私が処方している漢方薬はすべて「エキス剤」です。
本来、煎じ薬である漢方薬を、インスタントコーヒーのようにフリーズドライ化した簡易包装品。
ですので、煎じ薬と全く同じ効果は期待できず、7~8割の薬効であると読んだことがあります。
かねてから漢方薬の効きが悪い場合、薬自体が原典書籍と同じなのかどうか、という疑問が拭えずにいました。
使用している生薬は当時と同じなのか、その処理方法はどうなのか・・・実は原典とは異なることがあるらしい。
日経DI(Drug Information)に掲載された興味深い記事を紹介します(一部抜粋)。
中でも「修治」が附子以外はほとんど施されていないことを知り、唖然としました。
■ 漢方エキス製剤の公然の秘密!?
(2015/10/8:日経DI)
以前、現代漢方薬、つまり医療用医薬品やOTC薬で使われている「漢方エキス製剤」の製法が、本来の「漢方薬」である湯剤・散剤・丸剤などとは異なることにより、含有成分などに差が生じる可能性があることを取り上げました。
今回は、製法からではなく、漢方製剤に用いられる生薬そのものに目を向けてみたいと思います。
◇ 製薬メーカーによって中身が違う!
一例として、蒼朮(ソウジュツ)と白朮(ビャクジュツ)について考えてみます。蒼朮はホソバオケラまたはそれらの雑種の根茎。効能は、発汗・鎮静・抗けいれん・抗真菌・血糖降下・利尿・健胃整腸などがあり、水毒を去ることから浮腫やめまいを改善する苓桂朮甘湯のような漢方薬に含まれます。
一方、白朮はオケラまたはオオバナオケラの根茎です。効能は止汗・抗炎症・抗腫瘍・利尿・健胃整腸などがあり、気を補う補中益気湯のような漢方薬に含まれます。
蒼朮と白朮は似た生薬であるため、しばしば混同されますが、五十肩に汎用される二朮湯には蒼朮と白朮がどちらも含まれています。二朮湯は二陳湯に色々な生薬が加味されている方剤と解釈できますが、作用の異なる蒼朮と白朮の両方の薬効が必要だというわけです。
これを前提として漢方エキス製剤を見ると、不思議な点があることに気付きます。
例えば、補中益気湯は、体力の衰えなどに処方する漢方薬、「補剤」の1つとしてよく知られています。補剤の王様であるとして、「医王湯」とも呼ばれるほどです。そして前述した通り、補中益気湯には気を補う力のある白朮が含まれているということになっています。
ですが、製薬メーカーによっては、白朮の代わりに蒼朮が使われていることをご存知でしょうか?
これは補中益気湯だけに限った話ではありません。五苓散や当帰芍薬散、その他多くの漢方製剤で、白朮の代わりに蒼朮が使われている場合があるのです。この含有生薬の違いから漢方製剤を考えてみると、とても勉強になります。
実は、中医学では蒼朮と白朮は明確に区別されているのですが、『傷寒論・金匱要略』では記載が白朮で統一されています。そのため、古方派ではそれほど強く意識されていない先生も少なくないようです。また、「当帰芍薬散には蒼朮を用いるべきだが、不妊治療目的で使用するなら白朮が良い」などという意見もあり、解釈は様々のようです。
◇ 葛根湯エキス製剤に生姜が入っていない?
次に、生姜(ショウキョウ)と乾姜(カンキョウ)について考えてみたいと思います。
生姜の効能は、健胃・鎮嘔・去痰・食欲増進・新陳代謝促進です。乾姜は生姜よりも身体の深部を温めることから、腹冷痛・腰痛・四肢の冷え・咳嗽・鼻水・多痰などに効くとされています。
生姜が用いられている葛根湯は、発汗や新陳代謝促進を目的に、無汗の患者に処方されます。例えば、鼻かぜなど水様の鼻水や咳が出ている時は呼吸器の深い所が冷えており、そのため処方される小青龍湯には、深部を温める乾姜が用いられているわけです。
漢方医学における生姜(ショウキョウ)とは、八百屋さんやスーパーマーケットで売っている生の生姜(ショウガ)そのものです。乾姜(カンキョウ)は、生姜(ショウキョウ)、つまり生姜(ショウガ)を乾燥させた乾生姜(カンショウキョウ)ということになります。
ところが、日本薬局方(第十六改正)を見ると、「ショウキョウ=生姜・乾生姜、カンキョウ=ショウガの根茎を湯通し又は蒸したもの」と定められています。
実際、漢方エキス製剤では、葛根湯のショウキョウに生の生姜を用いておらず、乾生姜を使っています。そして小青龍湯に含まれるカンキョウとして、漢方医学では用いないとされる蒸した生姜を使っているのです。
◇ 修治は「ほとんど無視」
生薬を漢方薬として用いられるように処理・加工することを「修治」と言います。毒性・副作用の緩和や必要な作用の増強・改変のために必要な作業ですが、漢方エキス製剤では、附子(毒性の強いトリカブトの塊根を修治したもの)以外では、ほとんど施されていないようです。この附子の修治は高圧蒸気処理による加水分解なのですが、最近の薬剤師国家試験(第98回薬剤師国家試験 問213)にも出題されていました。
このように漢方エキス製剤には様々な疑問点もあります。とはいえ、日本が誇る有用な医薬品であることは間違いありません。しっかり勉強して上手に使っていきたいと思います。
本来、煎じ薬である漢方薬を、インスタントコーヒーのようにフリーズドライ化した簡易包装品。
ですので、煎じ薬と全く同じ効果は期待できず、7~8割の薬効であると読んだことがあります。
かねてから漢方薬の効きが悪い場合、薬自体が原典書籍と同じなのかどうか、という疑問が拭えずにいました。
使用している生薬は当時と同じなのか、その処理方法はどうなのか・・・実は原典とは異なることがあるらしい。
日経DI(Drug Information)に掲載された興味深い記事を紹介します(一部抜粋)。
中でも「修治」が附子以外はほとんど施されていないことを知り、唖然としました。
■ 漢方エキス製剤の公然の秘密!?
(2015/10/8:日経DI)
以前、現代漢方薬、つまり医療用医薬品やOTC薬で使われている「漢方エキス製剤」の製法が、本来の「漢方薬」である湯剤・散剤・丸剤などとは異なることにより、含有成分などに差が生じる可能性があることを取り上げました。
今回は、製法からではなく、漢方製剤に用いられる生薬そのものに目を向けてみたいと思います。
◇ 製薬メーカーによって中身が違う!
一例として、蒼朮(ソウジュツ)と白朮(ビャクジュツ)について考えてみます。蒼朮はホソバオケラまたはそれらの雑種の根茎。効能は、発汗・鎮静・抗けいれん・抗真菌・血糖降下・利尿・健胃整腸などがあり、水毒を去ることから浮腫やめまいを改善する苓桂朮甘湯のような漢方薬に含まれます。
一方、白朮はオケラまたはオオバナオケラの根茎です。効能は止汗・抗炎症・抗腫瘍・利尿・健胃整腸などがあり、気を補う補中益気湯のような漢方薬に含まれます。
蒼朮と白朮は似た生薬であるため、しばしば混同されますが、五十肩に汎用される二朮湯には蒼朮と白朮がどちらも含まれています。二朮湯は二陳湯に色々な生薬が加味されている方剤と解釈できますが、作用の異なる蒼朮と白朮の両方の薬効が必要だというわけです。
これを前提として漢方エキス製剤を見ると、不思議な点があることに気付きます。
例えば、補中益気湯は、体力の衰えなどに処方する漢方薬、「補剤」の1つとしてよく知られています。補剤の王様であるとして、「医王湯」とも呼ばれるほどです。そして前述した通り、補中益気湯には気を補う力のある白朮が含まれているということになっています。
ですが、製薬メーカーによっては、白朮の代わりに蒼朮が使われていることをご存知でしょうか?
これは補中益気湯だけに限った話ではありません。五苓散や当帰芍薬散、その他多くの漢方製剤で、白朮の代わりに蒼朮が使われている場合があるのです。この含有生薬の違いから漢方製剤を考えてみると、とても勉強になります。
実は、中医学では蒼朮と白朮は明確に区別されているのですが、『傷寒論・金匱要略』では記載が白朮で統一されています。そのため、古方派ではそれほど強く意識されていない先生も少なくないようです。また、「当帰芍薬散には蒼朮を用いるべきだが、不妊治療目的で使用するなら白朮が良い」などという意見もあり、解釈は様々のようです。
◇ 葛根湯エキス製剤に生姜が入っていない?
次に、生姜(ショウキョウ)と乾姜(カンキョウ)について考えてみたいと思います。
生姜の効能は、健胃・鎮嘔・去痰・食欲増進・新陳代謝促進です。乾姜は生姜よりも身体の深部を温めることから、腹冷痛・腰痛・四肢の冷え・咳嗽・鼻水・多痰などに効くとされています。
生姜が用いられている葛根湯は、発汗や新陳代謝促進を目的に、無汗の患者に処方されます。例えば、鼻かぜなど水様の鼻水や咳が出ている時は呼吸器の深い所が冷えており、そのため処方される小青龍湯には、深部を温める乾姜が用いられているわけです。
漢方医学における生姜(ショウキョウ)とは、八百屋さんやスーパーマーケットで売っている生の生姜(ショウガ)そのものです。乾姜(カンキョウ)は、生姜(ショウキョウ)、つまり生姜(ショウガ)を乾燥させた乾生姜(カンショウキョウ)ということになります。
ところが、日本薬局方(第十六改正)を見ると、「ショウキョウ=生姜・乾生姜、カンキョウ=ショウガの根茎を湯通し又は蒸したもの」と定められています。
実際、漢方エキス製剤では、葛根湯のショウキョウに生の生姜を用いておらず、乾生姜を使っています。そして小青龍湯に含まれるカンキョウとして、漢方医学では用いないとされる蒸した生姜を使っているのです。
◇ 修治は「ほとんど無視」
生薬を漢方薬として用いられるように処理・加工することを「修治」と言います。毒性・副作用の緩和や必要な作用の増強・改変のために必要な作業ですが、漢方エキス製剤では、附子(毒性の強いトリカブトの塊根を修治したもの)以外では、ほとんど施されていないようです。この附子の修治は高圧蒸気処理による加水分解なのですが、最近の薬剤師国家試験(第98回薬剤師国家試験 問213)にも出題されていました。
このように漢方エキス製剤には様々な疑問点もあります。とはいえ、日本が誇る有用な医薬品であることは間違いありません。しっかり勉強して上手に使っていきたいと思います。