■香りのアイデンティティ
友人から白檀、伽羅、沈香の三種類入った
お香セットをもらいました。時折その中から
適当に選んで焚きながら音楽を聞いていると
心が静まります。そんな夜に石川さゆりベス
トアルバムを聞いていました。
この中にある代表曲「天城越え」は、冒頭
「♪隠しきれない移り香が~」と始まる結構
怖い歌です。この「移り香」ってどんな香り
だったのだろうかと、ふと気になりました。
この歌を聞くと古今集にある詠み人知らず
の「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の
香ぞする」の歌が思い起こされます。
橘のほのかな香りの面影に比べれば、歌謡
曲の方はちょっと生々しい香りが漂ってきそ
うです。源氏物語の中では藤壷だったか、衣
装に焚きしめた香の匂いで彼の気配を知る場
面がありました。そう言えば登場人物の名前
にしても薫や匂宮など香りに関係してました。
正倉院御物でその名に「東大寺」の文字が
隠されている「蘭奢待」。写真で見る限りど
うってことない黒い木片ですが、その昔中国
から伝わった貴重な香木です。この木片は各
時代を通じて最高の香りのブランドで、歴代
の足利将軍や信長をはじめ、時の権力者達が
こぞって削り取ったことで有名です。
彼等は、香りをかぐことが目的で切り取っ
たのではなく、宝物に切り跡を残すことが権
力者の自己証明だったのではないでしょうか。
国立近代美術館所蔵の伊東深水の代表作に
「聞香」があります。ここには様々な香の匂
いをかいでその名を当てる香道の様子が描か
れています。室町時代に体系化されたという
香遊び・匂い当てゲームです。そうそう香道
では香りを「嗅ぐ」ではなく「聞く」という
んですね。でも聞き分けるのは難しいです。
漱石の「三四郎」の中に登場したヘリオト
ロープ、これが最初に覚えた香水の名前でし
た。ヒロイン美禰子のイメージと共に印象的
に記憶しています。後日そのヘリオトロープ
を調べたら、フランスのロジェ・ギャレ社製
の日本最初の輸入香水で、当時花柳界に大人
気だったということを知りました。漱石も当
時最先端のブランドには敏感で早々に小説に
取り入れたようです。この紫の花を咲かせる
植物名の香水に較べ、現在のブランド、ディ
オールのプワゾンは何とも凄まじい名称です。
よくぞ名付けたものだと感心します。この毒
にあたったら周辺男性は全て悶死しそうです。
焼き立てのパンやコーヒーの香り。鰻の蒲
焼き、焼き鳥、焼肉。これらは調理の匂いで
人を呼び込みます。匂いが看板の役割を果し
ています。花がその香りで蝶や蜜蜂たちを誘
うのと同じです。香りがおいでおいでと誘い
ます。「匂いがシンボル」でもあるわけです。
でも、甘く危険な香りには要注意要注意です。
香りがその人を特定します。また、ある特
定の匂いがある状況を想起させます。香りと
結びついた企業・商品戦略もこれからもっと
研究されていくでしょう。(2010.2.2/中)
友人から白檀、伽羅、沈香の三種類入った
お香セットをもらいました。時折その中から
適当に選んで焚きながら音楽を聞いていると
心が静まります。そんな夜に石川さゆりベス
トアルバムを聞いていました。
この中にある代表曲「天城越え」は、冒頭
「♪隠しきれない移り香が~」と始まる結構
怖い歌です。この「移り香」ってどんな香り
だったのだろうかと、ふと気になりました。
この歌を聞くと古今集にある詠み人知らず
の「五月待つ花橘の香をかげば昔の人の袖の
香ぞする」の歌が思い起こされます。
橘のほのかな香りの面影に比べれば、歌謡
曲の方はちょっと生々しい香りが漂ってきそ
うです。源氏物語の中では藤壷だったか、衣
装に焚きしめた香の匂いで彼の気配を知る場
面がありました。そう言えば登場人物の名前
にしても薫や匂宮など香りに関係してました。
正倉院御物でその名に「東大寺」の文字が
隠されている「蘭奢待」。写真で見る限りど
うってことない黒い木片ですが、その昔中国
から伝わった貴重な香木です。この木片は各
時代を通じて最高の香りのブランドで、歴代
の足利将軍や信長をはじめ、時の権力者達が
こぞって削り取ったことで有名です。
彼等は、香りをかぐことが目的で切り取っ
たのではなく、宝物に切り跡を残すことが権
力者の自己証明だったのではないでしょうか。
国立近代美術館所蔵の伊東深水の代表作に
「聞香」があります。ここには様々な香の匂
いをかいでその名を当てる香道の様子が描か
れています。室町時代に体系化されたという
香遊び・匂い当てゲームです。そうそう香道
では香りを「嗅ぐ」ではなく「聞く」という
んですね。でも聞き分けるのは難しいです。
漱石の「三四郎」の中に登場したヘリオト
ロープ、これが最初に覚えた香水の名前でし
た。ヒロイン美禰子のイメージと共に印象的
に記憶しています。後日そのヘリオトロープ
を調べたら、フランスのロジェ・ギャレ社製
の日本最初の輸入香水で、当時花柳界に大人
気だったということを知りました。漱石も当
時最先端のブランドには敏感で早々に小説に
取り入れたようです。この紫の花を咲かせる
植物名の香水に較べ、現在のブランド、ディ
オールのプワゾンは何とも凄まじい名称です。
よくぞ名付けたものだと感心します。この毒
にあたったら周辺男性は全て悶死しそうです。
焼き立てのパンやコーヒーの香り。鰻の蒲
焼き、焼き鳥、焼肉。これらは調理の匂いで
人を呼び込みます。匂いが看板の役割を果し
ています。花がその香りで蝶や蜜蜂たちを誘
うのと同じです。香りがおいでおいでと誘い
ます。「匂いがシンボル」でもあるわけです。
でも、甘く危険な香りには要注意要注意です。
香りがその人を特定します。また、ある特
定の匂いがある状況を想起させます。香りと
結びついた企業・商品戦略もこれからもっと
研究されていくでしょう。(2010.2.2/中)