだ。そんな高級なものには縁
が無いのでモノの本で知ったことだが、かつ
て襟を立て、詰め襟の学生服のように着るこ
とも可能であったとか。その名残りが今に残
っているわけである。ジェームズ・ボンド氏
ならいざ知らず、ここに気障っぽくカーネー
ションやバラを一輪差してパーティに出るに
はちょっとネェ……でも一度やってみたい。

 以前、とある企業の創立50周年に併せて企
業シンボルを新たにする仕事をしたことがあ
る。その記念式典で全社員の前で新しい企業
シンボルが披露され、襟章も全社員に手渡さ
れた。その式典は誇るべき企業とそこに働く
人たちの、未来へ向けて一体化する高揚した
貴重な一時であった。彼等はその折に受け取
った襟章を現在も付けているのだろうか? 

 テレビ時代劇の水戸黄門ではクライマック
スで葵の紋が描かれた印篭が登場し、「この
紋所が目にはいらぬか」の決め台詞で物語は
一件落着する。あのシンボルの権威・効能は
時代と共に去りぬ、である。著名企業といえ、
老舗企業といえ不祥事や合併でイメージがダ
ウンしたり、あっという間に消えてしまった
りする時代、これみよがしに「紋所」を顕示
するのも恥ずかしくなっていると言えようか。
企業に対するロイヤルティの欠如、いや消失
とも言える。このことは昔からの日本型雇用
の変質や米国型成果主義導入と軌を一にして
いる気がしてならない。逆に、堂々とあまり
見かけない襟章をしている人はその企業に誇
りを持っているとも言えるかもしれない。

 せっかくのスーツのボタンホールをそのま
まにしておくのももったいない。社会的メッ
セージを込めた社章に代わる企業の新しい
「襟章」が考えられてもいいかもしれない。
「襟を正し」社会にメッセージを発信する
「メディアとして襟」の活用は一考の価値あ
りだ。(091118 /中)